[Stage1-1] Re:【悪役】として始める学院生活 ⑤

 俺には見えているぞ! リーチェが告白してくる未来が!


「機嫌良さそうですね、オウガ様」

「ああ、気分がいいとも。望んだ結果が得られたからな」

「私もオウガ様が主人であることを誇りに思います」


 アリスも俺がリーチェを助けたことでご満悦の様子。

 この行動に裏の意味があるとも知らずに……アリスの忠誠心も稼げて本当に愉快な気分だ。


「ついてこい、アリス。俺が歩む道こそが覇道だ!」

「はっ! いつまでもおそばに!」


 そんな風にアリスと定番と化したやりとりをしていたら、すぐにパーティー会場にたどり着く。


「ほう……なかなかに立派だな」


 パーティー会場は本校舎から離れた場所にある。

 行事や祝い事に使われるようで学びの中にいるという事実を忘れさせるほど、きらびやかな装飾が目に入った。

 それでいてゴチャゴチャとせず、整った美しさを感じられるのはさすが伝統あるリッシュバーグ魔法学院といったところか。


「オウガ様。飲み物をお持ちしました」

「ありがとう」

「これからどうなさいますか?」

「予定通りに進めるなら声をかけておきたい者がいるんだが……」


 チラリと周囲に目をくれてやる。

 遠巻きにした生徒たちの嘲りのこもった視線がいくつかこちらに刺さっていた。


「……やめさせますか?」

「気にするな。どうせ大半が人生では関わらないんだ。相手にする必要はないさ」


 それに彼ら彼女らも不安で仕方ないのだろう。

 自分たちの実力が通用するのか。

 精神が落ち着かないときに、自分よりも貴族としての位が高いのに魔法適性なしのがいたら、見下して一瞬の安心を得たい気持ちはわからないでもない。

 俺は魔法が使えないハンデを埋めるための研究に没頭して、ほとんど表舞台には顔を出さなかった。

 父上も外ではめったに家族の話をしない。それが自分の弱点につながるとわかっているから。

 ゆえにヴェレット家に見捨てられたと勘違いしているのだろう。


「実力で見返せばいい。時がてば頰をひきつらせているのはあいつらだろうよ。違うか、アリス?」

「いえ、オウガ様のおっしゃる通りだと思います」

「それでいい。お前の主を信じていればいい」

「オウガ様……! お仕え出来て私は幸せでございます!」


 うん、もっと視線集めちゃったけどね。

 そんなに忠誠心強いならもう少し俺の気持ちを考えてくれ。

 ……今から慣らしの訓練と割り切ろう。


「アリス。カレンと婚約者様に挨拶に行くぞ」


 舞台の中央で次々とやってくる令嬢たちを相手する対照的な表情をした二人。

 一人は幼なじみのカレン・レベツェンカ。

 そして、もう一人は彼女の婚約者にして王位継承権第一位のアルニア・ロンディズムだ。


「お初にお目にかかります。アルニア王太子殿下。私はヴェレット公爵家の長男、オウガ・ヴェレットと申します。ご挨拶が遅れましたことおび申し上げます」


 順番が回ってきたので軽く自己紹介をする。

 すると、彼は強い力を感じさせる赤い瞳で俺の顔を見て、わらった。


「ああ、君が例の魔法適性がない合格者か」


 会場内の生徒たちは皆それぞれ談笑を繰り広げている。だから、王太子の人を見下す物言いはそばにいたカレンとアリスにしか聞こえていないだろう。

 それを理解した上で彼はわざわざ触れる必要のない俺のハンデに言及したのだ。

 俺はニコリと笑みを貼り付けると、王太子の冗談という体で話を進める。


「王太子殿下の耳にも名が届いていましたか。光栄です」

「もちろん。有名人だからね。どんな手段を使って学院に入学したのだろうかと。そんな魔法があるなら、ぜひご教授願いたいものだよ」

「ア、アルニア王太子。どういうつもりですか?」

「深い意味はないさ、カレン。僕は実力で合格した彼をたたえているだけさ。魔法が使えないのにここにいるということは、とてつもない知識を持っているに違いない」


 貴族にはこういった傲慢な性格をした者が多い。

 それはなぜか。貴族はこの世において明確な『勝ち組』だからだ。上の立場として生活しているから人を見下すのに慣れている。その行為に疑問を持たない。

 それでも貴族相手の振る舞いは教育を受けているはずだが……どうもこの王太子は自由気ままに育てられたらしいな。


「ええ、王太子殿下のおっしゃるとおり、実力で受かりました。その知識をぜひとも披露したいのですが、今宵はせっかくの楽しいパーティー。こんな時までわざわざ硬い話をするのはもったいないでしょう」

「ああ、そうだな。時間がもったいないな」


 クスクスと笑い声を漏らすアルニア王太子。

 こいつは俺が逃げの一手を打ったと勘違いして口だけのコネ入学野郎とでもバカにしているのだ。

 リッシュバーグが完全実力主義であるのをどうやら信じていないらしい。

 世代のトップがこれでは先ほどのバカ三人衆みたいなやからが生まれるのも仕方なく思えるな。

 ここでこのバカ王太子に恥をかかせるのは簡単だが、それは悪の三箇条に反する。自ら決めた信念を守れないとは、なんと格好悪い生き方だろうか。

 故に俺も合わせて笑みを浮かべるだけにした。


「それでは私はこれで失礼します。レベツェンカ嬢もまた」


 礼をしてその場を立ち去る。横目にカレンが小さく腰元で手を振っていたのが見えたので、俺も王太子から見えないように手だけ振り返した。


「……ご立派でした、オウガ様」

「お前もよくこらえた。いずれ世界は俺を知る。もう少し待っておけ」

「そう遠くない未来であると私は確信しております。そして、いつまでも私の居場所はオウガ様のお隣でございます」

「ふっ、うれしいことを言ってくれる」


 アリスの暴走は怖いけど、絶対に裏切らないと思わせる忠誠心は素直にうれしい。

 彼女ほどの傑物に認められたという事実は自信になる。

 さて、接触が難しいとわかった以上、親睦を深めるパーティーに残る必要はないわけだが……。


「……来ないな」


 入り口を確認しているが、リーチェは一向に会場にやってこない。

 ハンカチ程度のフォローではダメだったか?

 だからといって新品のスカートを渡したら、さすがに気持ち悪いだろう。

 いやいや、きっと着替え直しているに違いない。


「オウガ様。おかわりを用意してきます」

「ああ、頼む」


 そうして時間を潰していると見知ったバカ三人衆が何やらニヤニヤしながら入ってきた。

 距離があるため声は聞こえないが、先ほどのおびえた感じは消えている。

 ここで顔を合わせて騒がれるのも厄介だな。

 仕方がない、か。


「帰ろうか、アリス。これ以上は時間の無駄だ」


 やつらと顔を合わせないように会場を出て、一足先に寮へ帰る選択をする。

 すると、玄関口で管理人に呼び止められた。

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