第14話:種馬騎士、難攻不落を攻略する
二機の
その姿はさながら、死闘を繰り広げる二羽の猛禽のようだ。
追いつ追われつの密着状態での乱舞。
『さすがにやりますな、ターリオン殿。その量産機でよくぞここまで……!』
ハンラハンが感嘆の息を吐く。ラスのジェントの粒子放出量は、銘入りであるアハジアの三割にも満たない。互角の機動を続けているだけでも、本来はあり得ないことなのだ。
『ですが、量産機相手にいつまでも手こずるようでは、こちらの負けも同然。そろそろ決着をつけさせていただきますぞ』
「ああ、そうだな……こちらもだいぶわかってきたところだ」
ハンラハンの挑発的な発言に、ラスが素っ気なく返答した。
『わかってきた? なにがです?』
ブロンズ色の
一見、無謀にも思える捨て身の攻撃だが、ハンラハンの機体は鉄壁の防御を誇っている。ラスの反撃では、アハジアの接近を止められない。それを見越した上での強引な突撃だ。
だがその直後、思いがけない角度から迫ってきた刃に気づいて、ハンラハンは動きを止める。
アハジアの頭部を狙った死角からの奇襲。
『二刀流……⁉︎ これが貴殿の切り札ですか、ターリオン殿!』
ハンラハンが驚愕の雄叫びを上げた。
ラスのジェントの左手。揃えて伸ばした手刀の指先から、
剣ではなく
『実に見事……ですが、残念でしたな。同じ手は二度と通用しませんぞ』
ハンラハンの両手剣の一撃を、ラスはギリギリで回避する。
左右の
逆に
そのせいで、ラスの機体の機動性は明らかに低下していた。ハンラハンの動きについていけずに、防戦一方へと追いこまれ始めている。
「いや、今ので最後の確認がとれたよ、師団長」
『確認?』
「アハジアの【
『……その根拠は?』
「煉術だよ。俺が放った下位の煉術に、【
ラスが淡々と指摘する。
苦し紛れの牽制だと思われていた下位煉術によるラスの反撃には、実は確固とした目的があった。
どの程度の威力の攻撃なら、【
「それができないのは、【
『ふむ。気にしたことはなかったが、たしかに理屈ではそうなりますな』
ハンラハンが感心したように低く唸る。
『しかし、それがわかったからどうだというのです? その機体で、アハジア本体の防御を破れるほどの攻撃を、同時に五発も放てると?』
「そうだな。というわけで、ものは相談なんだが、師団長——今すぐ降参してくれないか?」
ラスが真面目な口調で訊いた。
ハンラハンは思わず動きを止めて、困惑したような声を出す。
『降参?
「こう見えて、俺もいちおう筆頭皇宮衛士なんでな。
『なるほど……
ラスの言葉にハンラハンは一瞬言葉を失い、そして無線の向こうで声を上げて笑い始めた。呆れと賞賛が入り混じる、心底楽しげな笑声だ。
『いや、これは見事。ハッタリもここまで来るとむしろ清々しいですな。ご安心召されよ。このアハジアは歴戦の機体。修復に関しての知見は充分に伝わっております。破壊できるというのであれば、今後のためにも是非に試していただきたい!』
「その言葉、たしかに聞かせてもらったぞ、師団長」
『では、こちらも本気で行かせてもらいますぞ、筆頭皇宮衛士殿!』
ハンラハンのブロンズ色の
「
『はははっ、魔剣の性能に頼った力業ではありますが!』
ハンラハンが謙遜したように答える。
たしかに彼の
だが、それでも煉騎士の制御技術が追いつかなければ、
「いや、やるな、師団長。これなら俺が本気を出しても、フォンは文句を言わないだろ」
『フォン……だと? まさかフォン・シジェルのことを言っておられるのか……?』
ハンラハンがかすかな動揺を見せた。
〝黒の剣聖〟フォン・シジェルの名を知らない煉騎士は、この国にはいない。
大陸に四人しかいない剣聖の一人。上位龍すら生身で斬り伏せる本物の龍殺し。ラスが彼女の弟子である可能性に、ハンラハンはようやく気づいたのだ。
ラスの
両腕の
クスターとの模擬戦でも、ラスは同じ技を使っている。
だが、そのときとは決定的に違うことがふたつある。
ひとつはラスの
そしてもうひとつの違いは、ラスが形成していた
その膨大な
くの字型に折れ曲がった
『フォン・シジェルの〝黒の剣技〟か……!』
「
驚愕の叫びを洩らすハンラハンの
『ぬおおおおおおおおおおおおっ!』
六方向からの同時攻撃を回避することを断念し、ハンラハンが防御を固める。
アハジアの周囲で凄まじい量の火花が散った。【
そして残る二枚の刃を、アハジア本体が両手剣で受け止める。
たとえ黒の剣聖の技といえども、
その光景を見ていたすべての人間が、
おそらくハンラハン本人でさえも。
それは致命的な隙だった。
「……ったく、ハード過ぎるだろ……」
気怠い溜息を吐き出しながら、ラスは
『——なに⁉︎』
ハンラハンが声を震わせた。しかし彼の
四枚もの不可視の楯を同時に展開し、さらに
いかに粒子放出量に余裕のある銘入りの
その結果、〝息切れ〟と呼ばれる瞬間的な粒子枯渇を起こしてしまったのである。
それはつまり、銘入りの
『見事……!』
己の敗北を悟ったハンラハンが、どこか満足げな呟きを洩らす。
その直後、ラスが突き出した儀礼剣が、ブロンズ色の