プロローグ

 地球ではない何処か遠い世界で。


 少年は知っていた。

 腐りきったこの世に救いなどない。

 強い者が搾取し、弱い者が搾取される。

 それがこの世界の不条理なルールだと。

 残飯を漁り、物乞いをして、暴力を振るわれ、犯罪の片棒を担がされる毎日。

 奴隷のように酷使され続け、少年の精神はとっくにすり減っていた。

 だが、それでも少年は渇望せずにはいられなかった。生きたい。生きて殺さなければならない男がいる。そのためなら泥水だってすすってみせる。

 そんな願いに縋って――。


 薄暗い小屋の中。

 窓から入り込む朝日が薄っすらと室内を照らしている。

 小屋の中には錆びた鉄のような臭いが充満していた。

 死体が転がり、血で濡れている床、部屋の隅に一つの袋が置かれている。

 そう、ちょうど小さな子供が入りそうな――。

「んー! ん、んんー!」

 袋がもぞもぞと動いて、中からくぐもった声が聞こえてきた。

 胸の動悸が治まらない。

 身体を震わせてじっと息を殺すと、少年は袋に近づいておそるおそる紐をほどいた。

 するすると音をたてて袋の口が開放される。果たして、そこにいたのは神官服に似た美しいドレスを着た実に可愛らしい女の子だった。

 薄紫色のゆるやかな長い髪に、紫の瞳をした幼い少女。

 ――ああ、やっぱり。

 少年は知っていたのだ。

 こんな世界に――。

 救いはないと。

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