[その一]フりフラれトライアングル その6

 俺はくろのくりくりと丸い目に促され、先ほどよりも慎重に、うそがないよう、誠意をもって言葉を選んだ。

「何というか、俺、今、誰とも付き合うつもりがなくて……いや! お前が嫌いとか悪いとか、可愛かわいくないとかホントなくて、お前はすごくいいやつで、お前みたいなやつと付き合ったらきっと幸せなんだろうけど、ちょっとタイミングが悪かったというか……」

 しどろもどろなだけに、うまく伝わったかはわからない。ただしろくさについては触れないようにしながら、懸命に伝えた。

「ふーん」

 くろは腕を組んだ。小柄な身長を考えれば比較的豊かな胸が強調される。

 そのまま俺に歩み寄り、そっと背伸びして俺に耳打ちした。

「少し気が晴れたし、このくらいで許してあげるか」

「…………はぁ?」

 くろはニコリと笑うと、高らかに宣言した。

「うっそー!」

「はあああぁぁぁぁあぁぁぁ!?」

 がくぜんとする俺の顔を、くろはいたく満足げにのぞむ。

「ハルさぁ、あせった? 悩んだ? 苦しんだ?」

「クロ、お前……」

「ごめんね、ハル。実は罰ゲームで告白することになって……今日まで本当のこと言えなかったの」

「お、おまっ、お前なっ!」

「本気にしちゃった? そのくせ断ってたじゃんよ。このこのっ!」

 肘で小突かれる。痛みはあったが、それ以上にほっとした気持ちのほうが強かった。

「はいはい、かいさーん!」

「ちっ、つまんねーな!」

 取り囲んでいた男子生徒たちが退散していく。さっきまでの仕打ちがすべてえんざいだったというのに、まったく悪びれていない。ひどいものだ。

「おい、お前ら、ちょっとは謝れよ?」

 俺が苦情を訴えると、男子生徒たちは舌打ちした。

「あのな、まる。お前、さんをクロとか呼んでるだけで本来死刑ものなんだけど?」

「幼なじみぃぃぃぃ! ギルティーッ! ギルティーッ!」

「落ち着け、ごうっ! 大丈夫だ! まるは駄目幼なじみだから、さんはれいなままだ!」

「あいかわらずお前ら、俺の扱いひどいよな? 俺にも一応、心あるんだけど?」

 同情心をかき立てるようなことを訴えてみたが、まったく通じなかった。眉をしかめられ、唾を吐き捨てられただけだ。本当にこのクラスはクズぞろいだ。

 そんなことを考えていると、くろが俺の肩に手を置いた。

「ハルはもっとあたしのありがたみを感じるべきだと思うんだよねー」

「いや、ホントさ、こういうのは勘弁してくれよ、クロ」

「でもいい教訓になったでしょ?」

「かもしれないが──だますことないだろうがっ!」

 俺がくろの可愛いらしい三つ編みをちやちやにすると、きゃーっと楽しげな声を上げながらくろは逃げ出した。

 くろそばにいないと落ち着かなかった。大事な存在であると理解した。

 でもこういう関係が似合っている。じゃれ合うというか、下手に恋愛でべたべたするんじゃなくて、なれ合っているほうが俺とくろらしい。

「ホント、ハルはあたしにだけ遠慮ないんだから。責任取ってもらうよ?」

「わかった。子供を作ろう」

「バカ。スケベ。もーっ、ホント最低だよね、ハルって。そうやってあたしにだけセクハラするんだから。どうせ許してくれるって簡単に思ってるんでしょ?」

「いやいや、そんなことないって」

「じゃあ今度セクハラしたら宿題写させてあげないから」

「クロハさん、そんな意地悪をなさらずどうかそれだけはご勘弁を!」

「土下座はやっ! ハルの土下座って、もう価値がゼロだよね」

「クロはわかってないな。土下座ってのは謝罪対象へのアピールもあるが、周囲からの許してあげなよ圧力の形成に一役買ってるんだよ」

「思った以上に計算高くてドン引きだよ。お姉ちゃんハルの将来が心配になってきたよ」

 などといつものように馬鹿な会話をしていると、今度は意外な方向からネタが飛んできた。


「え────っ、本当ですか!?」


「いや……うん、何となく、流れでね」

 会話はしろくさみねのものだ。

 クラス全体はくろうそと言ったあたりから落ち着きを取り戻し、すでに帰ったやつも多くいる。

 そんな中、みねの驚きは十分注目に値するものだった。

 みねはぽっちゃりとした天然系の女の子で、クールで強烈なしろくさとはナイスコンビというか、おっとりしているみねじゃないとしろくさの友達が務まらないだろうなと推測できる関係なのだが、そのみねのテンションが高いのは非常に珍しかった。

 注目を浴びていると感じたみねは頰を赤らめ、声のトーンをぐっと下げた。そのせいで聞こえにくくなったが、全力で耳を澄ましたことで何とか断片だけ拾えた。

「いつか**すか!」

「一週*前」

「どこ*告白され***すか!?」

「海」

「ふわぁ、ロマ***クで*ね……」

 ……え? あれ? 今、なんて言った? 、とか言ってなかったか?

しろくささん、先*とは家族ぐ**の付*合いって言って***ものね。わた*し、いつくっつくかと思ってまし**ど、つ*に、ですか……。*先輩、とて*カッコい**すし、人気者**し、最高のカップルだ*思**す。祝福い**ますわ」

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ん?

 んん? ん? んんんんんんんんんんん?

 俺、耳が悪くなったのかな? なんかありえないことが聞こえたような気がしたんだけど……。

「へーっ、さんって、三年の先輩と付き合い始めたんだ」

 くろのつぶやきが俺の心臓を貫く。

って、父親が俳優で、自分も最近俳優デビューした、あいつだろ? オレ、ああいう七光りって大嫌いだけどよ、まあ人気あるし、の相手としては妥当なとこだな」

 てつひこの言葉が右の耳から左の耳へと抜けていく。聞こえてはいるのだが、脳が意味を理解することを拒否している。

「だからオレが言っただろ? はお前には高めすぎるって。元々女なんて男をだますために生まれてきたんだから、ま、結果はこんなもんだ。でもこれも考え方次第で、このおかげで〝告白祭〟で変に恥をかくことがなかったから、ある意味よかったんじゃねーの?」

 俺は怒りに任せててつひこの襟を絞め上げた。

てつひこ、別に俺はのこと何とも思ってねぇって言っただろうが……」

「ふーん、はいはい。わかってるって」

 ふざけたノリのてつひこを突き放し、俺はカバンを肩にかけた。

「おい、すえはる。帰るのか? 文化祭の話はどうすんだよ?」

「俺の意見なんてどうでもいいだろ。お前が勝手に決めろよ」

「あっそ」

 それ以上、てつひこは止めようとしてこなかった。

「……ハル」

 くろが俺を呼んだが、反応するだけの気力が湧かなかった。

 俺は聞こえない振りをして教室を出た。

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