エピローグ ノルンダンジョン領域クリア


 ドラゴン素材をかんきんした六〇〇〇万ゴールドは無事パーティメンバーで山分けとなった。

 ダグラスは教会として教会にもどり、ゴールドは教会に納めるらしい。

「あなた方とお会いできてよかった。何かあればいつでも声をかけてください。せ参じます。あのふたかたのことには私も気を配っておきますので、ご安心を」

 最後にさわやかにそう言って去っていく。

 ギュンターとヒルデは国には戻らず二人で生きていくようだ。幸せそうながおを見てリゼットもうれしくなった。

 分配金の受け取りをかなりしぶっていたが「約束ですので」とほとんど無理やりし付けるようなかたちになってしまったが。

みなさまの無事をいつでもいのっています」

「何かあったらいつでも呼んでくれ」

 ヒルデは微笑ほほえみ、ギュンターは快活に笑う。二人もノルンから去り、あっという間に三人パーティに戻る。

「ディーはこれからどうするのですか」

「そうだなー。ばつきんもなくなったし、まとまった金も手に入ったし。少しのんびりして、つうに働くかな」

 楽しそうに未来を語る。

てきですね」

「だろ? まあかぎようへいが必要になったらいつでも呼べよ。じゃあな、楽しかったぜ」

 そう言ってディーもあっさり去っていき、リゼットとレオンハルトのふたりきりに戻った。

 一人でダンジョン領域に来て、二人になり、三人になり、六人になり。そうしてまた二人へ。ぼうけんしやの別れはいつしゆんだ。

 ふたりきりに戻ってからは、ほとんど言葉もわすことなく、人の行き来がさかんな街中を並んで歩く。

 ダンジョンがなくなったことで、いつかくせんきんを夢みる冒険者たちも、ダンジョンのめぐみを受け取っていた商売人や職人も、この街を去ろうとしている。

 冒険者が去れば冒険者ギルドも早々にへいされるだろう。ダンジョン送りになった罪人たちは、おんしやが出るかもしれないし、また別の聖務をあたえられるかもしれない。

 そうやって世界や時流は変わっていく。

 リゼットもここからどこへ向かうのか決めなければいけない。

(どうしましょう……このままだまっているわけにもいきませんわよね)

 だが、レオンハルトにこれからどうするのか聞いたら、あっさり行き先を言われて解散になるかもしれない。

 そうしたらまたひとりきりになる。

 それは、少しだけさびしい。

「リゼット、君はこれからどうするんだ」

 黙っているとレオンハルトから話を切り出される。

 結局いつまでも黙ったままではいられない。リゼットはうまく答えられず、思わず空をあおぐ。青い空は平和そのものだった。

(自由とは、手にしてしまうとその身軽さにまいがしてしまいますわね)

 どこにでも飛んでいけそうで、どこに向かえばいいかわからなくなる。海をわたる必要も、もうなくなってしまった。

「実は決めていません。レオンは?」

おれは……」

 すぐに答えが返ってくると思ったが、レオンハルトも言葉をにごす。

 レオンハルトはドラゴンをたおすという成人のを終えた。国に帰るつもりはないと言っていたが、心とは変わるものだ。どんな道を進むのだとしても、リゼットには見送ることしかできない。

(……そんなことはないのかも)

 思い直す。

 同じ場所を目指したいと、いつしよに行きたいと言っても構わないだろうか。断られたらそのときはそのとき。どこに向かうとしても、一人よりも二人の方が安全だ。だから。

「……俺は、君と──」

 レオンハルトの顔を見ようとするが、目をらされてひとみおくが見えない。

「待て! リゼット!」

 聞き覚えのある声に呼び止められて、何事かとり返る。そこにいたのはほこりまみれになったベルナール・ベルン次期こうしやくだった。モンスターがあふれている間、物置にでもかくれていたのだろう。

「まだいらっしゃったのですか?」

「私がちがっていた」

「……なんのお話でしょうか?」

「私が愛しているのは君だけだ。どうか私のところに戻ってきておくれ」

 リゼットは目をまたたかせた。

 メルディアナと真実の愛をはぐくんだと言ってこんやくをしてきたというのに、この心変わり。

(頭でもぶつけたのかしら)

 一瞬そう思うが、かれの意図は明らかだ。リゼットが真の聖女になったと思って、自分のばんを強固にするために妻にしたいだけだ。彼自身はしんけんそのものなのだろうが。

 リゼットはそんな未来は望んでいない。

「私にはもう愛する方がいます」

 リゼットは手をばし、そばに立つレオンハルトのうできつく。

「リ、リゼット?」

 おどろくレオンハルトに微笑みかける。

「行きましょうレオン」

たのむリゼット! 君がいなければ私はめつする……!」

 ベルン次期公爵は地面に手とひざをついてこんがんしてくる。

 自分の将来がかかっているためか必死だった。聖女と婚約破棄してにせ聖女と結婚しようとしたと広まれば、次期公爵ではなくなるかもしれないのだから必死にもなるだろう。破滅は決して大げさではない。

 彼もある意味ではがいしやだ。だが命はあるのだから、きっとなんとかなるだろう。

 どうしたらおん便びんあきらめてくれるだろうかと言葉に迷っていると、となりにいたレオンハルトが口を開いた。

「先に手をはなしたのはそちらの方だろう」

「そ、それはやむを得ず……」

「俺はリゼットを愛している。だれにも渡すつもりはない」

 リゼットのほおが熱くなる。

 その場しのぎの演技だとわかっていても。

 固まってしまったリゼットの手を取って、レオンハルトが歩き出す。

 リゼットは手を引かれるままついていく。後ろは振り返らなかった。

 そうして無言で歩いている内に、もうすぐノルンのじようへきの外に出るところまでくる。そこでようやくリゼットは足を止め、手をほどいた。

「レオン、こいびとのふりをしていただいてありがとうございます」

「あ、ああ……」

「──私、決めました。とりあえずこの国を出ます。あとは自由をまんきつしながら考えます。だからレオンもこれからどうするのか、教えていただけますか」

 レオンハルトの顔を見上げて決意を語ると、エメラルドグリーンの瞳と目が合った。

 美しい緑の瞳の奥に、金色の光がらめいて見える。

 神秘的なかがやきに、リゼットはれてしまった。

「リゼット、俺は──」

「はい」

 真剣な表情で見つめられて、心臓のどうが速くなる。

「俺は……」

「…………」

「俺は……君と共に生きていきたい」

「レオン……」

 胸が喜びにふるえて、身体からだが熱くなる。

 リゼットはレオンハルトの手を、両手でぎゅっと包みんだ。

「うれしい。私もそう思っていたんです」

「リゼット──」

「私のモンスター料理をそんなに気に入っていただけたなんて」

「……料理? あ、ああ。それも好きだけれど、俺は……」

「レオンとなら、さらきわめていけそうな気がします。もしよかったら、これからも私の料理を食べていただけますか?」

「あ──ああ! もちろん!」

 どさっと、ものかげで何かが勢いよく倒れる。

 音のした方向を見ると、どこかへ旅立ったはずのディーが地面にしていた。

「ディー? どうしたんですかそんなところで倒れて」

「いや、うん、お前らがいいならそれでいーけどよ……」

「なんの話ですか?」

「なんでもねーよ。ったく、人がせっかく……」

 ディーはおこりながら立ち上がり、つちぼこりはらいながらリゼットとレオンハルトをこうに見て、大きな大きなため息をつく。

 そうしていると、ガラガラと大きな荷車を引いて街の外に向かう二人のドワーフがやってくる。

 ダンジョン行商人のカナツチと、でありダンジョン内で宿を経営していたカナトコのドワーフ兄弟が。

「カナトコさん、カナツチさん! ご無事だったんですね」

「何が無事なものか! やれやれ、また一からやり直しじゃわい」

「まいったまいった」

 再会を喜ぶリゼットに、ドワーフ兄弟はまったく同じ表情で言う。どちらがどちらなのかは、リゼットにはまったく区別がつかない。

「ふたりはどこへ向かうんだ?」

 レオンハルトが聞く。

「うむ。ここから西に新しいダンジョンができたらしいからのう。そっちに移るわい」

「新しいダンジョン……」

 その言葉にリゼットの胸がときめいた。

「……新しいダンジョン、新しいモンスター……新しい料理……」

 言葉にするたびに、夢が、世界が、ものすごい速さで色づいていく。果てしなく広がっていく。

 もう、止まらない。

いやな予感が……おいレオン止めろよ」

「俺はリゼットが望むならなんでも」

「こいつ……」

 リゼットは力強く西の空を指差した。

「行きましょう、レオン、ディー。新しい冒険へ!」

 目もくらむほどの自由と、無限に広がる夢をいだいて。

 三人での新しい冒険が始まる。

ドラゴンノベルス5周年記念フェア

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