ようこそ実力至上主義の教室へ 3

○幕開け

 8月7日。長くも短い無人島での生活がついに終わりの時を迎える。

 せめてもの救いは過酷なサバイバルではなく、程々に楽しみながら過ごせたことか。

 終了時間とされていた正午になっても、まだ周囲にはしま先生たちの姿はない。

『ただいま試験結果の集計をしております。しばらくお待ち下さい。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する場合は休憩所をご利用下さい』

 そんなアナウンスが流れ、生徒たちが一斉に休憩所へと集まっていく。他にも仮設テントの下にはテーブルやらが用意されていて、十分な休憩が取れそうだった。

 こうえんほりきたなど、リタイアした生徒は客船で待機しているのか降りてくる気配はない。

 いつもいけたちと行動するどうは、客船を見上げて動かなかった。

あやの小路こうじ。おまえって堀北とよく行動してるだろ。……実際どうなんだよ」

 怒ったり騒いだりというより、須藤は真剣に知りたがっているように思えた。

「何も無いぞ。ただの友人だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「……それも羨ましいよな。俺はまだ、ダチ扱いすらされてねえんだから」

 相手にしてもらえないことが歯がゆいのか、須藤は少しだけ悔しそうだった。

「今回の件で、少しは堀北もおまえを認めたんじゃないか?」

 トラブルを起こすこともなく、むしろ堀北を助けようとしたり、率先して釣りをしたりとクラスのためになる行動を起こしていた。大きな成長だ。

「だといいんだけどな。結局下の名前では呼べなかったぜ」

「お疲れ様二人とも。この一週間いろいろありがとう。本当に助かったよ」

 ひらねぎらいの言葉と共に現れると、2つ持っていた紙コップのうち1つを手渡してくれた。手で受け取ると冷たい感触が手のひらを刺激した。もう一つを須藤に渡す。

「お礼を言うのはこっちだぞ。なかなかクラスに馴染めないオレをフォローしてくれた。それに堀北がリタイアしたことや、オレが点呼に遅れた時にかばってくれただろ」

「理由を聞いたら責められないよ。それに、堀北さんは大きな答えをくれたからね」

「あいつの言ったこと、信じるのか?」

「彼女は適当なことを言う子じゃない。だから君も仲良くしてるんじゃないかな?」

 この男はどこまでも純粋というか、仲間を守ろうとするヤツだな。

「リスクが無いと言えばうそになるけど、堀北さんのためにも動かなきゃね」

 それが友達だよ、と小さく答える平田。昨日きのう見せた横顔は幻だったかのようだ。

 オレたちのやり取りに理解できない節があったのか、須藤が首をかしげる。

「何だよ、答えって。何の話だ?」

「それはもうすぐ分かると思うよ。それにしてもCクラスは異常だね……別次元だ」

 Cクラスの生徒は2日目の時点でほとんどがリタイアしたため、この場には姿が無い。ぶきまでも既にリタイアしたのか、砂浜のどこを見ても見つけられなかった。そのためCクラスの生徒はりゆうえんだけしか居ないという異様な光景が広がっていた。

「どうして彼は……龍園くんだけはリタイアしていなかったんだろう」

 ひらと遠巻きに様子をうかがっていると、その視線に気づいたのかこちらを振り返った。

 そして何を思ったかゆっくりと距離を詰めてくる。やや緊張が走った。

「おい腰巾着。すずはどうした?」

 平田の存在には目もくれず、紙コップ片手に龍園が近づいてきてそう言った。

 龍園から出た『鈴音』というワードに、どうが青筋を立ててにらみつけるのがわかった。

「オレに聞かれても困る」

「おまえが鈴音のケツを追い掛け回してるのは知ってんだよ。この前も一緒にいたろ」

 龍園は紙コップの中身を飲み干すと、軽く握りつぶしてオレの足元にほうり投げてきた。

「代わりに捨てとけ」

 砂に埋もれかけた紙コップを、須藤が思い切り踏みつけてからり返した。

「何ふざけたこと言ってんだ。あ? テメェのゴミはテメェで拾えやオラ」

「不良品にはゴミ拾いが似合ってんだろ」

 威圧感を放つ須藤に対して、龍園は何も気にとめる気配が無い。

「落ち着いて須藤くん。ゴミは僕が処分しておくから」

 平田が慌てて拾い上げると、須藤は舌打ちして砂を蹴った。

 龍園はつまらなそうに視線を外した。上半身は所々に汚れがあり、ズボンのジャージに至っては随分と泥だらけだ。努力が大嫌いだと吐き捨てたとは思えない状態だな。

「リタイアしなかったんだね。龍園くん」

「誰だおまえ。それより鈴音はどこだ。ケツでも撫でてやろうと思ったんだがな」

 3度目の『鈴音』ワード。更に侮辱するような言葉を混ぜていたため、須藤は砂浜を蹴り龍園に近づくと、胸倉をつかみあげた。

「なんだこの手は」

 全く動じた様子無く、龍園は須藤の強烈な視線をぐ受け止める。

「次にふざけたこと抜かしたら、ぶっ殺すぞ」

「ああ? なんだこいつ、一人で何盛り上がってんだよ」

 今にも殴り合いが始まりそうな状況に平田も飛び出し、龍園から須藤を引きがした。

ほりきたさんなら昨日きのうの段階でリタイアしたよ。ここにはいない」

「……リタイア? 鈴音が? あいつはリタイアするような女じゃないだろ」

「それは───」

 キィン、と拡声器のスイッチが入る音が砂浜に走ると、しま先生が姿を見せる。

 慌てて列を形成しようとする一年生だったが、それを真嶋先生が手で制止させた。

「そのままリラックスしていて構わない。既に試験は終了している。今は夏休みの一部のようなものだ、つかの間ではあるが自由にしていて構わない」

 そうは言われても、当然生徒たちには緊張が走り、雑談は瞬時に消え失せる。

「この一週間、我々教員はじっくりと君たちの特別試験への取り組みを見させてもらった。真正面から試験に挑んだ者。工夫し試験に挑んだ者。様々だったが、総じて素晴らしい試験結果だったと思っている。ご苦労だった」

 真嶋先生からの、迷いのない褒め言葉を受け生徒たちからあんが漏れる。

 やっと1週間の試験が終わったんだと実感がいてきていることだろう。

「ではこれより、端的にではあるが特別試験の結果を発表したいと思う」

 恐らくこの試験結果を見抜けている人間は、担任教師を含め誰一人いないだろう。

「なお結果に関する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい」

「だそうだ。失禁しないで、ちゃんと現実を受け止めろよ?」

「それはCクラスの方だろ。おまえら全部ポイント使い切ったんだろ? 笑わせんな」

 周知の事実であるCクラスの暴挙をバカにするどう

「僕らはボーナスポイントも含め125ポイント残した。立派だったと思ってるよ」

 りゆうえんの理不尽な挑発に、ひらも少しはいらちを感じていたのかもしれない。誇らしげにそう答えた。青臭い平田の言葉に龍園は吐くような仕草を見せてあきれ返った。

「はっ。その程度のポイントで満足できるなんて、雑魚の神経が羨ましいな」

「何を言っても構わないけれど、Cクラスが0ポイントなことに変わりはないよ」

「ク、クク。勝手に決めつけてんじゃねえよ。確かに俺は300ポイントをすべて使い切った。だがな、この試験の追加ルールを忘れたわけじゃないだろ?」

「……クラスのリーダーを当てることを言っているんだよね、それは」

「そうだ。俺は紙に書いたぜ? おまえらDクラスのリーダーの名前をな」

 オレも平田も顔に出さないよう努めたが、須藤は言い当てられた衝撃が表情に出た。

「そしてAの連中も同じように書いた。これがどういうことだかわかるか?」

「ちょっと待てよ。どういうことだよそれ、なあ!? も、もし本当だとしたら……」

 Dクラスは的中させられたペナルティを背負い、100ポイントを失うことになる。

 拡声器から真嶋先生の声が聞こえてきた。

「ではこれより特別試験の順位を発表する。最下位は───Cクラスの0ポイント」

「ぶははは! オラ見ろ! やっぱり0ポイントじゃねえかよ! 笑わせんな!」

 どうは結果を受けて龍園に対して心底バカにしたように腹を抱えて笑う。

「……0だと?」

 りゆうえんはショックを受けたというより、事態が理解できない様子だった。

 しま先生は淡々と発表を続けていく。

「続いて3位はAクラスの120ポイント。2位はBクラスの140ポイントだ」

 どよめきが起こる。誰も想定していなかった順位、そしてポイント。

 自分たちの計算していた数値との誤差に戸惑いを隠せないといったところか。

「そしてDクラスは……」

 一瞬だが、真嶋先生の動きが硬直した。しかしすぐに言葉が再開される。

「……225ポイントで1位となった。以上で結果発表を終わる」

 この事態に誰よりも混乱したのはひらを除くDクラスの生徒たちだろう。唯一事情を知る平田でさえも、半ば信じられないと興奮気味のがおを浮かべるだけ。

「どういうことだよかつら!」

 反対側の休憩所から、そんな声が響いた。Aクラスの生徒が葛城を取り囲んでいる。

「何かがおかしい……。どういうことだ……」

「うおおおおお! やったぜ!! ざまぁみろ!!」

 どうの叫び声と共に、Dクラスの生徒たちは一斉に集まりだす。

「ななな、どういうことなんだよコレ!? なあおいい!!」

 興奮と混乱が冷めやらぬ様子のいけが平田にすがるように説明を求めてくる。

「……向こうで説明するよ。それじゃ龍園くん、僕はここで失礼するよ」

 意味深な言葉を残し、平田は池や須藤を連れ船に向かい歩き出す。須藤は舌を出しながら中指を立てていた。その姿を龍園は黙って見送るしかなかった。

 試験は終了となり、解散となった一年生たち。船は2時間後に出発らしく海で遊んでいくも、船に上がってゆっくりするも自由となった。オレも乗船すべく歩き出す。

「やあ諸君。1週間の無人島生活はどうだったかな?」

 船のデッキではドリンクを片手に、こうえんがDクラスを迎え入れた。

「てめこうえん! おまえのせいで30ポイント失ったんだからな! わかってんのか!」

「落ち着きたまえよ池ボーイ。私は体調不良で寝込んでいたのだ。仕方ないだろう?」

 ツヤツヤテカテカ、1週間船の上で肌を焼いたことがはっきり分かる。健康的な状態でそんなことを言われても説得力の欠片かけらもない。

 男子から一斉に責められる高円寺から少し遅れてほりきたも姿を見せてきた。まだ体調が万全ではないのか顔が青い。堀北の存在に気がついた生徒たちの視線が自然と集まる。

「す、すず。もう体調はいいのかよ」

 ちょっと口ごもったが、須藤は練習どおり堀北に対し下の名前を呼びながら近づいた。

「そこそこね。まだ万全とは言えないわ。何よりリタイアしてしまったミスは大きい」

「そんなこと気にすんなよ」

 ほりきたは自然と下の名前で呼ばれることを受け入れたようだ。意外だ。

「ところでどうくん。勝手に私をすずと呼ばないで。いいわね?」

「う……わ、わかった」

 どうやら受け入れたわけではなかったらしい。須藤も逆らえずうなずくしかなかった。

「でも───どういうこと? どうしてDクラスが1位に……」

 リーダーである証拠をつかまれ、オレの手によって堀北はリタイアをしてしまった。計算上では限りなく0ポイントに近い終了を描いていただろう。

「そ、そうだよ。どういうことなんだよひら! さっぱりわかんねえ!」

 適切な回答を求められた平田だが、その前に解決すべきことがあるらしい。

「それは……かるざわさん。まず君から堀北さんに話すべきことがあるんじゃないかな?」

 そう言って、しのはらたちの後ろでうつむいている軽井沢に声をかけた。

 呼ばれた軽井沢は、堀北へと近づいていく。

「……堀北さん、ちょっといい?」

「ええ。あなたは私に話すべきことがある。そうでしょう?」

 小さく頷く軽井沢を見て堀北は目を閉じる。下着が盗まれた件や、身勝手なポイントの使用で軽井沢をとがめておきながら、自らはリーダーの正体を知られリタイアしてしまった。

 つまり何を言い返されたとしても受け入れるしかない。そんな表情だった。

「ごめん」

 ちょっとぶっきらぼうに、でも申し訳なさそうに軽井沢が謝った。

「私の下着ったのは、ぶきさんだったんでしょ。全部あやの小路こうじくんから聞いた」

「え?」

 罵倒されることを覚悟していた堀北は、身に覚えの無い謝罪に困惑した。

「堀北さんは伊吹さんが犯人だってことに気づいて、逃げようとしたところを問い詰めてくれたんでしょ? それで結果的に体調を崩したって……」

 予想もしていなかった軽井沢からの言葉に、堀北はハッとしてオレの方を向いた。

 何となく気まずくなり視線をらす。

「それに、先に平田くんから聞いたんだよね。堀北さんが、AクラスとCクラスのリーダーを見抜いたって話。それで今回、こんなにポイントが高かったんでしょ。だから、って言うか……いろいろごめん」

 そう言って軽井沢はすぐに女子たちの下に戻っていった。

「ちょっと待って。私が……リーダーを見抜いた、って。だって私はリタイア───」

「謙遜する必要は無いよ堀北さん。この結果は、間違いなく堀北さんの答えが的中していたからだからね」

 ほりきたの頭の中では疑問が膨れ上がっているだろう。このなぞだらけの試験において、ひとまず彼女を除く全員には一本の筋が通ったんじゃないだろうか。

「ちょっとあやの小路こうじくん、あなた何を───」

 大勢の生徒が混乱と歓喜に包まれる中、オレに声をかけようとする堀北。

 しかし、この試験の立役者である堀北は一気に多くのクラスメイトに囲まれてしまう。

「堀北さんチョーすごいじゃん! マジ天才!?」

「リタイアしたって聞いた時はどうなるかと思ったけど、全然おっけーだね!」

「ちょ、ちょっと!?」

 男女問わず質問攻めを受ける。合掌ってことで手を合わせて無事を祈りつつ退却する。

 いやぁ良かった良かった。クラスは1位を取ったし堀北は人気者になったし。

 あいつならい具合に切り抜けてくれるだろう。

 オレは巻き込まれるのを避け、さっさとで休ませてもらおう。

 そう思っていたんだが、またも死神に遭遇してしまう。

「少し顔を貸してもらおうか」

「不良みたいな誘い文句ですね、ちやばしら先生。断ってもいいんですか」

「嫌ならここで話を始めるだけだが、目立ってもいいのか?」

「……暑いんで手短にお願いします」

 茶柱先生に先導されるように船の反対側まで歩いていく。完全に人の気配がなくなり静寂になったところで話を切り出す。

「とりあえずこれで満足してもらえたと思っていいですかね」

「そうだな。まずは見事だったと言っておこう。素直に感心した」

「じゃあ今すぐ聞かせてください。『あの男』がオレの退学を要求した話は本当ですか」

 茶柱先生は柵に背中を預けると顔を上げて空を見つめた。

「……その話が本当だと言い切れる根拠はあるんですか?」

「私がお前のことを詳しく知っている。それが何よりの理由だと思わないか。他の教員たちはおまえの本当の実力を知らない。疑ってすらいない」

 それは確かに疑問に思っていた。入試問題でオレが目立つことをしてしまったのは事実だが、それだけで教員すべてがオレの内情を知ったという話ではなかったはずだ。

 でもそうなると、今度は順序がおかしくなる。茶柱先生は最近あの男が接触してきたように言っていた。やはりまだこの人は何かを隠している。

「有名な神話の話はお前も聞いたことがあるだろう。イカロスの翼」

「それがどうかしたんですかね」

「イカロスは自由を得るために幽閉された塔から飛び立った。しかしそれは一人の力ではない。父であるダイダロスが翼を作るように指示し、飛び立たせた。自らの意思で飛んだわけではない。まさに今のおまえにそっくりだと思わないか?」

「理解できませんね」

「あの男……いや、お前の父親はこう言っていた。きよたかはいずれ、自ら退学する道を選ぶ、とな。太陽に翼を焼かれ大海に落ちて死んでいったイカロスのような結末を迎えるということだ」

 それでイカロスの翼か。

「これからどうするつもりだ?」

「先生も知ってるでしょう。イカロスはダイダロスの忠告や助言を守らない」

 翼を焼かれながらも、イカロスは力の限り飛び続ける。自由を求めて。


    1


 船内に戻ったオレは、すぐに自室へと戻った。では疲れきったひらが横になって眠っていたので、起こさないよう静かに着替えて廊下へ。携帯に電源を入れると、繰り返し電子音が鳴り着信履歴が埋まっていく。全部ほりきたからだ。怖っ。

 ひとまずメールを返しておき、ラウンジで休憩でもしながら待つとしよう。

 遅かれ早かれ説明しておかなければ納得しないだろうし。

 それから数分して、怒り心頭の堀北が無言のプレッシャーを放ちながら合流した。

「この試験結果どういうこと? 一体どうなっているの?」

「皆目見当も付かないって顔だな」

「ええありえないわ。何もかもがありえない。聞かなきゃならないことが山ほどある」

 目の前に座り店員にドリンクを注文した堀北は、こちらの反応を待たず切り出した。

「全て聞かせてもらうわ。それが今回のことを黙っておく最低条件。譲歩はなし」

 堀北の意思でリタイアをさせられなかった時点で、こうなることは予想できた。

 隠し通していける話でもない。というか、堀北で情報を止めなければならない。

「何から聞きたいんだ?」

「あなたがこの試験で何をしていたか。それを教えて」

 思っていたよりも中々良い質問だった。すべてを聞きだせる一言だ。

「この特別試験が発表された段階でオレは追加ルール以外は眼中になかった。300ポイントをどうやりくりしていくかなんて、大体どれも似たり寄ったりなものだし、個人で操作できるものでもないからな」

「けれど、追加ルールは非常に困難な内容だったわ。普通にやってもリーダーの特定なんて出来ない。そうでしょう?」

「ああ。だからまず、オレはベースキャンプを決めるための探索に手を挙げた。そこで自由行動になることで誰よりも先にあるスポット地点に先回りするつもりだった」

「簡単に言うけれど、スポットの位置なんて誰にも分からなかったはずよ」

「そんなことはない。おまえは体調が悪くて船内に居たから分からなかっただろうけど、学校側はスポットに関するヒントを船上から既に与えていた」

 かつらも気づいていたが、船が島を不自然に高速旋回していた話をするとほりきたは黙り込んだ。通常の遊覧船の3倍近い速さだった。それに観光目的だけなら、アナウンスで『意義あるしきを~』なんて変な言い回しは普通しない。

 どこで見ていたのかは知らないが、こうえんもこのヒントには気づいていた。

 まぁ、高円寺に関しては考えるだけ時間の無駄なので、今はとりあえずいいだろう。

「そしてオレはどうくつ辿たどいた。そこが一番の重要拠点だと思ったからな」

「洞窟が一番の拠点? 川や井戸の方が便利にも思えるけれど?」

「大切なのはスポットそのものじゃない。どこにあるか、だ」

 川辺も井戸も、その周辺にはスポットは何も存在しなかった。だが一転、洞窟は近くに小屋と塔の2箇所もスポットが用意されていた。つまり、管理するにうってつけの場所だったということだ。説明することで堀北も一定の理解を示す。

「でも、キーカードを持たないあなたが洞窟に先回りしたメリットは何?」

「まあ、色々探るだけのつもりが、正体を知ってしまう結果になったんだけどな」

「葛城くんが油断して、リーダーだったことを気づかせてしまったわけね」

 そうじゃない、とオレは否定する。

ひこって男が居ただろ? 葛城にくっついて回ってた男、あいつがリーダーだ。オレは葛城と弥彦が洞窟を占有するところを目撃した。と言っても、直接その瞬間を見たわけじゃなくて、二人が洞窟を立ち去った後に占有の有無を確認したんだけどな」

 その時の状況を改めて説明する。目撃の瞬間、入り口に立つ葛城がカードを持っていたこと、奥から出てきた弥彦が合流して立ち去ったことも。

「その状況を見ればリーダーを葛城くんだと誤認するんじゃない?」

「本当にそうか? リーダーが人前でカードを出すなんてするか?」

 堀北がリーダーを務めたからこそ、に愚かであり得ないことかは分かるだろう。

「でもどうして……? なら、わざわざカードを手にしていたの?」

「それはそうせざるを得なかったからだ。葛城って男はオレが調べた限り相当冷静沈着で、石橋をたたいて渡るタイプ。そんなヤツがスポットを見つけてすぐに占有するリスクの高さを理解していないわけが無い。つまり占有したのは目先の欲に釣られた人物」

「それが───もう一人の存在ね」

 そう。どうくつを見つけたとき、葛城は当然占有などするつもりはなかったはずだ。にもかかわらず押さえていたのは、かつにも弥彦が占有してしまったことが原因だろう。まだ誰にも見られていないとは思いつつも、ヤツは保険を打った。自らがカードを持って周辺に姿を見せることで、万が一目撃者が居てもリーダーを誤認させられると踏んだのだ。

「Aクラスは拠点を除き、2箇所のスポットを押さえてたが、最終的にどれだけ占有してたかは確認していない。リーダーさえ当てればポイントは全部無効にできるからな」

 ひこに絞れた時点で、そこに労力を割くだけ時間の無駄ということだ。

「少し納得がいかないわ。早い段階でスポットの目星が付いていたのなら、多人数で行動してしまえばそんなトラブルにはならずに済んだんじゃない? 誰かに洞窟を見張らせておくだけでも十分な占有アピールにはなったはずよ。どうして占有なんか……」

「それがAクラスの欠点なんだろう」

 テストの総合点は高く、Dクラスのように授業態度でマイナス査定を受けることもない。

 だが、やつらのクラスは内部で対立している。つまり多人数で動けない理由があった。

「一見かんぺきに見えるクラスにも、今は大きな穴がある状態ってことだ」

 だからこそ、今回あっさりとオレの手がAクラスに突き刺さった。

 まぁこれは単純なラッキーだ。ミスに付け込んで得られた点数のようなもの。

 警戒していない頭上からの奇襲にAクラスは打つ手立てがなかったのだ。

「だからオレはこの段階でAクラスを除外し、Cクラスの動きに警戒を向けた。葛城は分かりやすいタイプだったが、りゆうえんに関しては全く未知数だったからな。実際、ヤツはオレ以上に情報を集め、全てのクラスのリーダーを見抜いていた」

「ちょ、ちょっと。全てのクラスを見抜いていたって……Dクラスだけじゃなく、BクラスとAクラスのリーダーも分かっていたの? でも、だとしたら変よ。私たちはペナルティを受けるどころか、大差で1位だった。その説明はどうするつもり?」

「この話は少し説明が難しいが、オレがおまえをリタイアさせた理由が答えだ」

「リタイアが、答え……? 一体何をしたの?」

「ああ、そう言えばまだ学校に返却してなかったか」

 オレはポケットから一枚のカードを取りだし、それをほりきたに手渡した。

「これはキーカードね。どうしてあなたが……!?」

 そのカードに刻まれていた文字を見て堀北がきようがくする。

「どうして、こんな……」

 カードに刻まれた文字、それは『アヤノコウジキヨタカ』と書かれてある。

「試験は公平でなければならない。だから、ルールは基本的に公平に作られている」

 それは至極当然のことだ。だから追加ルールのことをしっかりと確認すれば見えてくる。

 リーダーは一人しか選べない。変えられない。つまりそのリーダーにのみ占有権がある。

「リーダーが体調不良なんかでリタイアした場合、どうなると思う」

「それは……リーダーが不在になるわ。だから占有権も消える……」

「違うな。マニュアルにはこう書かれてあった。『正当な理由無くリーダーを変更することは出来ない』と。リタイアは正当な理由に当たると思わないか?」

 体調不良、で居なくなった時点で追加ルールが崩壊してしまうような作りのはずがない。新たなリーダーを立てるであろうことは予測できた。

 これは他のルールを見ることで紐解くことも出来た。例えばベースキャンプは一度決めた後正当な理由なく変えることが出来ないと定められているが、これにもちゃんと理由がある。例えば川辺を占有していたオレたちが油断し、他クラスに取られてしまったりすれば、その『正当な理由』にあてはまるだろう。拠点そのものに滞在できなくなるのだから、新たにベースキャンプを探せる仕組みになっていないと破綻する。

「だからあなたは、私を……?」

 ほりきたすずというリーダーがリタイアし、代わりにオレが立った。当然、試験終了時に当てるべきリーダーはオレということになる。リーダーは一人しか存在しないのだから。

「これがCクラスに知られながらも被害を免れた理由だ」

「けど待って。私がぶきさんにカードを盗まれたからそうなったものの、もし徹底してカードを守り通していたら───」

 そこで堀北は、事件当日に起こったことを思い出した。

「あの時わざとカードを落としたのね? じゃあ、もしかしてやまうちくんの行動も、伊吹さんにキーカードを盗む機会を用意したのも計画……」

 オレは堀北を泥だらけにして、キーカードを手放さざるを得ない状況にした。

「伊吹さんが、最初からそれを狙っていたとわかっていなければ、出来ないことよ……」

 そう。伊吹という少女が偶然Dクラスに拾われたのかそうじゃないのか。まずはそれを知る必要があった。だが、オレはBクラスにかねという男子が助けられた話を聞いた時にほぼ確信する。これはりゆうえんから送り込まれたスパイなのだと。偶然2人の人間が別々のクラスに助けられたなんて話を信じるほどお人よしじゃない。

「それに伊吹は、うそをつく時相手の目を見て話す癖がある」

 嘘が大きければ大きいほどに、その癖は顕著になると言えるだろう。

「嘘をつく時、相手の目を見る……? 普通逆じゃないの?」

「一般的には後ろめたいことがあるときは目を合わせない。でもあいつは逆だ。嘘を真実と思い込ませようと思うが故に目を見て話す。たぶん本人は気づいてないだろう」

 下着泥棒の話が出た時も、あいつはオレの目をぐ見て話していた。

「恐らくキーカードを探す目的で物色していたんだろうが、そのついでにDクラスをかく乱してやろうというねらいがあったのかも知れないな」

 かるざわであったことや、いけかばんに入れられていたことは単なる偶然と見るべきだろう。

「けど、伊吹さんはわざわざキーカードを盗み出したのかしら。私の名前を確認するだけにしておけば何も分からなかったかも知れないのに」

「最初はそのつもりだっただろうなぶきも。だが、予期せぬトラブルが起きた」

 そしてそれが、Cクラスのリーダーを突き止めるきっかけになってしまった。

「伊吹はかばんの中にデジカメを用意していた。恐らくキーカードを撮影するためだろう」

「デジカメに……撮影……? どうしてそんな手間を?」

「写真があれば、誰の目にも明らかになるだろ? リーダーの存在が。確信が得られることで初めて得られる利益があったってことだ」

「よく、分からないわね……りゆうえんくんが伊吹さんを信用しなかったってこと?」

「そうじゃない。この話がCクラスの中だけのことだったなら、デジカメで撮影したり盗んだりする必要は無かったはずだ」

 つまり伊吹一人の発言だけでは信用しない人物が、確実な証拠を望んでいた。

「ここからは何も証拠はない。試験の結果から導き出されるオレの予想だと思って聞いてくれ。この試験、終了時点でAクラスは270ポイントを所持していた」

 それはつまり、試験中1ポイントも使わなかったということだ。

「AとCが裏で繋がっていた。Cクラスは自らのポイントを犠牲にし、Aクラスに必要なものを買い揃える。更にCが使っていた道具を全て譲渡することで、Aクラスはポイントを使わずに1週間過ごすことが出来た。そんなところだろうか」

 その繋がりの延長上、伊吹が証拠を入手し、Aクラスの誰かに情報を流す。

「ちなみにオレがCクラスのリーダーを的中させられたのは、大半の生徒がリタイアしていたからだ。島に残っていた生徒の誰かが必然リーダーということになるだろ?」

「だとしても朝の時点では誰が残っていたかまでは分からなかったはずよ」

「いや、ほぼ100%龍園が島に残っていることは気づいていた」

 それは伊吹が地面に埋めた無線機を隠していたのを見つけたときに理解した。龍園が伊吹と連絡を取り合うために用意していたものだと。リタイアした人間が無線機を使えるはずもない。つまり、連絡を取り合うために必ず島に滞在している、という証明をしてしまったことになる。実際、無線機はヤツがバカンスを楽しんでいた時、テーブルの上に無造作に置かれていた。他の誰が管理するでもなく、自分自身で。誰も信用しない男のミス。

「全く……言葉が出ないわ」

 事実と向き合い、ほりきたはそう答えた。この試験をオレなりに総括するなら、Aクラスは最初のミスが最後まで響いた上に、内部分裂の影響でく機能しきっていなかった。Bクラスは毒にも薬にもならない徹底した守り重視の試験運びをした。それは正しい。だが唯一のミスは、お人よし連中が多い故にかねという存在を内部に許してしまったこと。そして信じきったこと。どう運んだのかは分からないが、金田は証拠を入手し龍園に教えたんだろう。Aクラスがポイントを得てないところを見ると、物的証拠が得られなかったからだと思われる。

 そしてCクラス。最後にオレがリーダーになることで被害を避けることは出来たが、スパイを送り込みすべてのクラスのリーダーを的中させる離れ業をやってのけた上に、Aクラスとは何らかの交渉で利益を得ているはず。一番警戒すべきは龍園かもしれないな。

「気に入らないわ。私を駒として動かして、散々利用したってことでしょう」

「ああ。それは否定できない。二度と近づくなと言われても驚かない」

 それだけのことをした自覚はある。

「じゃあな、オレは部屋に戻るぞ。さすがに疲れた」

「待って。まだ話は終わっていないわ」

「何だよ。出来ればオレも部屋でゆっくり過ごしたいんだが」

「それは私に全ての説明をしてからよ。まだ話すことがあるんじゃない?」

「さて……何かあったか?」

「あなたが、この特別試験に挑んだ理由よ。一人で戦ったこととか、私を利用したことはこの際どうでもいいわ。事なかれ主義のあなたが参加した理由が知りたい」

「……なるほど」

 もしかしたら、今までの説明はほりきたにとってほど重要ではなかったのかもしれない。

「今回の件であなたがすごいことは、もう疑う余地も無く理解させられた。あなたが手を貸してくれるのなら、Aクラスを目指すことも十分現実的なものになる。でも、行動理念はなに? どうしてこんなことをしたの?」

 流石さすがにオレ個人の問題を、堀北に話す気にはなれない。

 今回はちやばしら先生からげんを引き出すためにやっただけに過ぎないからだ。

「体調が悪い中、一人で戦い抜こうとするおまえに心を打たれたからだよ」

「……普通言わないわよ、そんな分かりやすいうそ

「つまり教える気は無いってことだ」

 オレはを引き立ち上がると、手を差し伸べる。

「Aクラスに上がるための手助けをしても構わない。だが、条件を一つ付ける。それはオレのことをせんさくしないことだ。今後一切触れないことを約束するなら手を貸そう」

 どうする? と確認するように問いかけると、堀北は迷わず手を取った。

「あなたが話したくないのなら仕方ない。詮索しないことで手を貸してくれるというのなら拒む理由は無いわね。事なかれ主義の、事なかれな過去に興味はないわ」

 その手を、堀北がしっかりと握り返してきた。

 オレはオレのために。おまえはおまえのために。

 このどん底にいるクラスを、浮上させるための戦いが始まろうとしていた。

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