Gods Call 神は遊戯に飢えている

 隠れんぼ、という遊戯ゲームをご存じだろうか。

 好きな場所に隠れる「子」と、それを見つける「鬼」の二役で遊ぶ、実に単純明快で、誰でも一度は経験のある遊びである。

 そう、そして。

 この世界には、こうした遊戯ゲームでヒトと勝負したい神々が無数にいるのだ。

 一つ例を紹介しよう──

 はるか太古。隠れんぼの最中に海の底に隠れたきり、最高に愉快でドジな竜神を。

 その神さまが目覚めた時から、きっと、この物語は始まった。


 北の大寒波地域レイアス=ベルト。

 一度として溶けたことのない氷の秘境。ぶあつい氷壁が山のようにそびえ立ち、訪れる冒険者の行く手を阻む。

 その一角で──

 吹きすさぶ吹雪にまじって。

 氷壁を切りだす作業にあたっていた探検チームから、きようがくの声があがった。

「出てきたぞ! 化石じゃない」

「そんな……ここは氷河期の氷の中だってのに!?」

 氷壁から切りだされた巨大な氷塊。

 そこから見つかったのは、恐竜やマンモスの化石────ではなかった。

「ヒトだ、それも少女!?」

「神秘法院に連絡急げ。ああ本部にだ!……どういうことだ。氷河期の地層からなぜ人間が出てくる!?」

 氷壁から見つかったのは、人間。

 それも明らかにまだ十代なかばの少女だった。

「……古代魔法文明の時代の人間でしょうか」

「冗談じゃない! 人間が、どうやってこのマイナス四十六度の氷中で原形を保っていられる。三千年あればマンモスだって化石化するぞ!」

「…………隊長……この子、生きてませんか?」

 横たわる少女は、美しかった。

 鮮やかな炎燈色ヴアーミリオンの長髪は、燃える炎のごとくきらめいて。

 現代人と変わらぬ顔つきと愛らしい目鼻立ち。わずかに朱にそまったほおは、生きているように血色がいい。

 そして一糸まとわぬ裸身。

 きやしやでありながら、少女らしい丸みを帯びた身体からだの起伏もうかがえる。

 もともと服は着ていたが、三千年という時間経過と極寒にさらされて服の繊維がボロボロにほつれていったのだろう。

「……確かに……」

 裸身の少女へ、探索員の一人が予備の防寒コートを上からかけてやる。

「……生きているように私も思えます」

「馬鹿な!? くり返すがここは氷河期からの大寒波地域だぞ。防護服がなければ三十秒で凍死するに決まっ────っっっ!?」

「う、うわっ!?」

 隊長が大きくのけぞり、まわりの部下たちが一斉に声を上げた。

「…………」

 炎燈色ヴアーミリオンの髪の少女が目を開けるなり、勢いよく上半身を起き上がらせたのだ。調査チームの五人を見回して。

『……あー。しまったわ。千年? 二千年? うっかり寝過ごしちゃったかも』

 念話。

 神々の言葉による思念転送テレパシーが、少女から調査チームに向けて発せられた。

『何千年たってるか知らないけど、どうせ言語体系も文法から入れ替わってるだろうし、コッチならわたしの言葉も通じるよね?』

「まさか!?」

「隊長……これ目の前の少女が──」

『そそ。今わたしが話しかけてるの。あ、そっちは普通にしやべっていいよ。それも思念転送テレパシーで解読できるし。へえ。これがこの時代の「服」なのね』

 少女が立ち上がった。

 いかにも好奇心旺盛そうに防寒コートの袖を通しながら、マイナス四十度という極寒の風の中、のんびりとアクビまでしてみせる。

『ふぁ……やっぱり、鬼ごっこで海底に隠れるのは失敗だったわねぇ。斬新な発想かと思ったけど、まさか寝てる間に氷河期が訪れるなんて思わなかったし』

「……君は……何者かね」

 防寒コートを着た隊長が、おそるおそる前に出た。

「私は、神秘法院ルイン支部所属、秘境探索チームの隊長ミシュトランだ。君を、氷の中から救出した。君の身上を確認したい」

『わたし? わたし「元」神さま』

 神を名乗る少女。

 炎燈色ヴアーミリオンの髪が、それに応じたようにふわりとなびく。

『ま、でもそんなのどうでもいいからさ。わたしと遊ぼうよ』

「……なに?」

、この時代にもちゃんとあるんでしょ?』

 クスッと。

 楽しげに笑む少女が、「待ちきれない」と言わんばかりに両手を広げてみせる。

『とりあえず、さ──』

 そして。

 この世界すべてに向けて、神を名乗る少女は宣言した。


『この時代で一番「遊戯ゲーム」のい人間を連れてきて』

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