エピローグ
「ロゼリア! そんな、どうして、君が──」
「──泣かないで、レオニス」
虚無に
「──一〇〇〇年後の世界に、わたしは
だからレオニス、きっと、わたしを見つけて、ね──
「……絶対だ! 絶対に、君を見つけてみせる、ロゼリア!」
〈
◆
〈ヴォイド・ロード〉の消滅により、〈ヴォイド〉の
統率体を失い、動きの鈍くなった〈ヴォイド〉の群れを、〈聖剣学院〉の〈聖剣士〉たちが次々と討ち取った。
積み重なった〈ヴォイド〉の
骸さえ残さず、その名の由来となった、虚無のように──
──〈聖剣学院〉のフリースヴェルグ女子寮。
リーセリアの部屋のベッドで。レオニスは半日ほどを過ごしていた。
(……く、そ……魔王の俺が、筋肉痛とは……)
魔剣〈ダーインスレイヴ〉に封じられた、剣士としての力を使った反動だ。
とくに鍛えていない、十歳の肉体は、
(おまけに、魔力もすべて持っていかれた……)
……まったく、とんでもない〈魔剣〉だ。
そんなわけで、レオニスは退屈しのぎに、映画を
この時代の娯楽は、一〇〇〇年前の演劇などよりも、はるかに面白い。はじめは図書館にあるものを借りていたのだが、それを観終わると、今度はリーセリアのコレクションしていた映画を観はじめた。
貴族と平民のラブロマンスで、なかなか過激なシーンも多い。
(……こういうのが好きなのか、意外だな)
と、そんなことを思いつつ、ベッドでごろごろしていると、
「レオ君、ご飯買ってきたわよ……って、な、なな、なに観てるの、レオ君!」
部屋に戻ってきたリーセリアが、映像装置の画面を見てあわてふためいた。
「もう、勝手に
端末を操作して、映像を切られてしまう。
「……っ、これからいいところなのに──」
レオニスは文句を言った。
「だーめっ。映画なら、
「いえ、あれは正直面白くなくて……」
刀を持った男たちが斬り合いをする娯楽映画だ。
殺伐としていて、あまりレオニスの好みではなかった。殺伐とした世界は一〇〇〇年前にもう
リーセリアは、ぽすん、とベッドの上に座った。
「市街区の復興が始まっているわ。だけど、破壊された動力部の修復にはまだ時間がかかるみたい。しばらくは、この海域にとどまるそうよ」
「そうですか……」
「それと、ニュースでは、不完全な状態で目覚めた〈ヴォイド・ロード〉が、自然消滅したってことになってるみたい」
本当は君が倒してくれたのに──と、その表情は少し不満そうだ。
「構いません。僕も、正体を知られるわけにはいかないですしね」
レオニスが言うと──
リーセリアは、じーっと彼の顔を見つめて、
「……君は、何者なの?」と、
「言ったでしょう。封印から目覚めた古代の魔導師、ですよ」
「でも、剣を使ってたわ」
「……」
サッと目を
「……まあ、いいわ」
彼女は肩をすくめると、
「ほら、これ、院長のフレニアさんに預かってきたわよ」
「……ん?」
肩掛け
「これは?」
「勲章だって。孤児院の子供たちが作ってくれたのよ」
紙で作られた、不格好な青い花──
「……勲章、か」
レオニスは思わず、苦笑した。この場所を、〈魔王〉の守るべき〈王国〉と規定してしまったが、それもまあいいか、という気分になる。
(〈魔王〉に敬意を払う者は、誰であろうと
と──
「……と、ところで、レオ君」
リーセリアが
「なんですか?」
「えっとね、その、わたし、あの〈聖剣〉を使うと、血を消耗するみたいで……」
「まあ、そうでしょうね」
なにしろ、自身の血を
「だから、その……欲しく、なって……」
「我慢するんじゃなかったんですか?」
「……~っ、い、意地悪……」
レオニスが
頬を紅潮させ、切なそうな表情で見つめてくる。
「……わかりました。少しだけ、ですよ」
「お嬢様、少年の様子は……って、えええええええええっ!」
突然、ノックもなしに入ってきたレギーナが目を見開く。
「……~ふああっ、レ、レギーナ!?」
「見舞いに来たのだが……すまない、邪魔をしてしまったようだ」
「お、お嬢様、少年となにをしてたんですか!」
「……~っ、ち、違うのっ、看病! そう、看病をしてただけで……」
「あのねセリア、そういうのは、寮則違反になるのよ……」
困ったような表情で言う、エルフィーネ。
「せ、先輩、違うんです!」
そんな
──〈ヴォイド〉、〈聖剣〉、そして、
(……世界は、虚無の星と共に再生する、か)
〈ヴォイド〉に
(……なんにせよ、〈魔王軍〉の再興を急がねばな)
破壊された〈聖剣学院〉の建物を眺めながら、今後の計画を考える。
これが、波乱の日々の始まりにすぎないことを、彼はまだ知らない。