夕陽とやすみは隠しきれない? その7

 タイトルコールやオープニングトークなどの指示、たちが収録時に話す内容が台本形式で並んでいる。しかし、すべてが指定されているわけではなく、「ここからフリーで」「関連する話題があれば」「よきところで」と書かれたしよもあった。

 あさは台本を開くと、オープニングトークの部分を指でたたく。

「わかっていると思うけど、このラジオはふたりが同じ学校であることをすから。なるべく、意識して話してほしい。節々に『あぁやっぱりこのふたりは同じ学校なんだ』ってリスナーが思えるトークを混ぜてしいの。あ、事務所のOKは取ってるからね」

「ふうん……、まぁ同じ学年、同じ学校の声優なんて、そうそういないもんね」

「そう。確かにレアなんだよね。その点を強調できれば、ほかのラジオと差別化できるから。おおいでさんの見立ては実際そう悪くないよ」

 なるほど。なつとくはできるが……、問題もある。

 その問題の人物がぶつちようづらで口を開いた。

「わたしはこの人と仲良くはないですし、仲良くしたいとも思ってないですがだいじようですか?」

「は? そんなの、あたしも同じ思いなんですけど?」

「あらぐうね。なら、今のわたしの気持ちもわかるかしら。やかましいな、と思ってるんだけど。ちょっと静かにできる?」

だまむのはあんたの領分でしょ。教室で静かにするのが仕事みたいなやつが。根暗女の子守りなんてたのまれてもやらないからね」

「こも……、出たわ。あなたのそういうところ、本当にきらい。さわぐだけしか能がない連中って、なんでこうも上から目線なの? 見た目が派手であればえらいの? 鳥かけものみたいよね」

「こいつ……。つーか、場にめない自覚があるから、そうやって否定しようとするんじゃないの? 人とお話するのが苦手なあんたこそ、鳥かけものじゃない」

「キーキーうるさいおさるさんね」

さるよりコミュ力ないやつがなに言ってんの?」

「は?」

「あ?」

「……ええと。ふたりとも、そんな空気絶対に収録で出さないでね。別に収録外で仲良くする必要はないし、プライベートを切り売りしろ、とも言わないけど、つうにはして? 学校での話が時々あれば、あとはほかのラジオと同じでいいから。ときにくけど、君たち同じクラス?」

 ボールペンを向けられ、はこくりとうなずく。

「おー、それはぎようこう。いいね、そこも強調しよっか。あぁちなみに、少しでも学校が特定されそうな情報は放送にせられないから。気を付けてね。で、番組の流れなんだけど、それほどとつしゆつした構成ではなくてね……」

 再び台本に意識をもどす。

 かのじよの言う通り、変わった内容はなさそうだ。

「基本はオープニングトーク、メール、コーナー、エンディングっていうオーソドックスな流れになります。コーナーはまだ考えてないけど、何かしら学校に関係したものにするから。今回はまぁ、メールもないし番組のしようかいと自己しようかいのコーナーに時間使うね」

 あさがページをぱらりとめくる。も同じように、次のページを開く。

 コーナーかく、『おたがいのことをよく知ろう! 一問二答!』という文字が書かれていた。


 やすみ「これからいっしょに番組をやっていくために、おたがいのことをよく知って、仲良くなっちゃおうというコーナーです」

 ゆう「わたしたちがこうにくじを引きます。そこに質問が書かれているので、わたしたちふたりがそれに答えていきます」


 それほどめずらしいかくではないが、第一回ならちょうどいいだろう。

「収録のときはくじ引きの箱を用意するから。どんな感じか見たいから、軽くでいいからやってみてくれる?」

「軽くやるって、どーすんの?」

「わたしが適当に質問るから、声優の自分として答えて」

 ちょっとしたリハーサルだ。

 収録時にどう答えるかをあさは見たがっている。ならば、と声の調子を整えた。

 こほんとせきばらい。

 すると、全く同じタイミングでも同じことをした。視線が重なる。

「なによ」

「なんだよ」

「はい、すぐけんしない……。さ、今わたしがくじを引いてみました。質問は、『好きな食べ物は?』。はい、やすみちゃん」

 あさがこちらに右手を向ける。すぅ、と息を吸ってから、ゆっくりと答えた。

「やっぱり一番は、ママの作ったカレーかな?」

 にハートマークがつくくらい、ていねいわいらしい声を出した。

 ちなみにママはカレー得意じゃないし、何ならの方がく作れる。

 だがまぁ、若い子がこういうことを言うとたいがいさるのだ。

「出たわ……、わざわざ母親を引っ張ってきて、食べ物ひとつで好感度を上げようとするインスタント商法」

「は? 上げられるところで好感度を上げて何が……」

「はーい、次はゆうちゃんいこっか」

 あさが指示を出すと、しゆんに顔をぱっと明るくさせた。

 手を胸の前でぎゅっとにぎり、「えっと~」と口を開く。

「わたしはねぇ、パンケーキかなぁ。お休みの日とかにね、よくお店に食べに行くんだぁ」

「はいダウト」

「は? なに。おかしなことは言ってないわよ」

「いやいや。あんたみたいな根暗女に、店にいっしょに並ぶ友達がいるとは思えないし、ひとりで並ぶ度胸もないでしょ。せいぜいファミレス? パンケーキの話なら、あたし専門店の話をバンバンるけどだいじよう? ファミレスのでパンケーキを語れる?」

「ぐ、ぬ……」

 は何も言えずに口ごもり、くやしそうににらんだ。

 めちゃくちゃ図星っぽい。

 しかし、たすぶねを出すようにあさが「次ね」と話を進めてしまった。

「次は、そうだなぁ。好きなアニメってある?」

「あ、それならあたし、つうにあるわ。ほう使つかいプリティア。あれに出るのが夢なくらい好き」

 つい素で答えてしまう。

 ほう使つかいプリティアシリーズ。日曜朝に放送している女児向けアニメで、何年も続く人気シリーズだ。この作品にあこがれる女性声優はたくさんいるが、の思い入れは人一倍強い。

 この業界に入るきっかけになったからだ。

 そんなをじろじろながめ、は鼻を鳴らす。

とうがプリティア? そうなったら世も末ね」

やかましい。その世を救うためにプリティアになるんでしょうが」

「あなたはどちらかと言えば敵側でしょうに。敵幹部ヤバンバーンみたいな」

「こいつ……。そういうわたなべは、さぞかし立派なアニメが好きなんでしょうね」

 の問いに、はすぐには答えない。

 まゆを寄せて、言いにくそうに身体からだを動かす。

 しばらくしてから、ぼそりと言った。

「……メカとロボ。かみしろアニメなら大体好き。『てつのゴルド・ラ』とか」

「うーわ。意外過ぎて好感度上がるやつだこれ。なんか腹立つな……」

「だからあまり言いたくないのよ、これ……。意外だのキャラ作りだの言われるから」

「ツイッターでめんどうくさいガチ勢にからまれればいいのに」

「よくもそんなおそろしいことを言えるわね。人の心がないの? いやすぎるのろいをかけないで」

「ていうか、本当にそっち系が好きなわけ? パンケーキみたいなブラフじゃなく?」

「人の好みをブラフって言うのやめなさいよ」

「じゃあくけど。例えば、『てつのゴルド・ラ』ならどこが好きなのよ」

「まぁ何が一番いいかっていうのはなかなか難しいから言えないところだけど、例えば、そうね、『てつのゴルド・ラ』のりよくのひとつにメカデザインのみつさが挙がるわよね。第四話まで主人公が乗る機体、『トワイライト』のせんれいさ、あれは見るたびにため息がれるわ。まずエンジンの形からしてらしい。第一話でエンジンに点火しピストン運動が始まるシーン──あぁこれは後のしゆつげきバンクにも使われているんだけどこのシーンは本作の作画的にはさいこうほうと言っていいわここはさつかんの田宮さんがいてるんだけどいや本当に田宮さんがくとやくどうかんが」

めんどうくさいガチ勢はあんただった、っていうオチじゃん!」

「は? 作品のりよくいたのはとうでしょう。それを言うに事欠いてめんどうくさい? 上等じゃない、あなたの足りない頭でも理解できるように、まずは作品の成り立ちから……」

「それ絶対時間かかるやつでしょ! あたしはロボットにはあんまり興味ないんだから、話されても困るっつーの!」

「ちょっと待ちなさい、『てつのゴルド・ラ』にロボットは登場しないわ。厳密に言うとあれはロボットじゃなくて、古代せきからはつくつされた……」

「やめろやめろやめろ! 設定の話をするな! ろくなことにならないんだから!」

 いつの間にか、打ち合わせなどそっちのけだ。

 話が合わない。あいれない。口を開けばすぐにけんだ。

 本当にこんなやつとラジオなんてやっていけるんだろうか……。

 止めてくれるはずのあさに至っては、いつの間にか船をいでいた。

 もはやこの場は無法地帯だ。

「おー、いいねえ。にぎやかな声が外まで聞こえているよ。やっぱり女の子がそろうと、盛り上がるねぇ。仲良いねぇ。ラジオもこの調子でたのむよ!」

 もどっておおいでが、そんなけんとうちがいなことをにこにこ顔で言う。

 あつられ、も「はぁ……」と気のけた返事しかできなかった。

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