第五章 目指せ、甲子園!?


14. うろこおいしい


 一週間後。

 いよいよ治しのポーションがそろい、ステラとウッドがザンザスへと旅立つ日が来た。

 空はからっと晴れている。

 出発する馬車の前には、ステラとウッドが並んでいた。

 なんだかきんちようしているように見える。

 それはおれもかもしれないが……ウッドとはなれるのはこれが初めてだからな。心配にもなる。

「忘れ物はないな? くれぐれも無茶はするなよ」

「ウゴウゴ! だいじょうぶ!」

「ステラの言うことをよく聞くんだぞ」

 そう言って、俺はウッドをでる。

「ウゴウゴ! わかった!」

「ステラも……無理はしないようにな。がないのが一番だ」

「はい……! 気を付けます!」

 見送りにはアナリアとナール、テテトカも来ている。

がんってくださいね」

「ええ……頑張ります。わたしがいない間、観葉植物をよろしくお願いします」

「もちろんにゃ。お世話するにゃ」

 両手を広げながら、ナールが答える。

「ほえー、元気でねー」

 テテトカもほがらかに手をって見送ってくれる。

「ウゴウゴ! おれもがんばる!」

 こうして二人は出発していく。

 土ぼこりを上げる馬車の後ろ姿を、俺は見送った。

 ウッドには麻痺こうげきは効かないし、ポーション類は十分にある。

 経験あるステラもいるしな……。うん、だいじようだろう。

 ちょっとした遠足みたいなものと思おう。

 あとはきつぽうを待つだけだ。

 順調にいけばもどってくるまで、半月くらいだろうか。

 まぁ、気をんでいても仕方ない。

 俺は俺の仕事をやらなくちゃいけないからな。

 それから俺たちはニャフ族の倉庫に向かった。

 倉庫にはレインボーフィッシュの入った生けを保管している。

 その様子を見に行くのだ。

 倉庫の中は静かだ。

 並んだたなには、野菜の加工品やらが置かれている。とてもれいにされており、ほこりひとつない。

「ふむ……特に問題はないみたいだな」

 生け簀の中ではレインボーフィッシュが元気に泳いでいる。

 もちろん、あの黄金のレインボーフィッシュも元気だ。

 毎日見ているが特別変わりはない。

えさもちゃんと食べてるにゃ。今のところは順調にゃ」

「鱗もときおり、落ちていますしね。大丈夫そうです」

「それはなによりだ。だけどドリアードの草だんご以外の餌は食べてないんだろう?」

「そうなんですー……なんでだろう?」

ためしてはいるのですが、私達の作った草だんごやつうの魚の餌は食べません」

「ドリアードの手をけずに育てることはまだできないか……」

 鱗を落としてくれるので、確実にプラスにはなっているのだが。

 ドリアード以外が作った草だんごをレインボーフィッシュは食べてくれない。

 同じように作っているはずなんだがな……。種族的な何かを感じ取っているのか。

 そのため、レインボーフィッシュの餌を作れるのはドリアードだけなのだ。

 これだと大量に育てるのはまだ無理だな。

「とりあえず追加の生け簀は発注しておこうか。特に急ぎはしないが、用意だけはしておこう」

「よろしいのですかにゃ?」

「ヒールマンゴーを育てるのが終わって、ドリアードも少し手が空くからな。草だんごの生産量も増やせるし、あと生け簀ひとつは問題ないだろう」

「はいですー、草だんご作ります!」

「ああ、よろしくたのむ。引き続き、レインボーフィッシュの情報は集めてくれ。それさえ解決できれば、一気に鱗をゲットできるからな」

 生け簀には鱗が何枚か落ちている。

 餌はいるとしても、やはりりよりは断然効率がいいな。

 回収しておくか……。

 最近は鱗を見ても、テテトカはじーっと見ることはなくなった。

 毎日のように鱗を食べているからな。そこまでしがらないのだ。

 でもなんとなく、それはそれで物足りないような……。

「……とりあえず一枚、食べるか?」

「はいですー!」

 元気よく答えるテテトカ。

 俺のわたした鱗をさっと口に入れる。

 ぽりぽり。

「おいしー!」

「よくむんだぞ」

「はーい!」

 うん……テテトカというか、ドリアードはこうでなくちゃな。

 レインボーフィッシュのかくにんが終わったので、あとはそれぞれの仕事時間だ。

 アナリアにはポーション作りが、ナールには商会の仕事がある。

 俺も収支計算とかあるのだが……まずはテテトカを大樹のとうに送ることにした。

 なにげに二人きりはめずらしいかもしれない。

 歩いているとそこら中で外出するぼうけんしやとすれちがう。やはり午前中はいそがしいふんだな。

 そしてテテトカはおなかをぽんぽんさわりながら、満足げな様子だ。

 今、テテトカが持っているバッグには、たくさんの鱗が入っていた。

「はふー、おいしかったです!」

「それは良かった……。ところでこの鱗はどういう味なんだ? ちょっと興味あるんだが」

 テテトカに限らず、ドリアード達はおいしそうにレインボーフィッシュの鱗を食べている。

 普通だと魚の鱗は当然、食べないしな……。

 もしかして、意外と俺が食べてもおいしいのかもしれない。

「草の味です!」

「……そ、そうか……」

「とってもおいしい草の味がします!」

 うーん……草の味かぁ……。

 どういう味なんだろう。

 うすうすわかってはいたが、こういうときのテテトカの感想はそれこそ大味だ。

「……もしかして、食べたいです?」

「あ、いや……」

 さっとテテトカが鱗を差し出してくる。

 きらきら。

 純真な目でテテトカが俺を見つめる。

 俺が鱗を食べたいと思ってて、疑っていない目だ。

 うっ……断りづらい。

「エルト様も、これを食べればわかりますよー」

「そ、そうだな……」

 ううっ……断れない。

 俺は少し迷ったが、テテトカから鱗を受け取った。

 だ、だいじょうぶ。

 一口かじるだけなら、大したことはない。そのはずだ。

 ここにはポーションもあるしな……。

 本当の大事にはならないだろうし。

 そこまで考えた俺は、思いきって一口鱗に嚙みついた。

 ぱりん。

 鱗はせんべいのような感じでくだけた。

 ……歯が立たないということはなかったが。

 ぽりぽり……。

「うん……? おいしいっ?!」

「そうでしょー! おいしいですよー!」

「あ、いや……うん……。ちょっとピリからげきはあるが、全然キツくはないな」

 前世で食べていた、ピリ辛ポテトみたいな……。

 まさにそんな味だ。

 だけど、この世界には辛味があまりない。こうしんりようを使った料理はメジャーではないのだ。

 だからこそしんせんだ。

 久し振りにこういう味を食べた気がする。

 ぽりぽり……。ごくん。

 俺はそのまま鱗を食べてしまった。

 うん、スナックだな。

 くせになりそうな味で、いくらでも食べられそう。

 こんなにおいしいなんて思ってもみなかったな。

「うん……おいしかった。ありがとう、テテトカ」

「いえいえー。機会があったら、みんなもいつしよに食べましょー」

「ああ、そうだな。いい考えだと思うぞ」

 そんなこんなで、俺はテテトカを塔まで送り届けた。

 差し出した鱗を食べたおかげか、少しテテトカとのきよが縮まった気がする。

 やはり食わずぎらいは良くないよな……。

 俺もこの世界を知りくしている訳じゃない。

 ひとつひとつ、確かめないとな。

 そして家に戻った俺は、異変に気が付いた。

 頭の中に──新しい知識がかんでくる。

 まるでほうのようなものだが、感覚的に違う……。

 これはこの世界で初めての感覚だ。

 俺はそれをうまく言葉にしようとした。すると文字が頭の中に浮かび上がってくる。


【使用可能スキル】

 ドリアードの力Lv1


 うん……?

 ドリアードの力?

 これは鱗を食べたから……だよな。

 あるいはテテトカと仲良くなったから?

 どちらかが原因だと思うが……。

 どうやら俺は、未知の力に目覚めてしまったようだ。

 魔法とスキルは似て非なるもの。

 どちらも世界にかんしようする技術だが、スキルは魔力を使わない。

 一方、魔法は魔力を消費する。これがもっとも大きな違いか。

 次にスキルは入手手段が限定されているはずだった。

 ほとんどのスキルはNPCからのクエストクリアか、ダンジョンクリアのような条件を満たさないといけない。

 そのため、これまで俺はスキルかくとくを目指さなかった。時間がかかりすぎるからな。

 対して魔法は、魔力が高まれば確実に習得できるし……時間効率では比べ物にならないのだ。

「このスキルは確か、農業系の生産をアップさせるスキルだったか……」

【ドリアードの力】はゲームの中だと、NPCからのクエストほうしゆうとしてゲットできたはずだ。

 つまり本来なら、俺がここで何かの行動をしたからといって入手できるようなものではない。

 欲しいスキルではあった。しかし、この世界でどうやって手に入れるのか、わからなかったのだ。

 ふむ、しかしまさか手に入るとは……。うれしい誤算だ。

 入手条件がくわしくわかれば、俺以外にもスキル持ちを増やせるかもしれない。

 そうなれば、全体的な生産量がアップするだろう。

 問題はこれがパッシブスキルということだ。常に効果を発揮するタイプのスキルなのだが……。

 どうやれば効果を確認できるか、調べないといけない。

 ドリアードのパッシブスキルというと、ひとつしか思い浮かばない。

 そう、ヒールベリーの村でおみの光景。

 土にまるドリアード達である。

「……とりあえず俺も土に埋まってみるか」

 風のようにける馬車の中。

 ステラは武器防具の点検を行っていた。

 ウッドは大きいので、別の馬車にいる。

 そのためステラは一人でひまを持て余していた。

「ふぇぇ……静かです……」

 最近は日中、一人で過ごすことはあまりなかった。

 ひたすらみんなでボールを打ち返す練習をしていたからだ。

「……あれは楽しかったですね……」

 思い出して、少しみがこぼれる。

 ひたすらひとつ何かをやるということは、ステラが好きなことだった。

 日曜大工しかり、無心に体を動かすのがしように合っている。

 それにボールを綺麗に打ち返せると、気持ちいいのだ。

 棒に当たるごたえ、そして青空に飛んでいくボール。

 冒険者達も楽しんでやっていた。

 この攻略が終わってからも、あのボールを打つのは続けたいなぁ……。

 ステラは、ぼんやりとそんなことを思うのだった。

 それから俺はスキルの効果を確かめたくて、大樹の塔へと出向いた。

 どういう効果があるのか、すごく気になる。

 幸い、まだ人はいなかった。

 まだ日中だしな……あともう少ししないと、冒険者も来ないだろう。

 とりあえず俺はつちに入ることにした。

 そしてその横になえを植えてもらって、実験である。

 果たして効果が出るのかどうか。

 本当はドリアードと同じく縦に埋まったほうがいいのだろう。

 しかし、それは上級者すぎる。

 俺は初心者だから……。いきなりそこまでやるのは、やめておこう。

 そうして土風呂に入って一時間。

 土のぬくもりにいだかれながら、俺は横になっている。

 なぜだろう……こうやって身動きひとつしないでいるのが気持ちいい。

 癖になる人が出てくるのもわかる気がする。

 だが、苗はぴくりとも動かない。

 何かが起きている気がしない。

「うーむ……効果はない感じだな……」

「パワーは感じないですねー」

 そこにちょうど現れたのはテテトカ。

 じょうろを持っているので、畑の水やりから帰って来たみたいだな。

 しかし、効果なしか。やはりそう見えるか……。

「水もかけてみます?」

「い、いや……そこまでは……」

「ざんねんー」

 俺に水をやっても、何も変わらないはずだ。

 普通の人間が水を浴びてもドリアード気分を味わえるだけ。

 この俺の横にある苗に、変化が起きるとは思えない。

「あとドリアードがやっていることはなんだったか……」

「おひるー?」

「言い方が悪かったな、いつもしていることじゃなくて……。そう、ドリアードしかしないことだ」

「鱗を食べるー?」

「それもそうなんだが……。たぶん、農業に関係あること──」

 と、テテトカのポケットから草の包みが見えた。

 あの中には草だんごが入っている。

 ドリアードの大好きなおやつ。

 そして、レインボーフィッシュのゆいいつの餌。

 ……草だんご。

 まさか。

「やってみる価値はあるか」

 土風呂を出た俺は体を綺麗にして、大樹の塔で草だんごを作っていた。

 まぁ、教えてもらいながらだが。

「こねこね。これが重要ですー」

「ひたすらこねるんだな……」

「そうですー。草だんごがちゃんとこねこねできて、一人前のドリアードなんですから!」

 ……知らなかった。

 割と重要な文化じゃないか。

 それはそれとして、何種類もの草をひたすら混ぜてこねこねする。

 こねこね。

 こねこねこね。

 見ていると、テテトカはしんけんそのもの。

 小さな手でこねまくっている。

 と、そこで動きが止まるテテトカ。

 ひょい、ぱくっ。

 あ、食べたっ!?

 すごい自然な動作でつまみ食いしたぞ。

「……それはいいのか?」

「草だんごはみんなのものですけど、作った人がお腹すいたら食べていいんです」

「ゆるいな……!」

 さすがドリアード。

 人間の考えをえた生き方だ。

 しかし、作業としてはこねるだけ。

 ひたすらこねる……。

「ん……?」

 そこで俺は異変に気が付いた。

 じんわりと体の中が熱くなる。

 何かのエネルギーが、体を通りけていく感覚がする。

 それは俺のうでを通って、こねている草だんごへと移っていった。

 ……そして熱はすぐに消えた。

「いいんだよな、これで……」

「なにがでしょうー?」

「何かが通り抜けた感覚がしたんだ。体の中から腕をつたってな。草だんごに移った」

 俺の言葉に、テテトカはふんふんと興味深そうにしている。

「ほえー。もうコツをつかんだのです?」

「うん? コツだって?」

「そうですー。一人前のドリアードが草だんごを作ると、そうなるのです。それが終わったら、草だんごは完成ですー!」

「……なるほどな。やはりドリアードは無意識に使っていたのか」

「でもすごいですよー。エルト様は草だんごマスターになれます」

「それも悪くないな」

 そうして俺はいくつかの草だんごを作った。

 ある程度こねると、また力が移る感覚がある。

 たぶん、これがスキル発動のしゆんかんなんだろうな。

 今のところは草だんごにしか効果はないみたいだが……。

 でも、俺にとっては大いに意味があることだ。

 なにせ草だんごはレインボーフィッシュを育てるのにひつだからな。

 実に喜ばしいスキル効果だ。

 それにしても、どういう条件でスキルは獲得できたのだろう?

 やはり鱗か。みんなで鱗をぽりぽり食べるしかないんだろうな。

 しかし、それなら条件は難しくはない。スキル所持者は増やせるだろう。

 草だんごがあればレインボーフィッシュの飼育も格段に進むだろう。

 俺はそう、確信したのだった。

 その後もこねこねし続け、こねこねした草だんごが十個できた。

 十個とも作っているちゆうで、体から熱が通り抜けた感覚がした草だんごだ。

 やはり時間をかけてこねこねすると、この感覚が発動するな。

 スキル【ドリアードの力】が発動したので、レインボーフィッシュが食べてくれるはずである。

 たぶん、テテトカの言う通りなら……。

「この草だんご作り、それなりに体力を使うな……」

「ですー、意外と大変なんです」

「ひたすらこねるだけなんだが……」

 しかし、そのこねるのが大変だ。

 スキルが発動するまではやらないといけない。

 俺がひとつ草だんごを作る間に、テテトカはみっつ作っている。

 この辺りはまだ追い付けないな……。

 もっとも、テテトカはドリアードのなかでは作るのが一番速いらしいが。

 さすがである。


 窓から外を見ると太陽がかたむき始めている。

 熱中していたけど、かなり時間がったな。

 今日はこれで終わりにしておこう。

「ひとまず草だんごは、これくらいの数でいいだろう。ありがとう、テテトカ」

「どういたしましてー! また作りましょう~」

「ああ、また教えてくれ」

 草だんごをささみたいな葉で包んで、完成。

 とりあえず作ったこれを、生け簀へと持って行ってみるか。

 レインボーフィッシュに食べてもらえるか確かめないとな。

 ほかにもスキル関連で調べたいのはあるが、後にしよう。

 まずはこのレインボーフィッシュの餌を調べよう。これがうまくいけば、見返りとしては十分すぎる。

 あとはテテトカから鱗を数枚もらっておく。

 他の人も食べたら、スキルが獲得できるかもしれない。

 テテトカとの別れぎわ、俺はふと頭の上を触ってみた。

 ふさふさ。

 ……ふむ、特に変化はないな。

 やはりそういう変化は起きないか。

「どうしたんですかー?」

「ああ……いや……。もしかして、頭に花がいたかもと思ったんだ」

「このお花はドリアードに生まれないとダメなんですよー……残念ですけど」

「……ああ、うん。そうだな……」

 頭に花が咲くスキルだと他の人はいやがるかもだし。

 まぁ、その危険はないようだ。

 次の日。

 草だんごと鱗を持った俺は、ふたたび生け簀に来ていた。

 アナリアとナールも一緒だ。

 俺にスキルが発現したことを説明すると、二人ともすごくおどろいていた。

 獲得条件はとりあえず、せておいたが。

 鱗をぽりぽり食べたというと、変人あつかいされるかもしれないし……。

 まずは草だんごの成果を確かめてからだ。

「信じられません……! スキルは貴族でもなかなか手に入らないものだと聞いていますが……」

「そうですにゃ。よほどのことがないと、新しく獲得はできないはずですにゃ」

「やはりそういう扱いか……」

 家でもスキルについては、そういう扱いだった。

 先天的に持っている人間がいる一方、大多数の人間には何もない。

 とんでもない幸運か努力の果てに手に入れるもの、それがスキルだ。

 あるいは貴族から教えてもらうか。

 アナリアとナールの知識だと、貴族おかかえの平民はそこそこスキルを持っているらしい。

 ……まぁ、そういう情報は力だ。どくせんするだろうな。

「とはいえ、土風呂に入っただけでは効果はなさそうだったがな。この草だんごがどうなのかは、食べてくれるかどうかだ……」

「ええ、その通りですが……ごくり」

 生け簀の中にはレインボーフィッシュが泳いでいる。

 俺は草だんごを取り出すと、小さくちぎってそっと生け簀に入れた。

 だが……レインボーフィッシュは飛び付いてこない。

 ドリアードの作った草だんごなら、一目散にとつげきするはずなんだが。

 しかし一ぴきのレインボーフィッシュが頭を向けて、ぱくりと草だんごに食い付いた。

「あっ、食べた……!」

「食べました! ちゃんと食べてますね!」

「やりましたにゃ! ドリアード以外の草だんごで、初めて食べましたにゃ!」

 よし、食べてくれた。

 そして他のレインボーフィッシュも草だんごのにおいに引かれてか、集まってきている。

 ちゃんと興味を持ってもらえているようだ。

 俺は草だんごをさらにちぎって、生け簀に入れていく。

 それらをレインボーフィッシュは残さずにぱくぱくと食べていく。

「大丈夫そうだな……」

「はい、すべてのレインボーフィッシュが食べてます!」

「これは大成功ですにゃ!」

 ふむ……ドリアードの作った餌のようではないが、まずは完食してくれた。

 成功と言っていいだろう。

 ドリアードの作った草だんごとの差は、たぶん【ドリアードの力Lv1】というレベル差だろうな。

 スキルの成長条件は色々ある。メジャーなのは使い続けることだ。

 今回は草だんごをどれだけこねこねしてきたか、という可能性が高い。

 実際にテテトカの草だんご作りは、俺の三倍速い。

 となると、成長のためにはひたすらこねこねするしかないわけだ……。

 とはいえ、レインボーフィッシュの餌問題は解決の糸口が見つかった。

 あとはだれにスキルを獲得してもらうか、だが……。

 これが世界のバランスをくずすスキルなら、持たせる人間を選ぶのはしんちようにもなる。

 しかし、今のところ【ドリアードの力】は草だんごにしか効果はなさそうだ。

 さらにスキルが成長しても、土に埋まると周りの植物の生長をうながす程度。

 いや、別にすごくないわけじゃないが……。

 目の前にいる二人は、俺がもっとも信用している二人だ。悪用や流出はさせないと信じている。

 うん、かのじよ達にはこのスキルを獲得してもらってもいいと思う。

「どうやら実験は成功のようだ。そこで二人に相談があるんだが……」

 俺はふところからレインボーフィッシュの鱗を取り出した。

「この鱗を食べて、スキルを獲得してくれないだろうか?」

「「ええっ……?」」

 ハモってる。でもそうだよな。俺だって鱗を食べるのには勇気が必要だった。

 前世だったら笑い飛ばしてるところだ。

 実際は鱗もピリ辛でおいしいのだが……。

 しかし、そういう問題じゃない。

 この世界でも領民に鱗を強制的に食べさせたら、歴史に名前が残ってしまう。

 とんでもない変態ざんぎやくしゆの貴族として、だ。

 やはり気が進まないか……。

 俺がそう思っていると、アナリアとナールはひとしきり顔を見合わせて──。

「いいのですか……? そんなめいなことを……」

「とっても光栄ですにゃ……」

 うん?

 俺が予想してた反応となんか違う。

「スキルを獲得する機会を下さるなんて……」

 それから二人の反応を少し見て、俺は知った。

 貴族からスキルを教えてもらうのは、特別な報酬になるらしい。

 それこそしんらいがないと、何年仕えても教えてはくれないのだそうだ。

 なるほど。最初の「ええっ……?」は驚きだったんだな。

「じゃあ、食べてくれるのか?」

「もちろんです。ありがたく頂きます!」

「あちしもですにゃ。このことは当然、死んでも他の人には言わないですにゃ!」

「私もです!」

 というわけで、二人とも鱗を食べてくれることになったのだった。

 よかった。これでスキルを獲得してくれたら、餌問題は真に解決することになる。

 そしてスキルの獲得それ自体も、俺の領地の大きな武器になるだろうな。


15. こねこね


 鱗を一枚ずつ持ったアナリアとナール。

 少し緊張しているようだ。

 わかる……鱗の味なんて想像つかないからな。

 スキルを獲得できると思っても、勇気がいる。

「それでは……」

「食べますにゃん」

 ごくり。俺もなんだか緊張するな……。

 これでスキルが得られなかったら、ピリ辛の鱗を食べただけになるんだし。

 顔を見合わせて意を決した二人が、鱗を一息で食べる。

 ぱりん。

「んん……っ! 辛い……!」

「ピリッとしたにゃ……」

「大丈夫か? 水ならここにあるからな」

 この世界には辛味が少ない。なので念のために用意してみたのだが。

 ほとんどの人にたいせいはないはずだからな……。

 アナリアは手をぱたぱたさせながら、

「い、いえ……すぐに収まりました。すっと抜けていく辛さですね」

「食べた瞬間だけでしたにゃ。……これはこれで、なんだか舌に残らないのがしいですにゃ」

「ええ……確かにおやつにちょうどいいかも」

 ふむ、辛いけど悪くはないみたいだな。

 いつか鱗の生産にゆうができたら、何かに使えるかもしれない。

 おそらくだが、ちょっと鱗を食べるだけではスキル【ドリアードの力】は得られない。

 というのも元々、鱗は少数だけど市場には出回っていた。

 あのアラサー冒険者が俺に、鱗は肥料として使えると教えてくれたんだからな。

 肥料ならある程度、口に入りそうなものだが……しかしスキルについては知らないようだった。

 へんくらい口に入っただけでは、スキルは得られないんだと思う。

 その辺りもこの世界ではどうなるのか、調べていこう。

「スキルが得られるまで、俺も食べてから少しかかった。しばらく待つか……」

「では草だんごを作る準備をしてますね」

「そうだな。今のところ、草だんごを作る以外に確かめられないしな。もしちゃんとスキルが発動すれば、作っている間にわかるはずだ」

「こねこねしますにゃ!」

「ええ、みんなで草だんごを作りましょう!」

 一方、ステラとウッドは昼ご飯のために小休止を取っていた。

 馬車が止まって二人は道へと降り立つ。

 昼ご飯をつくるのは、ウッドだ。

 エルトにも作っていたので、出来る限りここでもご飯を作りたいらしい。

 ステラに異論はなかった。元々、それほど食にはこだわらないほうなのだ。

 村から離れて思うのが、少しだけ風が冷たいということだ。

 ヒールベリーの村は大樹の家のおかげで、風が来ない。

 それに魔法の産物だからか、大樹の家はほんのりと適切な温度が保たれているのだ。

 そのため、住人はザンザスよりも快適に過ごしているのだ。

「ふぇぇ……体がバキバキです……」

 ステラがぐーっと体をばす。

 のびのびー。

 どうしても馬車だと体がこってしまう。

「ウゴウゴ! ごはん、できた!」

「ありがとう、ウッド。わぁ、おいしそう!」

 ヒールベリーの村から持ってきた、新鮮野菜のサラダ。

 それとたぶん、ウッドが力の限りしぼった果物のジュース。

 それらがお皿に綺麗に盛り付けられている。

 本当にめんどうだときゅうりをかじるだけのステラには、かなり手をかけた料理に見えた。

「……というより、凄いですね……。ウッドはこんなこともできるだなんて」

「ウゴウゴ! いつもつくってる、たべてる!」

「普通ならこうしたことは、出来ないはずなのですけど……」

 ステラは再認識する。

 エルトの魔力、そして魔法の練度がけたはずれでないとこうはならない。

 フォークでしたトマトをぱくつきながら、ステラはふと思う。

 あの少年領主は、恐らく歴史上でも有数の魔力の持ち主になるだろう。

 さらにかれは特に貴族らしいれいこくなところもなく、領民と接している。

 自分もふくめて、大勢がしたってたよりにしている。

 大貴族の血統であり、あのねんれいでとんでもない魔力もある。

 村にいるときも感じるのだが、離れるほどに強く思うのだ。

 彼はきっと大人物になる。

 そして頑張らなくては、と思うのだ。

 自分も置いてけぼりにされないために。

 少しして、アナリアとナールの頭の中にも言葉が浮かんできたようだ。


【使用可能スキル】

 ドリアードの力Lv1


 スキルを無事に獲得できたわけだ。

 よかった。魚の鱗をぽりぽりさせて終わりじゃなかった……。

 そして今、俺は草だんごを必死にこねこねしていた。

 よく考えたら、この三人でスキルを使ったことがあるのは俺だけ。

 そう、実演しなければいけないのだ。

 ……こねこね。

「これくらいこねると……ふぅ、体の中から熱が出てきて一瞬で通り抜ける感覚がある。それが草だんごに移ったら完成だ」

 俺だとひとつ作るのに十分かかる。

 テテトカは三倍速なので、ひとつ三分ちょいで作ってしまう。

 もっともテテトカは作った草だんごの半分を、その場で食べてしまうのだが……。

「なるほど……。それにしても不思議ですね。頭の中に【ドリアードの力Lv1】と浮かんできました。これがスキルなんですね」

「んにゃ、あちしも浮かびましたにゃ」

 二人とも頭の中に浮かんだであろう文字を不思議そうに受け止めている。

「高等学院でスキル持ちの友達が言っていました。ワードが出てくるんだよ、と言っていたのはこういうことなんですね……」

「その辺は皆、変わりがないみたいだな。俺もそうだった」

 言いながら草だんごをこねていると、俺の中から熱が立ち上って通りすぎた。

 さすがにこの感覚にも慣れてきたな。

「よし……これで完成だ。こんな感じでやってみて欲しい」

 草だんごは草に包んで保存すれば何日かつ。

 ある程度、ストックがあってもかまわないだろう。

 まぁ、作りすぎてもドリアードが喜んで食べるだろうが。

 それから三人で、草だんごをこねこねしていた。

 ちなみにナールはかわぶくろ装備である。そのままだと毛が混じっちゃうからね……。仕方ないね。

 でも台に上って、草だんごをこねこねするニャフ族はかわいい。

 ボールで遊ぶのと同じかわいさがある。

 こねこね。

 もくもくとこねこねしていると、

「あっ……!」

「んにゃ……!」

 俺も同時に熱を感じた。

 そしてお馴染みの通り抜ける感覚がある。

「どうやら発動は同じタイミングだったみたいだな」

「こ、これがスキルの発動? こういう感覚なんですね……! 確かに体の中から熱がき上がりました!」

「あちしもですにゃ! なんだか凄いですにゃ」

 感動する二人。スキルは無事、発動に成功したみたいだ。

 さっそく、二人の作った草だんごをちぎって生け簀に入れてみる。

 レインボーフィッシュが食べてくれれば、かんぺきだ。

「ごくり……食べてくれるでしょうか?」

「あっ、寄ってきたにゃん」

 水の中をしずむ草だんごを、レインボーフィッシュがぱくりと食べる。

 黄金のレインボーフィッシュも加わり、あっという間に草だんごはなくなった。

「やったな。ちゃんと食べたぞ」

「はい、食べてくれました!」

「やりましたにゃ!」

「これでドリアード以外でも草だんご──レインボーフィッシュの餌が作れることになった。スキルを獲得させる人は選ぶとしても、餌の量は増やせるな」

「そうなるとレインボーフィッシュを増やしても大丈夫そうですね」

「鱗もたくさんゲットできますにゃ」

 それから三人で話し合い、レインボーフィッシュの生け簀を増やして、鱗の獲得計画を立てることにした。

 生け簀をメンテナンスする技術者も欲しいし、もっと生態も研究したくなってきた。

 思ったよりも鱗の効果が大きいしな。さらに数も欲しいし。

 肥料としてもとてもゆうしゆうなのだ。

 効果はすぐに出ないだろうが、来年辺りのしゆうかく量には結構なこうけんをしてくれるだろう。

 使いきれなくても、鱗は売るという手もある。

 すぐれた肥料はどこものどから手が出るほど欲しがるからな。

 そういう意味でも、俺の領地はまた発展の可能性を手に入れたわけだ。


16. 誰もが欲しがるお土産みやげマント


 それから数日。

 俺は日々の仕事をこなしながら、草だんごを作っていた。

 今は生け簀のある倉庫で草だんごをこねこねしている。

 魔力を底上げする訓練と並行して、スキルもきたえたいしな……。

【ドリアードの力】は今のままだと草だんごをうまく作れるだけのスキルだ。

 しかし鍛えれば、恐らくドリアードと同じように農業にプラスの効果が発生する。ぜひともそこまで鍛えたいのだ。

 なお俺のとなりでは、ブラウンが気合いを入れて草だんごをこねこねしていた。

 もちろんスキルは獲得してもらっている。

 ブラウンはナール、アナリアに続くスキル持ちになったのだ。

「こねこねにゃん……こねこねにゃん……」

 そのブラウンはごげんに草だんごをこねている。

 ボールで遊んでいるねこみたいだ……かわいい。

「楽しんでこねているな」

「もちろんですにゃん! エルト様のおかげでスキルも得られましたにゃん。頑張って草だんご作りますのにゃん」

 こねこね。

「あとは生け簀も追加するし、そうなると餌の必要量も増える。スキルが鍛えられればさらに楽になるが……」

「ドリアードはあちしの二倍から三倍作るのが速いですにゃん。やっぱりこねまくらないと……いけないのですにゃん」

「そうだな。何事もやり続けるしかないからな」

 こねこね。

 こねこねこね……。

 草だんごをこねていくのも、なんだか癖になるな。

 スキルの発動という区切り──草だんごの完成がわかるようになったからか。

 それはブラウンも同じみたいだ。

 こねこね。

 こねこねこね……。

 実に楽しそうにこねこねしている。

 ナールもそうだったけど、ニャフ族はボールみたいなのを触るのが好きなんだな……。

 意外と向いているんだろう。

 草だんごはニャフ族とアナリアに任せておけば、安心だな。

 一方、ステラとウッドはめいきゆう都市ザンザスへととうちやくしていた。

 前回よりも人通りが多く、さらに街の熱気は増している。

 ──何かを待っているような。お祭りの直前のような空気だ。

 冒険者ギルドへ行くとさっそくギルドマスター、レイアのむかえがあった。

 それはいいとして……ステラは冒険者ギルドにどかどかと増えていた看板が気になっていた。

 ウッドも首をかしげながら、

「ウゴウゴ! このかんばんはどういういみ?」

「『えいゆうステラがいどむ、とうエリアの大攻略! 第四観光ツアー予約受付中!』と書いてありますね……。わたしも正直、よく意味がわかりませんが……」

「こ、これも時代の流れです。冒険はしたくないけど冒険者の後は追いたい、そういう方が多くて……」

 目が泳いでいるレイアがあわてて補足する。

「は、はぁ……なるほど……?」

「大丈夫です。ちゃんと視界には入れないよう、じやにはならないようにするので!」

「ウゴウゴ! ちゃんとみればいいのに!」

「いえいえ、気が散るかもしれませんので……」

 この受け答えを見て、ステラも時代は変わったなぁ……と思った。

 しかし悪い気はしなかった。

 ザンザスのダンジョンは世界でもくつの高難度である。

 危険度ランクはSSSスリーエス。発見されて千年近く経っているが、いまだに最深部へ到達できないダンジョンなのだ。

 それが何百年も死者を出さず、のんびりツアーを組めるまでになっている。

 これこそステラの望んだこと──命を大事に!

 ちょっと違う気もするが、多分誤差だろう。

「まぁ、その辺りはお任せします……。危険がないなら、ダンジョンにもぐるのは人のさがです」

「おお……ありがとうございます。そしてらしいお言葉です。ダンジョンに潜るのは人の性! 来年の冒険者ギルドのスローガン、頂きました。マントにしゆうして売りましょう!」

「ふぇぇ、それって欲しい人いるんです……? ま、まぁ……好きにしてください」

 しようこんたくましい。

 それでも半ば命を捨ててダンジョンに挑むよりはずっといいけれど……。

 そんな風に思うステラであった。

 昼になって、俺はテテトカや冒険者達と一緒に湖に来ていた。

 少し風が冷たいか。樹木の葉が赤く染まりつつある。

 このヒールベリーの村には四季がある。

 とはいえ日本に比べると、おだやかにしか変わらないが。

 新しい生け簀が届いたのだが、前のに比べると小さかった。幼児用プールくらいだな……。

 うーん、仕方ない。急いで用意できるのはこのサイズまでなのだ。

「この生け簀は前のよりも小さいですねー」

 テテトカが生け簀をぺちぺちと触る。

「ああ、大きいのは中々手に入らないんだ。このくらいのサイズだとかくてき早く入ってくるんだが……。いずれ大きい生け簀に置きえればいいだろうし」

「なるほどー。この生け簀だと入るのは二匹くらいです?」

「そんなもんだな……」

 あとは俺の作った草だんごのテストもある。

 生け簀を泳ぐレインボーフィッシュの餌にはなったが、湖の釣りとして使えるかどうか。

 もしだと悲しいので、テテトカに来てもらったのだ。

 さっそく魔法【きよぼくの腕】を発動させて、小さい生け簀を湖へと下ろしていく。

 その様子を見ながら、テテトカがぽつりとつぶやいた。

「そういえば、今日くらいにステラとウッドはザンザスに着いているんですよねー」

「……ああ、そうだな」

 命の危険はないという話だったが……きっとハードな攻略になるだろう。

 あのレイアとステラが真剣な顔をしながら、打ち合わせする様子が目に浮かぶ。

 間違っても観光ツアーのようにはならない……きっと。

 お気楽なプリントTシャツで喜ぶ、そんなのんびりツアーとは訳が違うはずだ。

「信じて待とう。俺達が出来るのはそれくらいだ……」

「ですねー」

 俺はお手製の草だんごをちぎって、湖に投げ入れる。

 ぽいっ。

 さて、どうなるか。

 ……少し待つとレインボーフィッシュが数匹、すーっと近寄ってきた。

 湖のそばに立つアラサー冒険者が、興味深そうにうなずいている。

「ドリアードの草だんごよりも落ち着いた反応ですねぇ。でもちゃんと食べてますよ」

「そうか、それはよかった」

 ふう、効果があって一安心だ。

つかまえるのなら、こちらのほうがいいかもしれませんね」

「むっ……そうか?」

「ええ。ドリアードの草だんごだと興奮しすぎて、集まりすぎですからね。落ち着く時間が必要になるんですが……この草だんごなら、集めすぎないみたいでさ」

「なるほど、そういう利点があったか」

 そうして思いのほか、スムーズにレインボーフィッシュをらえることができた。

 草だんごを使い分けることで、さらに効率が良くなるんだな……。

 ドリアードの作った草だんごは育てる用。俺達の作った草だんごは捕まえる用か。

 中々におくが深い。

 だけども少しずつ効率化できている。これは間違いなく前進だろう。

 よし──俺はレインボーフィッシュの飼育についても確かな手応えを感じるのだった。


 余談。

 帰ってきたステラから今回の冒険話を聞いた俺は、ひとしきり笑ってしまった。

 そしてヒールベリーの村のお土産物屋さんに「ステラのスローガン刺繡マント」が並ぶのは、また別の話である。

 翌日。

 朝からぽつりと雨が降っている。

 少しはだざむくなってきた。


 今日は休日だ。

 とはいえ、今日は朝から予定がある。

 皆でおを作って食べ合うのだ。主な参加者はニャフ族とドリアードだが。

 このほつたんはドリアード達である。ドリアードは基本的にあまいものに目がなく、平日でも休日でも草だんごを作っては食べている。

 それに乗っかってみんなでお菓子を作って食べよう……まぁ、それだけなのだが。

 この世界でも甘いものを食べるのはらくだしな。


 会場は大樹の塔である。

 今だと塔が一番大きな建物だから、集まるにはうってつけだろう。ドリアードはその辺、全然気にしない。

 というより、ドリアードもニャフ族も集団でいるのが好きみたいだしな……。

 俺もウッドがいないのと、草だんごをこねたいので参加するのだ。

 平日だとなかなか草だんごをこねる時間が作れないしな。

 休日のこういう機会に、こねこねしておきたいのだ。

 たくを整えて家を出る。

 そういえば雨が降っていたと思い出し、そくせきかさを植物魔法で作ってみる。

 大きくて水をはじくサトイモの葉は、傘にぴったりだ。

 村の中を歩いていると、ニャフ族が前を歩いているのが見えた。

 俺と同じで大樹の塔に行くんだな。

 ニャフ族はご機嫌に歌いながら、列を作っている。

 全員、レインコートを着ているな。色とりどりで耳としつがちゃんと出ている……。

 それが並んでいるので、なかなかかわいい。

「にゃんにゃん……雨が降ってもにゃんにゃんにゃん……」

 歌は割と適当というか、ノリだけっぽいが……。

 歩きながら見ていると、ナールが俺に気付いたようだ。

「んにゃ、エルト様! おはようごさいますにゃ」

「おはよう、ナール」

「その葉っぱの傘、とてもてきですにゃ。それも魔法ですにゃ?」

「ありがとう、その通りだ。ニャフ族のレインコートも似合っているぞ」

 そう言うと、ナールが尻尾をぴこぴことらした。

「ありがとうごさいますにゃ! このレインコートは今度取り扱う新商品ですにゃ。くすとの合同開発で、表面に水を弾く薬がってありますのにゃ」

「なるほど、しっかりしているな」

「ですにゃ。ニャフ族やじゆうじんにとって毛並みは大切ですにゃ。今は皆でテストで着るのですにゃ」

 本当にニャフ族はがないな。

 感心しながら一緒に少し歩くと、大樹の塔に到着した。

 ……すでに土風呂に入っている冒険者がいるな。

 屋根が付いているとはいえ、雨が降っていても朝から入るこんじようは凄い。

 あの土風呂大好きアラサー冒険者も、すでにしっかりと入っている。実にいい笑顔だ。

「おはようございます、領主様!」

「おはよう……。朝からまんきつしているな」

「ええ、今日は雨でしょう? 家に居るとどうもだらだらしてるだけになるんで……」

「ここの土風呂も、入っているだけだと思うが……」

「そうなんですよ。でも土風呂なら健康になれますし。雨の時は人が少ないんで、交代しなくてもいいんですよ。長く入れるんです」

「……なるほどな……」

 もう癖になっている人の言い方だけど、深くは問わない。

 実際、体には良いのだし。ここに来る前の冒険者暮らしで、それなりにせつせいだったのかもしれないしな。

 アラサー冒険者には元気で働いてもらいたいし、自己管理はいいことだ。

 そう思っているとナールが頷きながら、

「にゃ、ここでお菓子を作るんにゃけど……あとで持ってくるにゃ」

「いいんですか!?」

えんりよはしなくていいにゃ」

 ふむ、余ったお菓子の処分係だな。

 動けない相手の口にんだりはしないだろうが。

 でも甘いものをいっぱい食べたら、健康から離れるのでは……いいや、深く考えるのはやめておこう。

 土風呂がきっと全てを解決してくれる……。

 ザンザスではいよいよステラとウッドが、ダンジョンへと出発していた。

 ザンザスのダンジョンは各階層で現実がゆがみ、不可思議な空間が広がっている。

 それぞれの階層ごとに全く異なるエリアになっているのだ。

 そしてザンザスのダンジョン第一層は、こう呼ばれている。

 死鳥の草原。

 広大なサバンナのフィールドに、ただ一種類の魔物が生息しているのだ。


 今、ステラとウッド、それにどうはんせいえい冒険者達がゆっくりと草むらを進んでいた。

 胸の高さほどもある薄茶色の草のせいで、視界は良くない。

 精鋭冒険者は動くかみなり対策で呼び集められた、ザンザス外の冒険者だ。

 主に魔法攻撃を担当する。

 彼らは総勢十人、全員がランクAの冒険者であり、才能あるベテランと言っていい。

 ステラとウッドを合わせると、かなりの大パーティーになっていた。

 とはいえ、あまりあつ感はない。レイアが一夜で用意したダサマント「ダンジョンに潜るのは人の性」刺繡入りを装備しているからだが。

 レイアはそんな冒険者のことを「ザンザスのダンジョンがどれほどか、体験してもらうために呼んだ」と言っていた。

「……荷物持ちけんリアクション係とも言っていたような……うーん?」

 そんな精鋭冒険者の顔が、全員こわばっている。

「はぁ……はぁ……」

 つえを持った水色の服を着た女性魔術師が、あらく息をく。明らかに顔色が悪い。

 ステラはづかって彼女に声を掛けた。

「大丈夫ですか? まだダンジョンに入って間もないですけれど……」

「すみません、ステラ様……。ここにいる魔物のことを考えていたら、気分が悪くなって」

「入る前に説明があったように、ルートを外れなければ大丈夫ですよ。ここ何百年も第一層で死人、重傷者は出ていませんから」

「それはわかっているのですが……」

「ウゴウゴ……たちどまる!」

 一番たけのあるウッドが先頭で見張り役をしている。彼の声で全員が足を止めた。

 直後、かんだかい魔物の声がサバンナにひびき渡った。

 ぴよぴよ!

 それは巨大な黄色いヒヨコ──コカトリスであった。

 身長三メートル、たっぷりとした毛を揺らしながらのしのしと歩いている。

 そのままコカトリスはステラ達には気付かず、草原の向こうへと歩いていった。

「ま、またコカトリスが……! ああ、本当にここはコカトリスしかいないんだ……」

「刺激しなければ安全ですけれど……」

 ステラの言葉に冒険者達がふるえあがった。

「でもザンザスのコカトリスはAランクの魔物ですよ? 他のダンジョンでは、第一層からAランクの魔物なんて出てきません……。ここだけが特別なんです」

「まぁ……そうですね……」

 たいていのダンジョンでは、第一層の魔物はFからEランクがいいところ。

 いきなり第一層からAランクの魔物がはいかいするのは、世界でもザンザスのダンジョンだけだ。

「でも本当に大丈夫ですからね。彼らは気のいい魔物なので……あっ、あっちでまたコカトリス同士が出会いますよ」

 ザンザスのコカトリスは草原で同族に出会うと、必ず一定の行動を取る。

 これはザンザスのコカトリスだけの特別な生態である。

 もふもふのコカトリスはおたがいをにんしきすると、ダッシュする。

 どたどたどた……。

 大地が揺れる。

 そして、出会うとハグをするのだ。

 ずしーん!

 ぴよぴよ。

 ぴよぴよぴよ!

 そのまま鳴き合ってあいさつすると、また離れる。これがコカトリスの習性なのだ。

 かわいい。

 この心温まる風景がステラは大好きであった。

「ふぅ、かわいくてやされますね……」

 しかしステラの呟きを信じられない、という顔で精鋭冒険者達が見つめる。

「いえいえ……! ほぼごくですよね? Aランクの魔物がこんなにいるなんて……」

「ここのコカトリスは草食性でおそってはきませんよ。動くものを見ると、仲間と思ってハグしてくるだけで……」

「「それが問題です!」」

 ザンザスのコカトリスはとてもおんこうである。

 なにせ第一層には他に動物や鳥、魚さえもコカトリス以外にいないのだ。

 そのため、動くものはサイズが違っても仲間だとかんちがいするのだ。

 そしてさっきのように、突進してハグしてくる。

 ちなみにコカトリスの全力タックルは岩をも砕くとか……。

「大丈夫ですよ。ハグされても力を抜いてむなに入るんです……そうすればもふもふで、怪我もしませんから。暴れると、コカトリスは心配してさらに力を入れちゃうんで……」

「「ひぃぃ……」」

 リアクション係とはこういうことか。ステラはぼんやりと思った。

 魔法を使える冒険者は貴重とはいえ……多分、自分とウッドだけで動く雷は攻略できるのに。

 まぁ、いいか……。

 麻痺治しのポーション五十個は重い。運んでもらうのにしたことはなかった。

 それよりも久し振りにコカトリスを見て感じる。

 ……かわいい。すごくもふもふしてる。

「はぁ……コカトリス、一匹飼いたいな……」

「恐ろしい、これがSランク冒険者……!」

 このときのステラはまだ知らない。

 ヒールベリーの村にいずれ、コカトリス牧場ができることを。

 大樹の塔に数十人が集まり、お菓子作りパーティーが始まった。

 大樹の塔はかなり大きいし、背の低いニャフ族とドリアードが主だからか、あんまりせまく感じないな。

 と言っても半数以上は草だんごを作るのだが……。

 なにせドリアードは草だんごしか作らないからな。

 まぁ、そんな俺も草だんご組である。

 ……ふむ。こしの高さくらいのニャフ族やドリアードが集まっていると、小学生のおゆう会みたいな雰囲気だな。ほんわか癒やされる。

 草だんご組にはアナリアもいる。

 ストレッチをしており、気合い十分だ。

「やる気だな……俺も体をほぐしておくか」

「意外とこねこねするには、腕の力を使いますからね」

「そうだな、今日はたくさん作ることになりそうだし」

 それからはしやべりながら草だんごを作っていった。

 こねこね。

 こねこねこね……。

 俺の隣ではブラウンが必死にこねこねしている。

「こねるにゃん……ふんふん、こねるにゃん……」

「楽しんでるな」

「はいですにゃん! こねるのはやっぱりいいですにゃん。まるーくなるのが……」

 そう言うと、ブラウンはうっとりする。

 やはり小さく丸いのはニャフ族的にはきんせんれるのだろうな。

「いいのが出来たら、食べてもいいんだぞ。ドリアードはそうしているし……」

「んにゃん、確かに出来立てはおいしそうですけどにゃん……」

 俺の向かいにはテテトカがいる。

 テテトカもこねながら、

「そうですよー。出来たら食べちゃうのがグッドなのです。もぐもぐ」

 見ていると、テテトカは作ったそばから草だんごを食べている。

 ……うん? 見間違いか?

 ひとつも出来上がった草だんごがない。

「全部作っては食べてるな……」

「朝ご飯の代わりなのでー。もぐもぐ」

「さ、さすがドリアードですね。とってもフリーダムです」

「お菓子を作る会の前提があやうい気がしますにゃん」

「もぐもぐ、ごっくん。え……? 作りながら食べるんじゃ……?」

 当たり前のようにテテトカが言って、首を傾げる。

「あ、いや……作りながら食べてもいいぞ。うん、その辺りは任せる」

「よかったー。とりあえずそれじゃ、お腹がちょっとふくれるまで作って食べますー。もぐもぐ」

 ふむ、しかし出来立てか……。

 日本でのだんごやもちも出来立てがおいしいとはよく言うが、作ってる人が食べるとは思わないよな。

 ドリアードがいなければ、作っては食べるなんてしないだろうが……確かにおいしそうではある。

 むしろ草だんごのベテラン職人であるドリアードすいせんの食べ方だ。

 やってみてもいいんじゃないか……?

 うん、食べてみよう。一個だけな。

「もぐもぐ……」

「あ、エルト様……?」

 おいしい。

 なんだろう、こねた直後だからか。ふんわりとやわらかいというか……固まっていないのか。

 いくらでも食べられそうだな。

「……これはこれでいいな。みんなも食べてみるといい」

「な、なんとわく的ですにゃん。出来立てを食べちゃうんですにゃん?」

「いいんですかね……。でも草だんごは太りにくそうですし」

「時間が経ったのとまた違うぞ。まぁ……向こうで焼き菓子を作ってるから、お腹いっぱいにするのはまずいだろうが。食べても作ればいいんだ」

 俺の一言で、ドリアード以外も草だんごをつまみ始めた。

 たまにはこういうのも良いものだ。

 ……そういえばステラは草だんごがお気に入りだったな。

 帰ってきたらこっそり作ってあげようか。

 きっと喜ぶだろう。

 あと彼女は俺がスキルを持ったとは知らないからな……。

 ドリアードと同じように作れていれば、嬉しいのだが。

 一方、ザンザスの迷宮【死鳥の草原】。

 この第一層は最短距離を歩けば、数時間で第二層へと行ける。

 この最短距離の半ばに川が流れており、ここがきゆうけい地点となる。

 ステラのパーティーはその川の側にじんり、一休みしていた。

 かわはばは数百メートルあるが魚はおらず、ガラスのようにき通っている。

 川の深さは足首より少し上くらい。綺麗な川底がそのまま映し出されている。

 流れもゆるやかであり、休むにはぴったりだ。

「ふぅ……癒やされますね」

 ステラはこの川が好きだった。

 色々とめぐったが、この川ほど綺麗な水は見たことがない。

 事実、この川を見るためだけのツアーさえあるくらいなのだ。

 ウッドは水をすくっては、自分に浴びせている。

「ウゴウゴ、とってもきれい! きもちいい!」

「水があるのはここが最後ですからね。リフレッシュしてください」

「ウゴウゴ! わかった!」

 楽しんでいるウッドとは逆に、精鋭冒険者達の顔色は悪い。

 たとえるなら、これから世界の終わりでも迎えるような雰囲気である。

「……みなさん、顔色がとても悪いですが大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃありません……。うう、むしろどうしてそんな平静なんでしょうか? あそこにコカトリスがたくさんいますよね?」

 水色の服を着た魔術師が指差したのは、数百メートル先の川の下流である。

 そこにはたくさんのコカトリスが水浴びをしていた。

「ぴよぴよー」

「ぴぴよぴよー」

「いいですねぇ。いっぱいいて、かわいいじゃないですか」

「「ひぃぃぃ……!!」」

 精鋭冒険者達が声を揃えて、のけぞる。

「何匹いるのかわかりませんけど、あれだけいたら団一つでも手に負えませんよ……!?」

「たった十六匹じゃないですか……」

「十六匹!? 私達の支部だとあれだけのAランクの魔物が来たら……街ごとなんするレベルですよ!」

「でもここのコカトリスは危険じゃないですから……」

「それはわかりますが……はぁ、はぁ……」

 この死鳥の草原には数百匹のコカトリスがいるんだけどな……。

 ステラはふと思ったが、口には出さないでおいた。

「うう、ここが世界十大迷宮と呼ばれるのがわかりました……。知っていても頭がおかしくなりそうです」

「ぴよ?」

 と、そこへ草むらをかきわけて人の背丈くらいのコカトリスが現れた。

 コカトリスの子どもである。

「ぴよぴよ?」

「う、うわぁぁぁ……! せんとう準備!」

 精鋭冒険者が武器を取り出そうとするのを、ステラは身を乗り出して制止する。

「ふぇぇ……!? 動かないでください!」

 ぴたり。

 リーダーであるステラのするどい指示に、精鋭冒険者が固まる。

 その辺りはベテランらしく、すぐに従ったのだ。

「……刺激しちゃダメですよ。もしこのコカトリスがさわいだら、何事かと他のコカトリスも集まりますからね」

「「…………ごくり」」

 冒険者達が冷やあせを流しながら、静かに頷く。

「このコカトリスはまだ子どもなので、ハグしてきません。ハグするのは大人のコカトリスだけですからね……」

「でもBランク相当の魔物ですよ……」

「大丈夫です、任せてください」

 ステラは落ち着いたまま、バッグから草だんごを取り出した。

 けいたい食料としてヒールベリーの村から持ってきた草だんごである。

 それを見てコカトリスはぴょんと飛び上がる。

「ぴよ……ぴよ!」

「やっぱり植物だけで作った、この草だんごには興味があるみたいですね」

 だいたいのコカトリスは草食性である。

「ぴよぴよ……!」

なわりに入ってすみませんでした。私達はすぐに立ち去りますからね……」

 コカトリスはステラの手から草だんごをつまむと、そのままごっくんと飲み込んだ。

「ぴよ……ぴよぴよ!!」

 そのままコカトリスはステラに体をり寄せてくる。

「よしよし……! はふ、やわらかい……」

「ぴよ!」

 ひとしきりもふもふすると、コカトリスは羽を振りながら草むらへと帰っていった。

「とまぁ、こんな風にするといい感じですね……」

「お、おそろしい。普通のダンジョンなら、こんな気軽にBランクの魔物とそうぐうなんてしません……!」

「ふさふさのもふもふなのに……」

 しかし、ステラは少しみような感じがしていた。

 普通、餌をやっても羽を振って去ったりはしないはずだ。

 ……ドリアードの草だんごを食べさせたのは初めてだけれど。

 初めての反応というか、立ち去り方だった。

(よほど気に入ったということなんでしょうか。あの草だんごが……)

 もぐもぐ。

 自分も草だんごを食べながら、ステラはそんなことを思うのだった。

 これが後にヒールベリーの村でコカトリス牧場が誕生するきっかけとなった瞬間とは、ステラは気付きもしなかったが……。

 こねこね。

 こねこねこね……。

「ふぅ、こんなものか……」

 数時間の間、休みながら草だんごをこねていた。

 けっこうな量をこねたな。

 まぁ、ちょっとだけつまみながらではあったが。

 保存するにしても、このくらいの量が限界だろうか。

 ブラウンはでろーんと机にもたれかかっている。

「にゃーん……だいぶ、こねましたにゃん!」

「ああ、おつかれ様」

「にゃんの! 楽しんでやれましたにゃん。これ以上は作っても食べきれないのですにゃん」

「俺もそうだな。意外と作ってしまった……」

 周りを見ると、皆も同じように作るのは終わりの雰囲気だな。

 ドリアード達も作り終わっている。

 手持ちの材料がなくなったみたいだが……さすがに作るのが速いな。

 近くに来たアナリアが焼き菓子グループのじようきようを伝えてくれる。

「あちらも終わりみたいですね」

「よし、それじゃ……食べ始めるか」

「「にゃん!」」

 後片付けをしたあとは、実食タイムだ。

 ニャフ族が持ってきた様々な紅茶やハーブティーとセットでお菓子を頂こう。

 いくつものテーブルを用意して、席に着く。

 ふむ……なんとなくこれだけだとさびしい気がする。

 ドリアードはそうしよく品にはあまり興味がない。

 塔の中にもかざりに使うようなものはないからな……。

 お金があったらちゆうちよせずに高級土を買う種族だし。

 そんな風に思っていると、テテトカがうえばちを持ってくる。

 他のドリアードもだ。

 なぜに?

「……その植木鉢はどう使うんだ?」

「テーブルの上に置いて、入るんですよー」

「えっ……?」

「ぼくたちは草だんご大会をするとき、いつもこうしているんですけど」

「そ、そうなのか?」

「植木鉢に入りながら食べる草だんごは、ごくじようなのですー」

「……う、うん。なるほどな」

 見るとドリアード達は全員、それぞれ植木鉢を持ってきていた。

 どれもがピカピカだ。一人一個だな。

「マイ植木鉢か……?」

「もちろんですー」

「つまり、こういうことか? 俺達はテーブルの上に並んだ鉢植え入りドリアードを見ながら、お菓子を食べると」

 言っててシュール過ぎるだろ。

 しかしテテトカはぱぁっと顔をかがやかせた。

「そうですー!」

「ま、まぁ……それがドリアードにとっては普通なんだよな?」

「植木鉢に入りながら食べるのはとってもぜいたくなんですー」

 きらきらの期待オーラを出すテテトカ。

 それをさえぎる勇気は俺にはなかった。

「よし、今回はそれで行こう……行くしかない」

「わーい!」

 テテトカがピカピカの植木鉢をテーブルにせる。

 よく手入れされているようだ。

 他のドリアードも同じように植木鉢をテーブルに載せていた。

 こそっとアナリアが俺に耳打ちする。

「ま、まぁ……他の領地の方を呼ぶ前にあくできて良かったじゃないですか……」

「そうだな……」

 俺は頷く。

 ニャフ族も目を白黒させているが、なんとなく察して植木鉢の移動を手伝っている。さすがは商人。

 たぶん、色々な種族との付き合いをしているのだろう。

「この領地らしいと言えば、領地らしいですにゃん」

「確かにな。とりあえずドリアードはとても嬉しそうだし」

 これもまた異種族交流というやつだ。

 確実に仲良くはなれるだろうしな。

 ドリアードの文化を知ることができて、良かったと思おう。

 そのころ、ステラ達は死鳥の草原を踏破しつつあった。

「あそこから先が第二層ですね」

 ステラの指差す先には、古ぼけた樹木で作られた巨大な門。迷宮の各階層をつなぐゲートである。

 これをくぐれば、第二層へとたどり着く。

 水色の魔術師が気を引きめながら、

「はい……ふぅ、大丈夫です」

「第二層【無限の岩山】からは激しく動かないといけません。各自、気を抜かないように」

「ウゴウゴ! がんばる!」

「ええ……歩いて十数分で未踏破エリアですし。ここからは私達の出番です!」

「期待しています」

「「はい!」」

 意気込む精鋭冒険者達。

 さっそくゲートをくぐり、第二層へと移動する。

 くぐった瞬間──ぐにゃりと風景が歪む。

 目を開けると、風景は一変していた。

 辺り一面、き出しの岩山。草一本さえも生えていないきよの大地である。

「こ、ここが……無限の岩山……」

「ウゴウゴ! はいいろばっかり!」

「そうですね、ここもなつかしい……」

 ステラが何度も見てきた風景に思いをせる。

「さて、ワープボールがきましたよ。とつしましょう」

 目指すエリアの手前。

 ステラの視力がさっそく第二層の難関をとらえていた。

 そのワープボールは人が抱えられるくらいの、丸く真っ赤なボール……のようなものだった。

 ぽよん、ぽよん。

 それがリズミカルにいくつもねている。

 ぽよーん、ぽよーん。

 ワープボールは第二層ではひんぱんに見かける魔物である。

 といっても、生きている魔物ではない。魔力で動くトラップと言ったほうが正確である。

 このワープボールはとても柔らかいので、当たっても怪我はしないのだ。

 その代わり、一時間に三回当たると階層入口にワープさせられる。

 なみだの最初からやり直しである。

 そのため第二層に付けられた名前が【無限の岩山】。

 パターンを見切り、リズムよく進んで行かないと永遠に攻略できないのだ。

「はい、今です!」

「「りようかい!!」」

 ワープボールが跳ね回る間をステラ達がしつそうする。

 右へ、左へ……。

 れいなステップでおどるようにステラはワープボールをかいする。

 ウッドも動きをきわめながら、最小限の動きでけていく。

 数分後、進んでいたステラは立ち止まる。

 続いてウッド、息を切らしながら精鋭冒険者が追い付いてくる。

「ふぅ、ふぅ……!」

「順調ですね。ここは安全地帯なのでワープボールは来ません。少し休みましょう」

「は、はい……。しかし思っていたよりもハードですね、これは」

「二回までは当たってもいいんですよ……?」

「い、いえ! 全部避けます!」

 魔法攻撃でち落とせるが、魔力の無駄使いはできない。

 基本的に全てのワープボールは避けられるはずなのだ。

 もしもの時は冒険者が撃ち落としてくれるから、先頭のステラはタイミング合わせに専念できる。

 ぱよよーん。ぽわーん。

 ワープボールが跳ね回りながら、音をかなでる。

 このひっきりなしに響き渡る音が第二層のとくちようでもあった。

 ぱえーん、ぽよよーん。

「いい音、ですよね……。和みます」

「ウゴウゴ! うきうきする!」

「そ、そうですか……。足のおそいドワーフはここを『地獄の音楽が鳴る場所』『終わりなき苦行』と言ったとかなんとか」

「ま、まぁ……リズムセンスとスピードがモノを言いますからね。では、そろそろ行きましょうか……!」

 後にこのエリアのことを聞いたエルトは、

「巨大アスレチック……。いや、そんなテレビ番組があったような……?」

 飛んだり跳ねたり。

 そういうのもおもしろそうだな、と思ったのだった。

 ……ちょっと太ってきた人もいるし。

 ヒールベリーの村にアスレチックランドができるのは、もう少し先の話である。

 ザンザスの迷宮【無限の岩山】。

 ステラ達はいよいよ未踏破エリアである、雷せいれいすみみ込もうとしていた。

 彼女達がいるのは、雷精霊の住処前の安全地帯。

 小さな岩の前に縦一直線で並んでいた。

 その両わきをワープボールが跳ねながら通りすぎていく。

 気の抜けそうな、あの音を鳴らしながら。

 ぽよーん、ぽよーん。

 ワープボールには誰も当たってはいないものの、精鋭冒険者達はかなり疲れている。

 特に水色の魔術師は荒い息を吐いていた。

「ぜー、ぜー……」

「……ここが最後の安全地帯です。ここから先は雷精霊の住処まで休めません。息を整えてくださいね」

「は、はい……。しかしステラ様は軽々と行かれますね。息も切れてはいませんし……」

「ま、まぁ……慣れですね」

 ここまで数百回来ているステラにとっては、何ということもない。

「さすがです! それにウッドも軽快ですよね……。とてもツリーマンとは思えない身のこなし方です」

「ウゴウゴ! うまくできてる?」

 ウッドが体を揺らして聞いてくる。ステラもほこらしげに補足する。

「彼は私と訓練しましたからね。なにせ歩けば馬車と並ぶくらい速いですし。太陽光があればスタミナはじんぞう。しかもなおなので動きをすぐ学習して修正します。凄いんですよ……!」

「だ、だいぶ早口ですね……?」

「……あ、すみません。エルト様からお預かりして、その教育を任されたのが嬉しくって」

 その言葉に精鋭冒険者達が固まる。

 水色の魔術師が信じられないという顔でステラとウッドを見た。

 精鋭冒険者達はウッドをステラのどうはんしやとしか聞いていない。

 もちろん、今までの動きでそれもなつとくしていたのだが……。

 まさか大貴族のエルトから「預かっていた」とは思わなかったのだ。

 それはつまりこの攻略に失敗することは、大貴族の顔にどろを塗ることに他ならない。

 精鋭冒険者の経験上、それはとても良くないことである。

 と、そこまで考えると精鋭冒険者達の顔色が悪くなってきた。

 もふもふのコカトリスを見ていたのと同じくらいに。

「……うぅ……」

「ど、どうしたんです? 顔色がいきなり悪くなってますよ」

「い、いえ……。ウッド様はどこか大変名のある魔術師が生み出したものとは思っていましたが……」

「あ、ああ……! 大丈夫ですよ。エルト様は気さくで良い方ですから。訓練にも付き合ってくれたりしましたし……」

「そ、そんな貴族様がいるんですか……!? 投げっぱなしではなく?」

「ええ、エルト様はそういう方ではありませんから……」

「ウゴウゴ! いろいろかんがえてくれる!」

「……それはとてもよい貴族様ですねぇ」

 そんなことを話しているうちに、精鋭冒険者達の息も整ってきた。

「それでは行きましょうか、未踏破エリアへ!」

「「はい!」」


 雷精霊の住処に来ると、ワープボールは見かけなくなる。

 その代わり野球ボールくらいの大きさの魔物、動く雷が出現するのだ。

 この雷精霊の住処は、これまでの岩山とは全く違う。

 ぐるりとすいしように囲まれているのだ。

 その風景に精鋭冒険者達はあつとうされる。

「……初めて来ましたけど、綺麗ですね」

「ええ、ここもいいところですよね……」

 きらきらとした水晶の間をけいかいしながら進んでいく。

 ステラとウッドはすでにミスリルの棒を取り出していた。動く雷対策に用意した武器だ。

 数分歩くと──いよいよ動く雷が現れる。

 それはばちばちと放電しながら、空中に浮かんでいた。

「……来ましたね」

 この動く雷も生きている魔物とは言えない。

 エリアに入ってきたしんにゆうしやに突撃するだけの存在だからだ。

 ステラはすっと棒を構える。

 何日もの特訓とエルトからのアドバイスの末、ステラはひとつのフォームを身に付けていた。

 それは一本足打法。

 片足で立ちながらバランスを取る、難易度の高い打ち方である。

 しかしステラはきようじんな身体能力でそれをとくしていた。

「打ってみせます……!」

 動く雷もステラを認識し、放電しながら突進してくる。

 その速さ、時速百五十キロメートル。プロ野球の投手が放つ球速と大差ない。

「見える……!!」

 ステラは体をずらしながら、フルスイングで動く雷を打ち抜く。

 完全にしんで捉えている。

 カッキーン……!

 動く雷はつうれつね返されると、そのまま水晶に当たって砕け散った。

「「おおー!!」」

「ふぅ、まずは一体目……。でもどんどん来ますからね」

「ウゴウゴ! つぎはおれも!」

「ええ、カバーしながら打っていきましょう!」

 ウッドも棒を持ってやる気満々である。

 精鋭冒険者も魔法の準備を整え、打ちらしをげいげきするじんけいだ。

 そんななか、ステラは訓練の最中にエルトがこぼした台詞せりふを思い出していた。

 エルトいわく、棒を振る人が目指す境地があるのだという。

 ……あまり聞いたことのない言葉なので、妙に印象深かったのだ。

 意味はよくわからなかったが、ステラもなんとなく語感が気に入っていた。

 なので、それを口に出してみた。

「目指せ、こうえん……です!」

 一方、ヒールベリーの村の大樹の塔。

 お菓子を食べる会は問題なく進んでいた。

 ちょっとテーブルの上に、ドリアードの入った鉢植えが並んでいるくらいだ。

 うん……これは問題ではない。

 単なる文化の違いである。

 善か悪かと聞かれれば、完全に善なのだ。

 なにせドリアードは喜んでいる。

「んにゃ……おひとつどうぞにゃ」

「わーい! もぐもぐ……!」

 ナールが草だんごをテテトカに食べさせる。

 もちろんニャフ族の背は低い。

 彼女達もテーブルの上に乗りながら、ドリアードに草だんごを食べさせていた。

 なかなか動きのあるお菓子会になっていた。

 仕方ないね、ドリアードは鉢植えに入ってるんだから。

 腕を鉢植えから出せば草だんごは取れるのだが……それはドリアード的には邪道らしい。

「やっぱり全身が鉢植えに入っての草だんごは格別ですー!」

「そ、そうか……」

「はいー! これが贅沢というものですー!」

「う、うん……そうかもな……?」

 うん、草だんごは確かにおいしい。

 もぐもぐ……。

 用意された紅茶にも、すっと抜けるようなせいりよう感がある。

 よく合っている。

「紅茶のお代わりはいかがですか?」

 ティーポットを持ったアナリアが呼び掛けてくる。

「ああ、ありがとう。もらおうか……」

「……まさかこうなるとは……」

「ま、まぁ……楽しんでいるんだからいいんじゃないか?」

 ニャフ族も楽しんでいるようだ……。物珍しい光景だから、ノリノリなだけかもしれないが。

 この辺り、ニャフ族はとりあえずやってみよう的な所があるからな。

 今はそれが逆にありがたい。

「……しかしこうして食べ比べると、ドリアードの作った草だんごはおいしいな」

 もちもち。

 そう、みように……ほんのわずかにそうなのだ。

「やはり経験の差だな……」

「そんなことないですよー? エルト様もすぐに草だんご名人になれます!」

「……ふむ……そうなればいいんだが」

 俺の言葉にアナリアが少し驚く。

「エルト様が草だんご名人に……!?」

「いや、スキルの成長も含めてだからな?」

 テテトカはもぐもぐと幸せそうな顔をしている。

 ……ふむ。俺も食べさせてみようか。

「俺の作った草だんごだけど、食べるか?」

「はい! 草だんごはいくらでもどんとこいー、です!」

「よし……」

「もにゅ……もぐもぐ! おいしー! ほぼドリアード級です!」

 にこにこ顔のテテトカがたいばんを押してくれる。

 まぁ、こういう顔を見るだけでこっちも幸せになる。

「……ふむ、草だんご名人は近いかな」

「はいー! みんなも目指そう、草だんご名人です!」

「そうだな、たまにこういうのをやるのもいいだろうな」

「えへへー、またやりましょうー!」

 そうしてお菓子会は成功に終わった。

 ドリアードもニャフ族も楽しんでくれたみたいでよかった。

 ちなみに会が終わった後、俺は村の入口にある看板に書き足しておくのを忘れなかった。

 なんとなく、来る人に周知しておいたほうがいいと思ったのだ。

『テーブルの上に鉢植えがあっても、気にしないでください』

 ザンザスの迷宮【雷精霊の住処】

 ステラとウッドは動く雷を迎撃し続けていた。

 構えて、振り抜く。

 一本足打法のステラと両足で大地を踏みしめながら振るウッド。

 ステラは突進してくる動く雷を、ひたすらフルスイングしていた。

「せいっ……!!」

 カッキーン!

 動く雷を芯で捉えて打ち返すと、とてもいい音が鳴る。

 逆に音が鳴らないと、芯で捉えていない。

 たまにステラも、打ち返しがうまくいかないときがある。

「あっ……!?」

 カッ……!

 甲高い音が鳴っていない。

 まるでゴロのように、動く雷がころころと転がっていく。

 クリーンヒットした動く雷は砕け散る。

 だが、こうしてゴロになった動く雷はまたすぐに動き始めてしまう。

「任せてください!【水の投げやり】!」

 水色の魔術師が素早く魔法を唱えて、フォローに入る。

 彼女の手の上に現れたのは、細長い水の槍。それを動く雷へと投げつける。

 バシュン!

 弱っていた動く雷はそのまま、砕け散った。

 これが精鋭冒険者達の役割。

 遠距離から動く雷を攻撃するのだ。

「ありがとう……!」

「いえいえ……。あの速さで動き回る敵は、普通じゃ捉えられません。ステラ様とウッド様でないと……」

「ウゴウゴ! おれもがんばる!」

 ウッドのスイングはごうかいそのもの。

 しかもそれでいて、木であるウッドは冷静ちんちやくでもある。

 確実に動く雷を仕留めていく。

 カッキーン、カッキーン!

「……ウッド様は麻痺も効かないし、まさに打ってつけですね」

「ええ、やはりあの子はやはりいつざい。一流の冒険者になれる素質があります……!」

 ひたすら動く雷をそうとうし、ステラ達は前進し続けていた。

 それから一時間後。

「うん……? 動く雷が現れなくなりましたね」

 エリアの変化に気が付いたのは、ステラだった。

「ウゴウゴ! びりびり、でてこない!」

「はい、数分ごとに現れていた動く雷がいなくなっていますね」

 水色の魔術師が手のひらにかれた小さな地図を見る。

「計算ではそろそろ未踏破エリアの最深部です。もしかして最深部には動く雷がいない……?」

「うーん……動く雷は近寄った者全てに攻撃してきます。もう動く雷はたおしきったのかもしれません」

 ステラ達は慎重に進んでいく。水晶の道からはもう、動く雷の気配すらない。

 その代わり空気がよどんでくる。最深部が近付いてきたのだ。

 水色の魔術師がぎゅっと杖をにぎりながら、

「予測だとエリア最深部には、雷鉱石があるはず。動く雷を生み出す原因が……!」

「相当な何かがあるはず、ですよね……。あの角を曲がったら多分最深部です。気を引き締めて行きましょう」

 きらめく水晶の先。

 ひとかたまりになったステラ達は、最深部へと到達する。

 そこには──むらさき色の雷鉱石でできたゴーレムがいた。

 そのゴーレムは全身からバチバチとすさまじい放電をしている。

 水色の魔術師は息をんだ。

 非常にのうみつな魔力が生み出した、自然発生のゴーレムだ。

 しかも雷鉱石で作られているためか、電撃を常に放っている。

 Aランク冒険者である彼女は、目の前のゴーレムのきようをすぐに見積もった。

 感じられる魔力はこれまでにとうばつしてきたドラゴンよりもはるかに上。

 街ひとつかいするドラゴンも、このゴーレムと比べれば可愛かわいいものだ。

 ゴーレムから放たれる電撃がバリアとなって、魔法攻撃も効果は薄いだろう。

 もちろん近付かれたら、それだけで電撃を浴びることになる。


 この未踏破エリアにいたのなら、千年は魔力をめ込んでいるはず。

 とても十人ほどで戦える相手ではない。

 Aランク冒険者はそれぞれの国や地域では立派な英雄と呼べる存在だ。

 その精鋭冒険者達が冷や汗を流していた。

 おそらく目の前のゴーレムはSランク相当……。

 それこそ数個の騎士団が必要なレベルの魔物のはずだ。

 体の奥が冷たくなる。

 精鋭冒険者達の誰もが、姿を一目見ただけでゴーレムに恐れを抱いていた。

 思ったのはひとつのこと。

 てつ退たいしかない。とりあえずエリアのボスを目視できただけでも大成果だ。

 と、精鋭冒険者達が回れ右をしようとしたとき。

 ステラは水晶や石を拾っていた。

「……ふむ、ふむふむ……」

「あ、あの……何を? 撤退するのでは……? 撤退するしかないですよね?」

「うーん、どうでしょう。余裕で討伐できそうな感じですが……」

「は、はい……? どう考えてもヤバいと思うんですけど」

「雷鉱石の強度は金と同程度。物理攻撃には強くありませんし……」

「そうですが……近付けませんよね? 常に放電してますし」

 ステラは拾った石をぐっと握りながら、答えた。

 特訓のもうひとつの成果。

 ウッドや冒険者相手に投げまくったごうわん

「……わたし、投げるのにもそれなりに自信があります」

 ステラは静かに呟くと、腕に力を込めて振りかぶる。

 冒険者がごくりと見守り──瞬間、一筋のせんこうがゴーレムへとき刺さるのであった。

 ヒールベリーの村。

 お菓子会の片付けが終わり、俺は塔の中でくつろいでいた。

 外の雨はまだ降っている。

 むまでここにいてはどうかと、テテトカに言われたのだ。

 まぁ、帰ってもやることは特にない。

 ここでゆっくりしていくのもいいだろう。

 ドリアード達も鉢植えから出て、あれこれと騒いでいる。

「いい土ですねー」

かおりが違いますねー」

 ……今は高級土を並べながら、品評会の真っ最中だ。

 種類が違うらしいが、正直よくわからん。

 アナリアはドリアードに交じって興味深そうに聞いているが……。勉強熱心だな。

 だが土を並べるのはやはりドリアードか。

 土にこだわるというか、自分が入るんだもんな。

 気にもするし人の意見を聞きたくもなる、ということか。

 と、そこへブラウンがやってくる。

 もこもこの毛玉ボールをたくさん抱え込んでいる。

「にゃんにゃん……」

「ブラウン、どうしたんだ? ……毛玉のボールをいっぱい持って」

「遊んで欲しいのにゃん!」

 ストレートだな。

 しかし、いいだろう。

 そういう風に言われたら、気持ちよくやりたくなるし。

「ああ、いいぞ」

「みんな、エルト様が遊んでくれるにゃん!」

「「にゃー!!」」

 ニャフ族が我先に、尻尾を振りながら走り寄ってくる。

「うおお……!? すごい集まってきたな」

「みんな、エルト様のボール投げを待ってましたのにゃん……!」

 前にボールで遊んで以来、ニャフ族はボール遊びがとても気に入っていた。

 しかしニャフ族には力があまりない。

 ニャフ族同士だと、へろへろボール投げで面白くないらしい。

 というわけで、他の種族が投げるのだが……。

 ここは塔の中だしな。鉢植えは片付けられているが、あまり騒ぎすぎるのも良くないだろう。

「今日はひかえ目にアンダースローで投げるぞ」

「んにゃ? それは──」

 ぽーん。

 俺は軽く空に上げるように、アンダースローでボールを投げる。

「はにゃん……! ボール……!」

 ニャフ族が天使でも見たような顔で、ボールを目で追う。

 ぴょんとみんなが飛んで……ブラウンがうまくキャッチした。

「と、こんな感じだ……。塔の中を走り回らないようにな」

「はいですにゃん!」

「「にゃー!」」

 これはこれで楽しいな……。

 ニャフ族が嬉しそうに追いかけてくれるからだろうけど。

 そうしてお気楽にボールを投げながら、俺は思った。

 そう言えばこの世界にはまともなボールがないので、ボールの投げ方もなかったのだ。

 ステラはすごいにボールの投げ方も習得していたが……。

 あれは役に立つのだろうか?

 紫のゴーレムはボコボコにへこみながら、地面に倒れていた。

 放電も完全に停止している。

 その辺り一面には、大小さまざまな水晶と石が散らばっている。

 ステラとウッドが投げた物だ。

 それだけで紫のゴーレムを倒してしまったのだった。

「す、すごい……! 石や水晶を投げるだけで、あのゴーレムを倒してしまうだなんて!!」

 精鋭冒険者達はぜんとしていた。

 常識では考えられないパワー。それもあるがステラの投げ方にはどこか気品さえあった。

 鋭い矢のような石投げ。

 未踏破エリアを攻略した、伝説に残る一投なのは間違いなかった。

 だから水色の魔術師は聞かずにはいられなかった。

「ど、どこでそんな投げ方を?」

「エルト様から教わりました……!」

「ええ、それもあの貴族様からですか!? どれだけ凄いんですか、その方は!?」

 精鋭冒険者達は改めてエルトに驚く。そんな貴族は聞いたこともなかった。

 ……エルトの知らないところで、エルトもまた英雄になろうとしていたのだった。


17. にじ色の石


 ザンザスの迷宮【無限の岩山】。

 ステラ達はゆっくりと倒した紫のゴーレムに近付いていく。

「ステラ様、このゴーレムは自然発生した個体でいいんですよね……? 一体だけというか、複数体はいませんよね?」

「ええ、恐らくは……。この第二層には所々、魔力を含んだ鉱石がありますからね。そのえいきようで生まれたのでしょう。第二層の奥には、ゴーレムがバンバン出現する所もありますし」

「な、なるほど……!」

【無限の岩山】はやつかいな場所でもあるが、かせぎも悪くない。

 いくつものさいくつポイントからは良質な鉱石や土が得られるのだ。運が良ければ宝石さえも発掘できる。

「……私も駆け出しの頃は良くここで採掘してましたからね。素早く動ける冒険者にとって、ありがたい稼ぎ場所ですから」

「ウゴウゴ! おれもかせげる?」

「あれだけ動ければ、ここでも十分やっていけます」

 見回しても動く雷はもう現れる気配がない。

 とりあえず今回は行けるところまで行くのが任務だ。

 ステラ達の投石攻略のおかげで、アイテムには余裕がある。まだ進むことができるだろう。

 第二層がいいのは帰りは楽なところだ。

 ワープボールに三回当たれば、第二層のどこにいても第一層との境までワープで飛ばされるから。

 ザンザスの冒険者で「ワープ帰宅」と呼ばれる手法である。

 ステラ達は警戒しながら、水晶の間を進んでいく。

 きらきらと光る水晶がとても綺麗だ。

「そろそろ最深部ですが……」

 だんだんと細くなる道を進みながら、ステラは胸の高鳴りをおさえきれなかった。

 これまで誰も到達できなかった未知の空間。

 それを今から踏みしめるのだ。

 低血圧気味のステラは、興奮しないようあまり意識しないようにはしていた。

 こういう冒険が一回でうまくいくなんて、めつにないことだ。

 それがフルスイングとピッチングで考えられないほどうまくいった。

「……ごくり」

「次の角が最後のはずですね……」

「ええ、計算では……」

 そして、最後の角を曲がった先。

 こころなしか魔力が強まっている気がする。

 精鋭冒険者達も疲れてはいたが、やる気とこうしんで奮い立っていた。

 ついに未踏破エリアの最深部へたどり着いたステラ達。

 そこにあったのは──小さな手のひらに載る丸い虹色の石だった。

「結局、あの石以外にありませんでしたね……」

 ステラ達は第一層に戻ってきていた。


 あれから少し奥も探したが、他には何もなかったのだ。

 結局、水晶と雷鉱石を持って帰宅することにしたのだった。

 今はさっき休んだ川で、再び休憩を取っている。

 せせらぎの音を聞いてとうめい水面みなもを見つめていると、疲れが取れていくようだった。

「まぁ、水晶に囲まれている空間ですからね。しかも誰も来ていないはずの場所ですし」

「そうですね……。ああ、でもいまさらですけど実感が出てきました……。私達、やったんですよね? 誰もクリアできなかったエリアを初めてクリアした……!」

「ぴよ?」

「「う、うわああぁぁ!!」」

 そこへまた人間大のコカトリスが草むらから現れた。

 驚く精鋭冒険者達。

 ……が、さすがにベテランぞろい。

 二度目は武器を取り出したりはしない。

 コカトリスは草むらからじっとステラ達を見つめていた。

「ぴよぴよ?」

「あ、あの……」

「ええ、また草だんごをあげましょう……!」

 ステラはバッグからまた草だんごを取り出す。

 しかしちょいちょい食べてきた草だんご。あと数個でなくなりそうであった。

「ぴよ!」

「やっぱりコカトリスは草だんごが好きみたいですね」

 草だんごを一目見て飛び上がるコカトリス。

「では、これを──ん? どうしました?」

「あ、あれを…………!!」

「ウゴウゴ! とりいっぱい!」

 ぴよぴよぴよぴよ。

 いつの間にか、ステラ達の周りにはコカトリスがたくさん集まってきていた。

 水色の魔術師は今にもそつとうしそうである。

「あわわ……! Bランクの魔物がこんなにいっぱい。やっぱりザンザスの迷宮は地獄だぁ……」

「えーと……リラックス、リラックス。餌がなくても私達を攻撃してきたりしませんから」

 しかし草だんごは数個しかない。

「ちぎって渡していくしかないですね……」

「「ぴよよー!」」

 それでいいよー!

 みたいな感じで鳴くコカトリス達。

「では一匹ずつ、少しですけれど」

 小さくちぎった草だんごを、ステラはコカトリスに一匹ずつ食べさせていく。

 ひとつひとつはかなり小さい草だんごだけど、仕方ない。

「はい」

「ぴよ!」

「はい」

「ぴよよ!」

「はい」

「ぴよぴよー!」

 一口食べたコカトリスは満足そうに羽を震わせる。

 こんな感じに全てのコカトリスへと草だんごをあたえ終わった。

「ふぇぇ……こんなに集まったのは初めてですね……」

「「ぴよぴよ!」」

 コカトリス達はお礼とばかりにステラをやさしくほうようする。

「あぅ、ああ……ふかふか……」

 コカトリスの胸毛はほぼ天国。

 そう言われる、極上のもふもふがステラを包み込む。

 幸せいっぱいになりながら、ステラは思った。

 コカトリスが飼えたらなぁ。

 抜けた毛でも高く売れる。卵や肉がなくても採算は取れるのだが、コカトリスは迷宮の外に出たがらないのだ。

 それだけが残念なのだ……。

 コカトリスはさらに精鋭冒険者達やウッドにも近寄ってきた。

 つばさを広げて、包み込む構えを取っている。

「ぴよ?」

「あ、あの……私達はいいですからね? 何もないですし……」

「……気持ちいいのに……」

「ぴよ!」

「あわー! あ……もふもふ……?!」

「ウゴウゴ! やらわかい!」

 いっぱいのもふもふに癒やされるステラ達。

 そんなステラの頭の中に、なぞの感覚が生まれてきていた。

 魔法とは似ているが……違う。

 初めての感覚だ。

 ステラはそれをうまく言葉にしようとした……。

「これは……?」


【使用可能スキル】

 コカトリステイマーLv1

 数日後、ヒールベリーの村。

 あれからステラとウッドは無事に帰ってきてくれた。

 さらにほぼ予定通りに未踏破エリアを攻略できたようで何よりだ。

 冒険者ギルドからの書状には最大級の感謝をささげるとあった。

 頑張ったのは主にステラとウッドだと思うが……ついでに受け取っておこう。

 これでこの領地とザンザスの関係はだいぶ深まったと言えるだろうな。

 今、俺は家でステラとウッドから話を聞いている最中だ。

「それで未踏破エリアの奥から見つけたのが、この石です」

「……ふむ……」

 基本的に迷宮から持ち帰ったモノは、持ち帰った冒険者のモノだ。

 しかし今回は他の冒険者の手も借りている。

 山分け程度の決まりしか結んではいなかったのだが……。

 ステラが箱から取り出し、テーブルの上にていねいに載せたのは虹色の石だ。

 手のひらに乗る程度、魔力は特に感じないな……。

 しかし最深部から見つかった物をぽんとくれるとはな。

「正直、気前がいいな」

「ギルドマスターのレイアは、今後ともよろしくと言っておりました」

「ウゴウゴ! かえってきたらみんな、よろこんでた!」

「今後のことも考えて、ゆずってくれたんだな」

「宝石ではないし魔力もないようなので、価値としては未知数ですけれど……」

「未踏破エリアから見つかった、というのがプレミアになるくらいか……。まぁ、それでも博物館に飾る価値はあるだろうが」

 俺は虹色の石を手に取った。

 なにか引っ掛かるな。

 こういう時は大抵、前世のゲームでのおくなんだが……。

 俺はゆっくりと石を回して見てみる。

 プレイヤーの使うアイテムではない。さすがにそれならすぐに思い出す。

 前世のゲームとこの世界は、魔法法則や生物はほとんど同じだ。

 単語から記憶を引っ張り出そう。

 ワープボール、動く雷、コカトリス……。

「あ」

「どうかされました?」

 そうだ、コカトリスだ。

 この石は高難度のクエストで一回だけ登場した。あれもサンダードラゴンの山から取ってくるクエストだったな。

 ……うん、間違いないだろう。

 俺は震えそうになるのを抑えて、箱に石を戻した。

 いや、正確には石ではないな。

 俺の知識が正しければ、この石はとんでもないお宝だ。

 領地を一変させる可能性さえある。

 俺はゆっくりとステラに向き直った。

「これは石じゃない。コカトリスクイーンの卵だ」

ドラゴンノベルス5周年記念フェア

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