1 魔法学院入学編

【1章】(8月1日公開分)

   ノルク魔法学院


 ノルク魔法学院は、アルマークの想像以上に広大だった。

 アルマークが道を尋ねた島民によれば、決して小さくはないこのノルク島の、実に三分の一以上が学院の敷地なのだという。

 アルマークは驚いた。長い旅の中で、巨大な城や館はいくつも目にしてきたが、単なる一つの施設で、それほどの規模のものは聞いたことすらなかった。はやる心を抑えて正門の場所を尋ねると、島民は、この道をまっすぐ行けばすぐに着くよ、迷うことはない、と意外に気安い様子で教えてくれたので、アルマークは胸を撫で下ろす。

 迷うことはない、と島民の言っていた理由は、すぐに知れた。道を歩いていると、じきに巨大な神殿のような建造物が見えてきたのだ。それが、ノルク魔法学院の校舎なのだと思い、アルマークは正門がどこなのか目を凝らしたが、それらしいものはなかった。

 近付いて、アルマークはようやくこの、それ自体が一つの神殿かと見紛うばかりの建物が、ノルク魔法学院の正門に過ぎないことに気付いた。

 正門の前に立ったアルマークは声を上げて人を呼び、出てきた若い衛士に案内を乞うた。アルマークが、学院長のもとを訪ねてきた、と言うと衛士はまるで取り合ってくれず、面倒くさそうに追い払いにかかったが、ここの生徒になることを学院長のヨーログ師に認められたのだ、と粘り強く言い募ると、学院長の名前とその必死さに衛士はしばらく思案した。それから、アルマークのぼろ雑巾のような風体を何度も見直した後で、半信半疑ながらも学院長のもとへ連れていってくれることを承諾した。

 正門をくぐると目の前に現れたのは、よく整備された庭園だった。そこかしこで庭師たちが忙しそうに働いていた。その中を二人でずいぶんと歩いた頃、視界を遮っていた木々が突然途絶え、目の前に巨大な建物が姿を現した。

「これがノルク魔法学院の本校舎だよ」

 衛士は言った。

「初等部の生徒はここで三年間学ぶことになる」

 その説明がなければ、大貴族の邸宅か王族の離宮と言われても信じてしまいそうな、豪奢な建物だった。アルマークにはいまだかつて縁のなかった類いの建物であることに間違いはなかった。

「すごいですね」

 アルマークは素直な感想を漏らした。

「ああ。君もここで学べるといいんだがね」

 衛士はそう言いながら、校舎の入り口の階段を上る。

「本校舎と初等部の校舎を兼ねているからね。ここに学院長の執務室もあるんだ」

 開け放たれたままの大きな扉を衛士がくぐる。アルマークも彼に続いて建物に入った。外観に比べ、中は意外に実用的で質素な造りになっていたが、廊下の途中から床が不意に赤い絨毯に変わった。その先にある大きな扉の前で衛士が足を止める。

「ここが学院長室だ」

 衛士はそう言って、アルマークに右手を差し出した。アルマークが訝しげな顔をすると、彼は、剣、と言った。

「悪いが、預からせてもらうよ」

「ああ、はい」

 返事をしてアルマークは背負っていた剣を下ろすと、片手で衛士に手渡した。両手で受け取った衛士はその剣の重さに目を見張った。それから、その剣を持ったままで、扉をノックする。

「失礼いたします。入学希望という子供が参っております」

 部屋の中から、入りたまえ、と返事があった。

「失礼します」

 衛士が先に入り、アルマークはその後に続いた。

 廊下からそのまま続く、ふかふかとした赤い絨毯が敷き詰められた室内に、大人何人がかりで運び入れたか分からないような大きな机があった。部屋の壁には、これも大きな棚がいくつも並んでいて、中には分厚い書物や見たことのない品々が並んでいた。

「こちらの少年です」

 という衛士の声に、アルマークは机の正面に向き直った。机の奥に、一人の老人が座っていた。穏やかな顔をした白髪の老人だった。

 この人が、学院長のヨーログ師か。

 アルマークは自分の記憶の中のヨーログと、目の前の老人を重ね合わせようとしたが、彼がヨーログに出会ったのはまだ何も分からない頃のことだ。思い出した北での姿は靄に包まれたように曖昧模糊としていた。

 諦めて、老人をしっかりと見る。髪の毛同様真っ白い顎髭がずいぶん長く伸びていた。いつか旅の魔術師が話していた知恵の精霊というのが姿を見せたらこんな感じなのだろうか、とアルマークは思った。

「私がこの学院の学院長のヨーログだ。……君は?」

 とその老人が言った。深い温かみのある声だった。この人は信用できる。アルマークはそう思った。

「はい。あの、正門で」

 衛士がしどろもどろに説明を始める。彼はぼろ雑巾のような風体の少年をこんなところまで連れてきてしまったことを早くも後悔し始めているようだった。

「アルマークといいます。学院長先生」

 アルマークは衛士に構わずそう言った。ヨーログが彼の顔をまじまじと見る。その目は南の海のような、美しい青色をしていた。

「アルマーク……」

 ヨーログは一度口の中で反芻する。

「北の大地で戦う黒狼騎兵団の副官、〝影の牙”レイズの息子、アルマークです」

 アルマークは付け足した。衛士がぽかんと彼を見ている。

「黒狼……レイズ……」

 ヨーログは口の中でもごもごと呟いた。それから何かに思い当たったように目を見開いた。

「まさか、レイズ殿のご子息のアルマークか」

「はい。父は昔あなたを助けたことがあると言っていました」

 アルマークは答えた。ヨーログは興奮した様子で机から身を乗り出す。

「ジード、下がりなさい」

 衛士が慌てて後ろに下がる。

「アルマーク、もっとこちらへ来て顔をよく見せてくれぬか」

「はい」

 アルマークは机の前に立った。ヨーログは彼の顔をまじまじと眺める。

「ふうむ」

 やがて、ぎしりと背もたれをきしませてヨーログは息を吐いた。

「君があの黒狼騎兵団のレイズ殿の息子だと言うのであれば、確かにアルマーク! しかし君はもう十一歳ではないのか? なぜここに来るのが二年も遅れたのだ? それにその格好はどうした? レイズ殿はどうした? 一緒に来たのではないのか?」

「学院長先生」

 アルマークはにっこりと笑った。

「一度にそんなに聞かれても、答えられません」

「お……そうであったな。申し訳ない」

 ヨーログは首を振った。それから、アルマークは学院長の質問に一つずつ答えていった。全て聞き終わると、ヨーログは再び深く息を吐いた。

「なんと、黒狼騎兵団までバスティアに……北の戦乱はいまだ収まらぬか」

「はい、むしろ大きくなっていると、父が」

「悲しいことよ。来るべき『淵の君』との戦には、勇猛な北の民の力が必要不可欠だというのに」

「『淵の君』?」

 聞きなれない言葉にアルマークが反応すると、ヨーログは苦笑して手を振る。

「ああ、いや。こちらの話だ。だが、君がアルマーク本人であることは分かった」

 そう言って、優しい目でアルマークを見た。

「成長したね、立派に」

「ありがとうございます」

「もう一つだけ質問してもいいだろうか」

「はい、何なりと」

 アルマークが頷くと、ヨーログは机の上でゆっくりと両手を組む。

「北での従軍経験もあるのなら、一度くらいはその名を聞いたことがあるだろう。ギルフィン魔道傭兵団」

「はい、あります。北の数ある傭兵団の中でも異色の傭兵団です」

 うむ、とヨーログは頷いた。

「〝死の灰の術士”グルダーの成功の後、南の魔術師たちは自らの力を実戦で試すためにこぞって北に渡った。その中には残念なことに我が学院の卒業者たちもいた。彼らの大半が北の寒さと実戦の厳しさで姿を消したが、中にはギルフィンのように成功した者もいる。成功した者はほとんど例外なく北の出身者だ。彼らは最初から我々の魔術を北での戦いで行使する目的で学びに来ていたのだ。しかし我々としても南の進んだ魔術のこれ以上の悪用を許す気はない」

「何をおっしゃりたいんです?」

 アルマークはヨーログの真意を測りかねてその顔を見た。

「入学試験のようなものと思ってくれて構わない」

 ヨーログは答えた。

「そのために、ここ数年は北からの生徒の入学は基本的に許可していないのだ。そこで君に聞こう。君はここで魔法を学び、その後どうしようと思っているのかね?」

 そう言いながら、ヨーログはアルマークの目を覗き込んだ。

「ギルフィンのように北へ帰って力を振るうかね?」

 いい加減な答えをすればその青い瞳にすぐに見透かされてしまうであろうことが、アルマークにも分かった。

 アルマークは、息を吸った。

「僕も、北に帰ります」

 その答えにヨーログは目を見開いた。しかし、アルマークは言葉を続けた。

「旅の途中、僕は中原や南の平和な国々を見ました。その豊かな生活に触れました。……なぜ、北だけが。僕はそれが知りたい。そして北の国々に平和を、人々に豊かな暮らしを。それを実現するために僕は北に帰ります」

 ヨーログは全てを見透かすような目でアルマークの顔をじっと見た。アルマークもまっすぐにその目を見返す。そして、気の遠くなるほど長い一瞬のあと、ヨーログは笑顔で言った。

「ノルク魔法学院へようこそ、アルマーク」


 学院長室を出たところで、衛士が堪えかねたように笑い出した。

「初めて見たよ、学院長があんなに慌てたところ」

 彼はしばらく笑ってから、不意に真顔に戻り、アルマークの精悍な顔をじっと見て、

「君はたいした男だなあ」

 と言った。

「僕の名前はジード。明日の朝、校舎へ行くまでの間、君の世話をするよう学院長から仰せつかった。改めてよろしく」

「アルマークです」

 アルマークは改めて名乗る。

「よろしくお願いします」

「あ、そうだ。剣は返しておくよ。重くてかなわない」

「どうも」

 ジードが両手で差し出した剣をアルマークは片手で受け取った。

 校舎の事務局でこまごまとした編入の手続きを済ませ、二人は外に出た。

「寮は向こうにあるんだ」

 ジードは南側に延びる石畳の道を指差した。

「でもそこに行く前に、君にはやらなきゃいけないことがある」

「えっ、なんですか」

 驚いて聞き返すアルマークをジードは痛ましい目で見やった。

「かわいそうに。苦しい旅のせいで頭のいい君でも分からなくなっちまったんだな。今の君からは魚を日陰に二日間寝かせたときのような臭いがするぜ」


 近くの井戸の水で体をきれいに洗ったアルマークは、再びぼろ布のような服を身に着けた。

「寮に着いたらこの学校の制服を持ってくるよ。さすがにその服じゃ授業には出られないからね」

「すみません」

 アルマークが頭を下げると、ジードは困ったように頭を掻いた。

「北の人間はみんな野蛮で粗野な連中ばかりだって話を聞いてたけど……そんなことはないんだな」

「殺し合いをするのは特別な人間ばかりではないと、僕は思います」

 アルマークが小さな声で言ったが、ジードには届かなかった。

「さて、寮までは結構歩くよ。……そうだな」

 ジードは自分のマントをアルマークの肩に掛けた。

「結構いいマントなんだ。とりあえずそれを着て歩いてくれ」

「ありがとう」

 アルマークは微笑んだ。穏やかな笑顔だったが、ジードの目には猛禽類が顔を歪めたようにも見えた。

「君は、傭兵をやっていたんだよね」

 ジードの問いにアルマークは頷く。ジードは首をひねった。

「でも君からは何かこう……もっと高貴な雰囲気を感じるんだよな」

 しかしアルマークはその言葉に、つまらなそうに肩をすくめただけだった。しばらく二人は無言で歩いた。

「寮まではもう少し歩くよ。少し休むかい」

 ジードは隣を歩く十一歳の少年を気遣ってそう声をかけたが、アルマークがなぜそんなことを聞くのかという顔で首を振ったのを見て思い出した。

「ああ、そうか。君はその足で大陸の北の果てからここまで歩いてきたんだっけな」

 日はすでにだいぶ傾いていた。やがて、二人の眼前に寮が見えてきた。それまで無表情で歩いていたアルマークが目を見開く。

「驚いたかい?」

 ジードはアルマークの様子を見て少し得意げに微笑んだ。

「この寮はガライ王国の大貴族の別荘の設計図を元に作られているんだ」

 さもありなん。四階建てのその豪奢な館の中で、学院の初等部の生徒約百五十人が生活しているのだとは言われたものの、それだけの人数が生活していると聞いても全く窮屈そうには見えない。むしろ、たったそれだけしかいないのかとさえ思える。

「僕も……ここで?」

「もちろんそうさ。初等部の生徒はみんなここで暮らしているんだから」

 アルマークはもう一度改めて建物を見上げた。しん、と静まり返った建物からは人の気配を感じない。

「今はみんな授業で校舎に行っているからね」

 ジードはアルマークの様子を見て、そう説明した。

「まずは管理人に挨拶してこよう。ちょっとうるさいけど、いい人だから」

「あ、はい」

 ジードの後ろについてアルマークは大扉をくぐり、寮の中に入った。外観はいかにも貴族の邸宅という豪奢さだったが、内装が意外に簡素であることは校舎と共通していた。余計な装飾がほとんど排され、確かにここが生徒の寮であるということが分かる。

 一階の廊下の奥に、『管理人室』と書かれた部屋があった。

「ここだよ。僕らが編入の手続きをしていた間に、もう連絡が来ているはずだ」

 ジードがそう言ってドアを軽くノックした。

「マイアさん、いるかい?」

 すると、ドアの向こうからしゃがれた声が早口で返ってきた。

「ノックなんかしなくたっていつだってドアは開いてるよ。余計な手間掛けてないでさっさと入ってきな」

 ジードは手振りでアルマークを自分の横に立たせると、ドアを押し開けた。

「……?」

 アルマークは一瞬きょとんとした。部屋の中には誰もいなかったのだ。部屋の真ん中にあるテーブルの上には、やりかけの編み物が置かれ、その奥の安楽椅子がきいきいと揺れている。今の今まで誰かがいたはずなのに、誰の姿もない。

 さすがノルク魔法学院。寮の管理人でさえ姿消しの魔法が使えるのか。アルマークがそう感心したときだった。

「あんたどこ見てるんだい。あたしゃここだよ」

 彼の真下から声がした。

「えっ」

 その小さな老婆は、子供のアルマークよりも頭二つ分も小さな体を、さらに地面に体がつかんばかりに腰を曲げて立っていた。

「やあ、マイアさん。今日から新しくお世話になるアルマーク君だ」

「よろしくお願いします」

 アルマークは頭を下げた。マイアはそれに答えず、顔をぐいっと上げてアルマークを頭から足の先までじろりと一瞥すると、意外な速さでとことこと安楽椅子に歩いていき、そこに飛び乗るように座り直して編み物を再開した。

「話は聞いてるよ。初等部を卒業するまではここで生活してもらうからね。ママのミルクが恋しくなったからって泣くんじゃないよ。食事は朝と夜の二回。時間までに食堂に下りてこなかったら片付けちまうからね。昼は校舎の食堂で済ませてもらうよ。食事のことで文句があったらコック長のグインに言っとくれ。あんた、そんなマント羽織って、見たところいいところの坊ちゃんみたいだけど、部屋が狭いとかベッドが硬いとか下らないことで文句言ってくるんじゃないよ。ここでは百五十人の生徒が生活してるんだから、それを考えてうまく生活しとくれよ。あんたの部屋は三階の角の三一四号室だからね」

「あれ、三四一って聞いたけど」

 ジードが口を挟む。マイアは面倒そうに首を振った。

「ああ、あんたがそう言うならきっとそうなんだろう。ほら、そこにあるのが部屋の鍵だよ。ほかに何か聞きたいことは?」

「いえ、今のところは特に」

 アルマークがそう言うと、マイアは小さく頷いて、二人がもうその場にいないかのように編み物に没頭し始めた。

「さ、行こう、アルマーク。それじゃ、マイアさん」

 ジードはアルマークの背中を押して部屋の外に出た。

「僕のこと、いいとこの坊ちゃんだって」

 アルマークは笑った。このマントの下を見たら、あの人はなんて捲し立てるだろう。

「言ったろ、結構いいマントだって。部屋は三階だ。行こう」

 ジードに先導され、そこだけは貴族の邸宅の設計図の名残だろうか、複雑な模様の彫られた手摺りのついた階段を上る。東側の一番端がアルマークの部屋だった。

 通された部屋は一人用で、確かに狭かったが、自分一人で寝起きするのには何の不自由もない大きさだった。大きな窓もあり、壁際にはベッドと机も設えてある。

 外はもうすっかり暗くなっていた。ジードが天井から吊るされたランプに灯を入れる。

「ほかの部屋は二人用なんだけど、君はとりあえず初等部の残り一年間は一人部屋で過ごしてもらうことになるよ」

「はい。いい部屋ですね」

 アルマークはそう言って、わずかな荷物を床に置き、背負っていた長剣を壁に立てかけた。

「君の荷物はほとんどその剣一本か。まったく、貧しい農家の子供だってもう少し荷物を持ってくるよ」

 ジードはそう言って苦笑した。

「これだけで十分でしたから」

 言いながらアルマークはマントを脱ぎ、ジードに返す。

「助かりました」

「ん、ああ……」

 受け取りながら、ジードはアルマークの服をもう一度まじまじと見た。

「明日からの当面の服は、また後で持ってくるよ。制服のローブだって、その下に何か着なきゃいけないし。とりあえず、その服はもう脱いだ方がいいな。ベッドに臭いも移ってしまう」

「そうですね」

 素直に頷いて、アルマークは上着を脱いだ。逞しい裸身が露出する。その子供離れした精悍な体つきに、ジードは目を見張った。昼間、井戸で体を洗わせたときはよく見ていなかったが、ランプの灯の下とはいえ、こうして見ると惚れ惚れするようなしなやかな筋肉が体を覆っていた。そして、苦しい旅を物語るいくつもの傷痕がその体には刻み込まれていた。

 この子は想像を絶する旅をしてきたのだ、と改めてジードは悟った。それはたった十一歳の子供が成功させるにはあまりに過酷な旅だったのだ。

「ジードさん?」

 アルマークの声でジードは我に返った。

「あ……ごめん。それじゃこれから夕食を持ってくるから、その後でゆっくり休むといい。着替えはそのとき一緒に持ってくるから」

「はい」

 アルマークは頷いた。

 そのとき、寮の下からたくさんの賑やかな声が聞こえてきた。窓から見下ろすと、初等部の生徒たちが帰ってくるところだった。制服なのだろう、皆揃いの濃紺色のローブを着ている。

「もうすぐ夕食だから、みんな帰ってきたんだ。明日から一緒の学院に通う仲間だよ」

「一緒の仲間……そうですね」

 とりあえず頷きはしたが、アルマークにはその実感は湧かなかった。学校からふざけ合いながら賑やかに帰ってくる子供たち。それは旅の間、中原から南に入る頃辺りからだろうか。何度か目にし、そしてただすれ違ってきた風景の一つだった。しかし明日からは、自分があの子供たちの一員になるのだという。不思議な気分だった。

「それは僕が……たどり着いたからだ」

 アルマークは小さく呟いた。

 長い長い苦難の果てに。たくさんの悲しみと絶望の果てに。新鮮な驚きと不思議な経験の果てに。ようやくたどり着いたのだ。新しいスタート地点の、このノルク魔法学院に。

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