第一章 異世界召喚



とつぜんのことでおどろいているだろう。そなたをこの世界にしようかんしたのは私だ」

 どこかの建物の一室。

 目の前にはどこかの国の王様らしき人が玉座にすわっている。

 左右にはよろいをまとった兵士たち、RPGでよく見る光景だ。

 わたしても、ファンタジーで見るようなしように身を包んだ人たちばかり。

 夢かと思って何度も目をつぶっては開けてをり返した。

 ダメだ、現実です。

「あ、あの。ひとちがいでは? 私は十六さいのただの女子高生です!」

 シーン。そりゃそうだ。

 ここには私しかいないし、明確に「そなた」とか言ってる。

 ろうれいしわが目立つ王様は表情をいつさい変えない。

「……大臣。説明を」

「ハッ!」

 王様は近くにいた大臣に説明をぶん投げた。

 それから大臣はじようきようをおおまかに説明する。

 召喚した理由は私をこき使うためであり、その代わり衣食住をあたえるとのこと。

 持っているスキルだいではかなりゆうぐうしてくれるし、しやくも与えられる。

 つまりどうあがいても私に自由はなく、明確な労働時間や賃金も一切不明だ。

 質問しても「その時の都合で」「出来合いで」とかあいまいな答えではぐらかされる。

 異世界召喚されたけどブラックでした。

「ともかく、そなたを悪いようにはせん。ではそろそろスキルかんていを行うとしよう」

 フードをぶかかぶったいかにもな人が私をすいしようだまが置かれている台座の前に立たせる。

 心臓が高鳴ってしょうがない。

「スキル……クリアほうしゆう、です」

 だれもフードの人にめない。

 あなたたちがリアクションしなかったら私はどうすればいいんですか。

 はよ、誰か何か言って。

「効果は『与えられた試練を乗りえれば報酬が得られる』といったものです」

「……どういうことだ?」

「この者になにかの試練が与えられて、それを乗り越えればなにかの報酬が得られるのでしょう」

「そのままではないか。それはどういったものだ?」

「そこまでは……」

 すごい気まずい空気になった。

 そして王様が私をジロリと見て、何かを期待している。

 いやいや、元々この世界にいるあなたたちのほうが何かわかりそうなものだけど。

「何も変化はないか?」

「ありません……」

「与えられた試練とは一体どういったものか。仕方ない」

 王様が兵士に命じて、けんを持ってこさせた。

 私に手渡されると一気に体がしずむ。要するに重い。

 いや重すぎ! こんなのってもの退治とかウソでしょ!?

「なんだ、そんなものも持てんのか」

「何をさせたいんでしょうか……」

「一回でも振ってみろ。私からそなたに命じて、それを達成すれば何か起こるかもしれん」

 フラフラになりながらも、私はがんばって剣を上から振った。

 その際、近くにいた兵士にを降ろしてしまいそうになりすごくられる。

 すみません。体力テストはいつも中の下です。

 結局なにも起こらず、王様はわなわなとふるえ始めた。

「なんだそのクソみたいなスキルは! 何も起こらんではないか!」

「ひっ! すみませぇん!」

 王様が玉座から立ち上がって今にもおそいかかってきそうだ。

 つうに生きてたらここまでおこられる機会なんてないし、ましてやここは異世界。

 一国を治める立場だけあって、さすがのはくりよくなみだが出そうなほどこわい。

「陛下、どうされます?」

「苦労して召喚術を完成させたというのに……!」

 私がいた世界、つまりこの世界から見た異世界の人間は強力なスキルに目覚める可能性がある。

 だけど私が意味不明なスキルなものだから、当てが外れたみたいだ。

 このままだと何をされるかわからない。

 よし、ここは説得だ。

「お、お言葉ですが王様。クリア報酬は何かのミッションをクリアすればたぶん報酬がもらえるんだと思います」

さきほどは何も起こらなかったではないか! もういい! 貴様に用はない! 追放だ!」

 すでに元の世界から追放されてるのにどこへ行けと!?

 落ち着け、ここで反論してもいいことない。

 立ち会っているえらそうな貴族的な人がヒソヒソと何かささやいている。

 時々ちようしようが聞こえてくるから鹿にされてるのはわかった。

 あれだけ大きな口をたたいておきながら、とか聞こえてきたから王様はまんする気だったのかもしれない。

 とにかくクリア報酬がどんなスキルか、考えてみよう。

「た、例えば魔物をとうばつすればすごい金目の物とか貰えるかもしれませんよ」

「では討伐してもらおうか!」

「あっ」

 失言した。待って、魔物とかたおせるわけない。

 やっぱり魔物がいる世界なのかとこうかいした。

「あ、あの。今のはあくまで一例で……」

「剣すら持てぬむすめがそこまでほざいたのだ。言ったことはぜひ実行してもらおう」

「いやいやいやいや! 常識で考えて無理ですって!」

だまれッ!」

「ひぃんっ!」

 怖い、もう涙しか出ない。

 くつきような兵士が近づいてきたからげようとするが、すぐに取りさえられてしまった。

 ちょっとどこさわってんのよって言いたくなるけどそんな場合じゃない。

 間もなく私は二人の兵士にりようわきからかかえられて、引きずられていく。

 とてつもない力で、私なんかが暴れたところでビクともしない。

 魔物がいるような世界だから、そりゃきたえてるよね。

「ホントに待ってください! もっと色々ためしましょうって!」

「大人しくしろッ!」

 私の非力なていこうむなしく、間もなく馬車に乗せられてどこかへ移動を始めた。

 どこへ連れていかれるのか。

 試すなんてのは口実で、これは事実上の追放だ。

 いらないから捨てる気です。

 意味不明に召喚されて、こんなのってないよ。クソ、クソクソクソ。


*  *  *


「ぐすっ……えぐっ……」

 もうやだ、帰りたい。今は暗い森の中だ。

 着ているものはスウェットのみ。

 へたり込んだまま、私は無限に広がっているような森を見渡した。

 あれから武器を渡されて魔物討伐を命じられたけど、無理に決まってる。

 兵士たちは私がおろおろしてるのを見て笑っていた。あの人たち、人間じゃない。

 その時、足場がちょうど小高いおかになっていたみたいで転げ落ちてしまった。

「いたた……こ、ここは?」

 軽く意識を失って目が覚めた時には森の中、誰もいない。

 運悪く変な森に落ちてしまったらしい。

 あの人たちがそうさくなんてするはずもないし、これはんだかな。

 ひとまず生きていたのはせきだ。

 でもこのままだと、どのみち野垂れ死ぬか魔物に殺される。

「クリア報酬って何なのォ……」

 温かいご飯を食べてねむりたい。ゲームやりたい。

 異世界召喚とか実際に起こってもめいわくなだけだ。

 あーあ、もうホントにあーあ。あ───────腹立ってきた!

「そもそもクリア報酬ってなに!」

──────────

魔の森にとうたつ! 火宿りのつえを手に入れた!

効果:こうげき+13 火属性魔法『ファイアーボール』を使える。

──────────

 なんて?

 ふと、手には杖らしきものがにぎられていた。

 これは、これはもしかすると。もしかするかもしれない。

 うんともすんとも言わなかったスキルがここにきて発動した。

 これ、使ったら無制限でファイアーボールが使えるやつ?

 ぼうRPGにもそんなアイテムがあったような気がする。

 それにこのメッセージウィンドウ、ステータスも?

「す、すてーたす、おーぷん……」

 実際に声に出すとずかしい。

 これで開かなかったらどうしよう。

──────────

名前:マテリ

性別:女

LV:1

攻撃:1

ぼうぎよ:1+1

魔攻:2

魔防:1

速さ:2

武器:なし

防具:スウェット

スキル:『クリア報酬』

しようごう:『捨てられた女子高生』

──────────

 ひどいステータスが開示された。

 基準はわからないけど、たぶん低い。

 魔の森とかいうちゆうばん辺りに出てきそうなダンジョンに存在していいステータスじゃない。

 RPGでおみの称号も余計なお世話だ。

 とにかく今やらなきゃいけないことは、この魔の森をだつしゆつすることだ。

 そうと決まれば──

──────────

新たなミッションが発生!

・スライムを一ぴき討伐する。報酬:攻撃の実

・火宿りの杖を使う。   報酬:魔攻の実

──────────

「ホントに?」

 早くも魔物討伐ミッションがきてしまった。

 ひんじやくステータスだけど、火宿りの杖があればいける?

 いやいや、まずは脱出が先だ。

 杖を握りしめてけいかいしながら歩き始めた。

 どこから何が飛び出してくるかわからない。

 遠くで聞いたこともない何かがうなっている。

 見つかったら終わりだ。しんちように──

「スリャア───!」

「ひぃっ!」

 かげからウネウネしたスライムが登場した。

 こんなアグレッシブなスライムとか聞いてない。

 手が、手が震える。早く、これを、使わないと。

 使うってどうやって?

 RPGでは火宿りの杖を使ったとかいうメッセージが出るけど、どう使うの?

 使うってなに?

「スリャリャブシャァァー!」

「もうヤケクソだぁー!」

 杖を振ると火の玉がスライムめがけて一直線に放たれる。

 ぼしゅんという音がした後、スライムが完全に蒸発した。

──────────

ミッションクリア! 攻撃の実を手に入れた!

効果:攻撃が+10される。

火宿りの杖を使った! 魔攻の実を手に入れた!

効果:魔攻が+10される。

──────────

 スライムが蒸発した地面から何かが光りながらポップアップする。

 空中にかぶ攻撃の実と魔攻の実らしきものを手に取ってみた。

 食べていいもの、だよね。ぱくり、と。

──────────

攻撃が1から11に上がった!

魔攻が2から12に上がった!

──────────

「ほう?」

 シャドーボクシングみたいにシュッシュッてやってみたけど今一つ実感がわかない。

 いや、私は強くなった。気持ち、気持ち。

──────────

新たなミッションが発生!

・リトルゴーレムを一匹討伐する。報酬:防御の実×3

・火宿りの杖で魔物二匹討伐する。報酬:魔攻の実×2

──────────

 やだ、私のスキルすごすぎ?

 誰だ、クソみたいなスキルあつかいしたの。


*  *  *


──────────

名前:マテリ

性別:女

LV:14

攻撃:107+13

防御:90+1

魔攻:58

魔防:40

速さ:112

武器:火宿りの杖

防具:スウェット

スキル:『クリア報酬』

称号:『捨てられた女子高生』

『スキル中毒』

──────────

「はぁ……はぁ……しゅごい……とまらないよぉ……」

 私、マテリは変な森の中で快感を得ています。

 気持ちよすぎてやめられません。

 次から次へと与えられるミッションをこなしていたら、ステータスアップアイテムがかなり手に入る。

 ミッション内容はその都度、変わるしねらっているアイテムが手に入るかどうかはランダムだ。

 でもやればやるほど上がる数値に私はすっかりとりこになっていた。

 余計なお世話チックな称号が一つ増えたけど、何かしらにえいきようしないことを願う。

「それで、出口はどこ?」

 ちゃんと森をけ出そうとしたよ?

 でもね。ミッションが与えられて視界のはしにスライムがいるとつい、ね。

 スライムはいいんだけど、リトルゴーレムとかいう魔物はちょっと危なかった。

 たけは私とほぼ変わらないんだけど、人型の岩が襲ってくるのはなかなか怖い。

 火宿りの杖でなんとか倒せたけど、私の予想としては物理防御がすごい高い系の魔物だと思う。

 その過程で考えたんだけど、私のステータスとレベルについてだ。

 レベルは魔物を倒すほど上がっていくのは間違いなくて、これに応じてステータスが上がる。

 だけど計算してみると悲しいことに、私のステータスじようしようりつはそんなに高くないように思えた。

 この世界の基準がわからないから結論は出しにくいけど、大体1レベルにつきステータスが1上がるかどうか。

 下手したら何も上がらないステータスもあるし、某シミュレーションRPGのろうみたいな成長率だった。

 ともかく私は勇者でも何でもない。

 ただの女子高生であって、これでステータスがグングン上がるようなら逆に不自然とも言える。

 さすが体力テストが中の下だけあるね。

 つまりこのステータスはほぼステータスアップアイテムのおんけいだ。

 まぁでも。ステータスですべて決まらないと信じてるし、スキル込みで考えれば私はたぶん強キャラだと思う。

 それにもう一つ、レベルの恩恵を発見した。

 まだ確定じゃないけど、このレベルはおそらく敵との戦いに大きく影響している。

 私のレベルが高ければ、敵に大きくダメージを与えられるからだ。

 例えば検証してみると、ほぼ同じステータスでもレベルが上がればリトルゴーレムを一撃で倒せるようになった。

 それに不思議と敵に対するきようしんうすれたし、ゆうをもって戦える。

 たぶん魔物にもレベルがあって、その差が開いているほど何らかの補正がかかるんだと思う。

 つまり私よりレベルが高い相手にいどむと逆に不利になる。

 まさにレベルが違うというやつを味わうかもしれない。

 そんな検証はいいとして。

「森を脱出しよう」

 何も食べてないしフラフラだ。

 これで出られなかったらどうする?

 RPGのキャラみたいに日付が何度変わっても戦い続けられるわけじゃない。

 空腹と体力は死活問題だ。

──────────

新たなミッションが発生!

・ヘルスパイダーを討伐する。報酬:すごい旅人服

──────────

「クモモモ────!」

「うわっ! でっかいクモ!」

 糸を伝いながらクモが木の上から軽快に向かってくる。

 だけどその位置は命取り!

「ファイアボォ────ル!」

 糸ごとファイアボールでクモを狙った。

 見事、命中した後でクモが高い位置から落下する。

 地上に落ちたクモがピクピクしているところをさらに狙いち!

「ファオボァ────!」

「グモォッ!」

 とどめの一撃でついにヘルスパイダーを討伐した。

 よしよし、実によし。

──────────

ミッションクリア! すごい旅人服を手に入れた!

効果:気温に応じて常に快適な着心地を得られる。

──────────

「こ、これは……。誰もいないよね?」

 急いでスウェットをいで、ささっとえた。

 着てみると保温性もすぐれているし、寒さや暑さも感じない。

 動きやすいし、これならどんな気候の場所でも快適に過ごせそう!

 これホントにすごい!

──────────

新たなミッションが発生!

・ヘビーボアを討伐する。報酬:魔法のコテージ

──────────

「う……うおおぉぉぉ────────────!」

 きったぁぁぁんじゃないのこれぇ!

 食べ物はともかく休める場所が手に入る!

 だけど、どんなアイテムかは貰ってみるまでわからない。

 ヘビーボアで私に光が差す!

「ヘビーボアかかってこぉぉ─────い!」

 森の中でさけぶなんて自殺こうだ。

 だけど一刻も早くミッションを達成したい。

 こいこいこいこい! 火宿りの杖で焼き殺してやる!

「あ、あれ?」

 森のおくから何かが走ってくる。

 まさか呼んだからってすぐ来てくれたわけじゃないよね。

 それにあれは大きすぎる。普通に木とか突進でなぎ倒してるんだけど。

「や、ば、ば……」

 逃げごしになった私にもうれつな突進をかましてきた。

 全身に激痛が走って地面に転がってしまう。

「いっだぁぁい……」

 現れたヘビーボアは堂々たる角をらして、私をみつぶそうとしてきた。

 とっさに転がってかいするといのししの足が地面を踏みぬく。

 これ、勝てるやつ?

「ファイアーボール! ボールボールボールボールボールボール! ボォォォ────ル!」

 ヘビーボアにありったけの火の玉をぶつける。

 よろめいているけど、なかなか倒れてくれない。

 手を止めるな。止めたら私が死ぬ。

 この体力はコテージできっと回復できる。

「ボォ─────────ルゥゥ─────────────!」

 ヘビーボアがようやくぐらりと揺れてきよたいを横倒しにした。

 ピクピクと少しけいれんするヘビーボアに私はダメ押しの追撃をかます。

──────────

ミッションクリア! 魔法のコテージを手に入れた!

効果:どこでもコテージを展開できる。

ちゆうぼう、ベッド完備で何度使ってもなくならない。

──────────

「やったぁぁぁ─────────────────────────!」

 私は叫んだ。

 手にしたのは小さなコテージのミニチュアだ。

 持ち運び自由でこれをどう使うのかはわからないけど、今は叫んだ。

 これで今日のところは休める。

 今の私に食料問題というがいねんはない。

──────────

新たなミッションが発生!

・魔法のコテージを使う。報酬:マスターナイフ

──────────

 このやさしいミッションはごほうかな?

 手に入ったオアシスに対する喜びをみしめて、私はコテージをセットした。

──────────

ミッションクリア! マスターナイフを手に入れた!

効果:どんな魔物でも解体できる。

──────────

「うむ、良き!」

 コテージの中には説明通り、一通りそろっていた。

 私は服や下着をその辺に脱ぎ捨てて、一目散に風呂へ向かう。

 ボタンを押すといつしゆんでお湯がまる仕様らしく、私はたっぷりとかった。

「まず30分は浸かる! 温まった後でかみと体を洗って仕上げに浸かる!」

 体のしんから温まるとはこのことだ。

 さっきまでとうを繰り広げていたんだから、今との落差はすごい。

 そういえばあの猪に突進されてめちゃくちゃ痛かったけどだいじようかな。

 ジンジンと痛むけど死ぬほどじゃない。

 でもどこか痛めてるかもしれないし、医者もいない。

 コンテニューなんてないし、死んだら終わりだからさっきの行動はけいそつだった。

 たまたま勝てたからいいけど、もしやばいのが来たらと思うと──

「なんとかなったからよし!」

──────────

新たなミッションが発生!

・マスターナイフで魔物を解体する。報酬:ヒラリボン

──────────

 外にいるヘビーボアを解体するか。

 このスキル、手に入るアイテムの効果が直前までわからない。

 欠点といえば欠点だけど、逆に言えば手に入れる楽しみがある。

 異世界のみなさんのスキルがどんなものかわからないけど、これで文句を言ったらバチがあたるよ。

 風呂から上がってさっそく外に出てヘビーボアの解体に挑む。

 マスターナイフを握りしめると──

「う、うぉぉーん!?」

 手が勝手に動いて、スムーズに解体ができる。

 頭の中に一通り解体のやり方が入ってくる感覚だ。

 あの巨体を解体するのにものの数分、部位ごとにれいに切り分けられた。

──────────

ミッションクリア! ヒラリボンを手に入れた!

効果:防御+15 速さ+40

回避率が大きく上昇する。

──────────

「リボンか。私に似合うかなぁ?」

 誰に気を使うわけでもなし。

 迷わずリボンを身に着けてから、ヘビーボアの肉を調理した。

 生まれてこの方、料理なんかやったことないけど焼くだけなら簡単だ。

 ジワジワと音を立てて、にくじゆうがフライパンの上にあふれてくる。

 猪の肉は元の世界でも好まれている食材だけど、果たして味はいかに!

 できあがったヘビーボアのステーキは実にこうばしそうだった。

「んぅっ! んっ!」

 一口、嚙むと程よいだんりよくせいを感じる。

 調味料なんか使ってないのに、塩加減さえ感じられる肉のうまだけでおいしい。

 心配していたくせくさみがほとんどなく、あっという間に平らげてしまった。

 残った肉はコテージの保冷庫に保管しておけばいいか。

 風呂でさっぱりして、おなかがいっぱいになったところで私はまた冷静に考える。

 ヘビーボアの突進はたぶんステータスのおかげで助かった。

 となると、火宿りの杖がなくてもある程度は戦えるという仮説が成り立つ。

 じゃあ剣術でも学ぼうか?

 ここは慎重になる必要がある。

 いや、決して訓練がだるいとか言ってるんじゃない。

 時間をかけるべきか? と考えると、もう少し様子を見たほうがいいのかな。

 クリア報酬でこの先、火宿りの杖みたいなお手軽アイテムが手に入るなら必ずしも訓練の必要はない。

 この辺りはやっぱりこの世界の人たちを見て判断するべきだ。

 あのお城の兵士はいかにも強そうだったけど、他の人はどう戦っているか。

 兵士と考えたところで思い出したら腹立ってきた。

 あの王様、今の私のスキルを知ったらどう思うんだろう?

 もどってこいとでも言うのかな? 今更、おそい。

「もうね、私は止まらないよ。ミッションある限りね」

 今日のところは本当につかれた。

 パジャマなんてものがあるはずもなく、私は下着のままベッドにもぐる。

 明日のことは明日の私にパスしよう。


*  *  *


「出口がぁ───!」

 あった。割といい加減にさ迷ったのにこれは奇跡です。

 魔の森とかいうひどい場所から出た先は大きく広がる平原だった。

 とはいっても、人が歩いた道みたいなものがあるからあれに沿って歩けばいい。

──────────

新たなミッションが発生!

・ゴブリンを1匹討伐する。報酬:攻撃の実

──────────

「よしよし、ゴブリンちゃん。かかってらっしゃい」

「ごぶぶ」

「はい?」

 ゾロゾロと歩いてきたのはなんと10匹。

 某RPGでもじよばんでスライムが画面いっぱいに並ぶとぜんめつに至る。

 1匹でいいんですよ。1匹で。

「ファファファファファファファファファファイアボボボボボボボボボォ───ル!」

 火宿りの杖を振りながら逃げ打ちした。

〝戦う〟と〝逃げる〟のせんたくしかないRPGとは違う。

「ごぶでふ!」

「なんか言った!?」

 気のせい。

 このゴブリンとかいう魔物はスライムより強いらしく、火宿りの杖の一発じゃ倒せない。

 そうなれば当然、反撃を受けるんだけど私は身軽にそれをかわした。

 ヒラリボンのおかげで当たる気がしない。

「ごぶればはぁッ!」

 最後の一匹がきたない断末魔の叫びをあげた。

 でもこれだけ動いたのに不思議と息切れしていない。

 ステータスアップのおかげかな?

──────────

ミッションクリア! 攻撃の実を手に入れた!

効果:攻撃が+10される。

──────────

「今回はちょっと割に合わなかったかなぁ」

 こういうこともある。

 気を取り直して、私は道に沿って歩みを再開した。

 このまま歩けばどこかの町に着くかもしれない。

 ミッションは私の意思では発生しないから、とにかく歩いていろんな場所に行くしかなかった。


*  *  *


「陛下、異世界召喚を行ったというのは本当ですか?」

 ファフニル国の国王が王国兵団の総隊長であるブライアスを驚かせた。

 ブライアスは国に仕える身ではあるが、国王に賛同できない部分が多々ある。

 つい先日も国王はスキルが弱いという理由で、小隊規模の兵士たちをかいしているのだ。

 これについて、ブライアスは内心でいかりを覚えている。

「だとしたらどうだというのだ?」

「異世界召喚は大変、危険です。人にあらざる絶大な力を持った異界の魔物を呼び出す可能性があります」

「フン、下らん。そんなものをおそれては国は作れんわ」

「スキルは確かに重要ですが、多くの者たちは毒にも薬にもならないものです。そういった者たちが国を支えています」

 国王が玉座にこしかけたまま、しかめっつらくずさない。

 先代はまともだったが、現国王が王位についてからは暗雲が立ち込めていた。

 だからこそ、スキル至上主義をこじらせて異世界召喚まで行うようになった。

 りんごくの王子のスキルを聞いてあせっている面もある。

「ブライアスよ。確かに取るに足らん者たちは多い。しかし世は常に一部の天才が動かしているのだ」

「その天才も手が足りなければ動けません。手足となるものが必要なのです」

「それが無才である必要はない。隣国のエクセイシアの王子のスキルを知っておろう?」

「はい、存じております」

「あれがその気になれば、我が国とてけば消える。ならばどうするか……二つに一つだ」

 このファフニル国と隣国のエクセイシア王国とは昔から友好関係にある。

 めてくる可能性など万に一つもないと、ブライアスはへきえきしていた。

 国王は隣国の王子のスキルをねたましく思っている。

 そのようなゆうしゆうなスキルが自分の娘にないことをやんでいる。

 これが国王のスキル至上主義の思想の根底にあった。

「一つは我が娘を隣国にとつがせることだ。そうすればとりあえずのきようは去る。しかしあの娘のスキルでは相手も気に入らんだろう」

「そ、そのようなことはないかと……」

「もう一つ。強力なスキルを持つ者を配下に加えれば、あのエクセイシアをけんせいできる。場合によっては攻めほろぼすこともな」

「なっ! それはいけません!」

「その時はそなたにもかつやくしてもらうぞ、ブライアス」

 国王は異世界召喚をして、その者のスキルが有用であれば戦争の道具にしていた。

 恐ろしいお方だと、ブライアスは恐れをいだいている。

 準備がめんどうな上にリスクが大きい異世界召喚に手を出すのが国王だ。

 ブライアスには召喚された者が幸せになるとは思えなかった。

「……召喚された者はどこに?」

「魔の森へ捨てた。いまごろは魔物のえさになっているだろう」

「なんということを! その者に戦いの心得はあったのですか!?」

「剣すら持てぬ小娘だ。あろうはずがない」

 魔の森はスライムなどの弱い魔物も多いが、ちゆうけんぼうけんしやでも手間取る魔物もいる。

 特にヘビーボアは生半可な鎧をくだくほどであり、この魔物によって命を落とした者も多い。

 なかなか刃が通らないので、討伐するのであれば魔法はひつだ。

 生身の娘が襲われてしまえばどうなるかと、ブライアスは国王への不信感をつのらせている。

「ス、スキルのほうはいかがでしたか?」

「クリア報酬とかいうわけのわからんスキルだ。何も起こらん」

「クリア報酬……。確かによくわかりませんが異世界の者であれば、我々とはかくにならないものであるはず……」

「異世界の者であればすさまじいスキルなど迷信だ。私がこの目でかくにんした」

 ブライアスはクリア報酬について考えた。

 報酬という点だけ見れば、条件を満たせばらしいものが貰える可能性がある。

 しかし、国王はろくに検証もせずほうり出した。

 右も左もわからない異世界の人間を魔の森に追放している。

 腹の内がえたぎってしょうがない。

「陛下、その者の捜索を任せてはいただけませんか?」

「ならん。あのようなカスを捜索する必要などない」

「人の命がかかってます」

「それがどうしたというのだ? 私は常に国を考えている。取るに足らんと私が判断したのだ、従え」

 国は多くの個によって生かされているものを、とブライアスは舌打ちしそうになる。

 国王がその玉座に座っていられるのも個のおかげであり、かれはその事実すらも理解していない。

 しかしブライアスはこの国に仕える身、ここで反旗をひるがえすわけにはいかなかった。

 ブライアスにできることは一つしかない。

 それはひたすら頭を下げることだ。

「陛下、お願いします」

「ならんと言っている。これ以上、食い下がるのであればそなたにはざんこくな処分を下さねばなるまい」

「くっ……!」

「……しかしだな。そなたのこれまでの功績にめんじて任務を与えよう」

 きよかれたブライアスが顔を上げた。

「あのカスが生きていると信じるそなたに相応ふさわしい任務だ。生きているのであれば、ただちに異世界の少女をまつさつせよ。その首をここへ持ってこい」

「は……!?」

「国内では敵なしと恐れられるせんこうのブライアスならば欠伸あくびが出る任務だろう」

「抹殺の必要などありません! どうかお考え直しくださいッ!」

 ブライアスは自制が効かなくなっていた。

 ブライアスの功績に免じてなどという国王の発言に怒り心頭だ。

 これほど自分をろうした任務がかつてあったか。

 国のためならばとまいしんしてきたブライアスだが、これは何一つ国益にならないと確信している。

 国王だからといってこんなことが許されてしまうのかと怒りが収まらない。

 が、寸前のところで出したい言葉をみ込んだ。

「どうした? もうここに用はあるまい」

「……わかり、ました」

 ブライアスは、声をしぼり出して王の間を立ち去った。

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