【インタビュー】Kis-My-Ft2宮田俊哉が作家デビュー! キッカケは「アニメの原作を作りたかった」
Kis-My-Ft2の一員であり、アニメ好きとしても知られる宮田俊哉さんが遂にライトノベル作家デビューを果たす。デビュー作『境界のメロディ』は、メジャーデビュー直前にして亡くなったバンドマンと、その遺された相方の関係性を描く青春グラフィティ。感動譚として構成された本作をどのように新人作家・宮田俊哉は描いていったのか? 創作風景やライトノベルの想いについてもお話を伺った。
宮田俊哉とライトノベルの原風景
──宮田さんといえばKis-My-Ft2のメンバーとして知られています。様々な番組や媒体でもいろんなアニメについて語られていましたが、ライトノベルについての思い出はありますか?
僕にとってライトノベルって、小説を簡単に読めることに気付かせてくれたジャンルなんですよ。ライトノベル以外だと、事務所の先輩でもある加藤シゲアキさん(NEWS)の『ピンクとグレー』を読んだくらいかもしれません。でも、ライトノベルはとても情景が浮かびやすく、誰でも読めるようにできていますよね。僕はライトノベルばかり読んできたので、いつしか「小説=ライトノベル」くらいに認識するようになっていました。
──初めて読んだライトノベルは何でしたか?
確か友人に勧められて読んだ『キノの旅 the Beautiful World』か『ゼロの使い魔』だったと思います。そこからいろんな作品に手を出して……。『境界線上のホライゾン』のページ数の多さに驚いたりしていましたね(笑)。でも、ライトノベルは供給スピードが速いので、いつまでたっても最新巻まで追いつけないんですよ! しかも仕事を始めてからは時間が取れなくなってしまって、読む量は少なくなってきていますね。
──学生時代に比べると、最近はあまり……?
書店に行って買ってはいるんですけど……積読状態になることが多いです(笑)。最近買った本だと、『竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る』とか『魔女に首輪は付けられない』とか。アニメ化も決まった「〈小市民〉シリーズ」も買ったので、時間ができたら一気に読もうと思っています。
──中でもお好きなライトノベルは?
と言いつつも、学生の頃じゃなくて、今の仕事を始めてから出会った作品なんですが(苦笑)。大好きな作品は『魔女の旅々』ですね。ふと観たアニメから一気にイレイナちゃんに恋をしてしまって、原作を第1巻から買い始めたんですよ。
──そんな宮田さんが『境界のメロディ』で作家デビューをされることとなりましたが、どのようなきっかけがあって執筆することとなったのでしょうか。
元々アニメを作りたいという夢を持っていたんです。最初は漠然とした夢だったんですけど、アイドル活動を続ける中でいろんな方にアニメを作るために必要なことをご相談できる機会があって。その中でアニメを作るためには原作が必要だということに気付いたんです。
──アニメを作る夢を抱き始めたのは、いつ頃のことでしたか?
アイドル活動をしながら、いつしか抱いていた……というのが正しいですかね。皆さんもご存知かもしれませんが、僕が所属している事務所には、音楽や振り付け、映像など様々なモノづくりをしている方々が関わっていらっしゃいます。僕はその人たちのことが日本一のクリエイターだと思うくらい尊敬していて。そんな方々とご一緒していたら、自分もいつしか何か作りたいなと思うようになっていました。
──そこでアニメ好きだからアニメを作りたい、というのは自然な流れなのかもしれませんが、音楽やキャストという立場ではなく、敢えて原作者という立場を選んだのはどうしてですか?
最初こそ、宝くじを当てて10億円手に入れれば、好きなアニメが作れる! と思っていたんですよ(笑)。でも、手元に10億円があったとしても原作やオリジナルアニメのアイデアがなければ、企画が進まないことに気付いて。そこで原作となるライトノベルを書くことに決めたんです。
──そこからメディアワークス文庫との縁に繋がっていくわけですね。
これまで自分を応援してくださった方々──特に女性ファンが手に取りやすくしたかったんです。そこで、メディアワークス文庫さんとご縁があり、こうして書かせていただくことになりました。やはり人生を賭けて僕の夢を応援してくださっている方々を置いてきぼりにすることはできませんから。さすがに。いくら好きだからといってもデビュー作でハーレムラブコメは書けませんよね(笑)。
──(笑)。そこからどのように企画を進められたのでしょうか。
まずプロットを5つ作って、その中から1つ選んでいただいたんです。それが、現在の『境界のメロディ』の原型ですね。
──—他の4つの内容についても気になるところですが……。
もしかしたら次回作以降で使うかもしれないので(笑)。
『境界のメロディ』は好きなものを詰め込んだ作品!?
──『境界のメロディ』はメジャーデビュー直前で亡くなってしまったギタリスト・天野カイが幽霊となって、相方の弦巻キョウスケのもとへ現れるところから物語が始まります。このアイデアはどのように考えられたのでしょうか。
「記録より記憶に残る」というフレーズはよく聞きますけど、記憶をも超越する記録があったら……と思ったのが最初です。何か一つのものを見たり聞いたりすると、絶対に誰かのことを思い出す。そんな出来事をテーマにしたいと考えたとき、亡くなった相方が遺してくれたものに接していくお話が思いついたんです。
──バンドものにするのはどのように決められたんですか?
男たるもの、バンドに憧れはあるじゃないですか(笑)。最初にアイドルものの可能性も考えましたけど、デビュー作でそこに挑戦してしまうと、私小説になってしまう可能性があって。正統派アイドルのような路線を目指したものの、早々に限界を感じてバラエティにたくさん出るようになった身としては、アイドル観の変遷を捉えた作品も書いてみたいですけど……。そういう方向性ではなく、なりたい自分として、バンドものに挑戦するのは面白いなと感じたんです。
──その結果、幽霊&音楽ものになったと。
自分が面白いものをやろうと思った結果、そんな形になりました(笑)。
──作中には様々な舞台が登場しますが、宮田さんの脳内では明確なモデルは存在していたんですか?
ありましたね。路上ライブの場所まで、どこがいいか考えながら書いていました。モデルでいえば、キョウスケたちのバンド・かにたまの楽曲も明確にイメージがあるんですよ。というのも、キョウスケとカイが歌う曲は、僕が人生で初めて作った楽曲なんですよね。ずっとパソコンの中にストックされていたものを、ようやく文章として皆さんにお届けすることができました。
──そんな秘話があったんですね……! とはいえ、『境界のメロディ』がデビュー作ですから、宮田さんはここまで文章を書かれるのは初めてですよね。
そうなんです! なので、文章のレッスンを受けることから始めたんですよ。そもそも段落の最初は一マス開けると指摘されたり、写真を元に情景を文字にするというレッスンをしたり……。それと並行して、もちろんKis-My-Ft2としての活動や個人の芸能活動もありましたから、とても大変な3年間でした。
──執筆はどのように進められていたんですか?
夜、家に帰ってから書いていたんですが、どうしても進まないときもありました。例えば、書いているときは面白いと思っていても、朝起きて読み返すとつまらないなんてこともよくあって。そういうときはもう現実逃避ですよね。アニメを観たり、お酒を飲んだりしていました(笑)。
──そんなとき、どうやって乗り切りました?
担当さんからはとにかく書き上げることが大事と伝えられていたので、まずは振り返らずに最後まで書こうとして……。ときどき担当さんから「いいセンテンスです!」と花丸が書かれた原稿が戻ってきたときは嬉しかったですね。でも、初稿を上げるまでに2年も掛かってしまったんです。
──それは長丁場でしたね……! その苦労の甲斐もあって、今回1冊の本となったわけですが、現在の心境はいかがですか?
小説って、自分の考えたことと経験が合わさった結果生まれるものなんだなと気付きました。やりたいことと想像だけで書くと文章に説得力が生まれないので、自分が経験した感情をベースに書いていく。すると、キャラクターが活き活きとしてきたような印象があるんですよね。『境界のメロディ』は青春音楽ものなので、バンド内の関係性やライバルとの距離感はどうしても自分が芸能活動をする中での想いがベースになってきますし。
──ちなみに、一番筆が乗ったシーンはどこですか?
カイが幽霊ならではのギャグを言うシーンですね。これは僕がバラエティ番組に出ているときと同じ感覚というか、急に振られたときどうコメントするかという対応力が活きた気がしていますね。
イラストレーターとドラマCDもディレクション
──『境界のメロディ』のイラストはLAMさんが担当されています。なんでも、LAMさんにイラストを担当していただくのは、宮田さんの要望だったそうですね。
LAMさんって、とても印象に残る目を描かれる方だと思っていて。カイは幽霊ですから、死人の目ってどんな感じなんだろう? というところから連想して、LAMさんにお願いしたいと考えるようになりました。キョウスケは生きているけれど目が死んでいる。対してカイは幽霊だけど生き生きとした目をしている。その差異をLAMさんなら上手く描いてくださると考えていて。
──キャラクターデザインが届いた際、どのように感じられましたか?
もう最高でした! もし今後また『境界のメロディ』を描く機会があったら、イラストの印象に引っ張られてしまうかも……と思うほど、魅力的なイラストを上げてくださって、この人にお願いして良かった……! と思いましたね。
──ドラマCD付き特装版も同時刊行されますが、これも宮田さんの発案ですか?
ワガママを言いました(笑)。書いている最中にもカイの声は絶対に佐久間大介(SnowMan)だと思っていたので、彼にカイ役をお願いして。キョウスケ役は、バラエティ番組でご一緒した伊東健人さんにやっていただきました。自分の脳内ではお二人の声で流れていたものを、より繊細に演じていただけたことがとても嬉しかったですね。
──ライトノベルというと、どうしても気になるのはシリーズの続巻について。宮田さんは『境界のメロディ』のシリーズ化について構想はお持ちですか?
個人的にはライバルバンドのサムライアーをフィーチャーした展開を描いていきたいなと思っているんですけど、やはりライトノベルは売れないと第2巻が出せないので(苦笑)。次は3年と掛からず刊行できるように頑張っていきたいと思っています!
──『境界のメロディ』がいよいよ刊行となりますが、今後作家としてやっていきたいことはありますか?
新作はもちろんアニメ化も目指していきたいですが、直近だと同期の作家さんとお話をしてみたいですね。2024年にライトノベル作家デビューした同期の方と友達になりたいです!
──最後に、宮田さんが考える『境界のメロディ』の推しポイントはなんですか?
まず、僕が何者であるかは抜きにして読んでいただきたい……と思いつつ、このインタビューをここまで読んでくださっているということは、もうその企みは難しんですけど(苦笑)。宮田俊哉が書いたことを抜きにして、青春ものとして読んでいただけると嬉しいですね。単純に新人作家のデビュー作としてどうだったのか、面白いでも、つまらなかったでもいいので皆さんにジャッジしていただきたいと思います。そして「宮田でも書けたんだから」と、皆さんがライトノベル作家を志していただけたら嬉しいですね。いつか、「『境界のメロディ』を読んで作家を目指して、宮田さんより部数を超しました」という後輩作家が現れてくれることを楽しみにしています!
取材・文:太田祥暉
スタイリスト:柴田 圭(tsujimanagement)
ヘアメイク:津谷成花
著者プロフィール
宮田 俊哉(みやた としや)
1988年生まれ、神奈川県出身。「Kis‒My‒Ft2」のメンバーとして2011年8月にCDデビュー。ドラマ、映画、バラエティ番組、情報番組、舞台、ラジオなど多方面で活躍。2021年には音楽劇「GREAT PRETENDER グレートプリテンダー」で主演を果たす。アイドル屈指のアニメ好きで、2020年10月に公開された映画「劇場版BEM ~BECOME HUMAN~」のバージェス役でアニメ声優初挑戦。2024年1月スタートのテレビアニメ新シリーズ「カードファイト!!ヴァンガードDivinez」で初の主演声優を務める。通算10作目となるオリジナルアルバム『Synopsis』が発売中、6月より3大ドームツアーを開催。
作品紹介
境界のメロディ
著:宮田俊哉 イラスト:LAM
メディアワークス文庫/KADOKAWA刊
メジャーデビュー目前にして相方のカイを事故で亡くしたキョウスケは、音楽から距離を置き無気力に生きていた。しかし事故から3年。突然カイがキョウスケの前に現れる。
「生きていても、何もやらずに止まったままだったら、死んでるのと一緒じゃん」
生前と変わらない歯に衣着せぬ物言い。そして思わずつられて笑顔になってしまう強引さ。キョウスケはカイに説得され再び音楽の世界と向き合い、共に音を重ねる喜びを感じる。でも、カイとの幸せな時間は永遠ではなくて――。
2人の音が交わるとき世界は色を取り戻す――。
同時発売!!
【ドラマCD付き特装版】境界のメロディ
著:宮田俊哉 イラスト:LAM
メディアワークス文庫/KADOKAWA刊
※同梱されている書籍の内容は『境界のメロディ』と同一のものです。