プロローグ

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 まだ寒さの厳しい新年のよい

 くにアージュベール王国のゆうしゆうな若者が十五さいから三年間学ぶ教育機関『王立アカデミー』の講堂では、国王へいの誕生日を祝うダンスパーティーが例年どおり行われていた。

 みなはなやかにドレスアップして、そく以来平和が続く治世を喜び、めいめいに集まり話に花をかせている。

 今年度は国王の長子、フィリップ王太子殿でんが二年生にざいせきしていらっしゃるので、なかなかせいきような会になるはず……だった。

「アメリア・キースこうしやくれいじよう! 今日をもってお前とのこんやくする!!」

 その王太子がとつぜんしゆくじよかつけんじよと名高い、同じく在校生のアメリア様を指差して、こんな発言をしなければ。

「え? なぜ今日? うそでしょう? どうして……」

 私、ピア・ロックウェルはくしやく令嬢は内心のあせりをかくかべの花になって様子を見守る。学生であり研究者というみような立場ゆえに学生の集団の中に身を置くのもためらわれ、安定のひとりぼっちだ。護衛のマイクはどこかにいると思うけれど。

 手にある可愛かわいいグラスの中身はノンアルコール。私は十七歳で成人の十六歳は過ぎているけれど、外でのお酒はきつく止められているし、そもそもいのせいで正確な判断ができなくなるとまずい。

 王太子殿下のとなりにはきんぱつで大きなピンクのひとみの学生がふるふると体をふるわせながら立っていて、殿下のそでをちょこんとつまんでいる様子がよくをそそる。

 ああ、なつかしい。本当にゲームとそっくりだ。かのじよは確かにキャロライン。殿下の瞳の色に寄せた赤くてごうしやなドレスがよく似合っている。地味な私とは……そうそう月とスッポンって言うんだ、こういう時は。

 そしてその後ろには、名だたる名家のご子息たち──団長のむすヘンリー・コックス伯爵令息、りよう師団長の息子ジェレミー・ローレンしやく令息、アカデミーの算術教師ガイ・ニコルソン侯爵じつていが立ち並び、アメリア様はじめおのおのの婚約者がいかにキャロライン・ラムゼーだんしやく令嬢をいじめたか、だらだらとバラバラととうそつなくつのる。

 そう、だらだらとバラバラと……。

 ゲームでは、さいしようの息子がピシッとじようきで読み上げていたんだけどなあ。

「ふーん。ちょっと時期は早いけど、ピアの予言どおりになったね」

「きゃっ!」

 私の横にいつの間にかその宰相の息子、ルーファス・スタン侯爵令息が全くすきのない様子で立っていた。しかも私のグラスを取り上げて、一口で飲み干し、ペロリとぎよう悪くくちはしめる。

えらいねピア。アルコールじゃない」

「な、な、な、なんてことを!」

 同じグラスで飲むなんて家族でもありえない! あまりに親密なこうだからだ。ていに言えばこの世界では……ベッドの中の行為と同様だ!

 黒のスーツという地味なよそおいに反した派手な侯爵令息の行動に、中央の婚約破棄とざわめきが二極化する。そしてルーファス様のポケットチーフが私のドレスとともぬのであることに気がついた者は息をんだ。

 その色はルーファス様の瞳の色、エメラルドグリーン。私のうすはいいろの瞳とはミスマッチではないだろうか? まあ私の無個性のくろかみは、なんにでも合うと信じたい。

 婚約者同士という私たちの関係は特に秘密ではなく、国王陛下の許可もいただいているけれど、こうして人前で並び立つのは入学前の王宮での、子ども時代のお茶会以来かもしれない。あの時もすぐ帰ってしまったし……。観劇の時はくらやみだったから、だれの目にも留まっていないはず。

 グラスをテーブルにコトリと置くと、ルーファス様はしなやかなしぐさで前世風に言えば壁ドンし、私のみちふさいだ。

 ルーファス様はさんぞくの出る広大な領地を治めるあとりだけに、けんたんれんも手をくことはなく、いわゆる細マッチョなたいで、私よりも頭一つ分大きい。山地に雪があるシーズンはフィールドワークに出られず、研究室にこもりきりの私はどうあがいても逃げられない。

 鼻筋の通ったれいな顔が上からおおかぶさり私の耳元に口を寄せると、周囲の女子学生がきゃあ! ときようせいをあげた。かれのすっかり低くなった声が、ささやく。

「ピアの予言どおり、王太子殿下は婚約破棄をした。でも私はあの場にいない。ピア、けは私の勝ちだね」

 ルーファス様はクスッとゆうの表情で笑い、我が物顔でいつものように私の額にキスをした。

 ……どうしてこうなった?

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