ようこそ実力至上主義の教室へ 7

〇龍園翔の独白


 俺が自分自身を異常者だと気づいたのは、小学校に上がった直後のことだ。

 遠足の休憩地で見つけた一匹の大きなへび

 クラスが大騒ぎになったのを覚えている。

 遠巻きにかんするヤツ、おびえるヤツ、あるいは興味のないヤツ。

 反応は様々だったが、一貫して同じだったことがある。

 それは誰も蛇を排除しようとはしなかったことだ。

 大人ですら冷静さを欠き、誰に助けを呼ぶだのと連絡を取り合うだけ。


 その蛇の頭に、俺は手近にあった大きな石を振り下ろした。

 まれるかも知れない、という恐怖はなかった。

 う悲鳴、慌てふためく教師。

 そんなものはどうでも良かった。

 全員が恐れる蛇をちくしヒーローになりたかったわけでもない。

 ただ、こんなにも恐れる必要があるのかと疑問に思っただけだった。

 自分自身の中にある未知なる存在とのファーストコンタクト。

 そして同時に知った。

 相手が屈する瞬間、脳内を満たす大量のアドレナリンがぶんぴつされることに。

 これが、俺にとって初めての明確な勝利だった。


『恐怖』と『えつ』は表裏一体。


 紙一重の世界にありやがる。


 この世界は『暴力』によって支配されている。

 この世界の『実力』は『暴力』の強さで決まっている。


 力尽き、ぐちゃぐちゃに肉片をらしたがいを見て、俺は愉悦を感じた。


 だが異質な存在は、多数から敵意を向けられる。


 その時以来、内にも外にも敵が大勢出来た。


 時には大勢に囲まれ、ひたすら暴力を受け続けたこともあった。


 あらがえない力の前に崩れ落ちたことも一度や二度じゃない。


 それでもオレは恐怖しなかった。


 どうやってふくしゆうし、逆転するかだけを考えた。


 そして最終的には───すべてが俺の前にひれ伏した。


 本当の実力者とは、るいなき暴力を持つ人間のこと。

 そして『恐怖』を克服した人間のことだ。


 だがここで一つの問題が起きる。


 それは俺が実力者になるに従って芽を出してきた。

 日々えつを得ることが難しくなると同時に、退屈を覚えたのだ。


 結局、俺にかなうヤツなど存在しない、という退屈。


 俺のこの悟りを覆すような、そんな存在。


 もしもあるとしたら───それは『死』だけだろう。

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