ようこそ実力至上主義の教室へ1年生編 Short Stories

〇見えない闇(7巻アニメイト特典)

 あやの小路こうじが父親と接触してしまった。

 その事実を重く受け止めながら、私は廊下を歩いていた。

「……理解した、とは?」

 前後不覚に陥りながらも、冷静な教師を装い話を進める。

ちやばしら先生。あなたがオレに言っていたことのほとんどはうそだった、ということですよ」

「何を言っている」

 ダメだ。私の目の前にいる子供を、普通の高校一年生と見るべきじゃない。

「あの男は茶柱先生に接触などしていない。当然、退学にするよう迫ってもいない」

「いいや、おまえの父親は私に協力を求めてきた。事実、私がおまえに教えたように退学を迫ってきたはずだ」

 内心で焦りを見せる私を、完全に綾小路は見抜いている。

「もう化かし合いはめましょう。さかやなぎ理事長は全て話してくれましたよ。オレが入学してくることが決まった段階で、あなたに話を持っていっていたことを」

 だが、私の隠し通したかった事実に気づいたと綾小路に指摘される。

 その瞬間、気が緩んだ。

「……話したのか、理事長が」

 思わず、本心からそう聞き返してしまった。

 さかやなぎ理事長が不用意なことをするはずがないと知っていながら、ミスを犯した。

 あやの小路こうじは一瞬目で笑った気がした。

「綾小路、カマをかけたな……?」

「ええ。理事長はちやばしら先生に関しては何も言いませんでした。が、つながっているのは明白になりましたからね」

 この場が支配されていくのが分かる。特殊な環境で育ってきたとだけ教えられていたが、一体なにをどうすれば、こんな得体の知れない子供が出来上がるのか。

 優秀な生徒は数多く見てきた。だが、そのどれにも当てはまらない未知なる人間。

 これまでの私のうそを暴くかのように推理を披露する綾小路。

 どうすればいい。どうすれば、この子供を利用することが出来る。

 そのハードルさえ越えることが出来れば、私はAクラスに上がれるはずだ。

 それで、過去を塗り替えられるはずだ。

 だから───どんな手を使ってでも、綾小路を利用しなければ。

 綾小路にも言い逃れ出来ない、決定的な何かをつかませてしまえば……。


 私は日々、己の中に潜む見えない闇と戦っている。

MF文庫J evo

関連書籍

  • ようこそ実力至上主義の教室へ

    ようこそ実力至上主義の教室へ

    衣笠彰梧/トモセシュンサク

    BookWalkerで購入する
  • ようこそ実力至上主義の教室へ 2

    ようこそ実力至上主義の教室へ 2

    衣笠彰梧/トモセシュンサク

    BookWalkerで購入する
  • ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編 1

    ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編 1

    衣笠彰梧/トモセシュンサク

    BookWalkerで購入する
Close