[その一]フりフラれトライアングル その4

    *


 放課後になり、カバンに教科書を詰め込んでいると、てつひこが話しかけてきた。

「文化祭での出し物のことだけどよ、今日もいつもの場所取ったから会議すんぞ」

「えー……」

 俺がまったくやる気が出ないのには理由がある。てつひこはエンタメ同好会なる怪しげなサークルを作って活動しているが、メンバーはてつひこと俺だけであり、俺も名義貸しに近い状態なのだ。

 エンタメ同好会は文化祭で出し物を予定しており、体育館の枠を押さえているが、あと二週間にもかかわらず内容は未定。当然今まで話し合いは何度も行われたが、てつひこが望んでいるのはカッコつけられる出し物であり、それが見つかっていない。

 というわけで、繰り返される不毛な会議に俺は嫌気がさしているのだった。

「あ、あとちゃんにも意見もらいたいんだけど、お前、声かけておいてくれよ」

「何で俺が?」

「お前、幼なじみだろ」

 くろ。クラスメートであり、隣の家であることから付き合い歴十七年の腐れ縁だ。

 だからてつひこくろを誘うために、俺を使うのは自然なことだった。でも

「まあとりあえず今日はいいだろ。クロにはあとで俺から聞いておくから」

「……ん?」

 しまった、と思った。てつひこは異常なほど勘が鋭い。

「そういや今日の昼、ちゃん、お前に話しかけて来なかったな。珍しい」

「そうかな? そういうこともあると思うぞ?」

 てつひこは表情から何を見透かしたのか、一度大きくうなずくと、俺の両肩をたたいた。

「すぐに謝って来い。お前が悪いんだからな」

「何勝手にけんしてることにしてんだよ! しかも俺が悪いのかよ!」

「それ以外考えられないだろ? あんないい子、めったにいねぇし」

「……まあそれは否定できない事実だが」

 何でも話せて、気さくで、何より俺のことを何でもわかってくれる……幼なじみ。

 俺にとってくろは、かけがえのない親友と言える存在だった。

ちゃんって、元々面倒見のいい姉属性だけど、特にお前にはメチャ甘だろ? それを怒らせるなんて何やったんだよ?」

「いやいや、手厳しいところも結構あるぞ?」

「あれは愛のある手厳しさだって」

「ぐっ」

 俺は『愛のある』という部分で息が詰まった。

 それを見逃さないのがてつひこの恐ろしいところである。てつひこが腕を組んでにらみつけてきたので、俺は口笛を吹いてごまかした。

すえはる、言っておくけどな、ちゃんはめっちゃ高めだぞ。お前、幼なじみじゃなけりゃ近づくことさえできないレベルなんだからな。わかってるか?」

「……わかってるって。あいつ、モテるよな。まあ、可愛かわいいし、当然だよな。そういうとこ幼なじみとして鼻が高いし、コミュ力高いとことか、いろいろ尊敬してる」

 俺の脳裏にくろの顔が思い浮かぶ。

 くろはよく小動物に例えられる。猫目のベイビーフェイスで、ネズミとかリスとか、そういうのにイメージが似ている。髪はくりいろのミディアムストレートヘア。背が小さくて、ちょこまかと動き、表情がコロコロと変わる。そんなところが愛らしく、男女共に交友関係が広い。

「お前、女の子を素直に褒められないくせに、ちゃんは褒められるんだな」

「あいつは親友だから」

 女の子を褒めるのは正直恥ずかしい。こびを売る感じがしてどうも好きになれない。

 しかし親友を褒めるのは別だ。そんなすごいやつと親友なことが誇らしく、もっと褒めてもいいとさえ思う。素直な気持ちを言えばいいだけなのだから当然恥ずかしさなんてない。


「ふ~~ん、ハルはあたしのこと、そんな風に思ってくれてたんだ」


 ふわりと甘い香りがこうをくすぐった。

 くりいろの髪が肩口から顔を出す。

 くろは鼻をひくひくさせて俺のにおいを嗅ぐと、至近距離でニコっとあどけない笑顔を浮かべた。

「うっ……」

 俺はくろの顔が見られなかった。

 冷や汗が流れる。どう対応していいかわからず、とりあえず身体からだを引いてつぶやいた。

「クロ、近い……」

 元々小動物っぽいくろだが、俺に対しては人一倍小動物っぽい言動をする。においを嗅ぐ癖なんてその代表的なものだ。幼なじみなだけに心理的な距離が近いのだ。

「何、照れてるの、ハル~? 可愛かわいいところあるじゃん? そういうとこ、お姉ちゃん好きだよ?」

「すす、好きとか言ってんじゃねーよ。それにその背でお姉ちゃんと言われてもな」

「もう、ハル。背のことは言わないの」

 おでこをデコピンされた。

 くろは身長一四八センチしかない。そのため姉っぽい言動をされても、ぱっと見おしゃれな中学生が背伸びして大人ぶっているようにしか見えないのである。

「いっつもハルのしりぬぐいばっかりで、もうあたしお姉ちゃんみたいなものでしょ?」

「クロさ、あれだけ妹がいるんだ。俺の面倒まで見ようとしなくてもいいぜ?」

ちゃんって妹いっぱいいるんだっけ?」

 てつひこの質問にくろうなずいた。

「うん、中三と中一の双子で四人姉妹」

「そりゃすげぇ」

「だからクロには姉属性がみついてるんだよ」

「何言ってんの。姉っぽくさせるのはハルがいつもあたしに迷惑かけるからでしょ」

 くろは俺のくせっ毛をでまわした。

 やはりくろの行動は男子高校生にはちょっと刺激が強いというか、近すぎる。俺としては昔からそうだったのでどうとも思わないのだが、冷静に考えれば教室でやるもんじゃない。

 くろはモテる。そのため俺はとにかくひどい嫉妬にさらされていた。

「ちっ、幼なじみだからって許されると思うなよ」

 はっきり舌打ちが聞こえた。

「ぐっ、俺の右腕がうずく……」

 あの、ハサミ、こっちに向けないでくれる? もう高校二年生なので右腕は大人しくしておいてください。

「裏山に洞窟があって、そこならおそらく発見は──」

すえはるって名前にふさわしく、晴れた日に人生の末路を──」

 あの、俺を埋める場所の相談はやめよ? マジで怖いんだけど?

 妬みの声はちらちら聞こえるのに、くろはまったく気にしていないようだった。

「どしたの、ハル? なんか元気ないね」

「あ、いや……別に」

「む、引っかかる物言い。お姉ちゃんに言ってみ?」

 くろは優しく、面倒見がいい。

 それだけに俺は心苦しく──ただただ気まずかった。

「ハル? やっぱりどこか、らしくないよ」

「……俺らしいって何だよ」

「う~ん、無神経でおバカ?」

「ひでぇな! 断固異議を唱える! 次に会うときは法廷だな!」

「あ~、う~ん、やっぱりなんか無理してるよねぇ……」

「どこがだよ。あ、俺、ちょっとトイレに──」

 気まずい雰囲気をどうにもできず、仕切り直そうとしたときのことだった。


「──もしかして、あたしを振っちゃったこと、後悔してる?」

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