第四章 アカデミー入学

その④


 我が家の馬車はサラと共に一足先に帰されていたので、ルーファス様の馬車に乗せていただき、二人で向かい合って腰かけた。

「あ、これってダブルデートだ」

 思わず口に出た。大好きな彼と、大好きな友達と同時に遊べる最高に幸せなシチュエーション。前世では一度もしたことがなかった。

「だぶるでーと?」

 私の呟きが聞こえていたようだ。ルーファス様が首をかしげている。

「今日のように二組の男女が仲良く交友をはかることです。ルーファス様はエリン様としんぼくが深まりそうですか?」

「うん。エリン嬢はピアのことをよく理解してくれていることがわかって安心した。ヘンリーは……今後ピアにれしくするようならすぐに報告しろ。はいじよする」

「……私もルーファス様とヘンリー様のえんりよのないやりとりを見て楽しかったです。だから排除はしないでくださいね」

「ヘンリーは命拾いしたな」

 何げにぶつそうなことを連発しているけれど、ヘンリー様はルーファス様の気の置けないお友達と思ってよさそうだ。四人でまたこのような楽しい時間を取れればいいと、思う。

 自分の断罪と国外追放をけるため、これまであれこれ頭をひねってきた。自分の心配だけで手がいっぱいなのだから、他人の役になんて立てるわけがない。だからアカデミーでも一人でひっそりともがいていこうと思っていた。

 でも、エリン様とヘンリー様に出会い、好きになった。このおたがいがお互いを支え合っているお似合いの二人にも〈マジキャロ〉のやくさいが降りかかるのだろうか? 三年次に編入してくる予定のキャロラインによって二人の仲にくさびを打ち込まれ、にくみ合うようになってしまうの?

 歯をむき出しにしてニカッと笑う、なおなヘンリー様が、卒業パーティーでエリン様を指差して、けんかんむき出しでののしるようなことになるのだろうか?

 全くもってごとではない。今日という日が幸せであったからこそ、いつもの倍、不安がつのる。

「ところでピア、例のキャロラインだけど」

 キャロライン? ちょうど考えていた人物の名前がルーファス様の口から飛び出し、慌てて向き直る。

「キャロラインのファミリーネームはラムゼーで合ってる?」

「……はい」

 十歳の私はキャロラインのせいまでもれなく伝えていたらしい。そして、ルーファス様は五年も前の話を子細まで覚えてくださっていたのか。

 私の〈予言〉を本当に信じてくださっているのだ。なんのこんきよも示せないのに。

「ラムゼーはくにの西に小さな領地を持つ男爵家なんだけどね。数日前、養子をむかえたらしいというれんらくが入った。社交もせず屋敷にこもって外に出てこないから、これ以上の情報はないんだけれど」

 養子ということは、ゲームの設定上キャロラインの可能性が高い。

「ラムゼー男爵家を見張っていらしたのですね」

「まあね。でもなかなかガードが固くてね、内情はあまりつかめない。関係者全員口がかたいようだ。このことを伝えたくて、今日はヘンリーの誘いに乗ったんだ」

「そうだったんですか……」

 私と情報を共有してくれるなんてありがたい。ああでも、キャロラインの足音が聞こえてくるようで……おそろしい。

 私がうつむき、したくちびるんでいると、ルーファス様が焦ったような声をあげた。

「おい、誤解してないよね? キャロラインのことはきっかけにすぎない。もちろん純粋にピアに会いたかったから訪問したんだ! ヘンリーであれ、私のいないところで他の男とピアを会わせるわけがないだろう?」

「婚約者であるエリン様もいらっしゃるんですよ? そもそもどう見てもヘンリー様、エリン様一筋ですよね?」

「相手がだれであれ、ピアの瞳に他の男が映っていると思えば、私は激しくしつするよ」

「嫉妬……ですか?」

 意外な答えに目が丸くなる。

「そうだよ。昔言わなかったかな? 私の愛は重いって。そうそう、今後家族以外の人間に会う時は、私のおくったドレスを着ること。前も言ったと思うんだけど?」

「友人宅に……オートクチュールのドレスはちょっと大げさでは?」

「じゃあ、もっといろんな服も仕立てないとね」

 そう言いながらルーファス様は私の隣に座りなおした。私は地味な紺のワンピースをつまんで、母の紺色しんこうとスタン家のグリーンくめをどう折り合いをつけようか? と思案する。

「ルーファス様こそ思い違いをされています。私はこれまでモテたことなどありませんし、そもそもルーファス様のことで、たいてい頭はいっぱいです」

「ははっ、たいていって……化石に気を取られることもあるってことかな? よし! 化石に負けないようにがんるよ」

 ルーファス様は声を出して笑いながら、私の額にちゅっとキスをした。

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