Tsukiyo Rui
月夜 涙
著者:桜庭一樹
中学三年生女子の逃避行。義父に強姦されそうになった少女はこの父を刺して家を出る。その先で様々なおかしな人ばかりに出会う。人間のような化け物。化け物のような人間。子供のような大人。大人のような子供。一言で表すと何もかもが不安定で気持ち悪い物語。大人と子供、日常と非日常、家族愛と性愛。加害者と被害者、父と男、母と女。この作品では境界があいまいで不安定なところばかりを主人公たちが走り続ける。主人公の立場も心も揺れまくり、足場がなくいつもふわふわ。読み手の心すら不安定にしてしまう。だけど目を離せない、ぐわぐわ揺れた心で読み続けて、最後には放心する。読者の心に爪跡を残す作品。事実、十五年前に読んだ小説なのに、おすすめの小説と聞かれて真っ先にこの作品が浮かんだ。思春期の人に読んでほしい。それから大人になってもう一回読んでほしい。思春期のときだけ得られる楽しさも、大人になってから得られる楽しさもある作品だから。若かりし時にこの作品と出会えたことが、私にとってとても大きな財産になっている。
月夜 涙 (つきよ るい)
ライトノベル作家。角川スニーカー文庫より『回復術士のやり直し』『世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する』が好評発売中。 |