じつは義妹でした。 ~最近できた義理の弟の距離感がやたら近いわけ~

第3話「じつは義弟とゲームをすることになりまして……」(2)

   * * *


 上田兄妹と電話したあと、一階に行くとリビングにちょうど美由貴さんがいた。

 今日はおやが仕事でいないため、ソファーに腰掛けて一人でドラマを楽しんでいる。

「あの、美由貴さん。ちょっといいですか?」

「どうしたの涼太くん? おなか減ったの?」

「いえ、違います。──じつは相談したいことがあって」

「私に? なにかしら? ──あ、ここに座って」

 なぜか美由貴さんは目を輝かせた。促されるまま、俺は美由貴さんの隣に腰掛ける。

 こうして二人で話すのは初めてのこと。なんだか気まずいし、緊張する。

「じつは晶のことなんですけど……」

「あらやだ、あの子ったらまたなにかしちゃったの?」

「ああ、いえ。そうじゃなくて、晶のことを訊きたくて……」

「晶のこと? どんなことかしら?」

「俺、もっと晶と仲良くなりたいんです。ですがきっかけがなかなか見つからなくて……」

 すると美由貴さんは満面の笑みを浮かべた。

うれしいわ。涼太くん、あの子のことを考えてくれていたのね?」

「ええ、まあ……。義理とはいえせっかく兄弟になったんだし、晶がどんなことが好きなのかとか、趣味とかを訊きたくて」

「そうね〜……」

 美由貴さんは顎に手を置いた。

「好きなことは漫画を読むことかしらね?」

「漫画?」

「私はよくわからないけど、いつも男の子の読む漫画ばっかり読んでるわ。それと趣味はゲームね。いつもスマホでゲームしてるわよ?」

 なんだ、けっきょく俺と一緒じゃないか。

 だったら話は早い。今度漫画やゲームについてそれとなく話題を振ってみよう。

「ありがとうございました。関係性がなかなかできなくてちょっと悩んでたんです」

「母親の私でもあの子のことはわからないことが多いわ。でも、涼太くんみたいな素敵なお兄ちゃんができて、あの子もきっと嬉しいはずよ」

 美由貴さんにそう言われたが、俺は若干不安になった。

「晶は嬉しいって思ってくれますかね? 逆に迷惑って思うんじゃないですか? 干渉するなって……」

「どうしてそう思うの?」

「ほら、れ合いは勘弁って顔合わせのときに……」

「それは──」

 美由貴さんはきまりの悪そうな顔をした。

「──あの子ったら、まだ前の父親のことを引きずっているみたいなの」

「晶の本当のお父さんですか?」

「ええ。いちさんから聞いていると思うけど、大変な人だったのよ……」

「それは、ちょっとだけ聞きました──」

 ──家庭をないがしろにするロクデナシだったってことは。

「それでも晶はお父さんのことが好きだから、今の生活に戸惑っているみたい。決して太一さんや涼太くんが問題というわけではないのだけれど……」

 疑問が頭の中を駆け巡った。

 ロクデナシの父親を晶は好きだから? いまだに? 好きだった、の間違いではないのか?

 だとすると、ずっと晶が男性不信だと思っていたのに、見当違いだったということか?

 美由貴さんは俺の疑問に答えるように続けた。

「私の元夫、晶のお父さんは売れない俳優さんでね、自分が売れないのはチャンスがなかっただけって言い訳ばかりする人だったわ」

「元旦那さん、俳優さんだったんですね?」

「そう……。ドラマの仕事も何度かもらえたんだけど鳴かず飛ばずで……。けっきょくお酒に逃げて、あとは太一さんから聞いての通りよ」

「落ちぶれちゃったんですね……」

「ええ。ただ、あの人はいい加減なところはあっても、晶の前だけではいお父さんだったの。いろんな物を買い与えたり、いろんな場所に連れて行ったりして……」

 美由貴さんの表情がさらに曇った。

 この先はなんだか聞いてはいけない気もする。

 けれど美由貴さんはどこか胸の内にまっているものを話したがっているように見える。ここは晶のためにも聞いておく必要があるだろう。

「離婚以前に、私とあの人の関係はとっくに冷めてしまっていたの。けっきょく価値観の違いで別れてしまったんだけど……」

 ありがちな話だと思った。

 夫婦間における価値観のずれ。高校生の俺でもなんとなく想像できる。

「でも、八歳の晶に、価値観の違いで、なんて言っても難しいでしょう?」

「まあたしかに。価値観ってなに? って感じでしょうね……」

「私たち夫婦の間に挟まれた晶は、私たちの問題なんて全然関係なかったの。理由もよくわからないまま成長して……。いつの間にかお父さんって口に出さなくなったわ……」

「そうだったんですね……」

 俺も似たような経験はある。

 両親が離婚した当初、俺は一度だけ親父に理由をたずねてみたことがあった。

 けれど親父からは「離婚したんだ」とだけしか返ってこなかった。

 母親が愛人を作ってその人と一緒になりたかったからなんて、さすがに当時七歳の息子に言えるはずもない。

 ただ、親父は一つ間違っていた。

 離婚という言葉は、理由を抜きにして子供を言いくるめられるほど、大人にとって都合のいいものではないのだ。

 大人の事情。

 そんなものは子供には関係なく、子供はただただ振り回される。

 俺は事情をある程度理解していたから、ただ俺を捨てた母親を憎み、親父にはそれ以上深く掘ってくことはしなかった。

 俺の子供だと、俺が育てると、そう言い放った親父を責めているようで申し訳なかったから。

 実際、晶はどうなんだろう?

 心の中で折り合いをつけられているんだろうか?

 美由貴さんを恨んでなければいいが……。

「それにしても、晶が実のお父さんを好きだっていうのは意外でした」

 俺がそう言うと、

「不器用なのも無愛想なのもあの人にそっくりだわ」

 と美由貴さんは少し笑った。

「口調もあの人の影響ね。わざとではないとわかっていても、やっぱり私への当て付けのように感じてしまうときがあるわ。あの子に恨まれているんじゃないかって、本当は怖くって……」

 美由貴さんは気の毒になるほど不安そうな表情を浮かべた。

 離婚したこと、父親と引き離されたことを晶が恨んでいるのではないか。

 そんな後ろめたい気持ちをいまだに背負っているんだろう。

 そもそも晶に納得してもらうことも諦めたのかもしれない。

 けっきょく美由貴さんは、親の都合を押し付けた後ろめたさをこれから先も背負っていくと決めたようだった。

 後悔は先に立たないというけれど、どうしても残る後悔もあるのだろう。

「涼太くんは離婚したご両親を恨んだりした?」

「いいえ、親父に感謝しています。ただ──」

「ただ?」

「──母親だった人を憎まなかった日は一日もありません」

「そう……」

「でも状況は違いますけど、俺、ちょっとだけ晶の気持ち、わかる気がします」

「え?」

「晶はきっと美由貴さんの決断を恨んではいないと思います。あいつももう高校生だし、仕方がないって思ってるんじゃないですかね? なんとなくですけど……」

 そう言うと、美由貴さんは「そう思いたいわ」と力なく笑った。

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