聖剣学院の魔剣使い 1

プロローグ


〈聖神暦〉──四四七年。

 神々と精霊と魔術が地上を支配していた、神話の時代。

 魔王軍と六英雄の戦争は、終局を迎えようとしていた。

 骨。骨。骨。無数の骨の残骸が、黒いしように覆われた大地を埋め尽くしている。

「──この〈死都ネクロゾア〉も、ちる運命か」

 黒の要塞〈デス・ホールド〉の最奥にある、玉座の間で──

 不死者の〈魔王〉──レオニス・デス・マグナスは、瘴気混じりの息を吐いた。

 漆黒のローブをまとったその身は、じゆはらんだ黒い霧に覆われている。まるで、死そのものが具現化したようなその姿は、人類にとって畏怖と恐怖の象徴であった。

 だが、今や不死者の魔王アンデツド・キングの領地たる〈死都〉と暗黒の大地は、人間と亜人、精霊の連合軍によってじゆうりんされ、滅亡を待つのみだ。

 神々に祝福された〈六英雄〉は、すでに各地に存在する魔王軍の拠点、鬼神王ディゾルフの〈がん城〉、獣王ガゾスの〈鉄血城〉、異界の魔神アズラ=イルの〈異次元城〉、竜王ヴェイラの〈魔竜山脈〉、海王リヴァイズの〈海底大要塞〉を陥落させた。

 残存する最後の拠点は、この〈死都ネクロゾア〉のみだ。

 魔王レオニスは、右手の水晶球に映し出された戦場に目を落とした。

 カタ、カタ、と骨の鳴る音が、吹き渡る風に乗って響きわたる。

 荒野を埋め尽くす、無数の骸骨兵スケルトン・ウオーリアの軍勢。

 レオニスの魔力によって生み出された、剣もやりも効かぬ、不死者の兵団だ。

 しかし、万を超えるその軍勢は──

 戦場を吹き荒れる暴威によって、たねもみのようにつぶされた。

「六英雄……!」

 戦場の中心に現れたのは、輝く光をまとった、巨大な樹木だ。

 大地より突き出した樹の根が、骸骨兵を吹き飛ばし、粉々にたたき潰してゆく。

「大賢者アラキール。貴様までが人の身を捨て、神々の使徒に堕するとは──」

 魔王レオニスは忌々しげにつぶやき、手の中の水晶球を握り潰した。

 神々の祝福をその身に受けた六英雄は、無限に進化する力を手に入れた。

 六英雄一の知者とたたえられし、大賢者アラキールは、〈精霊の森〉の守護者たる〈神聖樹〉をらい、その力を我が物としたのだ。

「俺が出よう。我が闇のほのおで焼き尽くしてくれる」

 魔王レオニスはじようを手にし、漆黒のローブをひるがえして、玉座より立ち上がった。

「──待たれよ、マグナス殿」

 と、背後からかけられたその声に、魔王は振り返る。

 漆黒のおおかみがローブの裾をくわえ、レオニスを見上げていた。

 ブラッカス・シャドウプリンス。

影の王国レルム・オヴ・シヤドウ〉の王子にして、魔王レオニスの長年の戦友だ。

「御身は最後の〈魔王〉。ここで散ることは、あのかたも望みますまい」

 レオニスは足を止め、魔杖を握りしめた。

「──そう、であったな」

 魔王レオニスは思い出す。

 ──〈はんぎやくの女神〉が、彼に与えた使命を。

〈叛逆の女神〉は予言した。

 一〇〇〇年の後。天の星墜ちる時、人の子の器に、我が力を宿す者が現れん──と。

 その女神の器を見つけだし、彼女の〈魔王軍〉を復活させる。

 それが、最後の魔王に与えられた使命だ。

「人間どもよ、たびは甘んじて敗北を受け入れよう。だが、我は不死者の王。一〇〇〇年の時を越えてよみがえり、この玉座を取り戻すであろう!」




 ──そして、不死者の〈魔王〉は、地の底の大れいびようにその魂を封印した。

MF文庫J evo

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