[その一]フりフラれトライアングル その3

 そう──しろくさの本当の価値とは、その美貌でもクールな個性でもない。小説家としての才能、実績、そして名声だった。

 彼女は去年『君のいた季節』で高校一年生にして小説家デビュー。当時は校内での有名人という程度で、俺はそのころしろくさに感動したことを伝えたわけだが、素晴らしい作品を世間は放っておかなかった。

 その三ヶ月後、文学界の登竜門であるあくたしようを取り、彼女は一躍全国レベルの有名人になった。

 飛びぬけて若く才能豊かな美人。しゃべらせてみればクールで、誰にもびず、天才っぽいエキセントリックさと激しさがある。これで人気が出ないはずがない。

 あまりの人気に様々な雑誌やテレビの取材が殺到。そのためグラビア撮影──といっても基本制服で多少私服がある程度──まであるというわけだった。

「そりゃすごいけどさ、でもクラスメートだぜ?」

 俺はわざと強がった。

「ほら、三年の先輩とか読モらしいし、一年のさわって子はアイドル候補生だって聞いたぞ? はクラスではすごいけど、広く見るとまあまあレベルというか?」

 好意を察せられたくなくて、つい辛口になってしまう。

 本当はしろくさほどの美人は見たことがないし、読モの先輩やアイドル候補生の後輩よりずっと上だと思っている。でもそれを言ったら墓穴を掘ってしまうので、突っぱねるしかなかった。

 ガンッ! と鈍い音がした。

 音を発生させた主はしろくさだった。自分の席に座る際、机に脚をぶつけたらしい。

 ただ、偶然ぶつけてしまったのか、怒りで蹴ったのかはわからない。

(まさか、俺に対してじゃないよな……?)

 俺は小声だったし、さっきグラビアのことで怒っていたからそのせいだろう。

「ふーん、まあお前がひねくれてるってことを計算に入れると、のレベルはものすごく高いってことだな」

「何その超翻訳? マジでやめてくれる? 本当にごめんなさい」

「謝ったからダチとして警告しておいてやる。あの子はお前には高めすぎ。だから諦めろ」

「はぁ??」

 とぼけて『いや、俺は好きじゃないからどうでもいい』と返すべきだった。でも告白する前から無理だと言われ、ちょっとカチンときた。

 ──だから、

「いや、別に好きとかじゃないけど、俺と、実はちょっと仲いいよ?」

 と返してしまっていた。

 てつひこはほぉ~と興味深げに顎をでた。

「男嫌いで有名なと、仲がいいだって?」

「まあお前には言ってなかったが、去年、あくたしようを取る前、偶然帰りにすれ違ったんだ。で、俺は彼女の作品読んでたから、良かったって伝えたんだ。そしたらちやちやいい笑顔で──」


『──ありがとう。あなたにそう言われて本当にうれしい。今まで頑張ってきて……本当に良かったわ』


 そう言ってくれたのだ。

 結果、恋の毒にやられてしまった。

 学校では見せたことがない……俺にだけ見せてくれた笑顔。

 俺はこの記憶をひそかに宝物としていた。

「それでれたと?」

「ちち、ちげーよ!」

 我ながら弱々しい否定だ。ごまかそうと俺はまくしたてた。

「ま、まあお前は知らないだろうが、どうも家が近いらしく、それからも何回かすれ違って、軽く話をしてるんだ。、外で会うと、学校と全然雰囲気違うんだよ。明るいっていうか、無邪気っていうか。だかられたとか抜きにして、そこそこ仲がいいわけだ」

 話すと楽しくて、容姿が好みだなとか、スタイルいいなとか、趣味が合うなとか、いろんなものが積み重なっていって──今に至っていた。

すえはる……」

 てつひこは優しく両肩に手を置いてきた。

可哀かわいそうに……そんな妄想をするようにまでなって……オレが今度合コンしてやるから、戻って来いよ……」

「あいかわらずお前ひどいな! しかもさりげなくいい人ぶってんじゃねーよ!」

 俺がアイアンクローをかますと、てつひこは机をたたいてギブアップを宣言した。

「まあ、すえはるの妄想が事実と仮定して話を進めると」

「事実を曲げてるのはお前だ!」

「あのが、クソみたいに平凡でアホなお前と話すときだけは特別に明るい、と」

「クソとかアホとか言うのやめてくれる? 俺、お前と違ってメンタル強くないから傷つくんだけど?」

「で、お前はそのせいでが実は自分にれてるんじゃないかと思っている、と?」

「い、いや────っ、さすがにそれはないよ? マジマジ、そんなこと思ったことないよ?」

 ぶっちゃけるとそう思ってます、すいません。

 いやだって、他の男子に厳しいのに俺にだけ優しいって、これ脈ありとしか考えられないでしょ? ほらほら、さっきだっててつひこにはちやちや厳しかったのに、俺とはある程度普通にしゃべってたでしょ? あのレベルの会話だって他の男子とはしてないんだよ? それに学校帰りに家が近いからって、何度も会う? そんな偶然普通ないっしょ? あれ絶対、俺を待ってたんだって。

 だとするとさ、結論は一つ。


 ──しろくさは今、俺の告白を待っているんだよ……っ!


 もう間違いないね。ということはやっぱ〝告白祭〟……いくしかないだろっっ!

 あー、でも〝告白祭〟でうまくいった場合、みんなにバレちゃうよなー。しろくさは有名人だし、テレビとか雑誌にすっぱ抜かれたらどうしよ。

『〝美人女子高生あくたしよう作家〟しろくさに恋人が! 相手は同級生のまるすえはるくん(一七)!』

 やばっ、もしかして俺、注目されちゃう? あれっ、俺、カメラの前に出られる服って持ってたっけ? よしっ、今度の休みにおもてさんどうにでも買いに行くか。

 なんて感じで調子に乗っていると、しろくさとその友人みねの会話が聞こえた。

「あれ、しろくささん……機嫌悪くないですか? 何かありました?」

「そうね……男って、絶滅したほうがいいんじゃないかしら──そう思っただけよ」

 ……偶然だよね? 俺のことを言ってるわけじゃないよね?

 しろくさが俺に好意を持ってくれているって、やっぱり俺の願望で妄想なのだろうか。

 冷静に考えると、しろくさは小説家で美人でグラビアにも載ってて成績良くて運動神経も良くて当然男にモテる。

 俺には──推すべき売りなんてない。

 しろくさの背中を見つめ、俺は思ってしまう。

 初恋って、なんでこんなに楽しくてうれしくて──苦しいものなのだろうか、と。

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