じつは義妹でした。 ~最近できた義理の弟の距離感がやたら近いわけ~

第3話「じつは義弟とゲームをすることになりまして……」(3)

   * * *


 その後、美由貴さんが夕飯の買い出しに行ったので、俺はリビングでテレビゲームをすることにした。

 ちなみに俺はゲーマーではない。暇つぶしにゲームをするくらいで、どちらかというとラノベを読んだり漫画を読んだりするほうが好きだ。

 ゲームについて言えば、とりあえず話題のソフトを買ってはみるが、ちゅうはんに手を出してクリアまでいかないのが大半。

 飽き性とまではいかないが、それほどこだわりもないので、なにをしても続かない。

 これは他のことにも共通するのだが、自分の悪いところだと自覚はある。

 とりあえず目についた『エンサム2』に手を伸ばす。

 この『エンド・オブ・ザ・サムライ2』は幕末の日本を舞台にした対戦ゲームである。

 登場するキャラクターたちはしんせんぐみ隊士を中心として、さかもとりょうやらおかぞうやら、他にも多少マニアックな剣士たちが勢揃いしている、幕末マニアにはたまらない一品だ。

 ちなみに俺の持ちキャラはひじかたとしぞうだが、しばしばかつりんろうも使う。勝麟太郎の超必殺技「かんりんまるのんほう一斉射出」はなかなか見ごたえがあって好きだ。

 ただまあ、どうして陸地に軍艦が現れるのかいまだに理解不能。

 あと、裏技でペリーが出せるが、サムライか? と思わずツッコミどころ満載なのがこのゲームの魅力(?)でもある。ちなみにこうせいは「クソゲーだ」と言っていた。

 久々に一時間ほど遊んでいると、晶がリビングに顔を出した。

「あの、母さんは?」

「美由貴さんなら買い出しに行った」

 それ以上会話は続かない──が、晶は興味深そうにじっとテレビ画面を見つめていた。

「やるか?」

「べ、べつに……そんなつもりで見ていたわけじゃ……」

 やりたいみたいだな。

「いいからこいって。一人でやるのも飽きてきたところだからさ」

「で、でも、やったことないし……」

「大丈夫だ、コマンドはおおよそ他の格ゲーと一緒だし、なんとなくプレーしてみたらこういうのは大概できるから」

「でももうすぐ転入試験で……」

「休憩も大事だろ? とりあえず一回だけ! な? ちょっと相手してくれよ?」

 すると晶は少し考えたあと、しぶしぶといった感じで俺の隣に座った。

 俺は通常対戦モードに切り替え、晶にコントローラーを渡す。

「はい、お前2Pな。このハード、使ったことは?」

「いちおうは。友達んで……」

「そっか。じゃあ今日からはうちのを自由に使っていいから遠慮なく使えよ?」

「あ、ありがとう……」

 晶は少し照れ臭そうにコントローラーをにぎにぎしている。

 俺が前に誘ってもやりたがらなかったのは、じつは遠慮していただけなのかもしれない。

「じゃあ早速やってみるか」

 ちなみに俺はとくがわよしのぶを選択。勝麟太郞に次いで、俺がよく使用するキャラだ。

 晶はというと──

「ほう、なかざわことか……」

 中沢琴──女性でありながら男装してしんちょうぐみという浪士隊に参加していた女剣士だ。新徴組自体なかなかマニアックであまり一般的に知られていない。

「なかなかセンスあるな?」

「なんかカッコよかったからこれにしただけ」

「あそう……。じゃあステージはお任せで──」

 バトルステージは自動的にりょうかくで決定。

 徳川将軍家の慶喜が新徴組の中沢琴と斬り合うのも無茶苦茶だが、場所が五稜郭っていうのも歴史マニアからすると違和感しかない。まあ、それはそれで面白いが。

「いちおう先に言っておくけど、俺は手加減できるほど器用じゃないからな?」

「えぇ〜……。このゲーム初めてなんだけどぉ〜……」

「問答無用! いざ!」

 たとえ相手が初心者だろうとコントローラーを持ったら最後、俺は油断もしないし手加減もしない。相手が弟なら、なおさら手を抜くつもりはない。

「ここで兄としてのプライドと威厳を見せてやる」

「年下に勝ちを譲るのも兄だと思うけど……」

 甘いな。兄として弟にだけは負けるわけにはいかないのだ──


 ──20分後。


「──はわっ! ちょっあきらさん、ストップスト───ップ! それきょうだって!」

「せい!」

「うわっ! ちょっ……ガードっ──うわ〜、負けた……」

 俺はボロカスに負けた。

 一戦目は当然俺の勝利。キャリアの違いってやつだろう。

 だが、始めて十分くらいでコツをつかんだ晶は、二戦目にして俺に引けをとらない戦いを見せた。

 俺はなんとか二戦目も勝利することができたのだが、この三戦目にして、晶は残機一を残して俺をボロカスに圧倒した。

 俺は油断も手加減もしていない。むしろガチだった。

 たった三戦しただけで晶はすっかり俺と同じ土俵に並んだらしい。……というよりもむしろ俺が弱いだけだった。

「畜生、やるじゃないか晶……」

「えへへへ〜、僕の勝ちだね〜!」

 不意に晶が笑顔を浮かべた。

 最近晶の笑い顔を見ていなかった俺としては、その表情を引き出せたことに満足した。

 だが兄として、いや、歴史マニアの端くれとしてこのエンサム2で負けるわけにはいかない。

「晶、もう一回だ」

「はいはい」

 俺は持ちキャラの土方歳三にした。

 晶は中沢琴が気に入ったらしく、そのまま使い続けるつもりらしい。

「俺の本気の土方は一味違うぞ?」

「ほ〜う。なら見せてもらおうじゃん?」

 しかし、四戦目、五戦目と続いていくと、晶がどんどん強くなっていくのに反比例して俺はどんどん弱くなっていくのを感じていた。もはや勝てるビジョンすらないくらいに。

「あ、晶さん……。もうちょっと手加減してくれませんか……?」

 見せるとごうした兄としてのプライドと威厳などそこにはなかった。

「僕も手加減できるほど器用じゃないしー。──せい!」

「ほわっ!?」

 ……結果オーライじゃないか。

 このゲームの目的──すなわち晶と仲良くなること。

 目標は達成している。

 俺は晶の笑顔を引き出すことができたし、晶はゲームに夢中で楽しそうだし、これで十分満足できる結果じゃないか……。

 しかしなんだろう? このに落ちない感じは……。


『──自分より弱い者のところには嫁には行かぬ。欲しくば、打ち負かせ』


 中沢琴の勝利後のセリフが妙に腹が立つ。

「あははは、また勝っちゃった♪」

 この喜びよう、まさか晶は俺のことをボロカスにして楽しんでいるだけなんじゃないか?

 ゲーム内で日頃のまりに溜まった俺へのうっぷんを晴らしているだけなんじゃないか?

 そうは思いたくないが、この喜びようだとそれもありうる。

「なあ晶、べつのゲームをしないか? ほら、共同プレーで攻略するタイプのやつ」

「えぇー? ようやく慣れてきたところなのに」

「まあまあ、エンサム2はまた今度で──」

「いや、もうちょっと──」

 立ち上がろうとしたそのときだった。

 晶に腕をつかまれて、俺はよろけてしまった。

「おわっ!」

 そのまま晶の方に体勢が崩れる。

「ちょっ……兄貴……」

「ああ、すまん。してないか?」

 気づけば晶を押し倒すような感じになっていた。

 晶は目を丸く見開いたまま固まっている。

「だ、大丈夫? ごめん、僕が引っ張ったから……」

「いや、気にするなって」

 俺の顔の数センチ先に晶の顔がある。

 目のピントが晶に合わさっていくと、思わずため息がこぼれそうになった。

 嫉妬してしまうくらいれいに整った顔立ち。間近で見るとその美しさが余計にきわつ。

「……なあ、晶」

「な、なに、兄貴?」

 長いまつの下の澄んだ瞳をじっと見つめると、すぐにらされてしまった。

 そのもどこか潤み始め、透き通るほどの白い肌にやがて朱がにじんでいく。

 晶の吐息は少しずつ荒くなり、緊張しているのが見てとれた。

 自分がなんだか意地悪をしているような気分になって、俺は思わずにやけてしまう。

 いや、たぶん俺は本当に意地が悪いんだろう。

「やっぱりお前って、綺麗な顔してるよな?」

「っ───!?」

 晶の顔に火がついた。

「あははは、照れんなって。こっちまで恥ずかしくなるだろう?」

「あ、兄貴は、そんなこと平気で言っちゃって恥ずかしくないの!?」

「まあ、だしそんなには」

「きょ、でも、いきなりそれは……」

 言う割に抵抗する様子はない。どうしていいかわからずに戸惑っているという感じだ。

 もしかすると、このままいけるかもしれない。

 というよりも、どうしてもこの欲求には逆らえそうにない。

 晶と過ごすようになってからずっとしてみたかったことを俺は実行に移すことにした。

「晶、ちょっと目をつぶれ」

「えっ!? ちょっ……なにするつもり!?」

「いいから早く」

「だ、ダメだって!」

「大丈夫、すぐ終わるから」

「兄貴、でも、僕、初めてで……」

「黙って目を閉じてろ。痛くしないから──」

 晶はいよいよ観念したのか、顔を真っ赤にしたまま──目を閉じた。

 固く結ばれていた唇が徐々に解かれ、やがてぷっくりとした唇が上を向く。

 晶の真っ赤になった頰に両手を伸ばす。

 そして俺は──


「むぐっ───!?」


 ──晶の頰を両手で挟んだ。

 押し上げられたせいで晶の柔らかな頰の肉が盛り上がり、唇がむにゅっと縦長になる。

「……はひひ、はひひへんほ(兄貴、なにしてんの)?」

「やっぱお前って柔らかいほっぺたしてるんだなぁって、確認?」

 晶は俺の手を振り払った。

「なにすんだよ───!?」

「いや、だからさ、表情筋が柔らかいなら、もっといろんな表情できるだろうって思って。お前っていつもぶっちょうづらでもったいないから」

 仏頂面のキャラなら光惺だけで十分だ。晶にはもっと笑顔でいてほしい。

「さっきみたいにもっと笑顔を作れよ。そのほうが晶に似合ってると思う」

「笑顔……似合うって……」

 晶は少し不機嫌そうに俺から視線を外した。

 さすがにやりすぎだったかもしれない。

「ごめん、驚かせちゃったな」

「う、うん……。ほんと、ドキドキした……」

「綺麗な顔だったから意地悪したくなったんだ」

「き、綺麗って言うな……。そんなに綺麗じゃないし……」

 これだけ綺麗な顔をしているのに、自分に自信がないのだろうか? それとも、男に対して綺麗という褒め言葉はふさわしくないのか?

「少なくとも俺は綺麗だって思うぞ?」

「あ、兄貴に言われてもべつにうれしくない! ──兄貴のバカバカ!」

「おわっ!」

 晶は俺を押し返し、そのまま逃げるように階段をドタドタと駆け上っていった。

 じゃあ誰に言われたら嬉しいんだ?

「というかバカバカって小学生かよ……」

 なにか腑に落ちないものを感じていたら、ちょうど晶とすれ違いで美由貴さんが帰って来た。

「ただいま〜。──あの、涼太くん? 晶が顔を真っ赤にして上っていったんだけど、なにかあったの? けんとか?」

「あーいや、べつに大したことないんで気にしないでください」


 ──いや、後々考えれば大したことだった……。

 俺は晶になんてことを言ってしまったのか。

 そして、なんてことをしでかしてしまったのか。

 今さら後悔してもしきれない……。

 ただ、このときの俺は、あきらと距離が少しだけ近づけたのではないかと能天気に思っていた。

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