プロローグ 嘘と虚構と宣戦布告

    ♯

 ──コツコツと新品の革靴が音を立てる。

 俺の一挙手一投足に数万の視線が集中しているのが振り返らなくても肌で分かる。

 ここしま──通称〝学園島アカデミー〟の入学式典では、その年の入試成績トップの一年生が短いスピーチをするのが慣例になっている。実際そういったプログラムは今年もあって、つい先ほどまばらな拍手と共に終了したばかりなのだが……しかし現在、会場内の空気はそれとは比較にならないくらい大きな〝熱〟を帯びていた。

「…………」

 そんな熱気を平然と切り裂きながら、静かな足取りでマイクの前に歩み寄る俺。

 小さく息を吸い込んで、それからぐるりと周囲を見渡してみる。──この島最大のイベントホールだと聞いているが、どうやら席は全て埋まっているようだ。友達とひそひそ話しているやつ、暇そうに欠伸あくびをしているやつ、手元で端末デバイスいじっているやつ。興味のないフリをしている連中も、意識ばかりは間違いなく俺に向いている。

 だが、それも当然の話だろう。

 国内最難関と言われる学園島アカデミーの編入試験にて歴代トップの成績をたたき出し、かつ転校初日にとんでもないことをやらかしてほんの一瞬で〝学園島アカデミー最強〟に成り上がった男──それが、たった今紹介された俺のプロフィールなんだから。

 学園島アカデミー始まって以来最速の〝7ツ星セブンスター〟。

 昨年度の絶対王者を一日にして陥落させた、注目度最高のスーパールーキー。


 ああ、もちろん────そんなのは、全部だ。


(やべえ……やべえ、心臓止まりそう。何これ? 俺なんでこんなことしてんの?)

 堂々と開示された情報は、そのほとんどがデタラメだった。合っているのは精々名前と性別くらいだ。俺の成績は合格点スレスレだし、7ツ星でも最強でもないし、どころか学園側からの評価は他の誰よりも低いと聞いている。中の雑魚だ。モブ以下だ。

 ……だけど、それは誰にも知られちゃいけないらしい。

 、らしい。

 だから俺は、バクバクと高鳴る心臓を無理やり抑えつけて、余裕の笑みで口を開いた。


「──よう、お前ら。俺が新しい〝7ツ星〟のしのはらだ。

 最初に宣言しておいてやる──俺はこれから二年間、7ツ星としてこの島の頂点に君臨し続ける。例の〝お嬢様〟にも他の誰にも、星を譲るつもりは一切ない。……ああ、だけど文句があるならいつでもかかって来てくれていいぜ? 《決闘ゲーム》の申請は大歓迎だ。

 まあ──当然、ざまたたき潰されても構わないなら、って前提の話だけどな」


 あおるような口調で最後まで言い切る。多分、声は震えていなかったはず。

「……ふぅ……」

 異例のスピーチ内容にざわつき始める場内から視線を切り、俺は早々に壇を降りることにした。浮かべているのは不敵な笑みだが、反面、胸中には後悔やら焦燥ばかりがぐるぐると渦巻いている。……ああもう、本当に言いやがったよ。正気か俺? 馬鹿じゃないのか? いいや、間違いなく馬鹿だ。だってここまで来たらもう言い訳できない。全てが終わるまで引き返すことすら出来やしない。

 けれど──そう、そうだ。

 

 卒業までの二年間、どんな手を使ってでも絶対にこの〝うそ〟を貫き通す。


 …………さて。

 そもそもこんなことになっているのかと言えば、それは、今朝のまで遡る。

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