プロローグ

小学生の頃、
教室で自分の席に座っていると、陽鞠がうるさく話しかけてくる。
「ねえねえっ、朱音ちゃん! 昨日の九時のドラマ
「観てないわ。恋愛ドラマなんて興味ないし」
朱音は鼻を鳴らして、引き出しから教科書を取り出す。
「えー、面白かったのにー。録画してるから、一緒に観ようよー」
「何度も言っているけど、私はあなたと遊んでいる暇はないの。帰って妹の世話があるし、毎日勉強もしないといけないんだから」
陽鞠は目をきらきらさせる。
「朱音ちゃんって偉いよねー! いっぱい勉強して、いっつも一番なんだもん!」
「ま、まあね。私に勝てる人間なんて、この世にいるわけがないわ」
朱音は長い髪を跳ね上げる。
誰よりも努力しているのだから、誰にも負けるはずがない。この先も、ずっと。
「でもでもっ、たまには息抜きもした方がいいよ。勉強ばっかりしてたら、疲れちゃうでしょ?」
「息抜きならしてるわ」
「私と一緒にしようよ! 一人より二人の方が楽しいよ!」
元気な小犬のように、
「……
きっぱりと拒絶の意思を示したつもりだったのだけれど。
「私は興味あるよ! 朱音ちゃんのこと、とっても! だから、友達になろっ!」
陽鞠は気にせず朱音の手を握り締める。
屈託のない笑顔。全身から好意が
「あ、あのねえ……」
「帰りに、ちょっと寄り道しよーよ! すっごく
「苺ぱふぇ!?」
ぴくりと反応してしまう朱音。
すぐに表情を隠すが、陽鞠は見逃さない。
「あー、朱音ちゃんってば、苺パフェ大好きなんだー?」
からかうように言ってくる。
「ぜ、ぜんぜん好きじゃないわっ」
「ウソばっかりー。思いっきり顔に出てたよー♪」
「で、出てないわ!」
「今日は私が
陽鞠が朱音の手を引っ張る。
「う、うう……。じゃあ、ちょっとだけなら……」
「わーい! 朱音ちゃんとデートだー!」
両手を挙げて大喜びする陽鞠。
──やっぱり、この子は嫌いよ……。
朱音は思う。
一緒にいると、胸の奥がじんわりと温かくなってしまうから。
その感覚が不思議と心地良くて、落ち着かない。