春夏秋冬代行者 春の舞《上》

第二章 冬の代行者 寒椿狼星 ①

──夢だ。


 ハッハッハッ。


──夢を見ている。息が苦しい。


 ハッハッハッハッ。


──夢の中なのに、息が出来ないほど苦しい。


 雪原が広がっている。揺れる視界。足元がおぼつかない。


ろうせい!』


──いてちようが叫んでる。


 鬼気迫った声に、不安感が止められない。


──走るのをめてしまいたい。


ろうせい! 頑張れ! 走れ!』


──わかってる。


 夢の中の自分の喉がひゅうひゅうと鳴った。


──喉が潰れても走れ。


「殺されるぞ……!」


──肺が潰れても走れ。


 走るのをやめたらおわりだぞ。

『回れ、回れ、先回りしろ! 冬の代行者は少年だ! 少年を殺せ!』

 男達が狩りでもするように後ろから追いかけてきた。

 簡単に人を殺そうとしている。での命の価値はひどく軽い。

──何かを、いや誰かを忘れている。

 認識した途端、胸が苦しくなった。そこで思い出す。

──そうだ■■だ。

『走れ! ろうせい!』

──わかっている。もっと走らなければ、失う。

 いてちように抱えられている少女に視線を注いだ。

 確認したいのに、雪が、凍える寒さが、自分がもたらしたすべてが、邪魔をする。

──顔が見たい。

 夢の中だというのに身体からだは思うように動かなかった。

 恐怖ですべてが縛られて、走ること以外うまく出来ない。

──■■の顔を見たい。

『……危ないっ!』

 その時、パァンと銃声がした。

 と、同時に突き飛ばされる。視界が回って、何が起こったのかすぐには理解出来なかった。

『■■様を……!』

 自分がかばわれたと気づいて動揺が走る。

 突き飛ばされた背中が痛い。

『いって! はやく!』

──さくら、お前は俺を守らなくていい、やめろ。

 夢の中の出来事はいつも通り展開する。もう何千と見ているが違ったことはない。

──こんなのは嫌だ。こんなのは嫌だ。こんなのは嫌だ。

『さくらぁ……!』

 いてちように抱かれている■■が泣き叫んだ。

──頭がおかしくなりそうだ。どうしてこんなことになったんだ。

 少し前まで、ただ楽しくしやべってた。

 知らないやつらに壊された日常が、取り返しがつかないほど壊れていく。

 何が楽しくてこんなことをするんだ。こっちが何をしたって言うんだ。

 おかしいだろう。こんな侵害を受けるほどのこと、何を。

 嗚呼ああ、それより、それよりもだ。


 どうして誰も言わないんだ?




──あの時俺が死ねば良かったのに。誰もそのことを口にしなかったんだろう?

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