カドカワBOOKSを代表する『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』の愛七ひろ先生と『蜘蛛ですが、なにか?』の馬場翁先生によるスペシャル対談

カドカワBOOKSを代表する『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』の愛七ひろ先生と『蜘蛛ですが、なにか?』の馬場翁先生によるスペシャル対談! 作家になったきっかけや、書籍化した後の変化、お互いの作品について、さらには作家志望者へのアドバイスなど、読み応えばっちりの内容でお届けします。

▶自己紹介
▶作家になろうと思ったきっかけは?
▶作家になってから変わったこと
▶商業作家になってから
▶最近注目している作品
▶お互いの作品とそれぞれの創作
▶WEB小説投稿者へのアドバイス

──本日はお集まりいただきましてありがとうございます。『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』10周年企画として特別対談を始めさせていただきます。まずは自己紹介をお願いいたします。
愛七ひろ(以下:愛七):愛七ひろです。代表作は『デスマーチからはじまる異世界狂想曲(以下:デスマ)』[1]です。というか、それしか書籍化されてないですね。趣味は本を読むこと、プログラムも趣味ですけど最近はほとんど手をつけていません。ゲームをたまにやっていて、Steamでも色々プレイしてみています。最近ではSFの『No Man's Sky』 [2]とかですね。
馬場翁(以下:馬場):馬場翁です。代表作は『蜘蛛ですが、なにか?(以下:蜘蛛)』[3]です。趣味は読書になるんですかね。最近は『小説家になろう』と『カクヨム』ばかり読んでいますね。


──ありがとうございます。お二人はあまり表に露出されることがないので、できれば読者の皆さんに人となりを知っていただきつつ、今回は対談を進めていければと思っています。好きな食べ物などをお伺いしてもいいでしょうか?
愛七:牛肉かな? すき焼きやステーキや焼肉なんかが好きで、納豆やねとねとした食べ物が苦手です。焼き魚なんかも好きなんですが、我が家で魚好きが自分だけなのでなかなか食べる機会がありません。ふるさと納税の返礼品で貰ってから果物類もよく食べます。
馬場:イカ好きですね、刺身でもなんでも。あときのこ類、しいたけとか。それから以前に春菊好きだねって指摘されたことありますね。


──馬場さんは全体的に和食系なんですね。指摘というのはどなたに?
馬場:母親に「変なもん好きだねえ」って言われて育ったんですよね。イカとかしいたけは子供の頃からずっと好きだったんですけど、春菊は自覚なかったです。なんですけど、鍋物とかに入っていると真っ先に手をつけていて「あんた春菊好きねえ」って。


──子供の頃の好物となるとハンバーグやカレーになりやすいので、春菊はお母様の印象に残ったのかもしれないですね。メインディッシュではないものを好むという意味で「変なものが好き」と評されたんでしょうか。
馬場:そうかもしれません(笑)。


──子供の頃のお話が出ましたが、お二人は今も読書が趣味ということで、子供の頃から書籍を両親に買ってもらったりしていたんでしょうか?
愛七:親はほとんど本を読まないのですが、活字の本は読みたいと言えば買ってくれる家庭ではありましたね。ただ、漫画は自分のお小遣いで買いなさいという感じでした。漫画を買うなとか捨てろみたいなのは一切なかったです。あとは学校の図書室でよく本を読んでいました。
馬場:私は父親が本を読む方だったので、小さい頃は一緒に図書館に行ったりしました。児童書とかは割と読んでいた記憶があります。
愛七:僕の学校の図書室はけっこう色々置いてあって、海外翻訳ものとかも置いてありましたね。海外翻訳ものを読むようになったのはそこからじゃないかなあ。
馬場:うちの学校は児童書が多かったイメージですね。あと図鑑系とか。今は小学校の図書室にもラノベ置いてあるみたいですね。
愛七:うらやましい(笑)。
 


──ご自身の学校の図書室にラノベが置いてあったら読まれていましたか?
馬場:どうでしょう……当時の感性を失って久しいので(笑)。ただ、私はラノベを読み始めたのがけっこう遅いんですよね。高校入ってからぐらい。でもバイト禁止だったからお金なくて。なので読み始めたといってもあんまり読んでなかったです。


──お二人とも子供の頃から本と接点はあったんですね。どういった作品を読んでいたんでしょう?
馬場:友達から借りた『涼宮ハルヒの憂鬱』[4]がラノベでは最初かなぁ。その次に借りたのが『キノの旅』[5]でしたね。漫画は『るろうに剣心』[6]。漫画もお金なかったからコミックスが買えない。でもジャンプアニメは観てたりとか。
愛七:『指輪物語』[7]は読んでいました。ファンタジーもSFも読んでいたかな。眉村卓先生とか。『ねらわれた学園』[8]は角川映画になっていますよね。菊地秀行先生とか、ラリー・ニーヴンとか。神坂一先生の『スレイヤーズ』 [9]とか、榊一郎先生の『スクラップド・プリンセス』[10]に『イコノクラスト!』[11]とか。漫画の方で、竹宮惠子先生の『イズァローン伝説』[12]とか。


──なるほど。愛七先生はSNSなど拝見するとかなり色々と読まれている印象なのですが、当時も今もという感じですか。
愛七:仕事が忙しすぎて無理だった時期もありますが今は読み倒していますね。新作アニメも観ていますし、たまに海外ドラマを観たりなどもしています。ドラマなどは作業中にバックグラウンドで流しておいて、気になったらまた最初から……という感じですね。
馬場:私は『小説家になろう』と『カクヨム』をひたすら読んでます(笑)。
愛七:僕もです!(笑)


──どちらも膨大な数の作品があるサービスですが、ご自身の作品チョイスの傾向などはありますか?
馬場:サイトのランキングを上からバーっという感じですね。読み放題だ! こんなに沢山読める! って感じで(笑)。あとはタイトルがちょっと気になったらクリックする、あらすじを読んでさらに気になったら1話目を読むみたいな。



作家になろうと思ったきっかけは?

──お二人ともWEB小説からデビューされていますが、作家を目指したきっかけを教えていただけますか。
愛七:商業作家を目指したことはなかったですね。と言いながら、昔に新人賞に応募してみるかと書き始めたことはありました。でも10ページもいかないうちに書き方がわからなくて頓挫しましたね。だからそれはノーカウントということで。


──そういった経緯がある中で、『小説家になろう』に投稿しようと思ったきっかけがあったんでしょうか?
愛七:自分でも書けそうだと思ったのもありますが、何かを残したいという思いがあったからですね。私の投稿開始時は年に1人とか2人、一部の雲の上の人たちが商業書籍化するという時代だったので、書籍化狙いのようなものはありませんでしたね。全く考えていなかった。投稿した作品を読んでくれた人が10年、20年経ってから「あの作品が好きだった」って思い出語りしてくれるようなものが作りたいと思った。そんな感じです。最初、『デスマ』は習作の予定で、目標PV1000ぐらいでした。
馬場:私はまず読み手として『小説家になろう』と出会ったのが大きいですね。本屋でたまたま書籍化した作品を見かけて、こんなサイトがあるんだって。社会人になってからも薄給でしたから大量に買い漁って読むということはできていなくて。こんなに全部無料で読んでいいの!? ってなりました(笑)。当時は『無職転生』[13]が不動の1位だったかな。ランキングを上から順に読破してました。


──馬場先生はそこから「自分も書こう」となったんですか?
馬場:ですね。読書欲はすごく満たされたんですが、読み漁ったら漁ったで「○○な感じの作品はないのかな? ないなら自分で書くか!」みたいな執筆欲がムクムクと湧いてきて。まあコケても痛くも痒くもないよなって気軽な気持ちで始めました。
愛七:気軽にできるのがよかったですよね。『デスマ』も練習としてのかなり試行錯誤をしたんですよね。人称を変えてみたりとか、色々と遊んでいましたね。懐かしい。


──とはいえ、『デスマ』は書籍化前から大きな人気を誇っていました。習作という感覚がなくなった瞬間はあったんでしょうか?
愛七:6話か7話か、それぐらいで急に伸び始めたんですよね。感想とかも沢山つくようになった。そういったレスポンスを受けることは楽しくて、そのままズルズルとのめり込んでいった感じですね。


──先ほど新人賞用に書こうとしてやめたお話がありましたが、その時から『デスマ』を書き始める間では、なにか書かれたりしていたんですか?
愛七:してないですね。ゲームプログラマーとしてゲーム作りとかをしていた時期なので。


──『デスマ』に影響してくるような、ファンタジーRPG、あるいはTRPGがルーツのようなゲーム作品を作っていたりでしょうか?
愛七:いや、シューティングとか格ゲーとかそっち系のプログラマーだったんですよ。RPG作品に参加したこと自体はありますが、シナリオに口出すとかは一切無かったです。一番忙しかった時は会社への泊り込みで録画したアニメを観る暇もないという感じだったので、趣味の創作はしてないですね。まんま第1話のサトゥーみたいな。
馬場:リアルデスマーチだ……(笑)。
愛七:そのあとゲーム畑から遊技機関係に移って多少時間の余裕ができたりとかもありましたが、まあゲーム開発時代もタイミングで時間が作れることはあったので……という感じですね。
馬場:私の方は、実は『蜘蛛』の前に別の作品を書き溜めしていたんですよ。ただそれがあまりにも暗い雰囲気の話だったんで、「これ読んだ人トラウマになるな」って全部削除しちゃいました(笑)。もう少し軽いものをって書いたのが『蜘蛛』だったりします。


──幻の1作目。それはとても気になりますね。そこから『蜘蛛』はどういう経緯で?
馬場:『蜘蛛』は1作目を消した後に何書こうって数時間うーんってなって、バタバタと見切り発車で書き始めたっていう。愛七先生も仰ってましたが書籍化とか目指してなかったし、習作のつもりで書いていたってのも同じですね。
愛七:ははは(笑)。『デスマ』も見切り発車でしたね。書き溜めはあったはあったけど6話分ぐらい。こんな風に展開して最後はこんな感じで終わるぐらいの箇条書きプロットはあったけどそれだけで、キャラ設定表みたいのはなかったです。


作家になってから変わったこと

──『小説家になろう』で連載をするようになってから変わったこと、あるいは生活がどう変化したか。そういった部分を教えていただけますか。
愛七:書き始め当初は仕事もそれなりに忙しかったんで、とにかく時間がなかったですね。通勤中とか仕事の合間にネタを考えておいて、紙のメモ帳に書いておく。『デスマ』開始当時はまだスマホなかったですからね。それで帰宅して執筆……する時間も平日はまずなかったですね。土日に書いていました。


──当時の一日のスケジュールはどんな感じだったんでしょう?
愛七:朝6時ぐらいに起きて感想への回答をしたり、誤字チェックをしたり。仕事からの帰宅は20時に帰って来られたらラッキーで22時過ぎがほとんどでしたね。帰宅後に朝の作業の残りをやったらもう寝る時間。余裕があればちょろちょろとプロット修正したりとか。土日に1週間分まとめて書くという感じでしたね。当時の方が今より書くのは速かったと思います。
馬場:何が変わったかと言われると難しいんですが、書く時間があるってことは、その分読む時間は減りました。私も仕事でヘトヘトにはなってるんですが平日に3話書いたりとか。書くスピードは速かったのかな。帰宅して夕食前に1~2話書いて投稿して、夕食後にもう1~2話投稿してみたいな。
愛七:投稿したり感想を返したりが生活の大部分になったのが一番の変化ですよね。仕事中はさすがに仕事のことを考えていましたけど。


──本当にお忙しそうなのですが、作品のネタはいつ考えていたんでしょうか?
馬場:当時の私は肉体労働だったんです。だから、頭は空いているんで考えつつって感じですね。本当は1日1話更新ぐらいのつもりだったんですけど、ありがたいことに初期の段階で跳ねてくれていたんでこのフィーバーを逃してなるものか! となってました。


──お二人とも、読者さんの感想について触れられていましたが、やはり執筆におけるモチベーションになっていましたか?
愛七:なりましたね。もう糧という感じで。「面白い」とか「続きが気になる」みたいなシンプルな一言が一番嬉しいですね。伏線とかを詳細に読み解いてくださる感想とかも大変ありがたいし嬉しいんですが、やっぱりシンプルな一言が印象に残りますね。そういう感想が更新のたびに来るとか、やっぱり今でも嬉しいです。
馬場:日々PVとポイントが増えていって、感想もいっぱいもらえて。もちろんモチベになりましたね。数字面でも感想の内容を読んでみてでも。


商業作家になってから

──書籍化の打診があった時のお話を聞かせていただけますか。『デスマ』はカドカワBOOKSの最初の作品なので、ちょうどWEB小説の商業書籍化が盛り上がり始めたころに書籍化されています。
愛七:KADOKAWAさんからは『ソードアート・オンライン』[14]や『魔法科高校の劣等生』[15]が出ていましたが、今と比較したら全然出ていないと言っていい時期でしたので、詐欺か何かだと思ってメールのドメインと公式サイトのURLを調べたりドメインをチェックしたりしました。


──書籍化する際の苦労や、先の展開をどうしようみたいなことはありましたか?
愛七:5話か6話目を書いている時に最終話は一度書いてあったので、終着点は見えてはいました。書籍化打診の時点で今の10~12巻ぐらいまでの書き溜めもありましたし、先の展開に困るなどはありませんでしたね。実際には1巻完結としても読める形に書き直しました。そこで終わってもいいように後の巻に繋がる伏線とかも可能な限り排除したのですが、当時の編集長から「2巻に続くように書いてくれ」って言われて。1巻の終盤にアリサとルルを出して引きの形になるようにしました。2巻完結も想定して2巻で魔王出てきて対決のバージョンも用意してあったのですが、幸いにして1巻が売れてくれたのでそちらは幻のプロットになりました。


──『デスマ』1巻は発売即重版でした。その重版の掛かり方も普通ではない勢いと数字で、重版が決まってそれが出る前に次の重版が決まったりしていましたよね。
愛七:ありがたいです。おかげさまで。はい。
馬場:すごい。


──馬場さんは書籍化打診があったときに何か気にされたことはありましたか?
馬場:まず「1巻が売れなかった場合、何巻まで出してもらえます?」って聞きました(笑)。


──初めての書籍化なのに、すごく冷静に先を見ていらっしゃったんですね……(笑)
馬場:『蜘蛛』は当時の流行とは若干ずれたことをやっていたので、売れるのか? というのが自分の中にあって。それで「4巻までは出します」という回答をもらって、「わかりました」って感じでしたね。『蜘蛛』を書き始めた時にうーんって唸りながら見切り発車したと言いましたけど、その時点で一応の終わりまでの簡単なプロットを頭の中で組み上げてはあったので。


──お二人とも見切り発車と言いつつ、かなり早い段階で終わりまで見据えていらっしゃったんですね。展開や構成を考えるのはなかなか大変だと思うのですが、「昔からこういうことをしていた」のようなものはあったりしますか?
馬場:そうですね……。読んでいた漫画の続きを妄想するのは好きでした。連載中の次回枠とか完結後の主人公たちの行く末とか。そういう妄想をするのが好きで、それがオリジナルに対しての妄想力に繋がっている部分はあるんじゃないかなと。
愛七:それすごいわかりますね。ちょっと思い出したんですけど、学校の教科書に『羅生門』[16]って載っていたじゃないですか。国語の授業でその『羅生門』の続きを考えようってあったんですよね。僕が初めて作った物語ってそれなんじゃないかなって。書いた内容は覚えてないんですけど。


──お二人とも「続き」のようなものを考えていたというのは面白いですね。二次創作活動というものはされたことはあったりするんでしょうか?
愛七:いえ、『スレイヤーズ』25周年記念のリナ=インバース討伐を書かせていただきましたが、あくまで仕事としてという形ですね。それぐらいしかないです。
馬場:ないですね。たださっきの話の続きになりますけど、TVアニメを家族とのチャンネル争奪戦に負けて観られないとかよくあったんですよ。で、翌週見れても1話飛んでいたりするわけです。それで「前の話はこういう流れだったんだろうなあ」という妄想をして補完をする、みたいなことはやっていました。もしかしたらそれで結果として鍛えられたんじゃないかなと(笑)。


──書籍化して、ご自身の生活で変わったことや、気をつけるようになったことなどはありますか?
愛七:僕は商業デビューまではSNS自体をやってなかったのですが、新しくはじめたんです。気をつけていると言うほどではないんですが、SNSでは悪口を言ったりマイナスな発信をしたりしないようには意識していますね。


──WEB小説は読者さんとの距離も近いですし、インターネットに親しんでおられる方も多いので大切なことですね。
愛七:生活面での最大の変化は作家として専業になったことですね。このまま兼業だと体を壊すと判断したのもありますが。当時の編集長にも相談したんですけど「それがいいですね」って凄い勧められた記憶があります。専業推しというよりは僕の体調がとにかくやばそうに見えたからかもしれませんが。駅の階段でこけそうになったりとかしてましたし。
馬場:私も会社を辞めたのは大きいですね。書籍化作業と仕事の繁忙期が重なって、でもWEB連載は止めたくなかった。そうすると睡眠時間を削ることになって1日3時間睡眠がずっと続く、みたいになるんです。仕事中にふっと意識を失ったりして。これはさすがにまずいなって。


──身体を動かす仕事でそうなってしまうのは大変危険ですね……!
馬場:当時は若さで乗り越えました(笑)。専業作家になってからは完全にリズムが変わって……いや崩れて、かな? いつでも寝ていいし、本も好きなだけ読み続けていい。10時間以上寝たりできる。睡眠は大事ですね。あとは読書量が増えたってことは必然執筆ペースは落ちてますね。それはインプットの時間が増えたわけでもありますけど(笑)。
愛七:僕も専業になってからインプットの時間はかなり増えましたね。


──インプットに使う時間は平均どれぐらいですか?
愛七:1日6時間ぐらいでしょうか。
馬場:私も同じぐらいですかね。


──昔と比べて、小説などをプロ目線で分析しながら読むというようなそういう変化はあったりしましたか?

愛七:それはないですね。というのも僕はゲーム開発していた時にそうなったことがあるんですよ。こういう風に作っているのか、こういう処理をしているのかというのを見ながらゲームをプレイする。それでゲームが楽しめなくなってしまった。なので、小説ではしないようにしています。一読者、一ファンの姿勢で読んでいますね。


──馬場先生のほうはいかがでしょう? インプット量が増えることで創作に活かしやすくなるなどは感じられていたりしますか?
馬場:どうなんでしょう。今は年間3桁単位ぐらいは読んでいるのかな。インプットした分、変わっているところはあるんでしょうけど、自覚はあんまりないかなあ。自分の中で『蜘蛛』を書き始める前にはもう持ち球は出揃ってたかなって感覚はあります。他の方の作品に触れて、今の流行り廃りの中ではこの球が合いそうだなとかそういうのはあるんですけど、球が増えたかというとそう思う瞬間はあんまり無い気がしますね。


──読書はずっと趣味だったというのも大きそうですね。もはや当たり前になっているというか。
馬場:あ、変化といえば、WEBの連載と書籍の連載がそもそも違うってのは変化ですよね。書籍用のオリジナル展開をやろうってなったんで。


──『蜘蛛』も『デスマ』も持っている特徴ですね。同じ作品で展開を変えて進めていくと、書いていて混ざったりはしませんか?
馬場:しますね。とっ散らかります。
愛七:たまに設定混ざりますよね。


──色々加筆修正して書籍化されたと思うのですが、書籍発売時の思い出などがあればお聞きしたいです。発売日に本屋に行ってみたりはしました?
愛七:もちろん行きました。特に1巻の時は買ってくれる人を見守ったりしていました(笑)。


──遭遇できたのはいいですね! やっぱり嬉しいものでしょうか?
愛七:それはもう。嬉しくて家に帰ってからゴロゴロ転がりましたよ。
馬場:私の場合は仕事帰りに書店をチラ見するくらいでした。自分の本が買われるっていうのが気恥ずかしかったので、あんまり直視できませんでしたね。


──他に商業作家になってからのエピソードで印象深いものはありますか?
馬場:一番印象に残っているのはコミカライズが決まったことですね。蜘蛛という性質上、小説の挿絵でもいけるのか? ってのはあったんですよ。コミカライズの話が来た時は「正気か?」って担当編集に言っちゃいましたよね。スライムは可愛くいけるし、ゴブリンとかでも人型だからまあまあまあ的な。「でも蜘蛛だよ?」って。


──ご自身の作品が漫画になったのを見てどうでしたか?
馬場:ネームチェックという作業が初めてだったわけですが、やっぱ「おぉ!」ってなりました。


──『蜘蛛』のコミカライズは大変好評ですね。
馬場:それはもう完全に担当していただいているかかし先生のお力ですね。


──愛七先生はコミカライズについてはいかがですか?
愛七:僕も漫画のネームというものを見るのは初めてでしたから、「これがプロ漫画家さんのネームや!」って感じで嬉しかったですね。小説って、構成上から挿絵の数が決まっているじゃないですか。だから、どうしても挿絵にならないキャラクターが出てくる。それが全部絵で見れるというのは凄く嬉しかったですね。


最近注目している作品

──最近のお気に入り作品や注目しているものなどあれば教えていただけますか。
愛七:WEB小説だと、『フェイスレス・ドロップアウト』[17]は洋ゲーテイストの拠点防衛系ゲームみたいな感じが面白いです。よくある異世界ものとちょっと違う世界観がいいですね。『小悪魔ベリル~うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児~』 [18]はギャルの転生幼女が好き勝手やっているのをお父さんの視点で見るというのが面白かったです。書籍化作品だと『TS衛生兵さんの戦場日記』 [19]かな。「戦争なんてクソだ」みたいな感想がダイレクトに出てくる悲惨な作風なんですが、ちゃんと面白いのが凄い。『負けヒロインが多すぎる!』 [20]はアニメも観ています。絵が普通に凄いのと、小説版とだいぶ違う構成ながらアニメに合わせた脚本として観ていて惹き付けられる。小説とアニメどっちも面白いですね。
馬場:『TS衛生兵さんの戦場日記』は私も好きなんですよ。愛七先生の仰る通りに悲惨なんです。よく言われるのが『幼女戦記』[21]のチートないバージョン。


──絶望ですよね。
馬場:まさにまさに。戦争していてチートもないし、本当にちょっとした回復ぐらいしか出来なくて味方がバンバン死んでいく。悲惨な状況の中で全滅必至みたいのがどんどんやってくる。
愛七:知り合いが敵として出てきて殺し合ってしまったり。


──馬場先生はご自身の幻の1作目がすごく暗い話だったと仰ってましたが、ダークな話はかなりお好きなんでしょうか?
馬場:大好きです!


──一方、愛七先生はハッピーエンド系の作品がお好きな印象がありますが……
愛七:でも『デスマ』もそうなんですけど舞台はけっこう悲惨ですよ。モンスターに襲われて死ぬし、気がついたら魔王とかが攻めてきて滅ぶ世界ですから。主人公がやたら強いからほのぼのして楽しめるだけなんですよね。なので、展開としてはハッピーエンドは好きなんですけど、ベースとなっている世界が悲惨な方が書きやすいですね。
馬場:あとは『カクヨム』の『アサシンの卵に転生した』[22]はけっこうハマってますね。とある教団のアサシン育成場に生を受けた男の子が頑張る話で、これもけっこう悲惨系です。そして主人公がえげつない。呼び名がネチネチですからね。ネチネチしてるからネチネチ。


──馬場先生は今もWEB小説をしっかり追ってらっしゃるんですね。
馬場:昔はなかったお金があるので買おうと思えばいつでも買えるという意識があるせいか、あるいは発掘されていないものを発掘したい思いがあるせいか、商業作品よりもWEB小説の方を優先しちゃってますね。ああ、カドカワBOOKSで書籍化している『サイレント・ウィッチ』[23]と『黄金の経験値』[24]はWEBの方では完結していて、好きな作品ですね。


──WEB小説を「発掘」すること自体にも楽しみを覚えているという面があるんでしょうか?
馬場:うーん、実際のところは面白いなって思う作品に出会って読めるのが楽しいだけですね。
愛七:僕も馬場さんと同じようにサイトのランキングを上から順に一通り見るんですが、個人的な合う合わないは当然あって、合うやつを選んで読む形ですね。今はちょっとランキングにこれが読みたいってのがないなって時、そういう時にスコップとかって表現ありますよね、ちょっとマイナーなところを探しに行く。『カクヨム』だとおすすめみたいな感じで出てくる仕組みもありますよね。それで合うやつが出てきて読む。そういうのはありますね。


──愛七先生はSNSを見たり、お話をしていると、幅広く色々読まれている印象はあります。
愛七:割と何でも読みますね。スローライフ系も、悪役主人公ものも、ゲーム世界突入ものも、悪役令嬢系も読みます。雑食ですね。
馬場:私も暗い系以外も何でも読みますね。


──実はこの対談、企画前は愛七先生と馬場先生は作品の毛色が違うので、作家としても違うタイプなのではないかなと考えていたのですが、共通点もかなり多そうですね。では、ここからは作家としてのスタイルなど、深掘りさせてください。


お互いの作品とそれぞれの創作

──ここまでお話されてきて、お互いの印象、あるいは作品に対する感想といった部分をお聞きしたいです。愛七先生から見た馬場先生はどんな方ですか?
愛七:『蜘蛛』の人というイメージが一番! いや、『蜘蛛』ってステータスが凄いじゃないですか。あれだけのデータ管理をできるマメな人、自分には絶対できないと思って見ています。『デスマ』はなるべくステータス画面を出さないようにしているんですよね。
馬場:いやもう細かく管理するしかなかったんで。
愛七:僕は全部を最後まで管理するのが面倒くさいのでなるべく出さないようにしていますね。旅で何日経過とかもなるべく書かない。


──それでも『デスマ』はキャラクターが習得しているスキルや魔法の数が膨大ですし、厳密に管理されていますよね。
愛七:それだけは書いておかないと後で矛盾が出ますから。


──馬場先生はどんな風に管理されているのですか?
馬場:前回出したステータスをもとに戦闘結果や経過日数での上がった下がったを計算して、計算したものをベースに次へってやってる感じですね。


──……話が進む度に、全部計算して?
馬場:やってました。最初はノリノリでやってたんですけど後半はこう……。いやあでも『デスマ』の色々なスキルがばーっと出てくるのに憧れてやっちゃう。次は何のスキルを覚えるんだろうとか、すごいワクワク感があって。それを真似させていただいて、結果、自分の首を絞める。


──馬場先生から見た愛七先生はどんな方ですか?
馬場:それはやっぱり「『デスマ』の人」ですよ!(笑)


──お互いを意識したりなどはありましたか。ライバル視などは?
愛七:WEB連載期間中は更新を楽しみに待っていましたよ。毎晩更新されてる! って読んでいました。
馬場:ありがとうございます。私もまったく同じです(笑)。
愛七:『デスマ』のランキングが落ち着いたぐらいの頃に『蜘蛛』の連載が始まりましたから、ライバル視とかではなく普通にファンとして読んでいましたね。
馬場:私は『デスマ』のファンからはじまっていますから。ライバル意識というのはなかったですね。


──お互いの作品の「ここがいいな」と思っている部分などありますか。
愛七:蜘蛛子がやたら楽しそうっていうのがいいですよね。自由っていうか、基本ギリギリの格上バトルばかりじゃないですか。どうやって勝つんだろうって思いながら読んでいるんですけど、最終的に負けることはないだろうという妙な安心感もある。こいつだったら最後は絶対なんとかしてくれるというような。わくわくと楽しみながら読んでいました。
馬場:『デスマ』は異世界転生・転移ものの美味しいところ全部盛りじゃないですか。そこがもうずるいですよね。
愛七:とりあえず間口を広くやろうと思って作り始めてはいましたね。
馬場:バトルあり、生産あり、ハーレムありで。恋愛要素とか育成要素とか。豪華特盛りの魅力ですよね。どこをとっても美味しいし飽きない。1つ1つの要素を取っても美味しくて、全体としても美味しい。なんていうか、ずるい。


──ご自身の作品におけるこだわりですとか、読者に伝えたいと意識している部分などをお聞かせ願えますか。
愛七:読者がするっと抵抗なく読めるように、主人公サイドに過失がないようにはしていますね。こいつのせいで国が滅んだとかあのキャラが死んだとか、そういうことはなるべく起きないように話の流れを作っています。背景で悲惨な出来事があって世界は大変なことになっているけど主人公周りは関係なくほのぼの出来るようにも。あんまり悲惨だと観光を楽しめないですからね。基本的にハッピーエンドで終わるようにしています。あとは書籍版の話として、WEB版を読んでくれている人でも、新鮮に楽しめるようにしようと心がけていますね。


──お話を動かすのに「誰かの過失」というものは使いやすいという部分はあると思いますので、それをしない制限をかけるというのは大変そうですね。
愛七:まあ基本巻き込まれ型なんですが、主人公はちょっと過保護なところがあるじゃないですか。過保護を成立させるために新しい技術などを求めて活動するという話作りですね。
馬場:『蜘蛛』に関しては読者の予想を裏切り続けようというのがありました。とりあえず展開がわからないは目指しました。


──言うのは簡単ですが、実際に読者がこう予想してくるだろうというのを想定し続けるのは大変ではないですか?
馬場:当時の『小説家になろう』で主流となっていたものから全て外すということをやっていましたね。天邪鬼なんで逆張りして、逆張りしてっていう。そういう意味ではあまり考えなくて済みました。


──確かに、ただ闇雲に逆張りをしてやるというよりも、「ここでこれをぶち込む」というような、そういう明確な意思で書かれている印象もありますね。
馬場:作品ごとのテーマを決めてはいないのですが、シーン単位でこうしたいはやってますね。このキャラクターにはこれをやらせるとかそういった風な。物語はやっぱりお約束があるじゃないですか。それを裏切る。読者が予想しないところで重大情報を投げ込む。不意打ちをする。


──その不意打ちがご都合主義と思われるリスクもあったりすると思いますが、そこはどう対処するのでしょう?
馬場:主人公に不利な不意打ちを食らわせることですね。そうするとご都合主義にはならない。そして「作者は人の心がないのか」と言われる(笑)。


──逆張りの姿勢が徹底していますね(笑)。今後の創作においてもそれらを込めていく感じでしょうか。
馬場:王道なら王道を貫くもいいと思うんですよ。わかっていても面白い。それこそ『デスマ』はサトゥーの強さがあって安心感がある、そういう作品じゃないですか。
愛七:はい。
馬場:そういう安心感を与えない。常に吊り橋を揺らして緊張感を与える。そういう先の読めないハラハラ感なんかを盛り込みたいので、安心感のある作品は書けない人間なんです。
愛七:『デスマ』もWEB版の初期の頃は逆張りでやっているんですよね。異世界もので転生ものっていうメジャーで行こうとはしていたんですが、ヒロインがいつまで経っても出て来ないとか。書籍版ではすぐにゼナさんとか出てくるんですけど、WEB版では2章だったかな、それぐらいまで出てこない。ポチ・タマとかも数回で消えるゲストキャラの予定でした。人気が出たのでレギュラーメンバーになったんですよね。


──なるほど。サトゥーが力をひけらかさないというところも、当時のWEB小説における主人公のトレンドとしては逆張りと言えるかもしれませんね。
愛七:そうですね。馬場さんが評価してくださったスキルが次々と手に入る部分も、当時はあまりなかったんですよね。修行したり迷宮で頑張って戦ってやっと獲得するというのが主流だった。それだったらいっぺんに行動ごとに入手させたら面白いじゃないかって。


──当時のWEB小説のトレンドを見返してみると『デスマ』は逆張りで構成されているというのは非常に面白いですね。話を聞いていてふと気になったのですが、お二人は夏休みの宿題は早めに終わらせるタイプでしたか?
愛七馬場:(なんとなく察する)
愛七:早めにやろうと努力はするけど3日目ぐらいに飽きて遊んじゃうタイプですね。最後の方に地獄を見るパターン。
馬場:最初から諦めてます!(笑) いや一応ラストに頑張りはするけどもう無理ってなるタイプです。


──その傾向は原稿の執筆にも反映されているなと思いますか?
愛七:締め切りが迫ってこないと、物語のこの流れだけどひょっとしてもっと面白い流れがあるんじゃないか? っていう欲が出てなかなか先を書けないところはありますね。
馬場:そうですよね。8割でこれでいけるんだけどうーん、とか。もうちょっとあるんじゃないかと寝かしておこうみたいな。
愛七:そうそうそう。どうしても納得がいかない時は「後で修正する」ってコメントを書いておいて未来の自分に任せる。


──急な質問に答えていただいてありがとうございます(笑)。せっかくなので馬場先生に質問なのですが、次回作についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
愛七:馬場先生の次回作構想は、あるなら聞いてみたいですね。
馬場:一応チラチラと裏で進めているのはあるんですが……それはお楽しみということで。
愛七:楽しみに待っています。


──愛七先生の新作の構想があればお聞かせいただけますか。
愛七:一応『カクヨム』や『小説家になろう』で1つ書いていたんですが、ちょっとリブートしようかなと思って迷走中ですね。新作のプロット自体は大量に、20 か30ぐらいあるんですが、これやったらいける! みたいのはまだですね。
馬場:売れてる作品を書かれた方ってそれだけで燃え尽きてしまう方も多いんで、ちょっと安心しました。


──すみません、今年度は『デスマ』の刊行数が多くて新作を練る時間が確保しづらいですよね。
愛七:ははは、確かに今年は忙しいなとは思っていました(笑)。


──10周年ということで愛七先生にお願いすることも多く、ご協力いただいてありがとうございます。
馬場:30巻が出たばかりで、11月に31巻。 30巻超えと10周年、改めておめでとうございます。
愛七:ありがとうございます!


WEB小説投稿者へのアドバイス

──WEB小説を書いて投稿することに興味がある人、あるいは既に投稿中の人なども今回の企画を読んでいると思いますので、そちらへ向けたアドバイスをいただけますでしょうか。
愛七:アドバイスできるほど偉くも上手くもないのですが、最初の読者である自分自身が楽しめる作品を書くのがよいのではと。あと、今流行っているジャンル、そういう流行に乗っかることを恐れずに間口の広い作品・ジャンルを攻めるといいと思います。ただしそれが「自分の好きなもの」でないなら手を出すのは辞めた方が良いですね。自分が好きでなければ流行っていても書いていて楽しくないし、続けることが苦痛になると思います。
馬場:愛七先生の仰る通りで、本当は書きたくないけど流行に乗るは途中で筆が折れちゃいますね。まず自分の書きたいことを軸に置く。その書きたいジャンルの先駆者とか、売れている作品を読む。売れている作品は読まないみたいな天邪鬼な人はいると思うんですけど、売れているだけの理由があるわけで。それは見て読んで勉強して良いと思います。


──ありがとうございます。とはいえ「自分の書きたいもの」が見つけられないというパターンもあるかと思います。そういう人に向けてのアドバイスはありますか。
愛七:作品を色々読んで、これ面白いなって思う作品をリストアップする。そのリストで共通している部分を探すというのが、自分の性癖を見つける一番かなとは思います。
馬場:愛七先生にプラスアルファとして、面白いや好きだと感じたものがキャラクターなのかシーンなのか、そういう部分を細分化してみるとよりわかりやすくなると思います。この作品のこのキャラクターが推しですってタイプならキャラクターを描くための作品を書くべきだし、シーンが好きというタイプならそのシーンに至るストーリーを考える。そんな感じですね。


──長編を書く際のお話になるのですが、完結する前の段階で書きたかったものを書ききってしまった、あるいは途中でネタが尽きてしまったということはありますか。その場合どう対応しますか?
愛七:とりあえずネタは尽きなかったですね。これとこれとこれのシチュエーションをやりたいという箇条書きがあって、この章でこのシチュエーションが使える、こっちの章ではこれを使おうと消費していくわけです。使ったら減るわけですが、書いているうちにこのキャラクターならこんなこともするなという新しいエピソード、ストックが増えていく感じですね。最後まで書くことがないとはなりませんでした。
馬場:『蜘蛛』に関しては最初から最後まで大きなイベントは作ってあったので、その通りになぞっていく感じでしたね。だからイベントで困ったということはなかったですが、逆にイベントを増やすことが難しいということではありました。


──ロードマップがある分、大きなものを後付していくのが難しいと。
馬場:そう。大きな絶対に通らなくてはいけないイベントの間に、邪魔にならないイベントを挟むことは可能だったんですが、用意したイベントを全て消化したら風呂敷を畳まなくてはいけないわけで。作者のモチベーションという意味でそれを行うことが大変でしたね。ああ、終わるのかって。特に終盤はもう物語の終着が見えてしまっているので、書く前から終わった気になってしまって筆が進まなかったですね(笑)。


──小説を書くという作業において、これは面白いのか? 本当にこれで進めて良いのか? などと思って筆が止まってしまうとか悩んでしまうとか、そういうことがあるかなと思うのですが、そういったことはありましたか?
愛七:初稿が書きあがる直前ぐらいにこれ本当に面白いか? マンネリじゃないか? ということは毎回思いますね。そういった引っかかるようなところはメモをして、それはそれで置いておきます。初稿はとりあえず編集さんへ送る。ここをもっと熱くとかここはライトにみたいなディレクションをもらって、こういう風に変えようと思うんだけどみたいなやりとりをする。初稿と改稿版は割と違ってくるんですよね。その改稿版に対してもこれやっぱり面白いか? と悩む。そんな時は2、3日寝かせてみると「やっぱ面白いわ」ってなりますので大丈夫です。ずっと書いているとこれは面白くないんじゃないか、もっと面白くなる方法があるんじゃないかと、どんどんと最高を追い求めてしまって書けなくなってしまう。要は名作病ですね。


──まずは書き切ることが大事なのはありますよね。書き切れずに踏み出せない方も多いと思いますし。
馬場:私は面白いかどうかで悩む事は少ないですね。面白いか? って思ってしまった瞬間にはもうそれは面白くないという結論が自分の中で出てしまっている。疑問が出た時点で自分の中で納得できていないんですよ。だから、納得できるものに書き直す。私はそんな感じですね。自分が納得できるものだったらもうとりあえず面白いって自信をもって出せる。


──すごく自分に厳しい書き方というか、ストイックなスタイルだと思うのですが、最初からずっとその割り切り方でやってこられましたか?
馬場:最初からですね。世界一売れている本にもアンチはいるもので。だから自己肯定感を高めるっていうのはとても大事なことだと思っています。ネガティブな気持ちになると何を書いても肯定できなくなってくるんですよ。自分の書いたものは楽しいんだ! という気持ちを持つことは大事ですね。


──その自己肯定感をどう高めるか。あるいは維持するコツはあるんでしょうか?
馬場:私の場合は「割り切る」ですね。受け入れられなかったら「君の趣味じゃなかったね」です。突き詰めていこうとしても芸術とか小説に答えはない。究極を目指しつつそこには絶対に届かないことを理解しながら書かなくてはいけない。神の一手はない。届かないことを割り切って書く。時代が悪かった100年後にはウケてるとか。あるいは10年前なら評価されていた、10年後なら流行っていたなどはあるわけで。


──確かに、時代で評価が変わるということはありますね。昔は異端だったけど今はど真ん中の作品なんかもありますし。
馬場:まあ、でもへこむ時はへこみます。そうしたらふて寝ですね。へこんだらふて寝(笑)。睡眠は全てを解決してくれます!


──馬場先生から自己肯定感の大切さというお話が出ましたが、愛七先生はいかがですか?
愛七:そうですね……PV数が増えれば否定的なコメントの類も増えますから、これだけ沢山の人が見てくれているのだから、多少の合わない人はいるだろという感じでいますね。


──ちなみに、もし商業作家になる前の自分に何かアドバイスや忠告ができるとしたら、なにか伝えたいことはありますか?
愛七:ないですね。何をアドバイスしても余計な雑音になりそうですし。
馬場:そうですね。色々考えちゃいそうですし、当時の勢いに任せたままの自分がいいのかなって気はします。あえて一言言うとしたら……確定申告。ちゃんとやって!(笑)


──それは凄く大事なことですね(笑)。それでは最後に、作家を目指している方へのエールをいただけますか。
愛七:最高の出来にならなくてもいいからとりあえず1話は書いて、短編でも良いから投稿するところまで1度やってみる。誰も見てくれないかもしれないけど、1度投稿を経験すると次はもっと上手く書けるという気持ちで続編や新作が書けたりするものです。最初のハードルを越えてしまうとあとが楽かなと思います。
馬場:最初の一歩が一番踏み出しにくいですよね。実際に書いてみないとわからないことはあるんで、まずは書くこと。書いたら「ぺいっ」て投稿する。気負いすぎない。あんまりごちゃごちゃ考えると、考えすぎて書けなくなっちゃう。何も考えずに書く。私も『蜘蛛』はコケることを前提に投稿しました!
愛七:『デスマ』も練習作の予定でした。


──以上で締めさせていただきたいと思います。たくさんのお話をありがとうございました。
愛七馬場:ありがとうございました!


10周年記念特設ページはこちら

デスマ10周年記念特設ページ
◆注釈◆

[1]『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』 愛七ひろ KADOKAWA カドカワBOOKS
[2]『No Man's Sky』 Hello Games
[3]『蜘蛛ですが、なにか?』 馬場翁 KADOKAWA カドカワBOOKS
[4]『涼宮ハルヒの憂鬱』 谷川流 KADOKAWA 角川スニーカー文庫
[5]『キノの旅 the Beautiful World』 時雨沢恵一 KADOKAWA 電撃文庫
[6]『るろうに剣心1』 和月伸宏 集英社 ジャンプ コミックス
[7]『最新版 指輪物語1 旅の仲間 上』 作:J・R・R・トールキン 訳:瀬田貞二,田中明子 評論社 評論社文庫
[8]『ねらわれた学園』 眉村卓 講談社 講談社文庫
[9]『スレイヤーズ1(新装版)』 神坂一 KADOKAWA 富士見ファンタジア文庫
[10]『スクラップド・プリンセス 捨て猫王女の前奏曲』 榊一郎 KADOKAWA 富士見ファンタジア文庫
[11]『イコノクラスト! 1』 榊一郎 KADOKAWA MF文庫J
[12]『イズァローン伝説 (1) アッハ・イシュカの庭』 竹宮惠子 eBookJapan Plus
[13]『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 1』 理不尽な孫の手 KADOKAWA MFブックス
[14]『ソードアート・オンライン1 アインクラッド』 川原礫 KADOKAWA 電撃文庫
[15]『魔法科高校の劣等生(1) 入学編〈上〉』 佐島勤 KADOKAWA 電撃文庫
[16]『羅生門・鼻・芋粥』 芥川龍之介 KADOKAWA 角川文庫
[19]『TS衛生兵さんの戦場日記』 まさきたま KADOKAWA
[20]『負けヒロインが多すぎる!』 雨森たきび 小学館 ガガガ文庫
[21]『幼女戦記 1 Deus lo vult』 カルロ・ゼン KADOKAWA
[23]『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』 依空まつり KADOKAWA カドカワBOOKS
[24]『黄金の経験値 特定災害生物「魔王」降臨タイムアタック』 原純 KADOKAWA カドカワBOOKS

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