■3──一九三九年四月。四月の雪と、いつか見た花。4

──。

 それからしばらくして。

「まあ要するにだ。俺たちはな、お前のことが心配だったんだよ」

 二人してレンカを尾行していたことのてんまつを一通り話し終えると、特に悪びれもせず堂々とそう言ってカイはうんうん、と自分の言ったことに大きくうなずいてみせた。

「でもなぁ、この状況は流石さすがに意外だったぜ。お前がまさかあの『聖女』とこんなところでしっぽりよろしくやってるなんてな」

「そんなんじゃない。ただ話し相手をしてやってるだけだ」

「えー、よろしくやってるじゃん」

 意味が分かってなさそうな顔でそう言うづきに、カイはというとそそくさと向き直るや、まるでじよくんを受ける騎士みたいに妙にこなれた様子でひざまずいてみせる。

「ああ、申し遅れました。俺──いや、私はこいつの超超超大親友のカイと言います。以後私とも深ぁーいお付き合いを」

「バカ言ってるんじゃないの」

 そんな彼の頭を軽く小突きながら、代わってづきに向かってぺこりと頭を下げたのはシャル。

「……ごめんなさい、ええと、『聖女さま』。私たち、本当に悪気はなかったんだけど──びっくりさせちゃいました」

 そう言って謝る彼女を前に、「どうしていいのか分からない」といった顔でレンカに助けを求める視線を送るづき

「あんたの思った通りにしなよ」

 と、それだけレンカが告げると──彼女は少し緊張した面持ちでシャルを見返し、彼女の手をぎゅっと握った。

「……あの、こっちこそ、ごめんね。急に攻撃しちゃって。……とかなかった?」

「え、あ、はい、大丈夫です……」

「よかった」

 ほっとしたように笑うと、づきはシャルに向かって静かに続ける。

づき

「え?」

「『聖女さま』じゃなくて、づきっていうの。私の名前。レンレンがつけてくれたんだ。……貴方あなたは、レンレンの仲間?」

 やや唐突なそんな彼女の問いに、シャルは少し戸惑いながらもしっかりとうなずく。

「……はい」

「なら、その、えっと。もしもよかったら、なんだけど。私の──話し相手に、なってくれないかな」

「ええ!?」

 これまたいきなりのその申し出に、シャルは驚いた様子で声を上げてレンカの方を見る。

 好きにしてくれ、と目配せすると、彼女は何やら決心した様子でうなずいて、づきの手を握り返した。

「私でよかったら、是非。ええと……づきちゃんで、いいかな」

「……うん! えっと、貴方あなたは、」

「シャル。私のことは、シャルって呼んで」

「俺のことはカイでいいですよ、づきさん」

「あんたは入ってこなくていーの!」

 やいのやいのと目の前で漫才を始める二人を前に、づきはぽかんとして──それから耐えきれないといった風に、吹き出して笑う。

「……あはは! よろしくね、ふたりとも!」


 ──その日から廃教会は少しだけ、前よりもにぎやかに、騒がしくなった。




◆現在。一九四三年二月十二日十二時二十八分、レニンベルクきゆうじよう公園にて。


「それにしても、だとしたら少し、不思議です」

 市街地外れに位置する、小高い丘の上。

 かつては公園があったのであろう。見晴らしもよく、街全体を一望できる展望台にはいくつかの遊具と、そして木製のベンチが置かれていた。

 そのうちのひとつ、比較的傷みの少ないものを選んで座りながら──そうつぶやいた私。

 そんな私に、しかし火傷やけど痕の軍人は驚いた様子もなく、ただわずかに右の眉を上げて口を開いた。

「不思議、というと」

 促すようなその返事に、私は思ったまま、言葉を続ける。

貴方あなたの話では──『聖女』は実際に、たった一人で戦況をくつがえすほどのとてつもない力を持っていたんですよね。だったらどうして、この街は……こんな風になってしまったんですか。『聖女』がいれば、負けるはずがなかったんじゃ?」

 そんな私の質問に、なぜか軍人は、わずかに──ほんのわずかに口元をゆがめる。

 それは笑みのようでもあったし、何かを耐えているようであったかもしれない。

「おっしゃる通りです。そう、『聖女』がいる限りは、私たちは決して、負けなかったでしょう。この街も、こんなふうに破壊されずに済んだかもしれない」

 そう言いながら眼下に広がるはいきよの街並みをいちべつした後、彼は私に向き直って続ける。

「いや、それだけでしょうか。もしも『聖女』なんてものがいたのであれば、この戦争はもっと違った形になっていたのでは? ……そうは思いませんか、記者さん」

「違った、形……」

 諮問めいたその問いかけの意図がつかみきれず、黙考する私。そんな私をできの悪い生徒でも見守るように見つめて、やがて彼は続けた。

「ここレヴァン平原での戦闘でも、『聖女』はその圧倒的な力で帝政圏の防衛戦力を無力化してしまった。ここ以外でも、『聖女』がたった一人で機甲師団をひとつ丸ごと灰にした……なんて冗談みたいな話もあります。そんな馬鹿げた戦力を誇る『聖女』が何人もいて、実際に戦っていたという目撃情報は多数あって──。おかしなことだとは思いませんか?」

「……どういう、ことですか?」

 さっぱり分からないままに彼を見返すと、彼は再びこちらに背を向けて、街をへいげいしたまま続ける。

「『彼女たちは、どこに行ったんだろう』。そう、貴方あなたは最初におっしゃいましたよね。その疑問に対するひとつの答えが、それです。『聖女』と呼ばれる彼女たちには──があった。……だから彼女たちは、あの戦場という名の舞台から姿を消したのですよ」

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