第二夜 その4

 自分の性格くらい自覚はしている。中学からへんりんはあったが、1年前、兄さんがくなってからこういうひねくれた考え方が加速した。

ぼくはね、こういう悪い性格だから友達がいないんだよ。それくらい自分で分かっているよ」

「ううん。悪いなんて言ってないよ。そんな悪びれたこと言いながらも、周りのことをよく考えているくせになおになれないところがめんどうくさいって言ってるだけ。君はツンデレですか」

「なんだって……?」

「君は周りのことを気にけられるやさしい人だよ。だって、屋上でカツアゲされたのくろもとくんだって当ててたよね? だれがイジメっ子とか、だれがイジメられっ子とか、周りに興味ないならそんなの知らないでしょ? いつも周りを気にけているしようだよ。自己満足だけでそんなことしないって。君は悪い人なんかじゃない。むしろいい人だよ」

「別にそんなことは……」

 急にずかしくなって来たぼくは、死神のぐな視線から目をらした。

 成績以外のことをだれかにめられるのっていつりだろう。

「……つーか、何でさっきからずっと笑ってるんだよ」

 死神はぼくの顔を見てニヤニヤしている。ひょっとしてぼくのことをからかっているのだろうか。

「君ががおになってくれたからだよ」

「え?」

「手紙の内容を考えている時とか、手紙をくつばこに入れることが出来た時とか、君、笑ってたよね? さっき私から作戦がく行ったって聞いた時もうれしそうに笑ってたし」

「…………」

 反論は出来なかった。

 悪友とイタズラの計画を立てているようなそんな楽しさだった。計画がく行ったことを聞いた時、確かに笑ってしまった。

 ぼくは楽しいと思ったのだ。

「君、私と出会ってから初めて笑ったね。久しぶりだったんじゃない? 笑うの」

 死神の言う通りだった。

 ぼくは久しぶりに心の底から笑った。あいわらいくらいならいくらでもして来たが、楽しくて笑ったのは本当に久しぶりだった。

 久しぶりにドキドキした。

「私もこれで仕事をちゃんと出来た気がするよ。君が死ぬまでに君をがおにすることが出来た。未練、1個解消出来たんじゃない?」

 未練が解消出来たかと言われるとみようだが、死ぬ前に笑える経験が出来たのは確かだった。死神と協力して人助けをしたことで、うつくつしていた日常に少し明るさがもどった気がした。

 ただ、一つなつとく出来ていないことがある。

「……あれはやっぱないな」

「何のこと?」

「名前だよ、名前。お前に最後に書かされたあれだよ」

「ええー? いいじゃん、あれ。ヒーローっぽくて良くなかった?」

 ヒーローねえ……。

 きようはく文の最後の一行。

 ぼくとくめいにしようとしたのだが、死神は差出人の名前を書くように要求して来た。


『──正義の死神参上』


 そうデカデカと書かされたのである。

「うん、やっぱダサいよあれは」

「え!? 何でよ!? ダサくないし! カッコイイじゃん!」

「小学生のセンスかよ」

「いやいや、どこが!?」

 不服そうにほおふくらます死神を見て、ぼくはまた笑ってしまっていた。

「そう言えばさ」

「ん? なに、なに?」

「お前、名前なんて言うんだ?」

「名前?」

 ぼくからの質問を聞いて、死神はまどった表情をかべている。

「ああ。死神っていっても名前くらいはあるだろ?」

「私の名前……? 私の名前は……」

 どうしたのだろう。みように歯切れが悪い。

「あっ! 待って、待って! 私、言ったよね!? 君は私に質問しちゃダメって! もう忘れたの!? 死神のルールだよ! 死神のじつかいの一つだよ!」

「……いや、増えてるよな? 昼間は七つの大罪って言ってたよな?」

「へ!? お、男の子が細かいこと気にしないの! ともかく死神のルールで言っちゃダメなの! 分かった!?」

 都合よく死神のルールを出して来ているとしか思えないが、まあ言いたくないなら別に答えなくていい。聞いたところでどうせぼくは後6日の命だ。だから、この子の名前を知ったところで意味なんてない。

 そうは思うのだが。

 かのじよの名前が気になってしまう自分が心の内には存在した。


 じゆく終わりなので今日の帰宅も夜になった。

 昨日とはちがい、寄り道はせずぐ帰った。

 自分の考えた作戦のおかげで人助けに成功したからか、帰り道の死神のテンションは高かった。ずっと鼻歌交じりで付いて来るのだ。みようおんなのがまた鼻につく。

 ただ、ぼくの方も結構げんが良かったりもする。一人だったらぼくも軽く鼻歌を歌ってしまっていたかもしれない。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 いつも通り母さんがむかえてくれた。今朝と変わりなく死神の存在は完全にスルーしている。

「ただいまー、ハナー」

 リビングに入ると、死神がソファーでているハナにり、手をった。当然、見えていないので母さんと同じように無反応だが。

 いつもならぼくもすぐハナの方に飛びついていただろうが、そうはしなかった。

 なら。

 今日はハナのとなりに父さんがすわっていたからだ。

 仕事が早く終わったようだ。ビールのかんを片手にソファーにすわり、リビングのテレビをている。

 ぼくたちは会話どころか、目を合わせることもなかった。おたがいに「ただいま」も「お帰り」も言わない。

 何も気にならない。

 これがの日常だからだ。

 冷蔵庫の中の冷えたペットボトルの水をコップに注ぎ一気飲みする。

 それだけしてぼくはさっさとリビングを後にした。

「ケンカでもしてるの?」

 そんなぼくたちの様子を見て、死神がたずねて来る。

「……何のこと?」

「お父さんとケンカしてるのかなって」

「別に」

 ぼくは冷たく返す。

「……そう?」

「ああいう人なんだよ。ぼくには何の関心もない冷たい人なのさ」

 ケンカならどれだけいいだろう。

 ケンカは仲のいい者同士がやるものだ。そして、仲直りすることが出来る。ケンカのように分かりやすいものならどうにか出来る。どちらかがあやまるか、自然に元通りになるか。

 だが、そんな簡単なものではない。

 あの人が一方的にぼくに興味をなくしただけのことなのだ。

 兄さんを失い、兄さんの代わりをぼくに求めていた父さん。ぼくが高校受験に失敗した夜、ぼくに失望の言葉をぶつけて来た。

 あれ以来、ぼくと父さんは口をきいていない。

 兄さんが生きていたころは、当たり前のように会話していた。元々、言葉数の多い人ではなかったが、学校のことや友達のこと。ぼくの方から報告することもあれば、向こうからいて来ることもあった。病院の仕事がいそがしいのに、年末年始や長期の休みが取れた時は、ぼくたち家族をよく海外旅行にも連れて行ってくれた。

 ぼくにとっても、兄さんにとっても、いい父親だったと思う。好きかきらいかで言えば好きだった。

 それがどうしてこんな関係になってしまったんだ。

 兄さんを失ってから、父さんは変わってしまった。前はお酒なんて口にしているのを見たこともなかった。段々とぼくたちの会話は減って行き、あの夜の出来事が決定打となった。

 そうだ。元を正せば、全部、あの日からおかしくなってしまったんだ。

 兄さんがバスの事故にまれたあの日。

 兄さんの命だけじゃない。あの事故はぼくから多くの大切なものをうばって行った。

 ぼくと父さんの関係を。

 ぼくの生きる目標を。

「何? どうかしたの?」

 ぼくが死神の顔を見ていると、死神はげんそうな表情を作る。

「……いや、何でも」

「そう? 何かあったらえんりよせずに言ってね」

 死神はそう言ってやさしいみをかべる。

 ──なあ、お前は、どうして兄さんのところに現れなかったんだよ。

 もうすぐ死ぬことが分かっていれば、もしかしたら兄さんはあのバスに乗らなかったかもしれないじゃないか。

 そんなうらごとが出てきそうだったが、グッとんだ。

 この子は言っていた。死の運命は決まっていて死神ではどうにも出来ないのだと。仮にこの子が兄さんの前に現れていても、結果は変わらなかったにちがいない。

 でも、もしも死の運命を変えることが出来たとしたら──。

 2日目の夜は静かに過ぎて行った。

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