異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ガールズサイド4 ~華麗なる乙女たちの冒険は世界を変えた~

第一章 南の島(3)

 ゴゴゴゴゴゴ……ザバアアアアアアアアアアアアアアアッ!


「なっ!?」

「嘘でしょ!?」

「ひょわああああああああああ!?」

 一行は壁のように立ち塞がった波に、悲鳴を上げながら為す術もなく呑み込まれる。

「あっ! やりすぎちゃったわ!?」

 ジゼルが慌てて波を鎮め、海水を巨大な手の形にしてレクシアたちを掬い上げた。

「ぷはっ!」

「あわわわ、目が回ります~……」

「ごごごごごめんなさいっ! 加減を間違えちゃって……大丈夫っ?」

 慌てるジゼルに、しかしレクシアは花のように笑った。

「ふふ、ふふふふっ……すっごく面白かったわ! 波にもみくちゃにされたの、初めてよ!」

「ああ、貴重な経験が積めたな」

「はい、あんなに大きな波、初めて見ました! ジゼルさん、やっぱりすごいです――」

 ティトがそう言いかけて、はっと何かに気付いた。

 真っ赤になって胸を押さえる。

「はわわわっ!? みみみみ水着が流されてしまいました~!?」

「ええっ!? 大変、探さないと!」

「もう、ティトの胸が大きすぎるからよ」

「そんなこと言ってる場合か、早く探すぞ!」

 慌てて総出で周囲を探す。

 すると、すぐ傍で甲高い鳴き声が上がった。

「キュィ~っ!」

「あっ、海竜さんです!」

 海竜は滑らかに泳いでくると、口にくわえていた水着をティトに差し出す。

「キュイ!」

「わあ、ありがとうございますっ!」

「水着を見つけてくれたのね! いい子、いい子」

「キュイ~ッ」

 海竜はレクシアに撫でられて、嬉しそうに喉を鳴らした。

 水着騒動が一段落したところで、ジゼルが改めて頭を下げる。

「本当にごめんなさい、つい反射的に、あんなに大きな波を……」

「えへへ、大丈夫です! とっても面白かったです!」

「ああ。水遊びも奥が深いな、久々に熱くなってしまった」

「とっても楽しかったわね!」

「それなら良かったわ。……でも、色々とありえないことが起こっていたような……?」

 ジゼルが先程見たものを反芻するように首を傾げる。

 その時、ティトがぴくりと猫耳を動かした。

「あれ? 浜辺の方が、なんだか騒がしくないですか?」

「え?」

 ティトの視線を追って、浜辺を振り返る。

 すると、島民たちが大勢集まっていた。

「なんであんなに人がいるのかしら?」

「何やら騒いでいるな」

「あっ! さっきの水遊びで、魚が打ち上げられているわ!?」

 ジゼルが驚く通り、レクシアたちの規格外の水遊びによって、大量の魚が浜辺に上がっていたのだ。

 風に乗って、島民たちの嬉しそうな声が届いてくる。

「おおっ、この魚は幻の珍味だぞ!? なんでこんなに打ち上げられてるんだ!?」

「ここのこころ不漁で困っていたが、これでしばらく食いつなげそうだな!」

「あら!? あそこに突き出てた岩、一体どこにいったのかしら!?」

「あの岩、よく舟がぶつかって危なかったんだよなぁ! これで漁がしやすくなる、助かったよ!」

 島の人たちの歓声を聞いて、レクシアが誇らしげに腕を組む。

「ふふふ。どうやら私の計画通りになったようね!」

「そ、そうだったの!? すごいわ、レクシアさん……!」

「いや、ただ遊んでいただけだろう」

「そう、私くらいになると、たとえ遊んでいたとしても、やることなすこと全てがみんなのためになってしまうのよ!」

 レクシアは満足げにそう言うと、沖を指した。

「ねえ、今度はもっと沖にいってみましょうよ!」

「賛成です!」

「キュイ、キュイッ!」

 気がつくと、数匹の海竜が四人を取り囲んでいた。

 どうやら群れで様子を見に来たようだ。

「キュイー!」

「沖に連れて行ってくれると言っているわ」

「えっ、いいの!? とっても楽しそう、ぜひお願いするわ!」

 四人はそれぞれ海竜の背中に乗った。

「変わった乗り心地だな」

「海竜の肌って、すべすべでぷにぷにしてるのね! 冷たくて気持ちいいわ!」

「キュイ~!」

 海竜は一声鳴くと、沖へと泳ぎ出した。

 レクシアたちを乗せ、波を掻き分けてぐんぐん進む。

「わあ、速いです!」

「まるで波の上を滑ってるみたい! 風が気持ちいいわね!」

 濡れた髪が潮風に踊り、白い素足が水を切る。

 陸から遠く離れた頃、海底から遠吠えのような音が響いた。

「クオオオオオオオオ!」

「この音は……?」

 その正体を探る暇もなく、巨大な影が水面に浮かび上がり、山が盛り上がるようにして海面へ姿を現す。

「わあああ……!」

「あ、あの魔物は一体……!?」

「【オーロラ・テイル】よ!」

 ジゼルが嬉しそうな声を上げる。

 突如として現われた巨大な魔物は、オーロラ色の鯨だった。

「クオオオオオオオオオオ!」

「お、大きいです……!」

「海にはこんな巨大な魔物がいるのか……圧巻だな」

「優しい目でこっちを見てるわ! もしかして、この子もジゼルのお友だちなの?」

「ええ。オーロラ・テイルは繊細な魔物で、こうして人の前に姿を見せることはとても珍しいの。レクシアさんたちを歓迎してくれているみたい」

「クオオオオオオオオオ!」

 ジゼルの説明を肯定するように、オーロラ・テイルが噴水のように海水を噴き上げる。

 細かな飛沫が陽の光に照らされて、空に七色のアーチを作った。

「虹だわ!」

「わああ、綺麗です!」

「こんなに大きい魔物ともお友だちになれるなんて! すごいわ、ジゼル!」

 他にも様々な生き物たちが、時に海面に躍り上がりながら併走した。

 沖に出ると、ジゼルが海竜にくくりつけていた板を取り出す。

「ジゼル、その板はなに?」

「波乗りと言って、この板に立って波の上を滑るのよ。島の子どもに人気の遊びなの」

「ほう、面白そうだな」

「やってみたいです!」

「ただ、とても難しいから、最初は板に寝そべったままでも大丈夫よ、無理はしないでね」

 三人が板に乗ると、ジゼルが小さめの波を起こす。

「じゃあ、いくわよ。『海よ、小さき波を起こせ』!」

「きゃあっ!?」

 波に煽られて、レクシアはたちまちひっくり返った。

「ぷはっ! なにこれ、すっごく難しいわ!?」

「レクシアさん、大丈夫?」

 板にしがみつくレクシアを、ジゼルが波を操って救出する。

 その向こうで、ルナが涼しい顔で華麗に波を乗りこなしていた。

「ん。なるほど、こうして平衡を保つのか」

「す、すごいわルナさん、あっという間にコツを掴むなんて! 島の人間でもそこまで乗りこなすのは難しいのに……!」

「ふおおおお……!」

 一方、ティトはふらふらしつつも、しっぽでバランスを取りながらどうにか波に乗っている。

「ううっ、難しいですっ……でも、だんだん慣れてきました!」

「すごいじゃない、ティト!」

「えへへ、ルナさんみたいにはいきませんが――わわわ、ぷぁっ!? はわわわ……!」

 体勢を崩して海に落下したティトを、ジゼルが波で身体を包み込むようにして、優しく海竜の上に戻してやる。

「はあ、はあ……ふわぁ、難しい……でも、とっても楽しいです!」

「むぅ~、私ももう一回挑戦するわ! ジゼル、お願い!」

「ええ、いくわよ!」

 レクシアもめげずに何度も練習し、板に腹ばいになった状態ならば乗りこなせるようになった。

「やったわ! 私、波に乗れてる! 最高に乗れてるわーっ!」

「とっても上手よ、レクシアさん!」

「キュイ、キュィィ~!」

 ジゼルが波を起こし、海竜たちもレクシアたちに併走するようにして泳ぐ。

「んー、気持ちいいっ! 最っ高に楽しいわ!」

「水が透き通っているから、爽快感があるな」

「さっき、お魚の群れがいました! 色とりどりで、とっても綺麗でした!」

 南の海に明るい笑い声が弾ける。

「ふう、なかなかいい運動になったな」

「少し休憩しましょうか」

「そうね!」

 青く澄んだ海、海竜の背に仰向けになってぼんやりと海を漂う。

「はあ、幸せ……こうしてると、慌ただしい日常が嘘みたいね」

「世界には、こんなに綺麗な光景があるんだな……裏社会にいては見られなかった景色だ」

「ずっとこうしていたいです~……」

 ちゃぷちゃぷと心地良い波音と共に、豊かで穏やかな時間が流れる。

 旅立ち以来、国の危機を救い続けて来た三人にとって、ご褒美のような体験であった。

「ずっと南の島に憧れてたけど、こんなに良いところだなんて! それもこれもジゼルのおかげだわ、ありがとう!」

「ふふふ。楽しんでもらえているみたいで良かったわ」

 リラックスしている三人を見て、ジゼルが優しく微笑む。

 そんなジゼルの周囲には、いつの間にか小鳥のような魔物が集まっていた。

「ピィ、ピィ」

「ん……待っててね」

 ジゼルが木の実を取り出すと、小鳥たちがジゼルの肩に乗って、木の実を啄み始めた。

「ジゼル、その子たちにとっても好かれてるのね!」

「あれ? その鳥さんたちって、確かとっても警戒心が強い魔物だったような……?」

「ええ。最初は警戒されていたけれど、毎日話しかけて仲良くなったのよ」

「警戒心の強い魔物の心さえ開くとは……ジゼルがいれば、無用な戦いも減りそうだな」

「他の人にはない、特別な力ですね!」

 木の実を食べ終えた小鳥が、嬉しそうにくるくると上空で円を描く。

 ティトはそれを楽しげに視線で追い、ふと島に目を移した。

「それにしても、ハルワ島は本当に自然が豊かなんですね!」

 沖からは島の全景がよく見えた。

 青い海に浮かぶ島には、ほぼ手つかずの森がいくつも茂り、古代から続く自然を色濃く残している。

 レクシアは島の中央に聳える山を指さした。

「あの山もすごく神秘的ね!」

「……あれはアウレア山よ。島の人たちに恐れ敬われている、神秘の山なの」

 岩肌が剥き出しになったその山は、橙色に燃え立つような威容を誇り、島の中央にどっしりと鎮座していた。

「赤くて不思議な山ですね。あの山だけ全然植物が生えていません」

「ええ。どんなに種を植えても、なぜか草木が根付かないの。だから【死の山】とも言われているわ」

 ルナが首を傾げる。

「ん? アウレア山の西側に見える、あの密林は……? 何やら異様な雰囲気が漂っているが……」

 ルナの言う通り、アウレア山の麓に黒々とした森が存在していた。

 他の森とは違い、遠くから見ても分かるほどどんよりと重たげな雰囲気を漂わせている。

「あそこは凶暴な魔物が跋扈する危険地帯よ。人間を見ると見境なく襲いかかってくるの。古代の遺跡が眠っているという話も聞いたことがあるけれど、今はもう危険すぎて、誰も足を踏み入れることができなくて……近付かない方がいいわ」

「古代の遺跡!? なんだかすっごくわくわくする響きだわ!」

「話を聞いていたか、レクシア。危険だから近付くなよ」

「分かってるわよ、でも密林に遺跡なんてロマンじゃない?」

 賑やかなやりとりにジゼルが笑い、島に目を馳せる。

「この島の人たちはあまり裕福ではないけれど、自然を敬い、助け合いながら暮らしてきたの。……ただ近頃は、帝国主義の国々がこの島を狙っているという噂もあるわ。観光用に開発したり、王侯貴族の保養地にしたりと、水面下で色々な話が出ているみたい。今はなんとか退けているけれど、この島には抗えるだけの資金力も軍事力もないし、時間の問題かもしれないわ……」

「そんな……もし他国の手が入ったら、きっとこの美しさは失われちゃうわ」

「身勝手な話だな」

「島の人たちのためにも、ハルワ島はこの姿のまま残ってほしいです……」

 沈んでしまった空気を変えるように、ジゼルは微笑んだ。

「ごめんなさい、ただの噂話よ。さあ、そろそろ陸に戻りましょう」

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