じつは義妹でした。 ~最近できた義理の弟の距離感がやたら近いわけ~

第4話「じつは義母にお使いを頼まれまして……」(2)

   * * *


 スーパーに向かいつつ、俺は晶の横を歩きながら機嫌をとっていた。

「悪い悪い。気にしてたなら謝るよ。でもさ、お前もうちょい鍛えたほうがいいぞ?」

「それ、どういう意味?」

「最近のお前、基本的にダラダラしてる場面多いからな。リビングだと床に寝っ転がってスマホいじってるか漫画読んでるかだし、部屋にこもってるときもどうせ寝てばっかだろ?」

「うっ……」

「さっき段差でつまずいたのは運動不足の証拠だな」

 晶は痛いところを突かれたという顔をしている。

「つーか油断しすぎ。──まあ、油断してくれるっていうのはうれしいけどな」

「嬉しい?」

「ほら、最初はなんていうか拒絶されてる感じだったから。──晶はもっと隙がない感じなのかと思ってたんだ」

「あ……」

 このあいだの顔合わせのことを俺は思い浮かべた。


『──あの、最初に言っておくけどれ合いは勘弁してほしい』


 晶も思い出したらしく、バツの悪そうな顔をしている。

「……あのときのことは気にすんなよ。俺もおやも気にしてないから」

「ううん。いきなりあんな態度をとって本当に悪いって思ってる……」

「だから気にすんなって。最近は一緒にゲームもしてくれるだろ? 油断している晶を見てると、気を許してくれてんのかなって嬉しいんだ、兄としては」

「兄貴……」

「でもまあ、もっと気を許してくれて構わんぞ? ──こんな感じで!」

「うわっ!」

 俺は晶の肩に腕を回して引き寄せた。

 晶の身長は160センチくらい。肩幅も狭かったので、腕を回すとちょうど良く晶が俺の脇に収まった。

 せっけんのいい匂いがこうをくすぐる。逆に俺の方が汗臭くないか心配になった。

「ふ、ふざけないでよ兄貴!」

「ふざけてないぞ? これは俺からの親愛の気持ちだ」

 晶は顔を真っ赤にしながら居心地が悪そうに丸まっているが、拒絶しているわけではない。

 俺がこうしているのを許可したというよりも、どうしたらいいのか戸惑っているんだろう。

「兄貴さ、そういうの、誰にでもするの……?」

「いや、晶にだけだな」

「っ───!?」

「むしろ晶だからかな」

 光惺は俺より身長が高いから腕の収まりは悪いだろう。ひなたは……それこそ無理だ。

 というよりも、俺自身あまり親しい友達がいないから、こうして気安く接することができるのは弟の晶くらいしかいない。

「ちょっと兄貴、さすがにこのまま歩くのは恥ずかしいんだけど……」

「そっか? ならやめる」

 腕を解くと晶はまだ顔を赤らめていた。

 さすがに外で腕を回したのはやりすぎだったか。でも、嫌がったりもしないところを見れば、晶は少しずつ俺を受け入れてくれているのかもしれない。

 このまま仲のいい兄弟になりたい。

 晶もそう思っていてくれてたら嬉しいと俺は思った。


   * * *


 スーパーに着いた俺たちは、カートを押しながらリストに書いてあるものをカゴに放り込んでいた。

「それにしても兄貴、これって意味あるの?」

「さあな。前になにかで読んだことがあるだけで、効果があるかは知らないぞ?」

 俺たちはスーパーを右回りに回っていた。

 スーパーは基本的に『人間左回りの法則』に従って商品が左回りに配置してあるらしい。

 左回りのほうが右手で商品を手にしやすいからだとか、心臓が左側についているから左に回るほうが心地良いからだとか、理由はいろいろとあるらしい。

 とりあえずマーケティングに基づく計算で、左回りのほうが客が長く滞在する上に、ついつい必要のなさそうな商品まで手に取ってしまうということ。

 逆に言えば、右回りで買い物をすると滞在時間が短くなり、なおかつ余計なものを手に取らない。だから節約につながるのだ、となにかで読んだ。

 効果があるかどうかは正直わからない。

 そもそも親父と二人で暮らしていたときは、スーパーの滞在時間なんて気にしたこともないし、欲しいものがあれば賞味期限や値段などを気にせずほいほいとカゴに放り込んでレジに向かっていた。

 そんな感じで俺たちじま家親子は節約とは無縁な生き方をしてきたが、四人で暮らすとなれば話は別だ。両親ともそれなりに稼いではいるらしいが、将来俺や晶が大学に行くとなるとそれなりに金は要るだろう。年子だとなおさら金は要る。

 そういう金銭面での負担をなるべく減らしていきたい。

 これは俺なりの親孝行のつもりである。

「──で、兄貴。手に取ったそれはなに?」

 俺の手には買い物リストにない菓子ががっちりと握られている。

「ほら、ゲームしてると脳が疲れるだろ? だからゲームしながら糖分をチャージするんだ」

「そこはせめて勉強って言いなよ……」

「そういう晶だってエナジードリンクをカゴに入れてるだろ?」

「これは徹夜で勉強するためで……」

うそつけ。徹夜でソシャゲでもやるんだろ?」

 図星を突かれたのか、晶は「うっ……」とうめいた。

「エナジードリンクって糖分めっちゃ入ってんだからな? それ以上ブクブク太っても知らないぞ?」

「ふ、太ってないからっ!」

 俺たち兄弟は菓子コーナーでそんな不毛な言い争いを繰り広げていた。


   * * *


 レジを済ませた後、俺と晶はスーパーを出て家に向かった。

「ほい」

 俺は仲良く分け合って食べられるチューブ形のアイス『パキコ』を半分に割って晶に渡した。

「ありがと……」

 受け取った晶もチューブの口に吸い付きながら中のアイスを吸い出している。これで共犯だ。

「それにしても晶、やっぱ美由貴さんってすごいな」

「なにが?」

「このメモだよ。見てなにか気づかないか?」

「……としがけっこういってる割に、平気でキャラ物を使ってること?」

「ちげぇよ! 年齢とか趣味に触れてやるな! ──そうじゃなくて、リストの順番」

「え?」

 晶はまったく気づいていない様子だったが、俺は買い物をしながらじつは薄々気づいていた。

「これ、思いつきで書いたもんじゃなくて、スーパーの回り方の順番で書いてあるんだ」

「え!?」

 野菜から始まり、肉、魚、そうざい、日用品と──おそらく美由貴さんは俺たちがスーパーで行ったり来たりしないようにスーパーの配置と効率を考えてリストをまとめたんだろう。

 どうりで普段スーパーに行かない俺たちがスムーズに商品を探せたわけだ。

 もっとも、俺たちは逆回りで買い物をしていたからリストの上からではなく下から順番にカゴに入れていた。リスト通り上から買っていた方が、もしかしなくても早かったのだと後々気づいたときには遅かった。

 つまり、俺たちが右回りをしたのはまったくの無意味。

 そもそもリストがあるのなら余計なものは手に取らないだろうし、けっきょく余計なものを買ってしまったのだから右回りの効果はなかったことになる。

 まあ、また買い出しを頼まれたら今度はリストの順番で回ってみよう。

 また余計なものは買ってしまうかもしれないが……。

「たぶん母さん、昔はスーパーでパートしてたからじゃないかな?」

「フリーのメイクアップアーティストでもそんな下積み時代があったのか?」

「父さんと別れるちょっと前くらいかな……」

「そっか……」

 なんとなく察して、それ以上深く掘ってかなかった。

 両親の離婚──俺たちの間に共通する話題。

 けれど、まだそこに触れてはいけない気がした。

 たとえ共通する話題だとしても、それを話すのは晶との関係がもう少しできてからのほうがいだろう。


   * * *


 そうして二人で歩いているうちにパキコも食べ終わり、俺は兄弟ができたら一度はやってみたかったことを晶に振ってみることにした。

「よし、それじゃあ晶、荷物持ちジャンケンだ」

「えぇっ!? この重たいのを二つ持つの!? 絶対やだ!」

「筋トレにもなるだろ? 身体からだを引き締めるには持ってこいだって」

「うへぇ〜……兄貴って鬼畜だよね〜……」

「いや、エンサム2で容赦なくハメてくるお前が鬼畜とか言うな」

 そして厳正なるジャンケンの結果、勝利したのは──

「かっかっかー! 見たか、これも兄の実力だ!」

 ──俺だった。

 なんだろう。ゲーム以外で初めて晶に勝ったからか、とてつもなくうれしい。

「実力って、ただの運じゃ……」

「日頃積んだ徳のお陰だ。運も実力のうちって昔から言うだろ? というかこれは慶喜やひじかたの恨みだと思え。かたきはとったぞ、天国の二人!」

「なんかムカつく〜……」

 俺は持っていた荷物を晶に渡した。両腕にずっしりと重みが増して、晶は「うへぇ〜」と情けない声を出しながらエコバッグを抱える。

「重たい〜……」

 とねたように晶は言い、

「兄貴〜……」

 と今度は甘えた声を出す。

 ゲームでは負けず嫌いなくせに、こういうときは「僕の方が筋肉あるぞ!」なんて張り合ってこないようだ。まあ、実際重たいのだろう。

 兄として甘やかすのもどうかと思ったが、わいい弟の悲痛な叫びを無視はできない。

「じゃあ、あそこの道の角で交代な」

「やったー!」

 まったく、現金なやつめ。

 こういう甘えられ方は……まあ、悪くはないか。

 けっきょく晶から荷物を受け取った俺は、そのまま両手にエコバッグを持って家に帰った。

 そのあとも晶の機嫌は良く、帰ってからも俺をゲームに誘い、寝る前は俺の部屋に漫画を借りに来たりしていた。

 こうして、少しずつだが晶との関係性は深まっていった。

 かんひょうまではいかないが、確実に俺たち義兄弟のきずなは固まっていた──かに見えた。

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