序章 VR×リアル

 人間は何かにつけて飽きやすい生き物である。流行は瞬く間に風化し、人気だったコンテンツもすぐに廃れてしまう。

 御多分にもれずゲーム業界においても「フルダイブRPGがすごい!」、「最高のVRエンターテインメント!」なんて言われていたのは一昔前の話であり、かつてプレイヤーを熱狂させた『剣と魔法の脳内ファンタジー』は今では「テンプレ」とされていた。

 ユーザーは次々に違った趣向を求め、メーカーはそれに応えようと必死で新しいVR世界を構築していった。『近未来』、『遠未来』、『西部劇』、『宇宙人と戦う』、『地底人と戦う』、『恐竜と戦う』等々。ホームランやヒットもあればゲッツーもあった。

 だが、やがて限界はやってくる。ありとあらゆる世界観は出尽くし、絞り尽くされた。それでもメーカーは売れるVRソフトを開発しなければならなかった。

 そんな折、老舗VRソフトメーカー『シュクエニ』が、今までとは異なる視点から新たなるフルダイブRPGを創造した。

 ……超高速汎用人工知能『アールエヴォ』を搭載し、現実の人間とまるで相違ない反応をするNPC。

 ……従来のフルダイブRPGでは意図的に排除されていたプレイヤーの五感の再現。

 ……フラグ分岐は10の52乗であるごうしやを超えると言われるフリーシナリオシステム。

 つまり世界観ではなく、フルダイブRPGにおける『リアルさ』を究極まで追求したのだ。舞台はあえて、相変わらずの剣と魔法の中世ファンタジー世界であったが、徹底したリアリズムと自由度を表現したそのゲームは、発売前、発売直後と絶大なる反響を呼んだ。


 しかし、発売から一週間って売り上げは激減した。


 なぜか。やはりゲームはゲームらしくあるべきだったのだ。2DのテレビゲームにしてもVRゲームにしても、人間がゲームをするのはその大部分が息抜きのためであり、また現実からのちょっとした逃避である。リアルを追求しすぎたシナリオシステムはプレイヤーにとって難解の極みとなり、また、リアルな反応を返してくるNPCはただただ面倒くさかった。

 要はフルダイブRPGに現実さながらの苦悩や苦労などはいらなかったのだ。故に、最先端のAI技術とVR技術を応用して開発された新感覚フルダイブRPGは、プレイヤーからの支持を全く得られなかったのであった。

『高度に発達したVRゲームは面白くない』──以上を結論すると、とどのつまり、こういうことになるだろう。ちなみにそれ以後、『シュクエニ』はゲームとしてのエンターテインメント性を大切にした従来通りで当たり障りの無いVRゲーム制作へと回帰した。こうしてVRゲームは全盛期の人気を無くしながら、それでも完全に廃れることなく、家庭内4D遊具としての位置を保っていったのである。

 そして……これから始まるストーリーは、その問題のフルダイブRPG発売から更に十年が経過した2065年の話である。

このエピソードをシェアする

  • ツイートする
  • シェアする
  • 友達に教える

関連書籍

  • 究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら

    究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら

    土日月/よう太

  • 究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 2

    究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 2

    土日月/よう太

  • 究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 3

    究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 3

    土日月/よう太

    BookWalkerで購入する
    Amazonで購入する
Close