夕陽とやすみは隠しきれない? その5

 放課後。

 はひとり収録スタジオに向かっていた。

『はぁい、どうもー、こんばん……は? こんばんはであってます? あってます~。りゆうきゆうみりも役のゆうぐれゆうですー。やぁー、今日はかさを忘れちゃいまして、走ってきたんですよぉ』

 イヤホンからこえてくるのは、おだやかな声。

 ゆっくりとしたテンポできやすく、ほわっとした空気を感じられた。

 テレビアニメ『ちようぜつしんしゆくまりもちゃん』のラジオ番組、『ちようぜつラジオまりもちゃん』。それにゆうぐれゆうが出ていると知り、こうしていている。

 声がいうえに人のさがよくわかる。そりゃ人気も出るってものだろう。

 この子相手に、うのかな。

 ……わないだろうなぁ、とは頭をく。

『いやぁ、くわしくないですないです。わたしなんて、にわかみのにわか知識ですよぅ』

「……ん?」

 かりを覚える。なぜかあのむかつく女の顔が頭をよぎった。

 似ても似つかないはずなのに、なぜ急に思い出したのだろう。

「……あぁ。あいつもにわか知識がどうのって言ってたっけ」

 なつとくしつつも、あの腹の立つ口上を思い出して勝手にむかむかする。

 そうしているうちに、何度か使ったことのあるみのスタジオに着いた。

「おはようございまーす」

 あいさつをしながら、指定された会議室のとびらを開く。まずは打ち合わせだ。

 真ん中には長テーブルが置いてあり、その前に四十代半ばの男性がすわっていた。

 アフロとまがうほどにくせ毛の男性だ。大きめのチノパンにTシャツというラフな格好で、ノートパソコンをイジっていた。彼はこちらを向くと、ぎょっとした顔で固まる。

「あぁおは……よう?」

 だれ? という文字が顔面に張り付いている。まぁこの反応にも慣れっこだ。

「チョコブラウニーのうたたねやすみです。すみません、だんはこんなカッコなんですよ」

「あ、あぁ、うたたねさんね。あ、ディレクターのおおいでです。よろしく。いや、聞いてはいたんだけど、実際に見るとびっくりしちゃって。君、本当にだんはそういう格好なんだねぇ」

「初対面だと結構びっくりされますね。おかげで覚えてもらいやすいですけど」

「そりゃあねえ。まぁオンオフに差がある子はいっぱいいるけど……、あ、すわってすわって」

 言われて席に着く。すると、机の上にある資料に目がいった。

 番組のかくしよと出演者のプロフィールだ。事前にもらっていたので目は通してある。

 かくしよにはこう書かれていた。


 番組名:ゆうとやすみのコーコーセーラジオ!

 メインコンセプト:げんえきの女子高生声優ふたりによるラジオ番組

 コーナーコンセプト:学校に関連付けたコーナーを予定(※検討中・放送作家から当日提出)

 出演:ゆうぐれゆう(ブルークラウン)/うたたねやすみ(チョコブラウニー)


 この春から始まる、週一収録、週一放送の新番組である。

 なんとあのゆうぐれゆうの相方として──うたたねやすみがばつてきされたのだ。

「……なんでゆうぐれさんの相手が、あたしなんでしょう」

 つい、そんなことをつぶやいてしまう。

 ゆうぐれゆうの相方に選ばれたのはうれしい。だいばつてきだと思う。

 けれど、その理由がわからない。

 女子高生だから、という理由ならば、もっと人気のある女子高生声優はいくらでもいる。

 少なくとも、自分がディレクターだったら、ゆうぐれゆうの相方にうたたねやすみは選ばない。

 おおいでは、いたずらが成功した子供のように笑った。かくしよを指でとんとんとたたく。

うたたねさんは、ゆうぐれさんとは会ったことないんだよね?」

「へ? あ、あぁ、はい。そうですね。現場でもいっしょになったことはないです」

「だよね」

 おおいでは満足そうに笑い、は首をかしげる。

 かれは「あぁごめん」と手をった。

「このラジオには実は秘密があってね。君たちには大きな共通点があるんだ。それがわかれば、うたたねさんを選んだ理由がわかるよ」

「大きな共通点……? 女子高生声優以外で、ですか?」

「うん。もう少しんでみよう」

 む? どういうことだ?

 プロフィールを並べても、答えは全くわからない。

「このきようつうこうに気付いたときの驚きったらなかったけどね。それを知ったとき、すでに頭の中にはこのかくしよかんでいたよ。……わからない? んー、どうしよっかな。仕方ない! 教えてあげよう! 実はね、君たちふたりは──」

「おはようございます。ゆうぐれゆうです、よろしくお願いします」

 静かな声とともに、とびらが開いた。

 ゆうぐれゆうだ。

 あの人気じようしよう中でありながら、ラジオの相方になるゆうぐれゆうが、この部屋に入ってきた。

 ドキドキしながら視線を上げる。

「……ん?」

 目の前の少女と、おくにあるゆうぐれゆうの姿に大きな差異があった。

 かみがたのせいか、印象がぜんぜんちがう。

 明るくわいらしいゆうぐれゆうの姿はなく、暗くて地味な少女がそこにいた。

 かのじよと、目が合う。

「……え?」

 目つきが、ちがう。まえがみおくに見えるひとみは、するどい光を放っていた。

 ──いや、待て。このには、この姿には見覚えがある。こいつは──。

「な、なんであんたがここにいんのッ!?」

 そこには、とうのクラスメイト、わたなべが立っていた。

 なぜ。なぜこの場所にこの女が。

 混乱した頭は全く働かず、ただただかのじよを見つめることしかできない。

 そして、と同様に、こんわくの表情をかべていた。

「そ、それはこっちのセリフよ。なんで、なんであなたみたいな人がここにいるの」

「質問してるのはこっち! ど、どういうこと? ゆうぐ……、え? いや、だってあんた、今朝はしたきのことで……、え?」

「そ、それは……、そ、それよりあなたこそなんで……、ここはとうみたいな人種が来るような場所じゃ……、待って、確かあなた今朝……、妙なことを……」

 たがいに指差し、ぽかんとした顔をかべる。

 何が何だかわからない。

 ゆいいつ、事態をあくしているおおいでが、身体からだらしながら楽しそうに言った。

「あぁやっぱり、ふたりとも素の方は知り合いだったみたいだね。同じ高校だもんな。では、答えを明かそう。そう、うたたねやすみとゆうぐれゆうは同じ学校だったんだよ! マネージャーと話していたときにぐうぜん知ったんだけど、すごくしびれたよ──げんえき女子高生同士っていうだけじゃなく、同じ学校の生徒ふたりの声優ラジオ! これはいけるよ!」

 おおいではぱんと手を鳴らし、そんなとんでもないことを言い出した。

 ようやく、じようきようがわかってくる。

 そうだ、さっきかのじよは言ったではないか。

 自分のことを、「ゆうぐれゆうです」と。

 かのじよを指差す手がふるえる。

 つまり、つまりそれは。

「あ、あんたがゆうぐれゆうで、ラジオでのあたしの相方……?」

「……あなたがうたたねやすみで、わたしといっしょにラジオをやっていく人……?」

 その意味を理解して、ふたりの口が大きく開く。

「はぁぁぁぁぁぁ────ッ!?」

 そんなだいぜつきようひびわたった。

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