第三章 放送番組を作ろう その2

 アイーシャを拾って会議室に到着すると、すでに召集した全員が集まっていた。

 部屋の中央に設置された円卓には宰相のハクヤ、義妹のトモエちゃん、歌姫のジュナさん、そしてポンチョ・イシヅカ・パナコッタが座っていた。いまは別件で忙しい近衛騎士団長ルドウィンと、ハクヤに宰相職を譲り、いまは侍中として王城内のことを取り仕切っているマルクスを除けば、あの人材集めのときのメンバーが揃っていることになる。

「陛下」

「座っていてくれ。呼びつけたのはこっちだ」

 みんなが立ち上がろうとするのを手で制し、俺たちも席に着いた。ただアイーシャだけは、なにかあったとき咄嗟に動けるようにと、俺の後ろに控えた。正直、気になってしょうがないから席に着くよう言ったのだけど、頑として聞き入れてくれなかった。主の命には従うんじゃなかったのか?……まあそれはともかくとしてだ。

「みんな、良く来てくれた。心から礼を言う」

「そそそんな!めめめっそうもございませんです!」

「陛下、そう簡単に頭を下げられますな」

 慌てるポンチョの隣で、ハクヤが渋い顔をしていた。

「上に立つ者がへりくだれば、陛下を軽んずる者が出てくるかもしれません」

「偉そうにしてないと保てない威厳なんていらないさ。それに、ここにいるみんなのことは臣下・国民というより、仲間だと思っているからな」

「もったいないお言葉です。陛下」

 ジュナさんが柔らかくお辞儀した。ジュナさんのこういう仕草は本当に絵になるな。逆にトモエちゃんは緊張しきりでガチガチになっていた。あのとき着ていた服はボロボロだったけど、いまはミニスカの巫女服のような、妖狼族の民族服を着ていた。

「わ、私も王様のお仲間、なのでしょうか?」

「いやいやトモエちゃんは俺の義妹だろ」

「あ、そうでした」

「うん。だから俺のことは王様などではなく、『ソーマにい』と呼んでくれ」

「あ、ずるい!じゃあ私のことは『お姉ちゃん』って呼んで!」

「えっと……(上目遣いで)ソーマにぃ。リーシアおねえちゃん」

「「 よしっ! 」」

 可愛いトモエちゃんの仕草に、ガッツポーズをした俺とリーシアだったけど、

 スパン!スパン!

 頭にハリセンが叩き込まれた。叩いたのはハクヤだった。

「お二人とも話が進まないのでいい加減にしてください」

「「 ごめんなさい…… 」」

 平謝りする俺たち。ちなみにこのハリセンはハクヤの宰相就任時に、『俺の行動が目に余るようだったら、遠慮せずこれで頭を叩け』と渡したものだった。なにかと堅苦しいハクヤを和ませようとした、小粋なジョークのつもりだったのだけど、さすが(マルクス曰く)エルフリーデン史上類を見ないほどの俊英、ハリセンを見事に使いこなしていた。

「王の頭を家臣が引っぱたくのは威厳的にどうなんだ?」

「私も心苦しいのですが、これも〝王命〟でございますので」

 ハクヤは涼しい顔でしれっと言ってのけた。

「それよりも陛下。この招集の意味を皆様にご説明いたしませんと」

「ああ、そうだったな……ポンチョ」

「は、はいぃ!」

 急に話を振られ、あの小太りのポンチョが椅子を倒す勢いで立ち上がった。あのまん丸ボディは相変わらずだけど、先日の謁見のときにくらべて全体的に日焼けしていた。

「頼んでいたものは用意できたのか?」

「は、はい!陛下のご協力もあり、八年掛けて回った場所を、二週間ほどで回ることができました」

「協力って……なにかしてたの?」

 リーシアに訝しげに見られた。

「各国に話を通すのと、移動手段として王家所有の行幸用飛竜ワイバーンを貸したことだな」

 行幸用飛竜ワイバーンは国王が外遊するときに用いられる、禁軍には数匹しかいない飛竜ワイバーンたちだった。ポンチョの用事にはどうしても高速移動手段が必要だったので、その飛竜ワイバーンを貸し出したのだ。飛竜ワイバーンのほとんどは空軍が所有しているのだけど、大将のカストールが協力的でない状況では、貸せと要請しても無駄だろうからな。……本当にめんどくさい。

「さてと、それじゃあポンチョ、集めてきたモノを見せてもらおうか」

「は、はい!この中に、陛下ご注文の『この国では食べる習慣のない食材』が入ってございますです、ハイ!」

 そう言ってポンチョは大きな袋を取り出した。

 その袋を見てリーシアが目を見開いた。

「それ、王家の至宝『勇者のズダ袋』じゃない!」

「ああ。見た目に依らず大量に物が詰め込めて、その上、入れた食べ物が腐りにくいって便利な袋らしいからな。食材集めにちょうど良いと思って貸した」

「だからって……あーもういいわ」

 リーシアは諦めたように肩を落とした。

「それでなに?食べる習慣のない食材?」

「正確には『他国や自国の一部地域では食べられているのに、この国では一般的に食べる習慣のない食材』だな」

 所変われば品変わり、人が変われば好みも変わる。

 他所では食べられないと捨てられるモノが、ある地方では珍味としてありがたがられているなんて話は良く聞く。日本だって、地方に行けば「え、そんなモノ食べるの!」と驚くことが多々ある。それこそケン○ンSHOWなんて番組が作られるほどに。

「いま、我が国では綿花・お茶・煙草などの商品作物から、食用作物への植え替えを行っている。しかしその効果がでるのは少なくとも秋以降だ。それまで国民が飢えないためにも、即効性のある対策が必要なんだ」

 食料問題の根本的な解決を行うには、長期に渡り本腰を入れた改革が必要だ。

 しかしその間にも飢える者は出てくるし、このままでは餓死者が出る恐れがある。しかも真っ先に死ぬのは生命力が乏しく、それでいて栄養を一番必要としている乳幼児たちだ。子供は国の宝。餓死させるわけにはいかない。かといって、王国中の飢える者たちに食料を届けようと思っても、国の支援だけでは手に負えない部分がある。だからこそ、中長期的な戦略と同時に、短期的で即効性のある対策が必要となってくるのだ。

「それが食べる習慣のない食材?」

「他国では食べられているのに、この国には食べる習慣がない。そんな食材を食べる習慣をつければ飢えにくくなる。単純に食べ物が増えるわけだしな」

「そんな都合の良いモノがあるの?」

「それを確かめるのさ。……さて、それじゃあ場所を移動しようか」

「移動?どこに?」

 首をかしげるリーシアに俺は笑いながら言った。

「食材が使えるかどうか判別するんだ。食堂に決まってるだろ」



「ねぇソーマ。食堂を使うのは分かるんだけど……人が多すぎない?」

 リーシアの指摘どおり、いまの食堂はいつもと違う喧噪に包まれていた。

 城内で働く衛士や侍従メイドたちが(最近では王様も)利用する食堂には、大人数が問題なく食事できるように、三十以上の長テーブルが設置されている。しかし現在では長テーブル一つを除いて全部撤去し、広いスペースを確保していた。にもかかわらず、いまの食堂は人や機材などでいっぱいで、フリースペースは長テーブル周辺の僅かしかない。

 とりわけ部屋に浮かんだどでかい水晶玉が、場を圧迫している。

「また『玉音放送』を使うの?」

「こんな便利なものを、宣戦布告の読み上げとかにしか使わなかったなんて、もったいなさ過ぎだよ。どんどん活用していかないと」

 この玉音放送は実際、テレビのような代物なのだ。国民にいち早く重要な情報を発信することができるし、娯楽番組を放送すれば国民の支持も得られるだろう。難点は録画技術がないから常に生放送になってしまうことと、映像は大きめの町以上ではないと見ることができない(音声だけならどんな田舎の村でも聞くことができるらしい)ということか。こればかりは技術(魔法?)の進歩を待つしかないだろう。

 ちなみにその娯楽番組だけど、まずは「のど自慢」から始めようと思っている。すでにジュナさんが働いている歌声喫茶を通じて、先の才人集めのときに「歌の才」で集まった人たちに声をかけ、歌手やアイドルとしてデビューさせる準備を進めている。

 エルフリーデン初の公共放送かぁ……夢が広がるな。

「なにニヤニヤしてんのよ。気持ち悪いわよ?」

 捕らぬ狸な未来を想像していたら、リーシアに白い目で見られた。

「ごほんっ。……今回の企画は、この国では食べる習慣が無いものを、食べる習慣を付けよう、って趣旨だからな。国民への広報も同時にやったほうが効率的だろ。そのためにわざわざ、綺麗どころにも来てもらったんだしな」

「ジュナさんとか?」

「リーシアもだよ。それにアイーシャやトモエちゃんもね。視聴率をとるABCはアニマル・美人ビユーテイ子供チヤイルドっていうし、正統派美少女のリーシア、少女でありながら大人の魅力を持つジュナさん、褐色肌が健康的なアイーシャ、アニマル耳であり美人でありチャイルドでもあるトモエちゃん。これだけの逸材が揃ってるんだから国民の視線は釘付けだろ」

「わ、私も……」

 リーシアは顔を真っ赤にしていた。他の三人はと言うと、

「光栄でございます、陛下」

「はっ!陛下のご期待に添えるよう精進いたします!」

「ひゃい!が、がんばります」

 と、それぞれやる気を見せてくれていた。その間にも、ハクヤはテキパキと放送の準備を進めていたし、ポンチョはあたふたしながらも食材の確認を行っていた。こうしてみると良い人材が揃ってきた気がする。もちろん、まだまだ欲しいけどね。

 俺はみんなに向かって号令を出した。

「それじゃあ、オンエアはじめようか」

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