終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか? #02

『今はもう、遥か遠い夢──A』-the fellowship-


 輸送ほうというやつは、世間で思われているほどには便利なものではない。

 りよくしきによってきよはなれた二か所をじゆみやく的につなぎ、的な物理かいろうを開いて〝荷物〟を通す。これによって、本来何か月もかかるような長旅を省略して、遠方に物資や人材を送り届けることが可能になる──なるほど、それだけを聞けばまさしく夢の技術だ。人類の進化もここにきわまれりといった感すらある。

 しかしもちろん、そこまで世の中は甘くない。太陽や月の位置にあわせて儀式場そのものを組みえなければいけなかったり、儀式参加した術師全員の魔力を焼き切れる寸前までおこさないと発動しなかったり、転移対象が生物であった場合は大きながかかったり。夢の技術のかげには、いつだって厳しい現実がかくれている。

 そんなわけだから、この大陸で輸送魔法のおんけいを受けられる者は、二種類に限られている。重大な情報をじんそくに伝える必要のある通信局の人間と、たんあるいは極少数せいえいせんきようを変えることができる一部の軍人や冒険者アドベンチヤラーくらいのものだ。


 ──皇国領辺境ティフアナ地区のはずれ、ほうされた山小屋。


「正午に集合、って話じゃなかったか?」

 小屋の中には、三人の男女が集まっている。

 そのうち一人であるところのヴィレムは、つかれた顔で部屋を見回した。何度かくにんしたところで、そこにいるのは彼自身をふくめて三人だけ。本来そこにあるべき顔の数には、四つほど足りていない。

ほかの連中はこくか? ったく、しょーがねーな」

「いやいやいや!? しれっと何をずうずうしいこと言ってんだよ!? 自分だってかたむいてからここに来たよな?」

「そんなん、お前らがだまってりゃあとの四人にはバレねぇだろ?」

「どこから出てくるんだよその発想!? 口裏合わせたところで事実は変わらないし、そもそも僕らが黙る理由がないよな!?」

「どうでもいいけどキンキン声出すなよスウォン。輸送魔法で大陸横断した反動で、さっきから頭痛が治まらねぇんだ」

だれの、せいだと、思ってるんだよ!?」

 一通り声をあららげてから、呪蹟師ソーマタージストの少年──スウォンが力なくかたを落とした。

 ふわふわのきんぱつあわあおひとみがらそうに中性的な顔立ち。とまあ、ここまではとりあえず異性に人気の出そうな容姿をしているのだが、時も場所も選ばず常に純白のマントをまとい、しかもそのすそを引きずっているせいで、色々と台無しになっている。

「オマエと話してると、いつもこうだ。この僕がこうまでペースをくずされる相手なんて、他にはいないぞ──〝黒瑪瑙のブラツクアゲート・剣鬼ソードマスター〟」

「その呼び名はやめろって前から言ってんだろ?」

「またわけのわからないことを言う。格好いいのに、何が不満だ。

 いや、格好いいとは言っても、もちろん僕の極星のメイガス・オブ大術師・ポーラスター〟には大きくおとるわけだけどな。そこは格のちがいだから仕方がない」

「オーケーそろそろ黙れ、別の意味で頭痛がひどくなる」

「む。それはどういう意味だ!?」

 ぶつくさとスウォンは文句を言い続けていたが、ヴィレムはそれ以上構わずに、部屋にいるもう一人へと目を向けた。

「結局来たんだな、リーリァ」

「ん? ?」

 ビスケットをかじりながら何やら本を読んでいた少女が、顔を上げる。

 げたれんのような色合いの赤毛が、ふわりとれる。

げてもいいって言っただろ?」

「あー、ひゃはらひ?」

 口にくわえていたかけらをぼりぼりくだき、

「しょーがないじゃないの。あたしがやんなきゃ誰がやんの」

「俺がやる」

「またまた、できもしないくせに」

 ぐ、と言葉をむ。

 かざりのひとつもなく事実だけをきつけられると、返す言葉がない。

「すみませんねぇ軽い気持ちで戦場に立っちゃって。なにせアタクシ、前代未聞の才能に満ちあふれちゃった大天才でありましてからにぃ?」

 いやみたらしく言って、リーリァはけけけと笑う。

 毒気をかれ、しかし苦味だけはしっかりと口の中に感じながら、ヴィレムはうめく。

「お前なぁ」

「お前とかゆーな。亡国とはいえ、余は正当なる王家の血に連なる者ぞ。ちゃんと敬え」

「へいへい。ひめぎみにおかれましては、今日も変わらず人格が最低でいらっしゃるようで」

「あらやだ。周りの人間のしようくさってるせいかしらん? やっぱり、日ごろ付き合う仲間は選んだほうがいいわねぇ」

「そーかい。だったらこいつはいらねぇでありますな」

 ふところから取り出した、クッキーの包みを軽くってみせる。

「アルマリアに『全員で食べて』つって持たされたもんだが、仲間じゃねぇやつにまで分ける義理はねぇからな」

「アルちゃんのクッキー!?」

 がば、とリーリァは身を乗り出す。

「あたしたち、永遠に仲間よね、ヴィレム!」

「あー。人格・性格・性分・性根から心根に至るまでお前はめられるところのまるでないやつだが、その変わり身の早さだけは少し尊敬してるぞ」

「尊敬ついでに、むすめさんをあたしにくれたりしない、お父さん?」

勇者ブレイブなんてぶつそうなやつにうちの子を任せるわけにはいかんな」

「む。それじゃ仕方ない」

 言うが早いか、リーリァはふくろをひったくると、ビスケットのうつわに中身をぶちまけた。

「全員分だからな。エミたちの分もとっとけよ」

「わかってるわかってる」

 生返事をし、ぱくぱくとクッキーをほおばり始める。いつしゆんおくれて、「ずるいぞ!」とさけんだスウォンがそれに参加する。

「お前らなあ」

 いつも通りといえばいつも通りに、仲間たちとわす軽口。

「……なあ」

「んー?」

「お前はどうして戦うんだ、リーリァ」

「またそれ? もういいじゃない、どうだって。理由がなくたって人間は戦場に立てるし、才能があれば立派に戦えます。それでいいじゃないの」

「お前が本気でそう言ってるなら、確かに、それでいい。なつとくできないなりに、受け入れるさ。けどな、お前の口ぶりを聞いてると──」

うそいているように思える、っての? どんな噓?」

 それが分かっていれば最初から苦労はないのだ。

 答えを返せずにいると、リーリァは「ほーらね」とえらそうに言い放ち、

「あんたは黙って、あたしの後ろでせせこましくつゆはらいだけしてればいいの。あとあれだ、セニオリスの調整と、例のマッサージもやってほしいかな。どうせあんたの存在価値なんてそのへんにしかないんだから、大人しく自分のできることだけやってなさい」

 ふふん、とこれまた偉そうに鼻を鳴らしてみせる。

 何も言い返せない。

 言いたいことは、いくらでもあるのだ。例えば、いつものように楽しそうに笑っているリーリァのかおが、なぜか今にも泣き出しそうにも見えている──けれど、その理由が分からないから、てきすることもできない。

 どんなに仲間として共に戦っても、今のような時間をじゃれあって過ごしても、リーリァが何を考えているのかが分からない。

「なあ」

「んー、今度は何」

「俺、やっぱ、お前のこときらいだ」

「あー」

 にかっ、と。リーリァは満面のみをかべて、

「知ってた!」

 なぜかまんげに、そんなことを言った。


 リーリァが何を考えていたのか。

 何を隠していたのか。

 ヴィレムは最後まで、知ることができなかった。

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