7-1

 固い座席に、八枚羽のローターのしんどうが重くひびく。

 第一小ライガーたいは三人一組の計八分隊で構成されており、ヘリ一機につき二分隊を収容しての移動となっていた。

 所々でこうきようほうらくしている主幹道路の上空を、ビルの織り成す高樹林の合間をいながらヘリがけていく。

 高度を落とし始めた太陽に照らされるビル群が、目にもとまらぬ速さで後ろへと流れる景色は、まるで流星群の中に包まれているかのような不思議な感覚にさせた。

 あきらの乗り込んだヘリの内部ではと言うと──ガンガンにダンスミュージックをかけながら、みんなでトランプゲームに興じていた。

「よっしゃあ! また俺の勝ちぃっ!」

 仮想のトランプを投げ出しりようたろうときこえを上げる。

 それを前にして頭をかかえてむせくのはだった。

「なんで今日も負けんのお!? もうホント重いんだからねこれ! アキもリョウも何かツール使ってるんでしょ!」

 すでに上がっていたあきうなかたたたいてなだめる。

「まあまあ。これが日ごろの行いってやつだ。ばつゲームをさせる時、ばつゲームもまたを待ち構えているんだ……」

「意味わかんないだけど!?」

「ごめん、今結構適当なこと言った」

「ねえアキ、代わってよ~。ここで私に恩を売っておいても損はないと思うんだけどー?」

「それじゃあ、なんでも一つ言うことを聞く権利とえならどうだ?」

「む」

 しゆんじゆんしたのち、なぜかほおを赤らめてうわづかいにあきの顔をのぞいてくる。

「ち、ちなみに何を命令する気? も、もしかして、私の身体を──」

は今後、俺に対してばつゲームをしつこうできない令」

 かぶせるようにあきが言うと、は打って変わってじりを上げた。

「そんなのきやつかに決まってんじゃん! 私のうばう気!?」

「どんなだよ!?」

 あきたちはだれ携行式戦術立体プリンターATAPと呼ばれる装置のうんぱん担当をするかを決めていたのだ。この装置はネットにつながっていればどこでもクローンを出力できるすぐれもので、わざわざ降下ポッドを使わなくても複体再生リスポーンを可能にしてくれる。

 しかし、その便利さの反面、デメリットも当然ある。一つは、固定式に比べて出力に時間がかかること。そしてもう一つは──その重量だった。

「もう一回! もう一回だけやろう!? 私の装備が高機動ビルドなの知ってるよね!? せっかく重量おさえてるのに、携行式戦術立体プリンターATAP持ったら全部パアなんだけど!?」

 いつもしりかれてばかりのりようたろうは、ここぞとばかりにわらった。

おうじようぎわが悪いぜ。今ある事実を受け入れろ」

「負けるといっつもこねるリョウにだけは言われたくないんだけど!」

「ははーん、負け犬が何か言ってら」

 あきは二人のやり取りを横目に、ヘリが目標のポイント近くまで来たことをかくにんすると、手をって合図する。

「よし、そろそろ始めるか」

 それから〈マインドトーク〉のミュートを外すと、小隊全員に対して言葉を作った。

『総員、ファイナルチェック』

 たん、音楽が止まり、小隊の面々がいつせいに口をつぐむ。

 そうして無言で始めるのは、得物の最終かくにん

 安全装置セーフテイーかくにんし、チャージングハンドルを引いてチャンバーにしよだんが込められていることを目視する。タクティカルスーツのこつ辺りからびているコードと、アサルトライフルとがしっかり接続されていることを確かめ、最後に〈ニューラルゲート〉がバックドアのないクリーンな状態かクイックスキャンした。

 そして最後にあきは自分の首にはまるチョーカーに軽くれる。

 チョーカーの名は変数体同期装置MSシンカー

 それは脳からリアルタイムでおくデータたる記憶変数体マインドステートちゆうしゆつしてアルカディアのサーバーに常時同期させるための装置である。そして、複体再生リスポーン時には逆に記憶変数体マインドステートをクローンの身体に焼きつける役割もになっていた。

 つまり、あきらにとってのいのちづななのだ。

 きんちようかんが一気に押し寄せ、痛みとなってこうの奥をす。今日は特にひどくいやな感じだ。こういう時は、いつも大勢仲間が死ぬ。

 しかし隊長であるあきは、その不安を表情に出すことはできない。

 代わりにするどく息を吸う。

「──よし」

 そうしてかくにんが終わったところで、機内にビープ音が鳴った。ほどなく、ヘリの両側のとびらがスライドし開いていく。夏の風がみ、しゆつした首元を冷やした。

 背後から高速飛行物体のかなでる高音が聞こえてくる。

 二機の無人せんとうが真っ白ないて第一小ライガーたいの輸送ヘリをし、その腹からきよだいなミサイルを一本ずつ投下した。それは落下にともなって、春にく花のようにせんたんからいくつものつつがたにばらばらになっていく。

 直後、その一本一本の底部が点火──ねんしようエネルギーをかてこうして地上を目指すと、無数のやりとなって数百メートル先に展開していた敵軍地上部隊へとさった。

 ばくえんまたたき、時間差でやってきたしようげきが、ビル表面のちりを巻き上げながら大気をらして背後へとけていく。

 そのクラスターミサイルの空対地こうげきを皮切りに、ぼうだいな数の航空ドローンがあき第一小ライガーたいの乗るヘリと横並びになった。

統合本部アジテーターよりライガー隊。敵歩兵部隊との接敵まで十秒』

 ヘリが加速する。

 果たして、統合本部アジテーターからの通信通り、気味悪いほどきっかり十秒後に正面大通りから敵歩兵部隊を乗せたヘリの集団が現れる。あきらと同様に兵士を乗せた輸送機とそれを護衛するドローンという編成だ。

 りようたろうが鼻を鳴らした。

「さっすが本部。天気予報よりも正確な報告だぜ」

「──ポイントまで残り五秒」

 あきは言葉を作り、安全装置セーフテイーを外す。

 しんぱくすうが上がる。

 つまさきをヘリの底面ギリギリまで寄せる。そして視界のタイマーがゼロになり──。

第一小ライガーたい、散開!!」

 ラペリングもせず、あき第一小ライガーたいのメンバー全員がいつせいに飛び下りた。

 戦場の冷たい空気が一気に全身を包み込み、重力に引かれて身体が落ちていく。ないがり、風を切る音が耳元に鳴った。見る見るうちにだんこんだらけのアスファルトがせまってくる。戦車のしゆほう穿うがたれたクレーターや、大破したドローンのなきがらがくっきり見えた。

「────ッ!」

 身体を深くしずめて着地する。ブーツの底からすなけむりが立つ。着地のしようげきはタクティカルスーツに編み込まれたバイオメタルファイバーが吸収した。あきに続いて、隊員の着地音が次々に重なる。

 そこに、主幹道路の前方からだんがやってきた。

『各隊フォーメーション・ケイラスで目標地点を目指せ!』

 あきはローレリア軍のが放つじゆうだんあらしの中でさけび、地面をった。

 小隊が目指すのは地上の至る所にある地下鉄駅の入口。

 そこまでの道のりはすでごくの様相をていしていた。

 すぐ目の前で仲間が飛沫しぶきを上げ、となりで別の隊員がそれにつまずき体勢をくずす。あきはその隊員の手を取ると、ごういんうでを引いて地下鉄の階段へといつしよに飛び込んだ。

 転がるようにして階段をりると、となりの兵士がさけぶ。

「ごめん、アキ……っ」

 その声に、自分がにぎる手がのものだったことに気が付いた。

 ひとまず彼女が自分の足で走れていることをかくにんすると、その手をはなす。

はないか?」

「私はだいじようぶ。でも、メンバーの半分は今ので。……早く複体再生リスポーンさせてみんなに戦績をかせがせてあげないと」

 の言葉にうなずく。

携行式戦術立体プリンターATAPは時間がかかる。早いところ研究所内にきよてんを確保しよう」

 あきは背後をかえった。階段の先からは仲間のものと思われる血がそつこうを赤く染めている。

 ──クソッ。

 自分の指揮のせいで、仲間の命が散っていく。

 その度に彼らの評点がマイナスになってしまう。しかしあきにとってはそれ以上に、彼らが死のぎわに感じた痛みや苦しみが心にのしかかっていた。それがたとえ、本人たちが気にしておらずとも。

「……アキ、だいじようぶ?」

 が心配そうに声をかけてくる。

 あきははっとして、いつものがおいた。

「先を急ごう」

 階段を下りて半球状の空間になっている改札口にとうちやくすると、研究所の入口はかくてきすぐに見つかった。

 西さい研究所は、嶺京がまだ世界一の研究都市だったころ、圧制を強めるローレリアれんぽうかんの目からのがれるため、その広大なてつもうの合間をうようにして作られたせつなのだ。重武装したうえで地下にもぐるとは、よっぽど腹に一物かかえた研究を行っていたらしい。

 西さい研究所の無機質な通路を進むと、広大な空間に出る。

 そこはけになったオフィスエリアだった。

 あきは視界を暗視モードにえ、部隊に分散フォーメーションの指示を出した。部隊が音もなく散開していく。

 すると、くらやみの中から無数のかげにじむように現れる。

 それは四本の足をたずさえた機械けの犬だった。しかし、頭部やしつはなく、代わりにあるのはそうこうめぐらされたセンサー群と背中に乗せたかんほう。その姿は、犬と言うにはあまりにも無骨で、機能性を追求したデザインをしていた。

 陸戦ドローンUGVである。

『各隊、散布開始』

 あきこしから下げているつつじようの装備にれ、プシュッと音を立ててゆっくりと内容物を大気中に散布し始める。他の分隊長がそれに続き、同様に放出を開始した。

 内容物の正体は、と呼ばれるたいくう可能なちよう小型の通信ちゆうけいである。

 これを散布し続けることにより、あきらはわざわざコードを引っ張らなくても、通信じようきようが絶望的に悪い場所においても、戦略統合システムUTAS──そして何よりも、そのアドオンシステムであるアルカディアに接続することができるのだ。

『こいつらは俺たちに任せろ。各分隊は手分けしてデータドライブのあるサーバールームにアプローチしろ』

りようかい

 あきりようたろうの三人を残して、兵士らが散り散りになって研究所内へとしんにゆうしていく。

 それを追いかけようとする一機の陸戦ドローンに、あきは照準を合わせた。

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