プロローグ 電柱の下の女子高生
二つ年上の、同じ会社に勤める女性だ。名前は
後藤さんは
「男がいるなら最初から言えやァ……」
もう
そう、デートに行ったのだ。後藤さんと。勤続5年目にして、ようやく彼女をデートに
とにかく、このチャンスを
そして、満を持して。俺は後藤さんを誘った。
「このまま、俺の家に来ませんか」
お
そして、首を横に
「会社では秘密にしているんだけど、私、
*
「じゃあなんでデートに来たんだよッ!!!」
「ああもう
「一万回でも言ってやるよぉ……」
「一万回も同じ話聞きたくないんだけど」
俺がビールを
「そのへんにしときなよ」
「
「酒が回ってきた後の方がキレてるじゃん。
橋本は他人事だからそんなことを言えるのだ。今日は飲まないとやっていられない。
後藤さんにフラれた直後、俺は
つまり、俺が彼女と知り合った時にはすでに男がいたということだ。
「馬鹿みてぇだ……」
男のいる女に五年も思いを寄せてしまっていた。
「だまされた……俺の恋心を返せよ……」
半ば責任
それに気付いた
「急に呼び出されたと思ったら失恋の
「いいだろ、お前の
「ノロケじゃなくて愚痴だよ」
「聞いてる方には同じようにしか聞こえねえんだよ!!」
なんだかんだと言いながら、橋本は呼び出しに応じてくれたし、こうして俺の愚痴を聞いてくれている。
「あぁ……いけると思ったんだけどなぁ」
「男がいるんじゃ無理だわな。それも五年モノでしょ」
「あの
「馬鹿、声がでかい」
「俺の
「リアルな
「どうせならヤッてからフッてほしかった」
「絶対そっちの方がショックでかいと思う」
酒を飲んで
「まあ、僕は疑問が解消されてスッキリしたけどね」
「疑問って?」
「いや、あんなに美人な後藤さんに男がいないわけないって思ってたんだよね。しかももうあの人28でしょ? そろそろ女性は
「そう、だからこそ押せば行けると思ってたんだよなぁ……男がいるなんて知らなかったからよぉ……あ、お姉ちゃん! ビールおかわり」
俺が手を上げて居酒屋の店員に注文をすると、橋本は
「飲みすぎだって。僕、今日は終電前には帰るからね」
「わァってるって」
「どんだけ吉田が体調悪くしても、
「
橋本の忠告も適当に聞き流し、浴びるようにビールを飲んで、俺は失恋の苦しみから一時的に解放されたような気分になっていた。
*
「おぇ……ンッ……う、うェェ……」
道路の
居酒屋から出て、橋本と別れ、タクシーに乗ったところまでは良かった。タクシー車内の独特な
タクシーを降りてすぐに、嘔吐した。つまみで食った肉やら野菜やらが出た。
少し歩いたところで、また嘔吐した。アルコール
そして、今、家の近くの道路でまた嘔吐している。黄色い液体が、出た。苦い。
「クソォ……後藤ォ…………」
全部あの女が悪い。
よろよろと立ち上がって、数歩歩くとまた吐き気が来る。しかし、もう吐くものなどないということも分かっているので、しゃがみ込むのはやめた。
吐き気を
ぼんやりとする目で電柱を見つめながら歩いてゆく。すぐに、その電柱の
……酔っ
都会の駅の近くだと、地面に人が転がっていることはよく見る光景だが。自分の家の近所で人が路上でうずくまっているというのは初めてだった。
近付いてゆくと、どうやらそれが女性であるらしいことと、しかも女子高生であるらしいことが分かった。なぜなら、その人物は『制服』を着ていたから。
……コスプレではなさそうだ。
ちらりと
「おい、そこの。そこのJK」
気付けば、声をかけていた。
女子高生は
「こんな時間になにしてんだ。家に帰れ、家に」
俺が言うと、女子高生はぱちくりと
「もう電車ないし」
「朝までそこにいんのか」
「それも寒い気がする」
「じゃあどうすんだよ」
女子高生は、うーんと
よく見ると、なかなかに
首を傾げていた女子高生は、スッと首の角度を
「おじさん、
「おじ……お前なぁ」
〝おじさん〟と呼ばれたことと、その女子高生の
「会ったばっかりの〝おじさん〟についていく女子高生があるか!」
「でも今日帰るところないし」
「駅まで戻ればカラオケとかネカフェとかあるだろうが」
「お金もないの」
「じゃあ俺の家には
俺が訊くと、女子高生は、「あー」と声を上げて、すぐにひとり
「ヤらせてあげるから泊めて」
俺は絶句した。
最近の女子高生はみんなこんな感じなのだろうか。いや、絶対にそんなことはないはずだ。こいつが明らかにおかしいのだ。
「そういうことを
「冗談じゃないって。いいよ?」
「こっちが願い下げだ。ガキくせぇ女を
「ふぅん」
女子高生は頷いて、今度はとびきりの
「じゃあ、タダで泊めて」
「……」
再び、俺は絶句した。
「お
上げてしまった。あの場で言い合いを続けて、近所の
「いいか。お前が泊めろって言ったんだからな」
「うん? そうだよ」
「
「はは、ウケる。分かってるって」
笑っている場合ではない。このご時世、男と女でトラブルが起こると
「部屋
「男の一人部屋が綺麗なもんか」
「綺麗な部屋もあったよ」
女子高生の発言に、俺は
彼女は、あっけらかんとした様子で俺を見て、首を傾げた。
「なに?」
「……いや」
俺には、関係のない話だ。
こいつが今までどんな生活を送っていようが、どういった
外出着のままベッドに横になる。
いろいろなことがありすぎて、今日はもう
「あ、
「寝る……お前も好きにしてろ」
ぼんやりと返すと、女子高生はベッドにそっと
「ヤらなくていいの?」
「何度も言わすな……ガキは好みじゃねえんだよ……」
「そうなんだ」
「なにか、しておいてほしいことある?」
しかし、それは言葉にならなかった。
しかし、ぼんやりとする意識の中、
「
気付いたら、それだけ口にしていた。
「女の作った味噌汁が飲みたい」
そう言ったところで、俺の意識は