閑話 ラッキーの憂鬱


 私はほこり高きフェンリルだ。ものの王と言っても過言ではないくらい強い。だが、いつのまにかダンジョンに閉じめられ出られない日々を過ごしていた。

 そんな私を助けてくれたのがぼうけんしやのロックだ。

 最初はただの弱い人間かと思ったがいつしよに旅をしている中で人間の本当の強さは、力の強さだけではかれるものではないというのがわかった。

 ロックは人族にしては異常なほどゆうしゆうだ。なんでも器用にそつなくこなし、私自身、おどろかされることが多い。

 そんな私も今じゃすっかりロックの従魔としての生活に慣れきっている。

 ダンジョンからせっかくでたのに、今はこうしてロックの魔法であるせいじゆうの箱庭でみんをむさぼっている。ダンジョンとちがって箱庭の気持ちのいい風と光が私にそうさせるのだ。


 今日は優秀な従魔である私の箱庭でのかつやくを伝えたいと思う。

 最初は……そうだな。ご主人であるロックの手伝いでもしてやろう。

 ロックは今、オレンジアントのパトラと畑にキャベッツの種をいているようだ。ここ聖獣の箱庭では温度が一定に保たれているのできっと野菜も育ちやすい。

『ロック、なえを植えるの手伝うぞ』

「おぉラッキー、どうした? めずらしいな」

『何か手伝えることがあれば手伝おうと思ってな』

「そうか、じゃあ今からパトラとキャベッツの種を蒔くところだから、やさしく畑の土にとうかんかくのへこみをつくってくれるか?」

『もちろんだ』

「ラッキー、がんって」

 私のような優秀な従魔になれば、主人の手伝いなんて朝飯前だ。パトラもおうえんしてくれているようだし、私の優秀なところを見せつけてやるしかない。

 そうだな。ここ1列を高速でへこみをつくってやろう。

 両方のあしで1列ずつへこみをつくっていけば一気に2列はできるな。

 私は思いっきり畑の上をける。畑には等間隔にへこみが……あれ……?

「ラッキー……」

「ラッキーさんが……ひどいです……」

 等間隔にへこみをつくったはずが、畑の土はばくさんそばにいたロックとパトラが土だらけになっている。

『わっ……悪い! わざとじゃないんだ。もう一度だけチャンスをくれ。ちょっと加減を間違っただけなんだ』

「いや、無理はしなくてもだいじようだぞ」

 私はロックが遠回しにやめろと言っているのを聞かなかったことにして、もう一度畑にへこみをつくる。今度は早さじゃない。ゆっくりやるんだ。

 手加減をしつつへこみをつくる。

 うん。いいぞ。この調子だ。

「ラッキーさん、さすがです! その調子です」

 パトラも喜んでいるようだ。でも、こんなへこみじゃキャベッツには浅すぎるのではないだろうか。もっと深い方がいいな。よし! 魔力を込めて。

 魔力を込め地面に力強く穴を開けたしゆんかん、地面にはクレーターができてしまった。爆発した土はふんわりとして空から落ちてくる。

 勢いをつけすぎたせいか、近くの木から葉っぱもチラチラといパトラの頭の上に落ちてくる。

「うっ……うっ……ラッキーさんが……パパとせっかくめたキャベッツを……」

 パトラは今にも泣きそうな顔になっている。

『パトラ……すまん。悪気はなかった』

「パトラ、大丈夫だよ。また一緒に植えよう」

 ロックがパトラをフォローしてくれているが、パトラは今にも泣きそうになっている。

「うっ……うん。ラッキーさん、ごめんなさい。ここはパトラとパパが一緒に植えるから手を出すのちょっとまんしてもらってもいいですか?」

『はい』

 それはパトラなりの優しさだったのだろう。私を責めるわけでもなく、遠回しにどこかへ行ってしいと告げてきた。もう『はい』としかいいようがなかった。

 私はシッポを垂らしながら草原の方へもどる。

 まぁ、いくら優秀な私とは言え失敗することはあるのだ。

 今回は加減ができていなかっただけで、いつもはちゃんと空気だって読めるしロックのサポートだってできる。慣れない畑仕事だったから、こんな失敗をしてしまったのだろう。


 私がトボトボと歩いていると、シャノンがけんりながら型の練習をしていた。あれは……ロックが教えていた新しい動きの練習だろう。私がその訓練を見ていると、こちらに気付いたシャノンが話しかけてきた。

「ラッキーさん、ひまそうですね? もしよかったら少し相手になってくれませんか?」

 シャノンが私のところへ剣を持ってやってくる。

 シャノンは本当にで毎日訓練をかかさずにやっている。

 今日も先ほどからずっとりと基本的な身体からだの使い方の練習をしていた。

『いいぞ。軽く相手になってやろう』

「お願いします。あっぼつけんにした方がいいですよね?」

 シャノンは剣を木剣にえようとするが、シャノンのうででは私にかすり傷一つ負わせることはできないので、そのままかかってくるように伝えた。

 じつせんで使う剣で慣れていた方がいいに決まっている。

『大丈夫だぞ。まずは私にかすらせてからにしてみな』

「いや、でもこの剣ちょっと気に入っていて、ラッキーさんに折られたら悲しいじゃないですか」

『剣はしようもうひんだろ? それに私に当たらない剣が折れるわけないだろ』

 今度こそ、私の優秀なところを見せてやろう。立派にシャノンの訓練相手がつとまるということを証明してやる。

「言いましたね。絶対に当ててみせますが、折らないようにしてくださいね」

『安心しろ。手加減を覚えたからな』

「ラッキーさんの手加減ほどこわいものはないんですけどね」

 草原の中でシャノンと向きあう。シャノンとは暇さえあればこうやって立ち合いをしている。

 シャノンは段々と格上相手でもおびえることはなくなってきた。きようしんというのは大切なものではあるが、時に恐怖しすぎることで身体の動きをがいしかねない。

 どんなに強い敵を目の前にしても、生き残るためには恐怖心と戦って最善のせんたくをしていかなければいけないのだ。

『それではかかってきなさい』

「はぁ!」

 シャノンが大きなけ声とともに真っすぐっ込んでくる。こういう時は無策とみせかけて何かを仕込んでいる場合が多い。今日は……そんなことを考えているとシャノンがフェイントをかけたあと急にジャンプして空中からこうげきをしてくる。

 まさかこれで終わりじゃないよな?

 何度も言ったのに……。

 空中では、身動きがとれなくなるため格上相手にやってしまうと一発でたおされてしまう。もっと油断をさせるなり、フェイントを複雑にしないと意味がない。

「シャノン……もう少しひねりをいれないとダメだぞ」

 宙にいているシャノンを前脚で横になでる。シャノンはそのまま倒されるかと思ったが、どうやら今回は私の攻撃を読んでいたようだ。

 私が前脚で横に飛ばす瞬間、シャノンは私の前脚をそのままばし、横へ飛んだ。

 そして、箱庭のかべを足場にしてさらに高く飛びあがる。

 私が手を抜いてシャノンを攻撃するのをわかった上で、それを攻撃につなげたらしい。

 案の定、前脚ではらった私の手はまだ次の攻撃にうつる準備ができていない。

 シャノンの成長がうれしくなってしまう。

『なかなかおもしろい作戦だったな。ただ、アクティブな動きだけじゃなくて、もっと基本的な動きの練度を上げるといいぞ』

「もちろん。わかっていますよ」

 空中から私の首にかけてシャノンがりかかってくる。それを身体をそらしながらける。

 なかなかいいすじになってきている。

 シャノンは元々才能豊かな子だからな。日々目をみはる速度で成長していく。

『だいぶ、くなったじゃないか。でも、まだまだあまい』

「あれ? ラッキーさん、ロックさんが畑を爆発させたことで話があるみたいですよ。ほら、あっち」

「えっ?」

 シャノンが指を指した方に一瞬視線がいくが、そこにはだれもいなかった。

 やられた!

 そのすきに一瞬で目の前から消える。

「ラッキーさん、もらいました」

 完全に私の死角からおそいかかるシャノン。思わず加減を忘れてそのまま飛びのく、この攻撃はきようだが、なかなかいいじゃないか。

 シャノンの剣が毛皮にれるが、毛の一本一本にまで魔力を込めることでシャノンの攻撃を防ぐ。

 私の毛皮はそこら辺の並の剣で傷つく魔物の毛皮とは違うのだ。

『今日の攻撃はなかなか面白かったぞ』

 シャノンに体当たりをくらわし、シャノンはそれを剣で受けるが勢いまでは殺せなかった。

 シャノンはそのままスカイバードくんのいる木に直撃した。

 木の上ではスカイバードくんがワイバーンの卵が転がらないようにさえている。

『悪い! わざとじゃない』

「スカイバードさん、ごめんなさい」

 シャノンと一緒にワイバーンの卵をかくにんすると特に割れてはいないようだ。

 スカイバードくんも安心したのか、大丈夫だと言っているような合図をしてくる。

『よかった』

「本当に!」

 私は、スカイバードくんと卵の安全を確認するとシャノンの方へ向き直る。

『今回のはなかなか面白かったぞ』

「私も今回はラッキーさんの意表をついて上手くいくとは思ったんですけどね」

 シャノンに言われた通り、剣も無事だったし、やはり私は優秀な従魔なのだ。

 シャノンは剣を振りながらさやにしまおうとすると、剣がパキッと折れ飛んで行く。

 どうやら先ほどの攻撃にえられなかったらしい。

『おかしいな……そんなにかたくしてないのに……』

「ラッキーさん……私、ロックさんのれいだから、新しい剣とか買うのもなかなか言い出せないんですよ。どうするんですか、これ。だから木剣がいいって言ったのに」

 シャノンは生気が抜けたように剣を見つめながらブツブツと言いだした。

『いや、本当に悪かったよ。あとでロックには言っておくから』

 シャノンがしゃがみ込み力なく折れた剣を見ている。

「いいです。私が言いますから。ちょっと一人にさせてください」

『わかった。でも大丈夫だ。ロックは剣が折れたくらいで文句は言わないから』

 シャノンは小さな声で「はい」とだけ言っていたが、剣が折れたのがショックだったらしい。

 しばらくそのままそっとしておくことにする。シャノンには悪いことをした。

 まっまぁこんな失敗もたまにはある……。


 草原から今度は小屋の方へ行くと、小屋の中からガーゴイルくんの鼻歌が聞こえてくるので中に入ることにする。

 小屋の中ではガーゴイルくんがお昼の準備をするために、料理をしていてくれた。

『ガーゴイルくん、何か手伝うか?』

「あっラッキーさん、どうも。お手伝いですか……」

『なんでもやるぞ。暇なんだ』

 ガーゴイルくんは少しめいわくそうな顔をしているが、きっと気のせいだろう。

 顔が石でできているから、実際はそれほど感情表現が豊かではない。

「そうですね、そしたらこのダッチョウの卵を割って頂けますか? この卵、すごく硬くてなかなか割れない卵なんですよ。あっでもラッキーさんの場合、軽くで大丈夫かと思うので」

『どれだけ硬い卵なのか知らないが、私にかかれば簡単だ。どれ貸してみろ』

 ガーゴイルくんが私の目の前に卵を置いてくるので。私は優しく卵に触れてみる。そう、何事も学習できるすごい従魔なのだ。

 今回はかなり手加減したおかげか、肉球がむにゅっとつぶれるだけで割れることはなかった。

 そう。でもこれは私の想定のはん内だ。

 これから段々と強くしていけばいいだけのこと。

 私は、じよじよに卵にあたえる力を多くしていく。2回目は少し強くしようげきがいき、3回目はさらに衝撃がいき、卵がゆがむ。このぜつみような力加減ができる私はやっぱり天才と言っても過言ではないだろう。

 そして……6回目。

 先ほどのかんしよくでは、そろそろヒビが入ってもおかしくないはずだ。

 私が前脚を天高く上げ、卵に向かって振り下ろそうとしたところ、私の横でガーゴイルくんがお肉にタップリのしようをふりかけ始めた。

 ダメだ、そんなタップリ胡椒をかけたら。

 私の大きな鼻はガーゴイルくんの使っていた胡椒を思いっきり吸い込み鼻のおくげきする。

「ブェクション!」

 大きなくしゃみとともに私の前脚は卵の上にふりおろされた。

 ふりおろされた前脚は卵の真ん中を外れたおかげで、その場でぺちゃんこになることはなかったが、卵の黄身は中から飛び出し周りに飛散。からは壁に当たりながら割れ、そのまま宙に舞った。

『ガーゴイルくん、わざとじゃないんだよ。ちょっと胡椒でくしゃみが……』

 私が必死に言い訳をしていると、宙を舞った卵の殻がガーゴイルくんの頭にすっぽりとかぶさる。黒っぽい身体の上に白い卵の殻が乗っている。卵から生まれてきたみたいになってる。

「大丈夫ですよ。ラッキーさん」

 ガーゴイルくんが全然大丈夫じゃなさそうな声で言ってくる。

 ガーゴイルくんは辺りを一周わたし、私もそれに合わせてまわりを見ると、部屋の中が黄色い卵でべったりとよごれてしまっている。

 ガーゴイルくんの目が怖くてまっすぐ見ることができない。

『私もそう手伝うからなっ』

「それじゃあ、き掃除をお願いできますか? これがタオルで、そこにみずおけがあるので」

『もちろんだ』

 ガーゴイルくんが優しい声でタオルを渡してくれる。

 つうならおこりたいところだと思うが、さすがしんだ。

 私が拭き掃除をするために急いで水桶に近づくと、運悪く足元には先ほど割ってしまった卵の白身が落ちていた。

 あっ! これまずいやつだ。

 思わず避けてしまい、あわてていたため思いっきりみ込んでしまう。次に気付いた時には頭から水桶に突っ込んでいた。

 水桶はガシャンと激しい音と共に割れ、ゆかが一面水びたしになってしまった。

 背中の方からいつもは、おちゃらけキャラのガーゴイルくんの怒っている気配がする。

『あっその……わざとじゃないんだ。うん。もちろん。わざとじゃない』

「はぁ。ラッキーさん、わざとじゃないのはわかっていますが、今お昼の準備でこれ以上……ぼくがあとで片づけしておきますので、地下のダンジョンに行ってオレンジアントたちのおりをお願いしてもいいですか?」

 ガーゴイルくんはじやだと思ったのだろうが、いつも通り優しく言葉を選んでくれたようだ。

『もちろん。仕事を増やしてしまって申し訳なかったね』

「大丈夫ですよ。いつも他のことで助けてもらっていますので」

 ガーゴイルくんにタオルを返し、私はとぼとぼとダンジョンへともぐる。

 こんなはずではなかったのに。


 地下に降りていくとオレンジアントたちがいつしようけんめいダンジョンを広げるために穴を掘っていた。

『手伝うか?』

 オレンジアントたちはおたがいに顔を見合わせて何かり手振りで会話をした後、私の方を向き大丈夫だと合図をしてくる。

 そう言われてしまうと私としても手が出しにくい。

 仕方がないのでダンジョンのはしすわり、オレンジアントたちの働く姿をながめていることにする。ダンジョンの中は外とはまた違ったかんきようで、少しひんやりとしていて気持ちがいい。

 オレンジアントたちは一生懸命穴を掘ってはダンジョンを広げていっている。パトラは外でキャベッツを植えていたが、他の5人はダンジョン拡張係らしい。

 非常に上手く役割分担ができているのか、動きがとてもスムーズで無駄がない。

『お前たちの連係はすごいんだな』

 オレンジアント5人が私の方を向き、いっせいに手を頭へ持っていき照れたように片手で頭をかいている。

 そして、何事もなかったかのように、またいっせいに作業に戻った。

 ふざけてやっているのか、まじめにやっているのかよくわからないが、オレンジアントの種族の特性で作業をしている時には連係が強化されているのかもしれない。

 そのまま見ていると、オレンジアントたちが今度は部屋と部屋の間の壁を取り除こうとしているのか、ツルハシのような道具で壁をガンガンとたたきだした。

 かなり硬い壁のようで。他と比べて時間がかかっている。

 あれなら私にもできる。

『オレンジアントよ、ここの壁をこわせばいいのか?』

 オレンジアントはいっせいにうなずく。

『よし、見てろ、それなら私が風魔法で一瞬でこの壁をくずしてやろう!』

 オレンジアントたちは私にダメだと言わんばかりに止めようとしてくるが、土壁くらい壊せないことはない。

『まぁ任せておけ! 一瞬だからな』

 オレンジアントたちは私の説得をあきらめたのか、いつせいに部屋から出て入り口のところまでげて行くのが見える。

 まぁ、そうだろ。私の魔法は強力だからな、オレンジアントたちがでもしたら大変だ。

 壁の前で風魔法を唱える。

 小屋下の土壁だから、それほど強力な魔法はいらないだろう。風魔法の中でも一番下のかまいたちを放つ。

 かまいたちは横一線壁にぶつかりつちぼこりをあげる。

 私はオレンジアントたちの方を見てドヤ顔をする。

『これで、壁を壊すの楽になっただろ?』

 部屋の入り口から見ていたオレンジアントたちはさらに上へと駆けだしていった。

 なんだよ。せっかく私が手伝ってあげたのに。そんなに逃げなくてもいいじゃないか。

『ビューン』

 激しく空気を切りさく音をさせながら私の側をかまいたちが通り過ぎていく。

 えっ……? いったいどういうこと?

 振り向くと、そこにはかいされていない土壁があった。土壁にはたい魔法がかけられていたようだ。

 これはまずい!

 ドアから外にかまいたちがでてしまったら、他の部屋をらしてしまうことになる。今ここで押さえなければ。

 私は急いでもう一度かまいたちを放つ。

 同じ魔法でそうさいするのだ。

 かまいたちが、かまいたちにぶつかる瞬間、2つの魔法はギリギリのところで交差し、相殺されることはなかった。なぜだ。しっかり当たる角度だったはずなのに。

 もう一度、今度は2つのかまいたちを放つ!

 今度こそ必ず当たる。これで終わりだ!

 だが、無情にもかまいたちは当たることがなく、部屋の中をじゆうおうじんに暴れまくる。

 幸いにもこの部屋はまだ製作ちゆうだったので、特に備品などはない。

 ただ、全部の壁に耐魔法がほどこされているようで、壁にね返ったかまいたちが部屋の中で暴れている。

 なぜだ? 風魔法のエキスパートである私の魔法が当たらないなんて。そんなくつじよくあっていいわけがない。こうなったら4つを一気にげきついさせてやる!

 さらに4つのかまいたちを作り、今度こそと魔法を思いっきり放つ。これで当たらなければ特大魔法でも放つしかない。

 今度こそ、角度も方向もバッチリだ!

 だが、やはり当たる寸前で方向を変えかまいたち同士で当たるのを避けてしまった。

 なぜだ? おかしい。私のかまいたちがねらったところに当たらないなんて。

 ふと、過去に自分が訓練をしていた時のことを思い出す。

 あれは……ダンジョンで暇だからかまいたちをいくつ出せるかをやっていた時だ。確か、当たって消えてしまっては数を数えられないからと、自分のかまいたちに当たらないように……!

 思い出した時にはすでにおそかった。部屋の中には8つのかまいたちが縦横無人に撥ね返りながら飛んでいる。

 まったく部屋の中で消える気配すらない。でも、それなら自分で一つずつ消していくだけだ。飛んで来たかまいたちを前脚で踏みつけ消す。

 うん。やっぱりゆうだな。

 ミスや不測の事態が起きてもぐに立て直せる。これが優秀な従魔の力なのだ。

「ラッキー、何をやっているんだ?」

 ダンジョンの階段の方からロックの声が聞こえる。

「オレンジアントたちが急におれのことを呼びにきたんだけど」

『いや、ちょっと待てロック、その……ここは少し危ないかも知れないぞ』

 ロックは私が止める前にすでに地下へと降りてきてしまっている。

 私の心配は悪い意味で的中する。

 残った7つのかまいたちのうち4つが部屋からでていき、地下1階の広間にあったものをめちゃくちゃに切り刻んでいく。

 地下室へ入ってくるロック……終わった……。

 ロックの目の前でオレンジアントがまとめておいたれきや魔物の肉などが爆発する。

 そのおかげで広間で暴れていたかまいたちは消えてくれた。

「大丈夫か、ラッキー!? 何か魔物でもでたのか?」

 ロックは私の方へ駆け寄ってきてくれて、背中を守るようにして残っていた3つのかまいたちを消していく。

『ロック……悪い……』

 私はいたたまれなくなり、ロックにちゃんと謝罪もせずに、そのままダンジョンからでてきてしまった。いったい何をしているんだろう。気付けば聖獣の箱庭の端まで来ていた。

 改めて考えるとせんとう以外で本当に役に立っていない。

 どうするか。こんな役立たずはもうここから出た方がいいのか。

「ラッキー、どうした」

 ロックはすぐに私を追いかけてきてくれた。

 どうしてこうなったのかをロックに説明すると、ロックは私のけんを優しくなでてくれる。

「そっか。ラッキーは一生懸命仲間の手助けをしようとしてくれたんだね。ありがとうね。ラッキーの優しさはみんなわかっているから大丈夫だよ。でも、ラッキーの魔法は強い魔法だからね。それをはじいてしまう、オレンジアントたちの壁もとくしゆなのは特殊なんだけど、次から気を付けてくれればいいよ」

「ロック……」

『大丈夫だよ。みんなだって話せばわかってくれるから』

 思わず泣いてしまいそうになってしまった。

 そこへ、パトラ、オレンジアント、それにシャノンとガーゴイルくんが一緒にやってくる。

「ラッキーさん、聞いてください! ロックさんが新しい剣を買ってくれるって言うんです! むしろボロボロの剣を使っていたのを怒られてしまいました」

 シャノンは元気にそう報告してきた。

『大事な剣、折ってしまったけど大丈夫なのか?』

「まぁ毎回折られるのは困るけど、ボロボロの剣を使っていて元勇者のように大事な場面で折れたら命の危険もあるからね。シャノンには定期的に手入れの大事さを伝えるきっかけになったから、ラッキーは気にしなくていいよ」

『ロック……』

 次はパトラが私に話しかけてきた。

「ラッキーさん! 先ほどは大人げなく言ってしまって申し訳ありませんでした。ラッキーさんが掘り返してくれた場所すごく土がふわふわになったんです。予想外でした。あれなら野菜もしっかり根をはれそうです」

 パトラは嬉しそうにラッキーに飛びつききついた。

『そうか。それは良かった!』

「それと、オレンジアントたちの手伝いをしてくれてありがとうございます。オレンジアントたちもラッキーさんにめられて喜んでいましたよ」

 パトラの横でオレンジアントたちがハイタッチしている。

 そして最後はガーゴイルくんだった。

「ラッキーさん、先ほどは卵割って頂いてありがとうございました」

『いや、だってあの卵は……』

「あの卵なんですが、実はダッチョウの卵じゃなかったんです。ドルネスネイクっていう毒があるへびの卵が混ざってしまっていたみたいで。シャノンさん以外、毒たいせいあるので別に大丈夫なんですが、割って頂いてよかったです」

『そうか。ぐうぜんとは言え身体に悪いものはとらない方がいいからな』

 あやうく変なものを食べさせられるところだったらしい。

 卵だと外見からでは毒があるのかどうかはわからないからな。

 それにしても、よくそんなものを手に入れられたものだ。

「まぁなんだ……ラッキー。結果オーライということで」

『あぁ良かった。それじゃあ他に何か手伝うことないか? 私だってやればできるってことがわかったからな』

 全員が一斉に首を横に振る。

「しばらくは大人しくそべっていてくれ」

 そんなにじやけんにしなくてもいいのに。もうしばらく私は力の加減のトレーニングが必要なようだ。

ドラゴンノベルス5周年記念フェア

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