プロローグ


◇◆ほの視点◆◇


「ごめん……穂香、別れてほしいんだ」

 そう告げてきたのは、正式なこんやくしやはずだったみずマサヤだった。かれとなりには泣きそうな顔でうつむいている女性がいる。

 私、やまもと穂香は今、しゆの真っただなかにいた。

「君は強いし、おれがいなくても一人で生きていけるだろ? だけどかのじよは俺がいないとなんだ」

「……」

 つまりこの男は私と正式に婚約しておきながら、別の女とも付き合っていたわけだ。

 相手の女性はまだそこそこ。つい最近、職場の厳しさにえかねて、仕事をめたそうだ。

 他の勤め先を探していたところなかなか見つからず、ともだちさそわれたコンパでぐうぜんマサヤと出会ったとか。もうね、婚約中にコンパ行く時点でアウトだわ。

「いいわ、婚約しましょう。結婚する前にあなたのクズさが分かって良かったわ」

「な……そんな言い方はないだろっ!?」

「マサヤ、あなたネットニュースの芸能人のりんネタを読んだ時には、こいつはクズだって散々たたいていたくせに、自分の時にはずいぶんあまいんじゃないの?」

「お、俺は結婚していないから不倫じゃない!!」

「ふーん、じゃ、うわはクズじゃないんだ?」

「俺と彼女は運命的な出会いを果たしたんだ。浮気じゃなくて本気だ!!」

「そう。本気だったらふたまたしてもいいってことね?」

「う…………だ、だからお前みたいな一言も二言も多い女はいやだったんだ! もう俺はうんざりだったんだよ!!」

 反論できなくなったとたんに逆ギレ。

 まぁ、自分でも可愛かわいげがないっていうのは分かっていますよ? 職場では勝ち気な性格がわざわいして、おつぼねさま呼ばわりされていた。

 それでもあなたがいたから、何を言われても平気だった。

 あなたという守りたい存在がいたから。

 でも、あなたも結局はそんな私にうんざりしていたってわけね。

 その場にいるのも鹿らしくなり、席を立ち上がった。いつしゆんだけど、相手の女がクスリと笑ったのを見た。

 私は内心むっとしながら、伝票をひったくりレジの方へ向かう。

「あ、俺の分もはらっておいてよ」

 背中しにずうずうしいことを言ってくる馬鹿。

 一体どの口が言っているのよ!?

 私はとっとと自分の分だけ支払いを済ませて、かばんからスマホを取り出した。

 そしてマサヤの番号を消去してやる。当然L○NEもブロックしておく。

 それにしても、生活能力の無いマサヤが、か弱い女の子とやらを守ってあげられるのかしら?

 あのおとずれるたびになっていた彼の家に行ったことがあるのかな? 私がれいに片付けた三日後には、足のみ場もない状態になっていたのだから、部屋を散らかす才能は天下一だと思うわ。

 あの部屋をもう片付けなくて済むのかと思うと気が楽だ。

 私はその時、さびしさやそうしつかんと同時に、ほっとした気持ちになった。

 またいい出会いがあるかもしれないし、結婚する前にマサヤがクズ男だって分かって良かった、と思わなきゃ。

「……」

 楽しかった日々もいっぱいあった。

 いつしよに遊園地に行ったり、動物園に行ったり。カフェでとりとめのない話をする時間もやしだった。彼と一緒に居ると童心に返ることができた。

 そのことを思い出すと胸がめ付けられ、目からなみだがぽろぽろとこぼれた。

 こうして私のれんあいは婚約破棄という形で終わりを告げたのだった。

 私が婚約破棄したことを聞いた両親は、大喜びで見合い写真を送ってきた。元々マサヤのことは気に入っていなかったのよね。

 送られてきた見合い写真は、うん、どれもそうな感じの人だな。とにかく眼鏡率が高い。

 ……あ、眼鏡をかけていない人、発見。

 この人の顔はタイプかも。ふうん、ユウキタイチ。へぇタイチ君かぁ。

 うわ、でも勤め先が元彼と同じ会社だわ。

 大きい会社だし、部署もちがうから気にしなくてもいいような気がするけどね。けた方が無難といえば無難。

 顔は特別いいってわけじゃないけど、かといって悪くはない。いわゆるフツメン。でも、こういうあっさりした感じの顔って好きなんだよね。

 勤め先は引っかかるけど、一回この人とお見合いしてみよっかなぁ……いやいや、その前にせっかくフリーになったのだし、しばらくはお一人様を楽しみたいところ。

 お見合いは心の整理がついてからでもいいじゃない。

 気晴らしにWEB小説のしよせき版ライトノベルでも読もうかな。

 めいっ子にすすめられ、WEBで読んでおもしろかったから書籍も買っていたんだよね。

『運命の愛~平民の少女がおうになるまで~』

 平民少女ミミリアとハーディン国の第二王子であるアーノルド王子は身分差のこいに落ちる。

 だけどその王子様には婚約者がいて……あ、駄目だわ。今の私にはぐりぐり傷をえぐる話だった。自分が婚約破棄にあってなかったら、心の底から楽しめたのだけど。

 家に引きこもるよりは、久々の休日だし、買い物に行こうかな。せっかくフリーになったのだし、一人気ままな買い物をしたいわ。

 いつもと違うメイクや服、くつくと気分も変わる。

 アパートの部屋から出て階段を下りようとした時、あまり履き慣れない高いヒールを履いていたせいだろうか。

 階段からあしを踏み外し、転げ落ちることになる。

 頭を角にぶつけた感覚は覚えている。

 とてつもない痛みが走ったことも。

 だけどそれ以上は分からない。

 私の意識はそこでれたのだ。

ドラゴンノベルス5周年記念フェア

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