エピローグ

(なんで、こんなことになったかなぁ……)

 ゆうかい事件から数日後、セシリアはろうを歩きながらため息をついた。

 廊下ですれちがう生徒は、男も女も関係なく、みなこうの目でセシリアのことを見ていた。女生徒はほおを染め、男子生徒からは尊敬としつの入り混じった目を向けられていた。

 それもそのはずだ、なぜかセシリアは単身でハイマートをつぶしたことになっていたのだ。

 本当は生き残ったマーリンがちゃんと組織を解体しただけなのだが、そう発表するわけにもいかない事情があるらしい。国のお偉いさんたちは、ハイマートを『解体』という形ではなく『潰した』という形にしたいらしいのだ。

 それならば演習で潰したことにすれば良いのだが、それも難しかった。

 演習はあくまで演習であり、訓練なのだ。それも新米兵士の演習に実戦を選んだとなれば、それはそれで色々と問題が起こる。

 それぞれのおもわくが重なって、セシルが一人で事を解決したという筋書きが、一番角が立たないという結果になったのだ。

 セシリアとしては、暗殺組織を一人でかいめつに追いやるという筋書きの方が無理がありすぎると思うのだが、そこはセシルのの力により、こうなんか良いように事が進んで、良い感じに収まったという筋書きになった。

 ご都合主義も真っ青なストーリー展開。

 もしかしたら、ようえんが書いた物語よりもおまつかもしれない。

「私は何もしてないのに……」

「でも実際、セシルがマーリンを助けてくれたから、ハイマートは無事潰れたわけだし。いいんじゃない?」

 いつの間にかとなりを歩いていたダンテがそう言い、セシリアは飛びあがった。

「びっくりするから気配を消さないでよ!」

「あはは。ごめん、ごめん」

 ダンテはいつもと変わらない様子で笑う。

 助けに来た時のしんけんさはどこへやら。今ではただの明るくておちゃめな同級生だ。

「結局、ハイマートの人たちってどうなったの? 演習で捕まった人がいたって聞いたけど」

「あぁ。あれは、全員マーリンを裏切ったやつらだよ。元々のメンバーはマーリンといつしよにいるよ。あそこは仲がいいからね」

 ハイマートは元々、てんがいどくになった者たちが仕事をするために集まった組織だったらしい。最初は集団で護衛などの仕事をしていたようなのだが、だいらいを受けて、人買いやあくどい商売をして人を苦しめる者たちを殺す集団になったそうだ。

 なので、立ち上げ当初のメンバーは同じ組織に所属する人間というより、家族という感じが強い。

「というか、マーリンからの申し出、本当に断ってもよかったの?」

「いや、私には荷が重すぎるというか……」

 マーリンはあれから再び組織を立ち上げた。組織といっても立ち上げ初期のメンバーで、少数せいえいおんみつ組織を組んだのだ。そして、その最初の主人にならないかとセシリアはさそわれたのだ。

 少数精鋭といっても十数人が所属する隠密組織をバックにつける。

 それはもうこうしやくれいじようというより、どこかの王家か、世を裏でぎゆうる悪のていおうのようだった。

 しかも、そのしゆわんは折り紙つきである。

 つうならば二つ返事でりようしようするところを、セシリアはていちようにお断りした。

 ぶつそうすぎる、というのがその理由だ。

 セシリアはのんびりのほほんと生きていければいいだけなのである。

 マーリンはしばらくの間しぶっていたらしいのだが、最終的には了承してくれたらしい。

「ちょっと規模の大きなボディガードだと思ってくれればいいのにー」

「大きすぎるでしょ」

 セシリアはすかさずっ込む。まだ悪の帝王にはなりたくない。

 ダンテは不満げにくちびるとがらせた。

「そうかなぁ。ま、恩は必ず返す人だから、もし何かあったらセシル優先で動いてくれるよ。よかったね」

「ははは……」

 から笑いがれる。誰にどう言われようが、そんな大げさなボディガードはいらない。

(万が一、今後キラーが現れることになれば、協力してもらうこともあるかもしれないけど……)

 しかし、それも必要ない気がした。

(みんながいれば何とかなる気がするしね)

 楽観的と言われるかもしれないが、セシリアは本気でそう思っていた。

 彼らに協力をあおぐことがあるとするならば、本当にピンチの時だけだろう。

 セシリアとダンテは並んで歩く。

 食堂に入ったところで、席に座っていたリーンが立ち上がり二人に向かって手を上げた。

「セシル様! ダンテ様!」

 リーンの周りにはギルバートとオスカー、ジェイドに先日リーンのこいびとしようかくしたヒューイの姿もある。今日はみんなで試験勉強をする予定なのだ。

 セシリアはリーンの隣にこしかけた。そして、そっと耳打ちをする。

しやべり方そのままなの?」

「うん! 意外にキマってるでしょ」

「キマってるというか……」

 ほんしようを知っているセシリアからしてみればかんしかない。しかも彼女はセシルの正体を知ってもなお、セシルをモデルにした小説を書いているのだ。当然、セシルがめである。

 彼女いわく、『顔のれいな一見受けっぽい男性がガンガン相手をほんろうするのが好き』なのだそうだ。前世も今世も彼女のことはよくわからない。

 ノートを開きながらギルバートは笑う。

「試験が無事終わったら夏休みだよ。セシル、がんってね」

「が、頑張る!」

「お前は実家に帰るんだよな? 夏休みの間に、ちゃんとセシリアと会わせろよ」

「えぇ!? オスカー、うちに来る気!?」

「お前の家じゃない。セシリアのしきだ」

「そ、そうだよね……」

 セシリアの頰に冷やあせが流れる。

 オスカーはどんかんだが、さすがに今のセシリアの姿を見たら、セシルの正体に気がついてしまうだろう。

「それなら私も行きたいですわ!」

 リーンが半笑いで手を挙げる。このおもしろいイベントに乗らない手はないと思ったのかもしれない。

「オスカーが行くなら俺も!」

「リーンが行くなら」

こうしやくていって一度行ってみたかったんだよね」

 ダンテ、ヒューイ、ジェイドの順に手が上がる。

 セシリアの顔は青くなった。このままではゆうにのんびりと過ごす予定だった夏休みがなくなってしまう。

 なんとかこのかくを止められないかと、セシリアは考えをめぐらせる。

 しかし、セシリアとギルバート以外のメンバーはどうやってセシリアの屋敷に行くかで盛り上がっていた。こうなれば、もう絶望的だ。

「このままじゃ、せっかくの夏休みが……」

「ま、その前にセシルは試験勉強なんとかしないとね」

「え?」

 ギルバートの声にセシリアは顔を上げた。

「そこ、問いの④以外、全部ちがっているよ」

「えぇ! 本当に!?」

「本当に」

 とりあえず、夏休みのことは夏休みに考えるしかないらしい。

 セシリアはペンのしりで頭をいた。

 もうすぐ困難が山積みの、楽しい楽しい夏休みが来る。

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