Day.1 女子高生、はじめてのおてつだい

第十二話 作家と読者と君のヒーロー(1/2)

 まつくんとただ連絡を取るだけでいいのなら、方法は百個くらい思いついた。ごめん、うそ。クセになってんだ、大げさにして話すの。本当は十個くらい。

 たとえば、ファンレターに書かれてある住所にまた返信を送ってみる。あるいは、その児童養護施設まで足を運んで話をさせてもらう。

 そんな比較的現実味のあるアイデアも含むシナリオの中で、僕が選んだのはどちらかと言えば、最悪のヤツ。

 冷静に、まともに、社会的に考えたら、僕がこれからやろうとしていることは間違っている。

 だけど、僕は全然冷静じゃなかったし、むしろそれをどこか喜んでいる節さえあった。血がたぎるっていうか。上等だ。誰に対してけんを売っているのかわからないけど、僕はそう繰り返した。上等だ。やってやるです。絶対! 運命! 黙示録! 世界を革命する力を!

 心はもうぶれない。

 がっちりきっちり定まっている。

 ああ、念のために言っておくけど、法律やルールを破っていいと言っているわけじゃない。好き勝手にやれって意味じゃない。人様に迷惑をかけて、知らん顔をしていろってことでもない。

 ただ、今の僕が一番に考えなくちゃいけないことは、そのどれでもなかった。

 僕の気持ちを、本気を、まつくんに届けなくちゃいけない。

 だったら、それを可能にする一番勝率のいい方法を選ぶのは必然。

 なにより、一番〝熱い〟と確信したシナリオを思いついてしまったのなら、それを実行せずにいられないのが僕ら作家という生き物だ。

 部屋を出る時、ふと思い立って、隅に固められていた三角コーンやダンベルとかのガラクタの山から一つを手に取った。

 かつて、僕の書いた主人公はそれを使ってヒロインにおもいを伝えた。

 魔王の弱点たる聖剣ではないけれど、これが僕の〝約束された勝利の剣エクスカリバー〟。

 コートのポケットには、大切な二通のファンレターがすっぽりと収まっている。

 駅に向かう道すがら、スマホで電話をかけた。

 幸い、すぐに電話に出てくれた。

「ほいほい、ホヅせんせー。こんにちは! どしたの?」

 今日も能天気に挨拶してくるのは、僕の仕事のもう一人のパートナー。

 僕は彼女に聞きたいことがあった。

「ああ、ポンコツ。よかった、すぐに出てくれて」

「ポンコツ、言うなし。って、あ、そうそう。わたしからも連絡しようと思ってたところだったんだった。ちょうどよかったー。ホヅせんせー、重版、おめでとうございますー!!」

 やったー、とポンコツちゃんは自分のことのように喜んでくれた。

 クラッカーとか持ってたら、盛大に鳴らしそうだなあ、なんて思っていると、スマホのむこうから、突然、パンパンパンと破裂音が連続で聞こえてきた。

 あれー、ポンコツちゃんの部屋の近くで今日は運動会でも行われてるのかな? なんて、そんな定番なボケはしません。しからず。どぞ。

「わわ、びっくりしたあ。これ、結構、音が大きいのね」

「どうしてクラッカーなんて鳴らしたんだ」

「え? だって、近くにあったから。え? え? 駄目だった?」

「いや。駄目じゃないけどさ。そういうの、一人でやっても楽しくなくない?」

「なんでです? ホヅせんせーと電話してるから、楽しいですよ? それにお祝い事ですし。あ、もう一個鳴らそうかしら」

「いやいや、もういいよ。十分に気持ちは伝わった」

「そうなんです?」

「そうなんです」

「なら、いっか。今回、ヒロインのあおいちゃんがめちゃくちゃわいかったから、イラスト描くの楽しかったですよ。で? で? 二巻の原稿はいつになりそう? わたし、次も頑張るからね。描くぜぇ~、超描くぜぇ~」

「そういえば、僕はやってないから知らなかったんだけど、SNSでも発売カウントダウンとか、重版祝いのイラストを描いてくれたんだってね。ふたつ担当に聞いた。ありがとう」

「いえいえいえいえー。好きで描いたものなので」

 えへへへ、とやっぱりうれしそうな声が聞こえてくる。ほんと、犬みたい。尻尾があったら、きっとぶんぶんと振り続けてるんだろうなあ。

「僕もそのイラスト欲しいからさ、後でメールにデータ送っておいてくれない?」

「あいあいさー。了解しました。前にもらった名刺に載ってるアドレスでおk?」

「おk」

「あらよー、メール一丁、ってなもんで。ほいっとな。送りました」

「はやっ」

「えへへへ。POP☆コーンは仕事のできる女なのです。もっと褒めてくれてもいいのよ?」

「僕に褒められても大してうれしくないだろう」

「そんなことないんだけどなあ」

「え?」

「ううん。なんでもないわ。それで、ホヅせんせーのご用件はなにかしら? あ、や、違うのよ。別に用事がなくても電話してくれてもいいの。ホヅせんせーならいつでもウエルカムだから。ええっと、つぼの話でも、する?」

 ああ、そうだった。別にポンコツと世間話がしたくて、僕は電話をかけたんじゃなかった。彼女に一つ、確認したいことがあったんだ。

 つか、この子はどんだけつぼの話をしたがるんだよ。そんな、コイバナでも、する? みたいな感じで言うなよ。こう何度も断り続けるのも胸が痛いから、今度、時間ある時、じっくり聞いてやろうかな。そんで、つぼはやめとけって、もう一度くぎを刺しておこう、そうしよう。

 まつくんと何度も買い物に出かけたスーパーの前を通る。

 小さな女の子が、お母さんと二人で一つのエコバッグを持っていた。二つある持ち手を一つずつ。お母さんの方は少しだけ歩きにくそうにしていたけれど、でも、少女の誇らしげな表情には勝てないらしい。二人はゆっくりゆっくりと歩いていった。

 その足元に、うっすらとした、でも幸福って形をした影がゆらゆらとまっていた。

つぼの話はまた今度。今日は取り急ぎ、確認したいことがあるんだ。あのさ、あおいのキャラデザを送ってもらった時、僕が修正を依頼したこと、覚えてる?」

「え? ちょっと待って。むむむ。制服の色を変えて欲しい、だったかしら?」

「そう。それ。その件に関連して聞きたいんだけど──」

 ポンコツのキャラデザは本当にどれもよく描けていた。大絶賛だ。けれど、それはあまりにモデルになった〝まつくん〟にそっくりだった。

 特に制服姿だと、なんの違和感もない。ポケットの形とか、校章とか、細かな点は全然違うのに、漂う雰囲気だけはオリジナルに限りなく近かったのだ。

 だから、僕は制服のカラーを変更して雰囲気を少しだけ変えて欲しいという依頼を出した。

 そこで、ふと思ったわけだ。

 ポンコツはもしかしたら、まつくんの通う学校の制服を知らず参考にしてたんじゃないかって。この推測を補強するような根拠だってある。キャラデザのお礼に電話した時、彼女は確か、資料集めも頑張ったし、なんて言ってもいた。

 決して勝算の低い賭けじゃないはずだ。

「制服のデザインをする時、実際にある制服を参考にしたんじゃない? 違う?」

「え? うん。そうだけど。なにかまずかった?」

「いや、まずくはない。むしろファインプレーまである。その参考にした制服の学校を教えてくれないか?」

 そうして、ポンコツから送られてきたいくつかの高校のホームページの一つに、よく知ったデザインの学生服を見つけた。よし。パチンと思わず指を鳴らす。

 ──ビンゴだ。

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