第1話:天才錬金術師と無能の専属魔導士



「ねえ、ロイド。素材のせんれんきんぶつの完成度に大きくえいきようするっていつも言ってるよね。なんでこんな簡単な事がわからないかなー」

 おれが採取してきた素材をゴミ箱に全部捨てながらふくんだ声で俺をにらむ。

 現在、俺を睨んでいる人物は、俺のおさなじみこいびととして付き合っているルビーだ。

 ねんれいは俺と同年齢の19さい

 あざやかな赤いかみだいだいいろひとみみずみずしいももいろくちびるはくのような傷一つない白いはだ

 年相応の幼さが残る顔立ちはれんで、男性の保護欲をじかにげきする。

 こんいろのコートは体の線を目立ちづらくしているが、赤い髪とのコントラストを意識してコーディネートされており、全体的な服のまとまりとせいひつさをかのじよにもたらしている。

 たけの短いスカートに、すらりとした長いあし。胸のふくは少ないが、それもまた彼女の美術品のような品の良さに一役買っていると言える。

 町を歩けば10人中10人がり返るであろうめぐまれた容姿を持っている。

 さらに彼女は王国に3人しかいない《きゆうてい錬金術師》のしようごうを持つ天才錬金術師にして、一代限りの貴族としてじよにんさずかったアルケミアきようでもある。

 王国がほこる心やさしき大錬金術師。

 それがルビーにおくられた世間からの評価であった。

 しかし、それはルビーの表の顔しか知らない人々からの評価であり、ねこかぶった対外的な姿に過ぎない。幼馴染の俺からすれば彼女は悪魔そのもので、日常的にパワハラをする人である。

 今日だって、俺が命をけずって採取してきたまぼろしの花《フルールド・エインセル》を「鮮度が足りない」とき捨ててゴミ箱に放り捨てた。

「アイテムボックスに入れて、ちゃんと保護魔法もかけて、俺なりに鮮度を保ってしんちように運んだつもりだ。それに、本来なら1週間かかる道のりを、みん不休で馬を走らせて3日で持ち帰ってきたんだ」

「言い訳禁止。基準はロイドじゃないの、わかる? 私たちがやってる事は遊びじゃないんだよ。れっきとしたお仕事なの。いつしようけんめいがんりましたが通じるのはしゆだけの世界なの。ちゃんとプロ意識持ってよ、《専属魔導士》でしょう?」

《専属魔導士》は、錬金術師が求めるレベルの素材を必ず提供しなければならない。

 これは《専属魔導士》ならばだれもが知っていて当たり前ともいえることだ。

 ルビーがなつとくしなかった時点で、すべての責任は《専属魔導士》にある。とてもくやしいが世間の常識なので認めるしかない。

 もちろんそれだけで《フルールド・エインセル》をゴミ箱にポイしてもいい理由にはならないが、ルビーは錬金術師というだけあって非常に頭がよく、めでこちらを言い負かすのが上手だ。

 今回だって『プロ意識』という部分でこちらのげ道をつぶした。くちげんになった場合、俺は彼女に絶対勝てない。

「あのね、私もロイドがだんから自分の仕事をちゃんとできているなら、こんなにおこったりしないよ。ちゃんとできてないから怒っているんだよ」

「わかっている。ルビーは優しいから怒るのにはちゃんと理由がある」

「いや、わかってないよね絶対。心こもってないもん。あのね、ロイドの『素材採取率』は王国最下位なの。私はそれがとてもずかしい。それをちゃんと自覚してよ」

 上から目線の言い回しは苦痛であったが、これまでは胸の内にめてすべてまんしていた。

 俺自身にも欠点がある事を自覚していたからだ。

 素材採取率の低さ。

 俺にとって最大のコンプレックスであり、ルビーがやりだまに挙げる一番の原因だった。

 王国には魔導士のランキングが存在する。

 魔導士の職種によって評価観点が異なるが、錬金術師の素材を採取する《錬金術専属魔導士》の場合、素材採取率がもっとも高く評価される。

 錬金術はレシピを発想・調合する錬金術師と、そのレシピに記されている素材を調達してくる《専属魔導士》の二人で成り立っている。

 どちらが欠けても錬金術は成り立たない。

 けんいつぱんでは、錬金術師が太陽で《専属魔導士》が月とされる。

 裏方ではあるが俺の役割は非常に重要だ。だからこそ責任を常に求められている。

 一般的な《専属魔導士》の素材採取率は『90%』以上。

 よほどの難易度でない限り、素材を集めてこられないという事態にはならない。

 俺の素材採取率は『40%』ときわめて低く、他の魔導士からはちようしようの対象だった。

 無能の専属魔導士、金魚のフン、ルビーの幼馴染であること以外何の価値もない男。

 これが世間一般の俺の評価だ。

 一応タイムリミットさえ気にしなければ、すべての素材を採取することは可能だが、いかんせん錬金術のらいは『時限式の依頼』が常識だ。タイムリミットをえてしまうとアトリエの評判が大きく落ちてしまう。

 ルビーの場合はレシピ発想と調合が『100%』の成功率を誇るので非難の対象になる事はない。

 よって、依頼失敗=タイムリミットまでに素材調達が間に合わないという図式になる。

「この依頼はもう失敗だね。今から《うつぼかずらの群生地》に出向いても絶対タイムリミットまでに間に合わないもん。ロイドのせいでまたアトリエの評判が大きく下がっちゃったよ」

 ルビーはわざとらしく大きなため息を吐いた。

「俺が至らないばかりに、ルビーにめいわくをかけてすまない」

「そうやってあやまゆうがあるならちゃんと仕事してよ。ロイドって本当役立たずでグズでノロマ。ロイドが下げたアトリエの評判を取りもどすの、すごく大変なんだよ」

「ごめん」

「だーかーらー。いちいち謝るな! 本当うつとうしい!」

 ルビーは舌打ちして、地面に散乱している本をり飛ばした。

 彼女は整理せいとんができないため部屋には常に本が散乱している。そのせいか、ルビーはげんが悪くなると地面の本を蹴り飛ばすあくへきがある。

 物に当たるのはみっともないのでやめろと注意しても「ロイドの分際で私に指図するな」と聞く耳を持たない。

 錬金術師になったばかりのころはもう少しおだやかで、俺に対してもある程度優しかったが、世間から天才錬金術師としてもてはやされた事でてんになり、人としてのしようが完全にくさってしまった。


「もう終わりにしよう」

 無意識に口から出てきた言葉は俺の本心だった。

 ルビーのワガママにこれまで付き合ってきたが、もう限界だ。世間からのバッシング、幼馴染のパワハラ。これ以上は俺の身が持たない。どこにでもいい、このごくから早く逃げ出したかった。

「なにを終わりにしたいの?」

「俺達の関係だ。俺はもうお前の専属魔導士はつかれた。かれ彼女も今日限りで解消する」

「はいはい、夕方までには帰ってきてね。今日の晩はんはカレーでお願いね」

 二人の会話にはかなり温度差がある。ルビーは自分が捨てられるとは夢にも思っていないようで、人を鹿にしたような表情で笑っている。

「理解してないみたいだが俺はちゃんと伝えたからな。俺はアトリエを出ていく。お前との関係も今日でさよならだ」

「どっか行くならさっさと行きなよ。ロイドのそういう細かいところすごくウザい。ぜつえんするのに手続きなんていちいちまなくていいよ」

 ルビーの許可も取ったので俺はしんしつに戻り荷物をまとめる。

「アイテムボックス」

 魔法を使って目の前に《アイテムボックス》を出現させる。

 アイテムボックスは、長方形をかたちどった箱の形をしており、全長は1メートル程度。空間魔法の原理が応用されており、見かけ以上に多くの物を入れる事ができる。この中には素材や装備といったアイテムを合計で1000個まで収めることができる。

 アイテムボックス内はそれぞれしきで区切られており、一つのフロアごとに1じよう分くらいの広さがある。

 現在は200個のアイテムが入ってる。ここに新たに服や日用品などを追加していった。

 いつの間にかルビーが俺のとなりに立っており、アイテムボックスの中をのぞんでいる。

「アイテムボックスを使うなんて結構本格的じゃん。無能魔導士のロイドが私なしで生きていけるなんてちょっと考えられないなぁ。しゆつぽん先で私のような優しい錬金術師が見つかるといいね」

 じようだんじゃない。お前のようなクズはまっぴらごめんだ。

 ルビーをキッと睨む。

 ルビーはそれを鼻で笑い、一枚の紙きれをアイテムボックスに投入した。

「お前いま何を入れたんだ?」

「帰りに紅茶を買ってきて、っていう手紙だよ。今日の夕方までにはお願いね」

 こ、この女。このおよんで俺をパシリにするつもりか。もはやこれ以上の会話は不要。彼女の顔はもう二度と見たくない。


 俺は行き先を告げることなくアトリエを飛び出した。もちろん別れのあいさつなんてものはない。

「さてこれからどこに行こうか。故郷に帰るのは気まずいから、できれば俺のことを誰も知らない新天地がいいな」

 まだ目的地は定まっていない。感情だけでアトリエを飛び出してきたので、思えば完全にノープランだ。

 できれば一から人生をやり直したいので俺の悪評が広まっていない辺境の領地がいいだろう。

 王都の公園にあるふんすい近くのベンチにすわって今後の予定を考える。

 1時間ほど考えて、最終的に目的地は《ミネルバ》へと決めた。

 ミネルバを選んだ理由は大陸側の領地という点が大きい。

 俺が暮らしている《メルゼリア王国》は、《メルゼリア島》と《西方大陸》の2種類の領土から成り立っている。

 王都があるのはメルゼリア島で、目的地のミネルバがあるのは西方大陸側である。

 大陸側の領土には知り合いがまったくいないので俺がロイドだとバレる心配がない。

 この点が辺境ミネルバを選んだ一番の理由である。

 うかうかしているととつぜん気が変わったルビーによってアトリエに連れ戻されかねない。目的地が決まり、俺は先を急いだ。

 王都の中央にある駅舎へと走った。小さな時計が目印の大きな駅だ。

 ここには多くの乗合馬車が存在する。乗合馬車とは不特定多数の客を乗せ、一定の路線を時刻表にしたがって運行される馬車である。

 駅舎では旅慣れた大人が馬車を乗り降りしていた。

 俺は大陸行きの客船があるメルポート行きの馬車に乗った。

 王都から辺境のミネルバまで、どれくらいの日数がかかるかぎよしやに聞いてみたところ、3週間ほどかかると教えてもらった。

 船旅や馬車での移動中にトラブルが起きればもっと日数が延びるだろう。

 でも、それでも全然構わない。むしろ遠ければ遠いほど俺にとってはありがたいくらいだ。

 ミネルバ行きの馬車がゆっくりと出発する。

 町並みが移り変わり、建物の数が次第に減っていき、山脈の連なるゆうだいな景色が目に飛び込んできた。

 しばらく窓の外をながめていると視界にドラゴンの姿が映った。何者にもしばられることなく、大きな黒いつばさを広げて飛んでいるその姿は、俺の心にいつまでも残り続けた。

 あのドラゴンのように、俺はもう誰からもじやされず、自由気ままに暮らすんだ。

 ドラゴンにかんめいを受けた俺は、改めてそう決心した。

 俺のセカンドライフはここから始まったのだ。

ドラゴンノベルス5周年記念フェア

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