[一章]I love you────もう一度、会いに来て

 死は怖くない。ただもう一度だけ、君に会いたい。

 それが、彼女からの手紙を読んだ僕の正直な気持ちだ。

 僕の恋人、づきくなったのは、三週間ほど前のこと。彼女は出ることのかなわなかった高校の卒業式の後、間もなくして息を引き取った。

 もともと入院していて、余命がいくばくもないことはわかっていた。

 お互い、推薦入試で同じ大学に行けると決まって、残りの高校生活をおうしていた去年の十二月末。彼女は自分の体調に異変を感じ、病院での検査の結果、とある病気だと発覚。そのときには既に手遅れで。進行の早いその病は、またたに彼女の命をすり減らしていった。

 そうしてしめやかに彼女の葬儀が終了した後。彼女の母から僕へ、とあるものが届けられた。

 それは、彼女から僕にあてた手紙だった。

 女子がよく友達同士で使う、カラフルで可愛かわいいキャラクターが描かれたやつとかじゃなく。どこまでも素っ気ない、なんのイラストもない真っ白な封筒。飾り気のないところが彼女らしい。

 僕は封を開け、便箋につづられた、彼女の最後の言葉を目で追っていった。


「ユウトへ。あたしが死んだら、あたしの後を追ってほしい」


 出だしから、いきなりそれだ。

 なんの前置きも、えんきよく表現もなくそんなことを書く率直さを彼女らしいと思ったし、これは間違いなく、他の誰でもない彼女が書いたものなんだとわかった。


「あたしが死んだ後も、あんたにはそれでも生きててほしいとか、別の人を好きになって幸せになってほしい、なんて殊勝なコト、あたしはやっぱり言えない。あたしはあんたが、あたし以外の人と幸せになるなんて絶対ヤ。

 どうだわがままでしょ。でも、そんなあたしを好きになったのはあんた。だからあんたの責任。

 それにあんただって、あたしみたいな可愛かわいい彼女が死んじゃったんだから、どうせ死にたいとか考えてるんでしょ。だから、あんたはあたしの後を追うべき」


 他の人が読んだら、びっくりするのだろうか。ひどい女だと思うのだろうか。だが、これこそ間違いなく僕が愛した彼女だ。

 人目を可愛かわいらしい顔立ちと裏腹に、破天荒で変わり者。外見と内面が見事にわない、周囲からは「詐欺」と言われるほどの女。

 僕も最初は、変な女だと思った。一方で、自由で奔放な彼女に、かれていった。

 こんな文章を読んで、「ああ、君の後を追おう」と心の内で返事ができる程度には、かれていた。


「──けど、あんたが死ぬ前に。あたしは、チャンスがあるコトを知ってる。運命をやり直せる可能性があるのを、知ってる」


 彼女のつづった文を追っていた目が、そこで一度止まった。

 チャンスがある? 運命をやり直せる?

 何を言っているんだ、彼女は。いつも突拍子もないことばかり言う人だったけど、今回はまたずいぶんとおかしなことを。


「運命を『リセット』できる。そんな不思議なチカラが、このセカイにはあるんだって」


 ──本当に。

 彼女は、何を、言っているんだ?


「ほんとは死ぬ前に使えればよかったんだけどさー、『リセット』って、一回バッドエンド迎えないと使えないみたいなのね。だから今まで言わんかった。まあ、今言ったからいいっしょ」


 軽いな、おい。そういうところも、彼女らしいけど。


「その力について、詳しいコトを知ってるやつがいる。そいつの居場所だけ教えてあげるから、あんたは『リセット』を行うために必要な『謎』を解いて。そんで、リセットの力を使って、もう一度あたしに会いに来い」


 ドクン、と。

 ずっと動いていたはずなのに、少しも動いている感じのしなかった僕の心臓。久しぶりに、鼓動というものを実感した。

 ──もう一度会いに来い、だと? 馬鹿な。できるわけない。

 人間は死んだら生き返らない。誰もが知っている世界の常識だ。一度死んだ人間とは、二度と会えない。だから僕は彼女に、二度と会えない。

 だけどその言葉の後には、「リセットについて詳しく知っているやつ」について、居場所が書かれていた。名前も、素性も何も書かれておらず、ただ文字で住所が書かれていただけだが。

 どういうことだ。

 ありえない。死んだ人間に会えるはずがない。なのに彼女は僕に、謎を解けと。「リセット」を行えと要求している。

 困惑する僕に構わず、その手紙は、こんな言葉でしめくくられていた。


「それができないなら、あたしの後を追って」

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