【レビュー】「エモくなく」て「エモい」、こんな作品を待っていた気がします

『余命わずかなキミと一緒に、初恋を探しに行く』

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はMF文庫Jから8月23日に刊行される『余命わずかなキミと一緒に、初恋を探しに行く』です。みなさんの感想も聞かせてください!


 今の世の中は、SNSをちょっと覗けば誰かが投稿したエモい画像とか、体験とかが大量にあって、共感の「いいね」がたくさんついています。確かに綺麗な景色とか、運命的な出会いとか、綺麗だな、素敵だなって思うんですけど、何か違和感があったんです。

 この作品の主人公・柊透葉とヒロイン・暁月杏は、とある事情があって「エモ探し」をしているんですが、次第に「エモい」に行き詰っていきます。彼らの場合は「エモい」ことを調べてちゃんと体験しようとしているんですが、うまくいったりいかなかったり。次第に「エモい」が何かわからなくなって、迷子になっていきます。

 そして二人は「エモい」がうまくいかない理由に辿り着くんですが、それが自分の感じているSNSで見ている「エモい」の違和感そのもので、はっとさせられました。自分も「エモい」を押し付けられてたんだなー、と。

 余命宣告されたヒロイン、彼女を救うために奮闘する主人公、二人で経験する夏の思い出……思えばこの作品の前提になっているものこそが「エモい」作品によくあるものなんですが、それをよしとしていない反発心がこの作品にはあるように感じます。

『余命わずかなキミと一緒に、初恋を探しに行く』より

 そんな語り口がSNSにあふれている「エモい」を、そんなの本当は「エモくない」と言っているようでした。だからこそ二人が試行錯誤して、ぶつかり合って、体験して選んだものが「エモい」と感じられるんだと思います。今までたくさん「エモい」作品を読んできたけど、この作品の描く「エモい」が一番、今の私にしっくりあっています。

文:勝木弘喜

ざっくり言うとこんな作品

1)クラスメイト・暁月杏の寿命を延ばす方法は「エモい」を怪異カゲに食事させること。僕・柊透葉は「エモ探し」の協力をすることに

2)深夜の学校のプール、夕暮れの教室の写真、自転車の二人乗りで行く駄菓子屋……。二人の距離を探るような、初夏の「エモい」巡り

3)なんでも検索できる今、「エモい」に迷子にならないために届けたい、「エモい」に向き合った二人だからこそ紡ぎだせる物語

主要キャラ紹介

▼柊透葉(ひいらぎ とうは)
部活の盛んな七咲高校で帰宅部を貫く高校二年。他者への不干渉をモットーとしており教室では空気的存在だが、暁月に弱みを握られたことから「エモ探し」の協力をすることに

▼暁月杏(あかつき あんず)
容姿端麗、成績優秀、性格もノリもよく、と抜けたところもあるクラスの人気者。難病で余命宣告をうけ、三年前に死ぬはずだったが、とある怪異との契約で生きながらえている

暁月杏


▼夜桜香撫(よざくら かなで)
丸いメガネをした大人っぽい文芸部員で、その読書量から「エモい」について暁月たちから知見を求められる。透葉とは幼稚園のころから家族ぐるみの付き合いのある幼馴染

作品情報
    • 試し読み
    • BookWalkerで購入する

    余命わずかなキミと一緒に、初恋を探しに行く

    著者: 鳴海 雪華   イラスト: popman3580

    「お願い、私の初恋になって?」

    僕・柊透葉は、クラスメイト・暁月杏の「エモ探し」に協力させられている。
    深夜のプールに忍び込んだり、夕暮れの教室で黄昏れてみたり。
    明るく可愛く真面目で優しい優等生で通っている暁月には秘密があって、月に一度、エモくならないと死んでしまうらしい。
    あんまり深入りしたくないけど、僕は僕で彼女に弱みを握られているから、協力するしかない。可愛い暁月と一緒に綺麗なものを見られるんだし、少しばかり役得に感じてもいいのかもしれないけど……。
    でも、「私の初恋になってよ。私をドキドキさせて、エモくさせて?」
    ってそれはちょっと僕に求めすぎじゃないか?

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