閑話・三 水竜の盾


 バキンッ。

 ファイアリザードのほのおの息を受けて、水竜の盾がひび割れた。

「くそっ、またか……!」

 ぼくこわれた盾を捨てた。

 これで何度目だろうか。

 ゴルデオン山脈のしん殿でんで、僕たちは苦戦していた。

 さいおうにいるりゆうたおしてがみの祝福を手に入れなければならないのに、ちゆうのモンスターが強すぎて、そこまでとうたつする事ができない。

 その辺のモンスターのこうげきを防ぐために、火竜とのせんとう用に温存すべき水竜の盾を使わざるを得ないじようきようだ。

 水竜の盾を複数持ってきても使い切ってしまう。

 そして、水竜の盾がなければ、たとえ火竜の元に行けても、倒す事はできない。

 すべての盾が壊れてしまった今、僕たちは退くしかなかった。

てつ退たいする!」

「わかりましたわ!」

「ちっ。仕方ないか」

 退路でそうぐうしたモンスターをなんとか倒し、どうくつから出た。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 三人ともあせだくだった。外のヒンヤリとした空気が体を冷やしていく。

 ダイヤとルビィは地面にへたりんでいる。

「今回もだったか……」

「やっぱり、もっと訓練を積んだ方がいいんじゃないか?」

 耳としつをぐっしょりとらしたルビィが言ってくる。

「いや、もう行けるはずなんだ」

 僕はステータスを表示させて、自分のレベルを見た。

 このダンジョンをこうりやくできるだけのレベルはある。

「勇者様はそうおっしゃいますが、わたくしも難しいと思いますわ」

「水竜の盾さえ壊れなければ攻略できる」

「わたくしがもっと強力なたいほうが使えていれば……」

「ダイヤはよくやってくれてるよ」

 そう言いながらも、僕は正反対の事を考えていた。

 僕のレベルが足りているのに攻略できないのは、二人のレベルが足りないからだ。

 特にダイヤ。

 ここに到達するまでに、もう一段階上の耐火の魔法を習得できるはずだったのだが、いまだに習得できていない。洞窟内の高温の空気を防ぐのがせいいつぱいだ。

 ルビィも期待通りの動きをしてくれない。

 途中からパーティに加わるメンバーのレベルは、プレイヤーよりも低いのはよくある事だ。

 だが、レベルが低い分、僕たちよりも早く上がるから、そろそろ追いつくはずだった。

 なのに、動きがまだまだにぶくて、僕がフォローしないと危ない場面が多い。

 せめて一人で一体は相手取ってもらわないと困る。

「とにかく、水竜の盾をまた取りに行かなきゃね」

 水竜の盾を手に入れるためには、別のダンジョンのユニークモンスターを倒さなくてはいけない。

「ですわね」

 ダイヤが立ち上がった。

「もう買えばいいんじゃないか? 金はダイヤが持ってるんだし」

 ルビィが座り込んだまま言う。

「そうはいかない」

 僕は首をった。

 水竜の盾は、なぜかこの世界では店でこうにゆうする事ができるが、ゲームでは店には売っていなかった。自分で手に入れる物だ。

 かつて僕もゲームをクリアするために何度もユニークモンスターを倒し、水竜の盾をたくさん手に入れてから火竜にいどんだ。

だれかの力を借りて火竜を倒しても、きっと女神様の祝福は手に入りません。わたくしたちは、自分たちの力で進まなくてはならないのです」

「そうだったな……」

 ルビィはしぶしぶといったように立ち上がった。

「今日中に村にもどりたい。急ごう」

「ですわね」

「だな」

 ゲームなら勇者は一番近い村や街に飛ぶ魔法が使えるのに、僕はそれを習得していなかった。

 だから自分の足で戻らなくてはならない。

 ダイヤによれば、そんな便利な魔法はないという。歴代の勇者が使ったという記録もなかった。

 街と街をつなぐためのゲートも使えないのだからおどろいた。

 代々の勇者が使ってきた各地のゲートは、もう壊れる寸前だったのだ。

 修理すればいいと言ったら、そのための素材がわからないと言われた。

 ゲートが壊れそうになるなんてイベントはなかったから、僕も素材は知らない。

 つう、一度おとずれた街にはワープできるものじゃないのか?

 王都にも気軽に戻れないから、水竜の盾のそんもうりつをあらかじめゼロにしておく事もできない。

「そうだ。修理屋をやとって同行させればいいんだ。ダイヤ、君ならできるよね?」

 となりを歩くダイヤに聞くと、ダイヤはぎくりと体をこわばらせて立ち止まった。

「修理屋を……?」

「そうすれば盾が壊れる前に直してもらえるし、何枚も用意しなくても、修理の材料があればいい」

「それはいい考えだな! そうしようぜ、な、ダイヤ?」

「そんなの……っ、駄目ですわ!」

「どうして?」

 うつむいているダイヤに聞く。

「ですから、わたくしたちは自分たちの力で旅をしなければならないのです」

「そうか……修理屋も他人の手助けって事になるのか……」

「戦闘しなきゃいい気もすっけどな」

 ルビィの言葉に、僕ははっとした。

「そうだよ! 今だって資金やアイテムは国からもらっているじゃないか」

 戦闘に加わらないのであれば、パーティとは見なされないのではないだろうか。

「それでも駄目ですっ! 修理屋は王都にいるものですし、人数も限られています。同行させる事などできませんわ」

「ダイヤで難しいなら、僕が王に直接たのんでみるよ」

 魔王を倒すためなら、王都の修理屋がいなくなるくらい、大した事ではないだろう。

「このままでは、またあの子が……」

「ダイヤ? 何か言った?」

「いいえ……。何でもありませんわ」

 顔を上げたダイヤは、何かを決断したようだった。

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