電撃文庫 編集長
湯浅隆明
著者: 上遠野浩平
イラスト: 緒方剛志
心に残る本というと、自分が編集した本も含めていくつも思い浮かぶのですが、多くの電撃文庫読者と同じく私も心を撃ちぬかれたこの一冊を挙げます。『ブギーポップは笑わない』。
メディアワークスに入ったばかりの頃、こわい先輩に「これ面白いから読め」とぶっきらぼうに勧められ、なにごとかと思って読んでみたらびっくりしました。言い尽くされていることではありますが「ライトノベルといえば剣と魔法のファンタジー」のイメージが強かった当時、現代を舞台に端正な筆致で描かれる人間ドラマはそれだけで衝撃で、しかも引き込まれるような面白さがありました。リアルでもフィクションでも、なんでも斜に構えることが格好いい、という当時の風潮のなか、エコーズを取り巻く冷たい群集に向かって言い放たれたブギーポップの真っ直ぐなセリフに痺れたのをいまでも覚えています。さらにこの本はイラストもデザインもとても斬新でスタイリッシュで、新しい未知の物語を読者の手に取らせるに十二分な力を備えたものでした。まさにエポックメイキングという言葉がふさわしく、ライトノベルの可能性を地平の先まで一気に拡張した作品といえるでしょう。いまでも決して色あせないこの作品、まだ読んだことのない方はぜひ手にとってみてください。電撃文庫のほか、新規描き下ろしイラストの新装版も発売されております。お好みのほうにてぜひ。
※書影、リンク先では電撃文庫『ブギ-ポップは笑わない』をご紹介させていただいています。(キミラノ編集部)
湯浅隆明 (ゆあさ たかあき)
電撃文庫 編集長 |