[その一]フりフラれトライアングル その2

「でさ、オレが〝告白祭〟で狙ってる大物って誰か予想つくか?」

 脳裏にちらりとある少女の顔がよぎった。だが気取られたくなくて、わからないふりをした。

「知らねーよ。ま、一応聞いてやるから言えよ。〝告白祭〟で誰に告白するんだ?」

しろくさ──」

 一瞬、クールな視線とあどけない笑顔、風に乗って漂ってきたシャンプーの香りが一斉に脳をかすめ、息が止まった気がした。

「──って言ったらどうする?」

 てつひこがニヤニヤしている。めっちゃ楽しそうだ。

「……チガウヨ?」

「えっ? なんだって?」

「別にナントモ思ってナイヨ?」

すえはる、そういう反応やめてくれる? 必死過ぎてこっちが恥ずかしくなるから」

 脳の奥で何かが切れた気がした。

「お前、殺すわ。今、そう決めた」

「あーっ、ちょ、ちょっと待った! お前本気だろ! そんな切れんなって……あっ、だ」

「!!!???」

 俺の鼓動が跳ね上がる。

 てつひこの視線は俺の背後に向けられている。ということは、俺に見えていないだけで、しろくさが近くに来ているということだ。

 俺はてつひこを締め上げるのも忘れ、とりあえずみっともない行動をしないよう、手持ち無沙汰な右手で癖のある髪の毛をくるくる人差し指に巻き付けた。

 するとてつひこはてへぺろと言わんばかりの気軽さで俺に告げた。

「あ、悪い、見間違いだったわ」

「お前ホント殺していいか!? 殺意が治まらないんだけど!?」

「オレ、お前のこと友達だと思ってるけど、正直友情が壊れてもいいかと思えるくらい今楽しいわ」

「お前の友情、びっくりするくらい薄っぺらいな!」

「あっ、

「あのなぁ、てつひこ。さすがの俺でも二回連続でそんな手に引っかかると──」

「私に何か用?」

「へっ──?」

 心地ここちい声に驚いて振り返ると、しろくさがいた。

「えっ、いや、あれ!? !? どうしてここに!?」

「どうしてって言われても、ここ教室よ。いるほうが自然だと思うけれど?」

「あ、いや、そうなんだが、いつもはみねと学食で食べてなかったか?」

は用事で別行動よ。すぐ戻ってくるらしいけど、そのせいで早めに切り上げたの」

 しろくさは相手にまるで興味がないと言わんばかりの冷めた声色だ。

 しかしだからといって嫌われているわけじゃない。元々こういうしゃべり方をするのだ。

 しろくさは女友達相手でも冷めていて、周囲からはクールビューティーとして認知されている。

 俺はどうが激しくなっているのがバレないよう、平静をよそおっていた。

 だって、あいかわらずしろくされいすぎた。

 りんとしてせい。彼女はたたずまいだけで、他の女の子と格の違いを見せつけている。聖域というか、彼女の周囲だけ浄化されているのではないかとさえ思わせる空気の張りがあるのだ。

 しろくさの髪は王道の黒髪ロング。艶やかで、張りがあって、なめらかで。髪の毛をすくことを許されたらきっとずっとすいていたくなるような魅力がある。

 それでいてグラビアアイドル顔負けの豊満な胸や尻を制服の下に隠し持ち、あまつさえ太ももをニーハイソックスで覆っている。つまり〝わがままボディ〟でありながら、夏でも暑さに負けずしっかりと隠している。

 俺はしろくさを見るといつも偉大な先人の言葉を思い出す。

 ──『パンツは見せつけられてもうれしくない』。

 わかるだろうか? 隠されているから見たくなる。リスクがあるから価値がある。

 しろくさの冗談を許さないクールさ、隙の無い仕草、すべてがエロとは対極にある。なのに〝わがままボディ〟。

 つまり俺が言いたいのは、〝しろくさは存在自体がエロい──〟ということだ。Q.E.D、証明終了。

 ただしろくさすごさは、りんとした美しさやエロさ以外にあるところにある。

「これ、いくつだと思う?」

「D……いや、Eか?」

「こう、もうちょっとラインがわかる服にしてくれねぇかなぁ」

「そうそう! 水着だったら最高なのに!」

 ふと、クラスの男子二人の声が耳に入った。

 会話はマンガ雑誌のグラビアについてだ。それは別に珍しい光景じゃない。

 ただなぜかしろくさの興味を引いていた。少々目が悪いせいか、しろくさは目を細めて表紙を確認しようとしている。

 しろくさを追って表紙を確認したところで、俺もしろくさが気にしている理由がわかった。

 てつひこがつぶやいた。

「おっ、あれってのグラビアか? 今日発売の雑誌に載ってたのか」

 しろくさの肩がびくっと震えた。

 本人を前にして俺は口にできなかったのに……ホントてつひこのメンタルは鬼クラスやで。

 しろくさから闇のオーラが漂い出す。

 俺は盛り上がってるあいつらに言いたい。

 同じ男子として気持ちはわかる! だって当たり前だ! クラスメートの美少女がグラビアに載っている──これで興奮しないやつは男じゃないだろ!

 ──と、俺は全世界に宣言してやりたい気分だ。

 だがダメなんだ。いかんせん本人の前はまずい!

 二人は盛り上がって周りに気がついていないが、すでにしろくさは足音を殺し、近づき始めている。見ているこっちからすれば、

『お前ら、後ろ~! 後ろを見ろ~!』

 という気持ちである。ただ怖すぎて、しろくさが無言で彼らに歩み寄っている間、誰一人忠告を発することができなかった。

「へー、水着……ね」

 気がつかないことに業を煮やしたしろくさてつく波動を放つ。

「そうそう! 水着だったらあの凶悪な胸……が…………えっ?」

 男子生徒ははたと気がつき、ゆっくり振り返った。

 しろくさは一瞬ニコッと笑みを浮かべたが、次の瞬間氷点下のまなしで見下ろした。

「私、えちぃ人って、嫌いなの」

「「「「ぐっ──」」」」

 さりげない一言がクラス内の男子生徒のハートをえぐる。

 もし許されるなら俺はこう告げたい。男はえちぃ生き物なのだ、と。しろくさのような美少女にこそ、許し、許容して欲しい、と。

 だがしろくさは無慈悲な氷のやいばと化した眼光とぜつぽうで男子たちをたたる。

──?」

「……へっ?」

「女性をはずかしめて悦に入るなんて、まさに犯罪的と言っていいわ。でも私、優しい人間でありたいから選ばせてあげる。名誉を重んじて今すぐ窓から飛び降りるか、セクハラで警察に捕まるか──どちらがいいかしら?」

 みんな圧倒されている。時折冷たい視線に興奮している男子生徒もいるが、あくまで一部だ。

 同じ女子でさえしろくさの強烈さにはついていけず、距離を取っているのが正直なところだった。

「あ、あの、すみません……どちらも勘弁を……」

 しろくさは厳しい目つきでにらみつけると、自らのグラビアが載った雑誌を取り上げた。

「あっ!」

「没収するわ。先生に預けておくから、放課後にでも取りに行きなさい」

「あっ、いやっ! 先生には──」

「……文句、あるかしら?」

 しろくさにギロリとにらまれて抵抗できるやつなんてこの学校にはいない。

「はい、すみませんでした……」

「ふんっ!」

 しろくさは不機嫌さを隠そうともせず、自席に戻っていった。

 俺とてつひこは一連の行動を横目で見つつ、ひそひそ話を始めた。

「これだよなー、に友達が少ない理由は。お前はマンガの風紀委員かって感じだよな」

 てつひこのセリフに俺もうなずかざるを得なかった。

 これだけ目立ち、れいで、有名。そのためみんな近づきたがる。しかし気性が激しいというか、気難しい。

 だが俺はしろくさの性格をてつひこのように非難する気になれなかった。

「ちょっとばかし過激だったかもしれないけど、が怒るのは当たり前だろ。それにきつい言い方でも、決して人をだましたり、不当な言いがかりでおとしめたりはしてねぇじゃん。わざわざ友達少ねぇとか言う必要ねぇだろ」

 俺の印象では、しろくさは〝気高い〟のだ。

 しろくさからは隙を見せまいという気概を感じる。それもまた気高さの一環であり、過激な物言いも隙を見せないための盾に過ぎないのではないだろうか。

「さすがすえはる。嫁のことは素早くかばう」

「お前の寿命、短いと思うぞ? たぶん口の災いのせいで」

 俺の言葉をさらりと流し、てつひこは続けた。

「でもよ、はちょっと限度超えてるって。そこまで言わなくても──ってラインまで行ってるだろ」

「でもさ、それがテレビで人気なんだよな」

「まあ天才と狂気は紙一重っていうか、インパクトがあるっていうか、テレビ的にはおいしいんだろうなぁ。だいぶブームは去ったけど、〝美人女子高生あくたしよう作家〟だもんな」

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