プロローグ ──いまだ天魔は歌われない
それはたぶん、遠い昔の
あのとき
「血を
と、
すると少女は答えた。
「吸わないわよ。あんたの血なんて」
ひどく。
ひどく美しい少女だった。
まるで
「じゃあどうするの?」
僕が聞くと、彼女は答える。
「入れるのよ、毒を」
「毒?」
「そう。毒」
そう言って、彼女は
「私の毒を、あなたに入れる。あなたが決して、私から
そして彼女は
悪戯っぽい瞳のまま、その唇をそっと、僕の
「
と、彼女は言ったが、それは
「痛っ」
と、僕が言う。
すると彼女は僕の首筋に
「いくよ?」
と、彼女が言うと、毒が首筋に入ってくる。
それがわかる。
毒が。
《
そしてそのすべては、すぐに終わった。
彼女は離れ、やはり楽しげな、嬉しそうな顔でこちらを見つめる。
「はい、終わり~。これであなたは私から離れられない。生きるときも、死ぬときも、ずっと
そう問いかけられて、僕は答えた。
「……覚悟なんて、できてないよ」
「あは。でももう、
なんてことを
それに僕はどぎまぎしながら、
「いきなりそんなこと言われ……」
「あなたに
「そんな」
「いいから、愛してるって言ってよ。そしたらそれで、《
彼女はそう言うと、少しだけ不安そうな顔になる。
それに僕は、
「…………」
僕は、答えてしまう。
彼女の、そんな顔を見たくなかったから。
いつも自信たっぷりで、いじわるで、わがままな彼女の、そんな顔を見たくなかったから。
だから僕は、答えてしまう。
「……嫌いじゃ、ないよ」
「好き?」
「うん」
「じゃあ言って」
「…………」
「言ってよ、大兎」
それに僕はうなずいて、
「……うん。僕も……僕も君を、愛してるよ、ヒメア」
そう、言った。
彼女の名前を、
その
なにもかもが変わったのがわかった。
世界と、そして自分の体内を
かかったのだ。
呪いが。
かかったのだ。
《
それに彼女は嬉しそうに笑う。
その笑顔を見るのが、僕は好きだった。
彼女の笑顔を見るのが、僕は好きだった。
だから僕も
彼女を見つめて、微笑む。
そしてもう一度、
「好きだよ、ヒメア」
そう、言おうとして。
僕の物語は、始まった。