閑話 マリーちゃんのお話


 マリーちゃんはうちのメイドさんだ。ホーランド商業ギルド所属でうちへけんされてきている。

 お給料は私が出しているから私がやとってるんだよ。

 服装はホーランド標準、白と黒のつうのメイド服。頭にはホワイトブリム、白いエプロンに黒のロングスカート。

 ねんれいは十三さいたけは私と同じくらい。おっぱいが大きい。

 目もかみしつこくで、ツヤツヤヘアーのストレートのセミロング。


 そんなマリーちゃんは実家かられんきんじゆつ調薬店へ通っている。

 実家では弟と妹が一人ずついて、一家のお姉ちゃんなのだそうだ。

 まだ弟妹は仕事をする年齢ではないので、メイドさんという女の子のあこがれの職業をしているお姉ちゃんはそれはもうせんぼうまなしを向けられている。

 立派なお姉ちゃんも鼻が高いことだろう。

 だからなんだ、ということはないけれど、マリーちゃんはうちではぽわぽわしているふんがあって、あまり存在感がない人に見える。

 でもお姉ちゃんのマリーちゃんはしっかりものでみんなにたよられているんだ。


 もちろん錬金術店でもマリーちゃんには大いに助けてもらっている。

 錬金術という仕事は本当に作業が多い。

 そしてお店なので商品を並べたり会計をしたりと、それはもう雑用系の仕事が山ほどある。

 それを一手に引き受けているのがマリーちゃんなのだ。

 錬金術の専門的な作業は私とシャロちゃんができるからだいじようなんだけど、本当に周辺の仕事ってやってもやっても終わらない。

 それにご飯のたく、お客様の相手、とかもあって毎日いそがしい。

 本当に本当、マリーちゃんにはお世話になっています。これからもよろしくお願いします。


 今日は小麦粉があるので、みんなでクッキーを焼くことにした。

「ほらほら、小麦粉をパンパンとふるいにけてください」

「はーい」

 マリーちゃんの指示で私が実作業をする。

 錬金術には粉物も多く、ふるいもよく使う。

 クッキーだって似たようなものだろう。できたから順番にクッキーを焼こう。

 となりでは最初に焼く分の第一だんの生地をニコニコ顔のシャロちゃんが一つ分のサイズに丸めて並べていた。

「よしできた」

 マリーちゃんがオーブンの予熱を温めていたのが終わったようだ。

「それではこっちはオーブンに入れますね」

「「はーい」」

 マリーちゃんがクッキーを並べた鉄板をどうオーブンに入れる。

 これは魔力を使って動作する魔道具の一種で、家を借りたときに付属していたものの一つだ。


 るんるんるん、とクッキーが出来上がるのをみんなで待った。

「いいにおいしてきましたね」

 マリーちゃんが鼻をすんすんさせて言う。その表情がなんだかかわいい。

「うん」

「ふふふ、いい匂いです」

 おっとりとシャロちゃんも同意してくれる。

 ウキウキしたマリーちゃんがクッキーをオーブンから取り出すとしそうな匂いが部屋中に広がった。

 オーブンの鉄板を取り出して冷ます。この待ち時間が非常につらい、おなかいた。


「そろそろいいですか」

「そうだね。それじゃ一枚ずついただこうか」

「はい」

 私のりようかいを得てクッキーに手をばす。

 サクッ。

「美味しいです」

「美味しいぃぃ」

「うん、美味しいね」

 みんなで美味しいと言って、紅茶を飲む。えへへ、あらかじめ準備しておいたのだ。

 それもホーランド商業ギルドの特上品の紅茶。こちらもいい匂いがしている。

「えへへ」

 私がにへらと笑うと、みんなもうれしそうだった。

 マリーちゃんもいて私の生活は成り立っている。

 本当に今ではいてくれないと困ってしまう。日々、感謝感謝だった。

 こうして幸せな日々が続くといいな、とふと思った。



 ある日。マリーちゃんが朝、なかなか出勤してこない日があった。

「シャロちゃん。マリーちゃんおそいね」

「そうですね。何かあったのかも」

 シャロちゃんは何かとしんぱいしようだ。やさしい子なのだ。

 れんらく手段もないし、先に今日のれんきんアイテムの製造に入っていよう。

「今日もねーるねるねる、ねるねるね」

 ポーションをこねこねする。

「すみません! おくれましたっ」

 マリーちゃんだ。急いできたのだろう。あせをかいているし、息もあらい。

「どうしたの? 心配しちゃった。こっちは大丈夫だよ、落ち着いて」

「ありがとうございます。実は弟が熱を出してしまって……」

 をひいてしまったらしい。

 お母さんが看病してくれることになったのだそうだけど、その手伝いをしていて遅くなってしまったそうだ。

「なんだ、それなら今日はマリーちゃんお休みにする? こっちは何とか回すから」

「ありがとうございます。それじゃあ私、やっぱり心配なのでもどります」

 風邪で死んじゃう人は少ないもののゼロではない。

 それにしようじようが悪いと苦しかったりする。

「昨日の残りのポーションもあるし、今日は少なめでもいいよね。それじゃあ私もマリーちゃんちにいつしよに行くよ」

「ミレーユさんもですか?」

「これでも錬金術師だから風邪くらいなら知識もあるのです。えっへん、おまかせよ」

「そうですよね。村のお医者さん代わりだったんでしょう」

「そうそう。そんな感じ」

 ということでとつげき、お宅訪問となった。


 マリーちゃんの家は錬金術調薬店から見てひんこん街がある方向で、その手前くらいにある。

 下町の区画だった。王都の中では普通階級の人々が多く住んでいる。

 マリーちゃんが家のとびらを開けて中に入る。

「ただいま~。エルラは平気? トーマは風邪、大丈夫?」

「私は何ともないから平気だよ」

「うん、母ちゃんがいるから大丈夫。それよりマリー姉ちゃんメイドの仕事は?」

 弟妹の声が家の中から聞こえてくる。マリーちゃんに続けて家に入ると、なるほどマリーちゃんに似ていてかわいらしい。

「お姉ちゃん、この人は?」

「この人が錬金術店のミレーユさんだよ。てるのがトーマ、こっちがエルラです」

 エルラちゃんがすみっこで頭を下げる。

 上の子のトーマ君は十歳前後。マリーちゃんに似た色のたんぱつくろかみ

 下の子は八歳くらいだろうか。エルラちゃんはちやぱつのセミロングだった。

 エルラちゃんが出てきて、マリーちゃんに頭をでられている。

「トーマはちゃんと寝てた?」

「うん」

「お母さんは?」

「今、に行ってる」

 この辺は井戸がご近所と合同になっていて個々の家にはない。

 井戸をるのだってタダではないのだ。

「どれどれ」

 私がベッドのトーマ君の様子を見る。

 熱はあるようだけど、他の症状はほとんどないようだ。いつぱん的な風邪だろうと当たりをつける。

「風邪だね。寝てれば治るだろうけど熱があるから、低級ポーション飲もうか」

「うん……でもあれあんまり美味しくなくて」

「今回はオレンジ味だから」

「分かった」

 トーマ君にオレンジ味の改良型低級ポーションを飲ませる。

 マリーちゃんが心配そうにその様子を見ていた。弟妹思いのいいお姉さんなのだろう。

「トーマどうかな?」

「姉ちゃん、そんなすぐ効かないよ、大丈夫だって」

「そっか」

 優しそうにほほんでトーマ君を見ていた。うんうん、心配なのは分かるよ。

 さてポーションを飲んだので、もうひとねむりさせる。

「ミレーユさん、どうですか?」

「風邪は大丈夫そうだね」

「よかった」

「他は、手がちょっとれ気味かな?」

 そっと手を撫でて、見てみると小さな傷が目立った。

「弟もだけど妹も、水仕事とか手伝ってくれるから手が荒れてしまって」

 マリーちゃんが少し困ったような顔で教えてくれる。

「なーにお姉ちゃん、手?」

「うん」

 エルラちゃんにも手を見せてもらう。確かに手がカサカサだ。小さな切り傷もある。

「なるほど、ポーションを使うほどではないかもしれないけど、改善はしたいよね」

「はい」

「考えてみるね」

 こうしてしんさつが終わった。


 再び錬金術店に戻ってくる。

 一通り午前中の作業をして午後のはんばいも終わって夕方。

「さて、じゃあちょっと研究しますか」

「研究ですか? 先生」

「うん、シャロちゃん。クリームとかどうかなって」

「あぁ、マリーちゃんの弟さんと妹さんの手が荒れちゃうって言ってましたもんね」

「そうそう」

 低級ポーションでは大げさだなってときで、かといって練り薬草では効果がうすいもの。

 熱があるときは練り薬草でもいいけど、できればポーションがいい。

 練り薬草は軽い風邪やのどが痛い時、頭痛とかにいいと思うんだけど、いかんせん外傷にはあまり効果がない。

 あかぎれ、り傷とかに特化した美容クリームのようなもの、だろうか。

「そうだね。まずはスライム粉末に水を多めに入れて練ってみればいいかな」

 薬草とスライム粉末を加熱して錬金がまかわかせば練り薬草やあめのようなものになる。

 そうではなくて水分を多く残したままクリーム状にしてみる。

「おおぉ、先生いいじゃないですか、これ」

「うん、なんか思ったよりずっとそれっぽくなったね」

 練っているうちに空気が入り、白っぽいうすみどりのクリームが完成した。

「じゃじゃーん。手指の傷にハンドクリーム」

「おおぉお」


 後日、マリーちゃんに現物を見せてみる。

「わぁ、ミレーユさん、いいです。とってもいいですよ」

 マリーちゃんにもほめられた。

「これで弟と妹のれも改善できます、ありがとうございます!」

 こうしてマリーちゃんの弟妹の手荒れ問題も無事に解決することができた。

 評判は上々でアメニティグッズとしてお店で配ったりしている。

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