クラスの大嫌いな女子と結婚することになった。2

エピローグ

 3年A組の教室で、まりさいの席に駆け寄ってくる。

「おはよー、才人くん! ねえねえっ、見てみて! 今日、学校に来る途中で、面白いキノコ見つけたんだー! 才人くんなら名前知ってるよね?」

 声を弾ませ、デコレーションだらけのスマートフォンを才人に見せる。

 通常営業の明るい姿。非常に陽鞠らしくはあるのだけれど、才人はげんに感じる。

 他のクラスメイトに聞こえないよう、声を潜める。

「俺の妄想だったら悪いんだが……俺はお前から、デートに誘われたよな?」

「うん!」

「そして俺は確か……断ったはずだよな……?」

「うん!」

 元気にうなずく陽鞠。

「だったら、なぜ普通に接してくる?」

 デートを断るとき、才人は陽鞠との関係が気まずくなるのを覚悟していた。今後は二度と話しかけてくれないだろうと予想していた。

 なのに、陽鞠の態度はまったく変化していない。色恋沙汰に縁のない才人でも、これがイレギュラーなのはさすがに分かる。

 陽鞠は才人の机にほおづえを突き、屈託なく笑う。

「えー、そんなの関係ないよー。あのくらいで、私の才人くんへの気持ちは変わらないし。断られたら、また誘えばいいんだし!」

「……お前はすごいな」

 正直な感想だった。

「あれ? 私褒められた? やったー♪」

 陽鞠は両手を挙げて喜ぶ。

 ──本当に、すごい。

 一歩踏み込んで関係を進めようとする勇気にも、失敗してもめげない精神力にも、才人は感心してしまう。

「私ね、あかと仲良くなりたいと思ったときも、何度追い払われても諦めずにアタックして、親友になったんだ」

 陽鞠が才人に顔を寄せ、ぐに目を見つめる。

「才人くんのことも、絶対諦めない。私のこと、必ず好きにさせてみせるから」

「あ、ああ……」

 ストレートすぎる好意に、さいの首筋が熱くなる。まりのように魅力的な少女から手放しで慕われて、嫌な気がするわけがない。

 ──あかもこのくらい素直だったらいいのにな。

 なんてことを、少し思ってしまう。

 才人はほおいた。

「というか、あんまりそういうことを大声で言うな。クラスの連中に聞かれると面倒だ」

「え、どうして? もう才人くんには知られちゃったし、私はみんなに知られても大丈夫だよ?」

「俺が困る」

「あーそっか。才人くん、刺されちゃうかもね♪」

「さ、刺されはしないだろう……しないよな……? 多分……」

 確信は持てなかった。

「これでも私、しょっちゅう告白されてるからなー♪ 才人くんのことしか眼中にないから全部断ってきたけど、その人たちの恨みが積もり積もって……」

「脅すのはやめろ」

「あはは、じょーだん♪」

 陽鞠は楽しそうに笑う。

 せいが才人の席に歩み寄ってくる。

「うちのあにくんは、シセのお眼鏡にかなった相手にしかあげられない」

「お前は誰目線なんだ」

 あきれる才人に、首をかしげる糸青。

「父?」

「妹じゃないのか」

「妹であり、父でもある。シセは万物の中に存在する」

「お前は精霊か」

 そう言われても外見は違和感がない。

「糸青ちゃんのお眼鏡に適うって、どうしたらいいのかな……?」

 陽鞠は真剣に悩む。

「それは陽鞠の頑張り次第。まずは誠意のあかしにメロンパンを十万個ほど欲しい」

「じゅ、十万個……? 分かった、頑張るよ!」

「賄賂を要求するな」

 才人は糸青の暴挙を止める。

「いいんだよ! 才人くんのためなら、私はなんだってやるから!」

 陽鞠は底抜けの笑顔で言い放った。


 そんなさいたちを、あかは教室の端から眺めていた。

 才人とまりの関係が気まずくならなかったのは、安心した。

 でも、二人の距離が近すぎるのを見ていると、なんだか落ち着かない。

 一度デートに誘ったことで羞恥心を乗り越えたのか、陽鞠は才人の手を両手で握って熱心に話している。

 朱音が誰よりも信頼する陽鞠に愛されて、才人もうれしくないはずがない。きっといつか、陽鞠は才人を手に入れるだろう。

 それは、応援すべきことなのだけれど。


「……負けないから」


 無意識にこぼれた言葉に、朱音は口を押さえた。

「私……なにを言っているのかしら」

 燃えるような熱を、体の芯に感じる。

 ずっと眠っていたのに、呼び覚まされたもの。

 そのおもいの正体を、少女はまだ知らない。

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